本格的な冬という事でもうこの時間帯には辺りも暗くなっているため、こちらでの挨拶を”こんにちは”から”こんばんは”に変更するべきか迷っております。
…と、言ってる間に早速、本編へと入っていきましょうか。
よろしくどうぞ、です!
縮まる距離間
一学期中間テスト。
それは中学生になって初めて訪れる、一つの大きな壁と言えるような存在。
ここで、学年、ひいてはクラス内での周りからの評価もある程度定まることになる。
すなわち、成績が上であれば頭が良い人、下であれば逆、という形で。
そんな障壁を、俺の所属する風中野球部は一週間後の大会のことも頭に入れつつ迎えることになった。
結論から言うと、風中野球部のメンバーはテストを無事に乗り切ることが出来た。
残念ながら先輩が一人、詰め込み過多による脳ショート状態になってしまった以外は。
「10位台か、まあぼちぼちだろ」
テスト日程終了後のある日。
廊下に張り出されたのは、上位生徒の成績の張り紙。
その14番目、452点の横に俺の名前はあった。
平均が90点を越えたし一桁順位いけたかなとも思っていたのだが、予想以上に上位の壁は高いらしい。
なんと1位を取った男子は497点である。逆にどこを間違えたのかを聞いてみたいまであるが、クラスも違うようなので遠慮することにした。
「おお、牧篠載ってるのか、すごいな」
後ろから声がかかったので振り返ると、声から推測した通り大吾だった。
「ありがとな大吾。
まあ、おそらく部の中では俺が一番勉強しただろうし、それに――」
「うわ、ミチルこんなトコ載ってんじゃん」
「あらホントね、こんなに上なの」
続けて言おうとしたセリフは、割って入ってきた声にかき消された。
「…それに?」
話を止めた俺に対し、大吾は続きを尋ねてくる。
さすが、キャッチャーで周りを見る視野のおかげか色々分かってるみたいだ。
ただ、一人の女子の気持ちには気付いていなさそうだけど。
いやまあ、それは今はいいか。
求められた続きの言葉を、あえて相楽と沢さんにも聞こえるように言ってやる。
「そうだな...こいつらを見返してやろう、っていうモチベはデカかったかも」
するとそのセリフを聞いてか、二人は俺らのところへ。
「見返してやろう...てさあ、ミチル。そんなことの為にわざわざ勉強を?」
「そう。それだよ」
「は?」
「ミチル呼びの話。こんだけの順位を取ったんだ。もっと敬意を込めてだな...」
少し調子に乗って要求をしてみる。
さすがに聞き入れてくれないとは思ってるが...。
「そうね...じゃあ、私から代わりに一つ交換条件いいかしら?」
「ん?」
予想外の沢さんの切り返しに、ちょっと戸惑う。
どんな提案をされるかあまり想像できないだけに少し不安なのだが。
「私の呼び方は名字にさん付けで、太鳳のことは名字だけじゃない?」
「確かにそうだけど...?」
「統一してくれないかな、って。
…あ、この際だから大吾君にもお願いしようかしら」
「お、俺も!?」
「二人とも名字呼びだから、なんか遠巻きにされてる気がしてたのよね。
ね?聞いてくれないかしら」
…ん?今気付いたが流れが完全に向こうペースじゃないか?
さっきまでの俺優勢な感じはいずこへ...?
しかし、今更すぎる話だった。
「ええと...なんか俺、沢さんのことは沢さんでしか呼べない気がする。
結構定着しちゃってるし。ついでに言うと相楽の方の呼び方も」
「ついでにとはなんだ」
「俺も、名字呼びの方がしやすいし...」
大吾も弁明する。
そうだ、二人で乗り切ろう。
だがこの時俺は、気付いていなかった。
何かを思いついたような沢さんの顔と、緩んだ口元に。
「そう...それなら無理強いはしないけれど、出来れば考えておいて欲しいわ」
「ちょっ弥生、あそこまでいってたのにやめるの?」
「まあまあ、いいのよ」
話を切り上げ、何故か足早に立ち去っていく沢さんと、それを追う相楽。
とりあえず...良かったのか?
「災難だったな...」
俺の呟きに、
「全くだ。まさか巻き込まれるとは」
少し嫌味っぽく返してきた大吾。
「なんかすまないな」
「まあ別にいいよ、何とかなりそうだし」
「そうだな、何とかなって良かった」
能天気な会話をする俺たち二人だったが。
この数時間後、部活動にてその想いが覆ることなど考えもしていなかった。
* * * *
「えー今日の練習だが」
ウォーミングアップを終え、メニューを聞くため整列した俺たち風中野球部。
テスト後のうんぬんかんぬんでレイ先輩がいないが、それ以外はしっかりと揃っている。
「その前に少し、沢と相楽からお願いがあるとのことなので、聞いてくれ」
あの二人からお願い...なんだろうか。
…と、一瞬考えた後。
俺の方へと意味深な笑みを向ける二人を見て、確信した。
やられた、と。
「いきなりすみません。
今日は私たちから一つお願いと言うか提案がありまして」
「その、呼び方のことについてなんですけど...今って、先輩は一年のこと名字呼びですよね?」
「まあ、私以外は基本そうじゃない?一人、ここにはいないのも名前で呼んでる気がしたけど」
話を始めた沢さんと相楽の問いに答えたのは、綾部先輩。
ここにはいないの、とはレイ先輩のことだろう。
「正直に言うとですね、もう少し距離感を縮めて欲しいなと思いまして」
「そうなんです。もうすぐ大会もあるじゃないですか?
いつまでもこんな感じだったら、何だか少し寂しいなって」
名前の呼び方を改めて欲しい、という一年生二人のお願いに、目を見合わせる先輩方。
「私は別にこのまま変わらない訳だし構わないけど...男子の方はどうなのよ?」
「そうだな...。
実際椿のことは下の名前で呼んでるし、わざわざお願いされたからその通りでも良いんだが...」
綾部先輩が尋ねるところに答えたのは綜先輩。
別に構わないという様子だが、途中で俺の方を少しちらりと見て言葉を濁す。
優しい。その一言に尽きる。
「もちろん、ミチルのことに関しては大丈夫です。そこはなんか事情もあるみたいだし?」
割と引きの早い相楽。意外すぎて少し声が出てしまった。
「私は下の方で呼んでも良いかな?ミチルちゃん」
「ちゃん付けだけは断固拒否します。返事しませんからね絶対」
「そっかー、じゃ名字でいいや。牧篠...ちゃん?(笑)」
何故”ちゃん”から離れようとしない...本当に、とことんいじめてくるな、この先輩は。
「折角の後輩たちからの頼みだ。この際、俺からもいいか?」
唐突に口を開いたのは近江先輩。
「折角なら俺らのことも名字じゃなく下の名前で呼ばないか?
一応、”先輩”は付けておいて欲しいけど」
「おっ、克彰ナイスアイディア!
”椿”っていう名前好きなのに、後輩から呼んでもらえなくてちょっと寂しかったんだよね」
あやb...いや、椿先輩も便乗し、俺ら一年もそう言う事ならと了解する。
その後何故か一時、慣れるためか唐突に下の名前で呼び合う流れに。
そしてそこで、ようやく今回の沢さんと相楽二人の提案の真意(実際は分からないが)を知った。
「だ、だい、だ...大吾君!」
「む...睦子...ちゃん?」
簡潔に言うと、ほっこりとした気持ちになった。
「…ね?名前呼びもいいもんじゃない?」
「沢さん」
「いやね、弥生って呼んでよ」
「えーそれは無理かも」
「なんでよ(笑)」
「少なくとも今は、沢さんと相楽、っていう感覚が強いんだよ」
その相楽は、大吾と睦子の二人に対して、
「ちょっと二人、”君”と”ちゃん”は外してもいいんじゃない?」と茶々を入れている。
まったく、何をやってるんだ。だがナイスだ。
「そう...ちょっと残念ね」
「残念って...俺のことを名字で呼ぶなら考えないこともないけど?」
「う~ん、それはちょっと違うと思うのよ」
何が違うのか。まったく分からないものだ。
その後の練習は、いつもとはなんだか違った、なんとも言えない感じで進んだ。
ただ、何か雰囲気が変わった気もする。良かった...のかな?
「…ねぇ、やっぱりミチルちゃんって」
「やめてください」
「はぁ、ケチね」
「いやどこがです!?」
…やっぱり、良くなかったかもしれない。
…おかしいな。
今日の話で主人公には、皆のことを下の名前で呼ぶことになってもらうはずだったんですが...なんかまだ無理らしいです。なんて頑固なヤツだ...(笑)
まあ、あとは自分で何とかしてもらいますか(テキトー)
あと、原作キャラの成績について結局言及しなかったのはただ逃げただけです。すみませんm(_ _)m
そして、割と練習描写からも逃げている(?)自分...果たして次話はどうなるのか。
ちょっとで良いので期待とかして下されば有難いなと思います。
では今回は、このあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。