初感想、誤字報告ありがとうございます!
これからも支えてくれると嬉しい限りです。
それからというもの、レイは一躍時の人となった。スリザリンの女王様の心を溶かした王子様として。
授業はもちろんのこと、時間があれば常に一緒にいるレイとシルヴィアを、最初は両寮生達も受け入れることができなかった。
しかし、シルヴィアのレイへの接し方やエステルが彼女に声をかけて話す姿を見たグリフィンドール生達は、一週間もすれば全員とはいかないまでも、ある程度の人達は彼女の存在を許容するようになっていた。
しかし、問題はスリザリン生達であった。大広間での出来事により、シルヴィアがいる前ではレイに対して睨みつけることぐらいしかできることがなかった。しかし、彼女がいなくなった途端にレイへちょっかいをかけ始めるのだ。
これにシルヴィアが気付かないはずがなかったが、しかしほとんど手を出すことはなかった。なぜなら手を出す必要がなかったからだ。……簡潔に言えば、レイは強かった。
悪口は暖簾に腕押し、柳に風。いたずらは全て防がれ、人気のないところで襲えば魔法と素手で撃退された。幼少期の出来事は、レイに身を守る術を身につけさせていた。
結果、それらを行なったスリザリン生は返り討ちに遭い、ミネルバ含む教師陣から点数を引かれて罰則を受けるのだった。
実力差を理解したスリザリン生は、一週間も経たないうちに表立ってケンカを売らなくなっていた。しかしそれは一、二年生のみで、三年以上のスリザリン生は虎視眈々と狙っていたが。まあそれも、シルヴィアにより脅されて、不発に終わっていた。
「すまんなレイ。面倒事をお前に押し付けて」
朝からゴミ掃除に勤しんだシルヴィアは、紅茶で唇を濡らす。
「気にするな。おかげでいい訓練になってるよ」
レイはいつもと変わらぬ様子でベーコンを口に運ぶ。その言いようにはシルヴィアも声を出して笑った。
「くくくっ。レイにとっては嫌がらせも戦闘訓練か!」
「いやいや、バカに出来ねぇんだぞ? どれも死角から仕掛けてくるし、襲ってくる時は多対一だ。呪文学や闇の魔術に対する防衛術でも、まだ実践訓練は無理だからな」
レイは大真面目な顔をしながら、向かいに座るシルヴィアへとウィンナーが刺さったフォークを向ける。
「……ふふっ、なるほどな。さすがはレイ、と言っておくよ」
「どうも。まあ、それにこれぐらい想定内だし、お前とは好きでいるんだ。お前だってグリフィンドール生から嫌な目で見られてるじゃないか」
それでもお前は俺といてくれてるだろう? と平然と言うレイに、シルヴィアは不覚にもときめいてしまう。それを隠すようにまた紅茶を傾けた。
レイとシルヴィアは現在、休日の朝に朝食を摂っている……二人一緒に、グリフィンドールのテーブルで。普通なら他寮の生徒同士で食事などあり得ないことだったが、そんなことはこの二人にとって今更である。
さすがにど真ん中でそんなことをすれば居心地が悪いのは目に見えているため、大扉側の先端で食事をとっている。今やこの場所は二人の専用席であった。
さて、ではなぜレイとシルヴィアはこうして2人で食べるようになったのか。それは、シルヴィアが行動した結果だった。
大広間での食事は原則として自身の寮の机で食べることになっている。しかし、ただでさえ寮という壁によってレイと会う時間が少ないことに不満を持っていたシルヴィアが、教師陣へと掛け合ったのだ。
シルヴィアはまず校長室へと赴き、ダンブルドアに面会しに行った。そのダンブルドアはなぜか校長室へと続く階段前で会うことができたのだが。
挨拶を交わし後、シルヴィアが友と一緒に食事をしたいから同じところで食べさせて欲しいと願うと、ダンブルドアは朗らかに笑い、即了承。ただし、入学式や終業式などの公的な行事の時は自身の寮へと戻るようにと付け足した。
次にミネルバの元へとやってきたシルヴィア。こちらは正直楽勝だった。ダンブルドアの時と同じように話すと、寮の垣根を超えて交流しようとする心意気に点数までもらって即了承。
問題はスリザリン寮長のスネイプだった。シルヴィアは最後に説得しに行ったのだが、それは説得というより脅迫に近かった。了承しないと暴れてスリザリン生に怪我をさせて、さらに大減点をもらうぞ、と。
これにはスネイプも了承するしかなかった。大広間での出来事で、シルヴィアにはその力があることを理解している。それに、こんなくだらないことで自分が出張ってシルヴィアを止めるのも馬鹿らしいと考えた結果だった。
それが大広間での出来事から翌日のことだった。次の日の朝にそれをシルヴィアから聞かせられたレイは驚きとともに苦笑し、レイの隣にいたネビルは気絶したのだった。
それによってここ数日、シルヴィアはレイとともに食事を楽しむことができるようになっていた。因みに、ネビルはレイから、というよりシルヴィから離れて食事を摂るようになってしまった。今はエステルとハーマイオニーと共に食事を楽しんでいる。
「そういえば、あの取り巻きはあの後どうしたんだ?」
「知らん。私に気付くと逃げてしまうしな」
「そりゃそうだろな。……けど、良かったのか?」
レイが何を言いたいのか察したシルヴィアは迷わずに頷く。
「構わんよ。そもそも実家にはとうに愛想が尽きていた。レイと実家、比べるまでもない」
レイとしては嬉しい限りなのだが、それでシルヴィアが苦労するのは見過ごせない。
「いや、けどな……」
「……まあ、最悪追い出される可能性もあるだろう。私としては清々するがな。……ふむ、そうだな。ならレイ、私が追い出されたら君の家に置いてくれないか?」
これを聞いていた周囲の生徒たちはあまりの衝撃に声を上げそうになる。しかし、シルヴィアの恐怖は未だ生徒たちの記憶に根深く張り付いていたため、“アレ”が自分に向かうのは何としても避けたかった彼らは必死で声を押しとどめる。
そんな周りの様子に気付くことなく、レイは拍子抜けといった感じでシルヴィアに確認する。
「……そりゃじいちゃんもばあちゃんも許してくれるとは思うが、いいのか? 言っとくが俺の家なんて多分お前の家とは比べ物にならないぞ?」
「君がどう思ってるのかは分からないが、大きさや豪華さなどくだらんものだ。私はまだ君の家を見たことはないが、絶対に私の家よりも素晴らしいものだと断言できる」
だから置いてくれないか? と再度尋ねてきた。シルヴィアにそこまで言われてしまえば、レイに断る理由などない。
「分かったよ。じいちゃんたちに手紙を送っとく」
「その時は是非私の手紙も送ってくれ。ご挨拶がしたい」
「あいよ」
そんなことを話しているうちに、二人は朝食を食べ終える。
「さて、この後は約束通り図書室でよかったかな?」
「ああ。変身術でいいものがあるといいんだがなぁ」
「なに、なければもう一度マクゴナガル女史に聞けば良いだろう。彼女なら、レイからの質問なら喜んで受け付けてくれるさ」
「……そうだな。まあ、そうならないように探すか」
レイはどうかありますようにと願いながら、シルヴィアと共に図書室へと向かうのだった。
………………
…………
……
……
…………
………………
ホグワーツの図書室は司書であるマダム・ピンスが取り仕切っており、図書室で騒いだものは問答無用で追い出す図書室の利用に関して厳しいことで有名だ。
まあ、レイとシルヴィアは騒ぐことなどなく、そんなものとは無縁のものだったが。
そしてレイ達が図書室に来て1時間、変身術の本は数あれど、どれも全てが難解だった。
「……ぐへぇ、なんかより難しいやつしかないぞ?」
「まあ、一年生の教科書として選ばれてるんだ。他と比べても相応に易しいのだろうな」
「シルヴィは理解できてるか?」
「なんとなくだがな。まあ、それだけ分かれば後は感覚で分かるだろう」
「……さすが天才。俺には三割も理解できない」
「ふふ、それが私の取り柄だからな」
レイは読んでいた本を閉じ、その隣に3冊ほど積み重ねていた本の上に重ねる。シルヴィアもその上に重ね、計5冊の本をレイが杖でもって浮かばせる。
「ロコモーター、本よ移動せよ」
そしてそれぞれの本棚に本を戻し、杖を下ろす。
「ほう、もう移動呪文を覚えたのか?」
「ああ。教科書読んでる時に、便利なのはさっさと覚えようと思ってな」
いまは呼び寄せ呪文を勉強中だ、と話しながらレイとシルヴィアは次の本を探す。けれどその数は膨大で、適当に手にとっていけば時間がかかることは目に見えていた。
「……ふむ、これはマダム・ピンスに聞くのが一番か?」
シルヴィアはそう呟きながら、レイとは離れて本棚に沿って歩いていく。そしてふと、ある本棚の前で立ち止まる。それは先ほど読んでいた変身術の本の初級編と書かれていたものだった。
「あの本の初級編だから、あまり期待は出来ないか?」
そう言いつつもその本に手を伸ばす。すると、シルヴィアの手と誰かの手が本の前で触れ合った。
「おや?」
「む?」
シルヴィアは思わず隣を見る。そこには眼鏡をかけた知的そうな少年が同じく手を伸ばしていた。ミディアムショートのダークブラウンの髪を持つその少年に、シルヴィアは心当たりがあった。
「……これはこれは。今年一番のレイブンクローの秀才、ギルバート・エリスじゃないか」
「そういう貴様は、スリザリンの女王様という頭の悪い呼び方をされているシルヴィア・コルドウェルか」
あのシルヴィアに向かって憮然とした物言いを放つ少年……ギルバートは眼鏡のブリッジを押し上げた。
スリザリンに天才あれば、レイブンクローに秀才あり。
シルヴィアやレイがあまりにも目立ち過ぎていために埋もれがちになっていたが、入学式から今日まで、一年生たちの間でそういう話が広がっていた。レイブンクローには、スリザリンの天才にも負けない秀才がいると。
「……ふふっ、頭の悪い、か。全くもってその通りだな」
シルヴィアはギルバートの言い方に不快に思うこともなく、いつもの……唯一の友であるレイと話すようにそう返した。それは、シルヴィアがギルバートをある程度認めていることを表していた。
シルヴィアはレイに夢中であったが、ひと月もあれば他にも興味深い人物が見つかるものだ。
その一人がギルバートだった。彼女がギルバートを気にかけるようになったのは、彼もレイと同じく人を表面だけで判断しない人物だったからだ。
ではなぜ、シルヴィアが組み分けの時にギルバートの存在に気付かなかったのか。その理由は簡単なもので、組み分けに興味がなかったギルバートは手持ちの本を読んでいたためだった。
もしかしたら、シルヴィアの最初の友になっていたのはギルバートかもしれなかった。しかしシルヴィアはこう答えるだろう。
それでも私はレイを選んだだろう、と。
そして努力や才能を愛するシルヴィアにとって、秀才と呼ばれるギルバートは興味を持つには十分な人物だった。
「それで? 貴様のような天才がこの本に何の用だ? これは貴様が読んでも時間の無駄だぞ?」
「それなら君もそうなのではないか?」
「俺は書物間の記述の違いを突き詰めているだけだ。何が正しく、何がデタラメなのかをな」
「ほう……」
先ほどからギルバートは傲岸不遜の態度を崩さない。あれほどの騒ぎを起こし、ホグワーツに自身の恐怖を知らしめたシルヴィアを前にしてもだ。
ギルバートはもちろん大広間のあの現場にいた。しかし、シルヴィアの怒りが半ばブラフであったことに気付いていたのだ。そして、あそこで騒ぎを起こした理由も想像がついていた。
自分とレイとの仲は本物で、自分はこれほどレイを思っているのだと簡潔にかつ全員に知らしめるために。
まあ、それを知っていたとして、それ以前の問題だがギルバートはそこいらの生徒や大人よりも肝も度胸も座っているのだが。
シルヴィアはギルバートの不遜な物言いに、しかし笑みを浮かべる。ギルバートの物言いは確かに失礼なもので、ほとんどの人が不快な思いをするだろう。しかしそれは言葉上だけで、シルヴィアには自分への配慮が感じられたのだ。
人をよく見ているシルヴィアだから気付けたことだった。ギルバートとしては、お前にはもっと面白い本があるからそれはやめたらどうだ? と聞いてるのではないかとシルヴィアは解釈した。
損な性格をしている、と苦笑する。
「私の友が変身術に苦戦していてね、その手伝いをしているんだ。しかし私は天才だが、ものを教えるのは向いていないのだよ。だからここに来て参考になるものを探しているのだが……これが中々見つからない」
そう言って肩を竦めるシルヴィアに、ギルバートは顎に手を当てて考えるそぶりを見せながら答える。
「ふん。天才を射止めた努力家、レイ・オルブライトか」
そう言ったきり、ギルバートは何事かを考え込む。
シルヴィアは相変わらずの物言いにやはりこれが彼の素なのだな、と苦笑を洩らす。要約すると、俺もその努力を認めている、レイ・オルブライトか、といったところか。
そう要約し終えたところで、ギルバートは顔を上げてシルヴィアに向き直る。
「奴が変身術の何に苦戦していると?」
「……ふむ。気になるなら会ってみるか? すぐそこにいるはずだ」
「……いいだろう」
ギルバートは自分が認めている男が何に躓いているのか興味を持ったようだった。それに気付いたシルヴィアは、レイブンクロー一の秀才さえも認めた自身の友に人知れず嬉しくなっていた。
シルヴィアはギルバートを連れてレイの元へと歩いていく。この時、レイがギルバートの傲岸不遜な態度や物言いを見てどんな反応をするか楽しみにしていたシルヴィアであった。
少し歩いた二人の目の前に、目的の人物が本棚に背中を預けてうな垂れている。どうやら目的のものが見つからない様子だ。シルヴィアはレイのその姿に苦笑して声をかけた。
「レイ、少しいいか?」
「……シルヴィ、何かいいものが見つかったか?」
「いや、そうじゃない。レイに紹介したい奴がいてな」
「紹介したい奴?」
シルヴィアの言葉にレイはようやっと顔を上げる。すると目に入ってきたシルヴィアとその隣に佇む眼鏡の少年の姿に、何処かで見たなと記憶を探る。
「……えっと、確か……そう! レイブンクローの」
「ギルバート・エリスだ。そいつに貴様が変身術の初級程度で苦戦しているという話を聞いた。で、何に苦戦している?」
ギルバートの態度や物言いを初めて見たレイは、最初目を瞬いて呆然とした。そして、次にシルヴィアを見やる。彼女はレイの最初の反応が面白くて口を隠して笑っていたが、レイが聞きたいことを理解して微笑みで返した。
レイはシルヴィアと違い天才ではない。しかし、過去の出来事がレイを悪意に敏感にさせていた。だからこそ、レイはギルバートの言葉に毒はあれど悪意がないことを察することが出来ていた。
レイはシルヴィアの返しに自分が間違っていないことを理解して苦笑した。そしてギルバートに素直に答えることにする。
「変身術でマッチから針に変える奴があるだろ? あれがどうしても最後まで変化させられないんだよ」
「ふんっ、そんなことか愚か者め。……一応聞くが、教科書と板書に目を通し、マクゴナガル女史にも教えを請うても分からないのか?」
「ああ。だから困ってるんだよ」
「全く、マクゴナガル女史があそこまで分かりやすく説明しているというのに。……そこで待っていろ」
そう言って、ギルバートは本棚の影へと消えていく。そんなギルバートを見て、レイはシルヴィアへ話しかける。
「なんとも、ひねくれた奴だな。手伝ってくれる気持ちは嬉しいんだが、あれだと大体のやつが勘違いするぞ?」
「今までもそう言われてきたはずだ。けれど奴はその態度を今でも一貫している。自分、というものを持っているのは私は好ましく思うぞ?」
「……まあ、それもそうか。悪い奴じゃないみたいだし」
二人で話していると、ギルバートが奥から本を一冊持って帰ってきた。それをレイへと渡す。
「さすがホグワーツといったところか。こんな初級中の初級の本まであるとはな。……これを試しに読んでみろ」
「ありがとな、さっそく読んでみるよ」
レイは渡された本を読んでいく。しばらくページをめくっていくと、他の本との違いに気がついた。
「……あれ? これって」
自分の勘が間違っていないか確認するために、教科書へと手を伸ばす。
「ほう、気付いたか。貴様は愚か者ではあるが、やはり馬鹿じゃないようだな」
「なんだ? レイ、それに何が書いてあるんだ?」
その問いに、持ってきていた教科書と見比べながらレイは答える。
「この本、教科書の最初の方をより分かりやすく注釈してるんだよ。その分、濃い内容になってるからこんなに分厚いけど」
「なんだと?」
シルヴィアはレイのそばに寄って、横からギルバートが持ってきた本と、教科書を見比べる。すると、その違いはすぐに分かった。
「本当だ。かなり分かりやすく書かれている」
「だろ?」
そんな二人へ、ギルバートが眼鏡の位置を戻しながら口を開く。
「俺の予測では、その本一冊が大体一年生の学習範囲だ」
その予測を聞いた二人はギルバートへと顔を向ける。ギルバートは眼鏡に手を添えたまま続ける。
「ホグワーツに通う者の中には裕福な者ばかりではない。だから数年分をまとめたものを教科書としているのがほとんどだ。それだと買う値段は半分ほどで済むからな。そんな教科書の中でも変身術の教科書は数年分を限界まで分かりやすくまとめたものであるというのに、この愚か者が」
最後まで毒を吐いて話を締めたギルバート。……もはやレイはぐうの音も出なかった。
「……大変、申し訳ありません」
「ふふっ、怒られてしまったなレイ」
「いや、これはぐうの音もでねぇよ」
「それを理解しただけでも貴様は見込みがある。努力家は伊達ではないな」
その言葉を聞いた瞬間、レイとシルヴィアはギルバートの顔を穴が開くほど見た。それにギルバートは不快そうに眉根をあげる。
「なんだ貴様ら、その目は?」
「いや、今までの毒舌からいきなり褒められたら……なあ?」
「あ、ああ。エリスは常に傲岸不遜なのかと思っていた」
その言葉に、ギルバートは鼻を鳴らす。
「ふんっ、愚か者どもめ。よく聞けよ」
そう言って、ギルバートは自分の持論を語り始めた。
「俺は何事であっても、学ぼうとしないやつを嫌悪する。しかしどんなに小さなことであろうとも、学ぶ気概がある者は尊重する。学ぼうとする者は、その時点で愚か者であっても馬鹿ではないのだからな」
ギルバートは、揺るぎない信念を持って朗々と語る。それにレイとシルヴィアは黙って耳を傾ける。
「それは、自身の未熟や間違いにも言える。自身の未熟や間違いを認め、受け入れ、学び、次に活かす。これができる奴が存外いない。しかしお前はそんな馬鹿どもとは違う、レイ・オルブライト」
ギルバートに呼ばれたレイは無意識に佇まいを直す。そうさせる雰囲気を、ギルバートは放っていた。
「貴様は学ぶこととはどういうことか理解している。知らぬことは罪ではない。知ろうとしないことが罪なのだ。……貴様は、俺が認めるに値する男だ、レイ・オルブライト」
ギルバートがレイをまっすぐ見据えて語り終える。それを聞いていたシルヴィアの機嫌は鰻登りだった。学年一の秀才と言われているギルバートにさえ認められる友の姿を目に焼き付けるように見つめる。
シルヴィアの記憶に現在進行形で保存されているレイは、つくづく自分の出会う奴は面白いやつばかりだと苦笑した。
「俺の出会う奴出会う奴、なんでこうも個性的なんだろうな? シルヴィといいエリスといい」
「おや、ご不満かな?」
「……いんや、最高だ」
「ふふっ」
「ふんっ」
それからしばらく三人は変身術について語り合った。
レイの質問にギルバートが答え、そのギルバートの答えを聞いてシルヴィアがもっと深い疑問をギルバートに尋ねる。マダム・ピンスに目をつけられながらも、三人は有意義に時間を過ごしていった。
しかし、そんな時間も終わりを告げる。レイがある程度理解し、区切りがついたところでギルバートが二人に背を向けたのだ。
「では、俺は行く。せいぜい努力することだ」
なんの憂いもなく去ろうとするギルバートを、しかしシルヴィアが止めた。
「エリス、少し待ってくれないか?」
「……なんだ?」
背を向けたまま、横顔だけこちらを向くギルバート。そんな彼にシルヴィアは微笑みを浮かべる。
その笑みは、レイへと向けるものと同等のものだった。
「どうだろう、この機会に私達と友好を結んでくれないか?」
「……友好、だと?」
訝しむギルバートに、シルヴィアは頷く。
「ああ。私は君をとても面白い奴だと思っている。ここではいさよなら、というのはあまりにも惜しい。そうは思わないか、レイ?」
シルヴィアにそう問われたレイは迷いなく頷く。ギルバートは傲岸不遜であり毒も吐くが、それらは全て積み重ねてきた膨大な知識と揺るぎない信念によって形作られたものだ。自信を持って“自分”というものを貫き続けるギルバートに、レイは好感を抱いていた。
「確かにな。せっかくこうやって知り合ったんだ。……エリス、俺達と友達になってくれないか?」
「レイは君が認める男なのだろう? そして、この天才たる私も君のお眼鏡にかなうものだと自負しているのだが、如何かな?」
「…………」
レイとシルヴィアの言葉に、眼鏡のブリッジに指を添えて沈黙するギルバート。その視線は二人を見定めているように見えた。
「あっ、そうだな。友達になって欲しいって言ってるんだから、改めて自己紹介をしないとな」
「おお、それもそうだな。私としたことがうっかりしていた」
二人は未だ沈黙を保つギルバートに右手を差し出す。
「レイ・オルブライトだ。よろしくな」
「シルヴィア・コルドウェルだ。よろしく頼む」
改めて自己紹介を受けたギルバートはそれでも表情を崩さず、ただじっと差し出された右手を見る。
ギルバートには友と呼べるものはいない。同世代はほとんどが馬鹿ばかり。大人とて自分が認めるものは数少ない。誰が好き好んでそんな屑どもと友になどなろうものか。
しかし、そんな中で見つけた同世代の少年少女。自身が認める努力家と天才。自身の信念を理解する者達。
そしてその二人と接したギルバートは不覚にも、自分の信念や認める云々など関係なく、楽しいと思っている自分がいたことにため息をついた。
ギルバートは観念する。いくら考えようとも、どこにもレイとシルヴィアの提案を断る理由などなかったのだ。
長い間眼鏡に添えていた右手を離し、ギルバートはレイとシルヴィアの右手を順に握った。そして、彼も改めて自己紹介をしたのだった。
「ギルバート・エリスだ。レイ、シルヴィア。見込みある我が友よ。お前達が馬鹿者に堕ちないことを切に願うぞ」
ギルバートが受け入れてくれたことにレイとシルヴィアは嬉しくなり、笑顔と共にこちらこそと口にする。
そんな新たな友好を結んだ三人に近く影。騒ぎすぎたために、マダム・ピンスにより図書室から追い出される10秒前だった。
こうしてレイとシルヴィアは、レイブンクローの秀才というかけがえのない友を得た。
如何でしたか?
書溜めが思った以上に出来たので、来週から二週間は月水金に投稿します。次の投稿は23日月曜日です。楽しみに待っていただけたらと思います。
次回、夕御飯×双子×三頭犬。
感想や意見、評価やアドバイスなどを心よりお待ちしております。
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