えっと...とりわけ書くこともないので早速本編の方、よろしくどうぞです。
膨らむ野望
「ケン先輩!狙い球絞って!」
「ケン~!打てるぞ打てるぞ!」
「オッケー、ボール見えてる!」
球場に響くは、少年少女の声援。
スタンドにまばらに座った人々は、運命の一球を固唾を飲んで見守る。
そして。
真ん中高めのボールにバットを上手く合わせた打者。
外野へと飛翔する打球。
瞬間、沸いた一塁側ベンチであったが。
打球を追いかけていたレフトの野手の足が止まり、こちら...ホーム側を見る。
両手を広げた後、しっかりと右手のグラブで捕球した。
直後。
うなだれるように一塁側から出てくるのは、風林中学校。
対極的に、嬉しさを顔に浮かべているのは三塁側、英邦学院中学。
3-2と白熱したその試合。
最終回二死一、三塁のピンチを粘り勝った、エース豊原を中心とした英邦学院に軍配が上がった。
* * * * * *
負けた、のか...。
正直、受け入れられないというか信じられない気持ちだ。
また、そんな気持ちなのは俺だけではないという事だろうか。
熱戦を終えて帰るバスの車内には、寂しげな雰囲気が漂っていた。
そして俺は、ついさっきまでの試合について、頭の中で思い返す。
俺ら一年生が部に入って初めての公式戦。
その大会で、風中野球部は順調な試合ぶりで一、二回戦を突破。
出場チームも割と多くはなかったため、次を勝てば決勝に進めるという三回戦(準決勝)。
対戦相手は英邦学院という、このあたりの中学野球部なら誰しもが知っているレベルの強豪。
強豪校ということは、もちろん織り込み済み。
それでも俺は勝利を疑っていなかったし、先輩たちも勝つ自信はあったはずだ。
明暗が分かれたのは、投手力の差だったように思う。
相手の英邦学院は、計4人の投手を継投し起用した。
こちら側が、捉え始めチャンスを作るようになると交代して躱す、という風に。
右のオーバーハンドから左のスリークオーター、右サイドスローの後は右オーバースロー。
目まぐるしく変わる相手投手。
その誰もが他のチームであればエースとして投げられるくらいの実力はあった。
そんな相手の守りに対して最後まで、あと一歩追いつくことが出来なかった。
一方でこちらの投手陣は、先発のケン先輩がエースとして十分すぎる投球を見せていた。
…そう。
途中までは、完璧と言うにふさわしいピッチングだった。
流れが変わり始めたのは四回表、相手打線が一回りしたころ。
ワンナウトから3番打者に初ヒットを打たれると、4番にも連打を浴びて一、三塁のピンチ。
5番は内野フライに抑えたものの、続く打者には一塁線方向への鋭いライナー。
…が、これは広夢先輩がジャンプして捕るファインプレーで、なんとか無失点。
ベンチに戻ったケン先輩には汗が目立ち、更にいつもよりも深く寄り掛かるように座っていた。
疲れがあったという事なのだろう。
次の回に入ると制球ミスも見え始め、あっさりとピンチを作り、あっさり失点してしまった。
その直後の攻撃で、ケン先輩は自らのバットで、同点に追いつくタイムリーを打つ。
しかしこの際、二塁へ疾走。
ベース上に立った先輩は、激しく肩で呼吸をしていた。
その後のイニングで再びピンチを作ったケン先輩。
さすがに見かねて、ピッチャーは椿先輩へと交代。
場面が場面であったため一点を失ってしまったものの、後続はしっかりと断った。
試合が終わった今となっては、そこでの一失点が結局勝敗を分けてしまったことになるのだが。
たださすがに、誰も椿先輩を責めることなんてできない。
また、そこまでケン先輩は投球でチームを引っ張ってきていたわけであり。
もちろん文句なんて言えるはずがない。
強いて言うならやっぱり、”投手の駒の不足”だったのだと振り返ってみて改めて感じた。
そして、俺のその考えと同じ結論に至ったのか。
試合後の学校に戻ってのミーティングで、綜先輩はこう話し出した。
「一年生の中で誰か、ピッチャーをやってみたい者はいるか?」
それは、予想はしていなかったが想定内ではあった問いだった。
周りを見回すと、真っ先に手を挙げた同級生が一人。
「…睦子ちゃん!?」
驚いた様子の椿先輩に対し、照れたような笑みを浮かべる睦子。
椿先輩は気付いていると思っていたが、違ったのか。
睦子は新入生歓迎試合の時から、椿先輩への憧れを強く抱いているみたいだったし、そこからピッチャーをやりたいと思ったのだろう。
実際、日々の練習で一番走りこんでいるんじゃないかというくらいランメニューをやる睦子。
俺の中では同級生の中で、ピッチャーの最有力候補だった。
ただ、まさかこんなに早く手を挙げるとは思わなかった。
少し意外で、俺も自分のやることを一瞬忘れてしまいそうに。
…と、そんなことを考えつつ、俺も手を上へと伸ばす。
「牧篠もか」
「はい。もともと、ピッチャーへの憧れもあったので」
「そうか。それで...他はいないか?」
綜先輩の問いかけに合わせて他のメンバーを見てみる。
何だかさっきから少し相楽がそわそわしているように見えるけど...なんだろう?
沢さんの方を少し見ているようだったが、俺の視線に気付いたのかぷいと横を向いた。
「了解。それならひとまず、この二人に投手練習もやってもらう方向でいこうと思う」
綜先輩のその言葉に、意識を戻す。
「ケンすまない、勝手に決めたが...」
「ああ、気にするな。今日の感じじゃ全然ダメだし、俺に色々言う資格はないと思う。
そもそもキャプテンの決めたことに従うのは当然だしな」
「…そうか、分かった」
落ち着いた声で少し自傷的に話すケン先輩に対し、小さく相槌をうった綜先輩。
ケン先輩の雰囲気にどこか思うところがあったのか、顔が一瞬ながら曇った気がした。
「よし!じゃあ私が教えてあげるね!」
そう言って立ち上がったのは、言うまでもなく椿先輩。
「控えのピッチャー同士、競い合っていこ!」
「は、はい!こちらこそ...よろしくお願いします!」
笑顔を見せる椿先輩に、元気に答えお辞儀をする睦子。
「ほら、マキくんも」
マキくん。
それが、椿先輩がたどり着いた俺の呼び方の答えらしく、最近では定着してきた感じもある。
俺の方を向いて、睦子に見せたのと同じような笑顔で。
――なんだか、逆らうことは許さないというような感情を感じ取れる笑顔だったけれど。
「…もちろん、先輩を頼らせてもらうつもりです。よろしくお願いします」
「やけに素直じゃない?(笑)」
いや素直にさせてるのはどなたですか、と言いかけたがさすがに止めておいた。
その後ミーティングは、いくつかの反省と後悔などが語られた。
もちろん、良かったところについても。
一年生も皆、何かしらの形で試合には出場していたので、それぞれが想いを抱いていた。
俺は、椿先輩がマウンドに上がっている時にサードを守った。
二回戦では途中まで、そして今日の三回戦が、途中からの出場。
打席には二回立ったが、四球と、内野ゴロでの凡退という結果だった。
試合に出られたのは実際嬉しいが、そもそもそれは部の人数が少ないということもある。
満足なんてしていない、というか今後もそんなことはなさそうだけど。
次はもっと出たいし、もっと活躍したい、貢献したい。
もういっそのことなら、と、フルイニング出場を夏までの目標に決めた。
また、俺がもっと繋げられていればもしかしたら、と言う場面もなかったわけじゃない。
そういう点でも悔いはあるし、学ぶべき所、これからに生かしていかねばならないところだ。
そんな各個人の振り返りや反省が入り乱れるミーティング。
終わる様子なんて全くあるはずもなく。
誰かが発言しては、自分と照らし合わせてそれについて考えるといったサイクルが何度も続く。
最後は椿先輩の、
「またいつもの癖が出てる、そろそろまとめないとキャプテン」
という言葉に、自分の最大の仕事を思い当たった綜先輩が、大会についての総括と今後の練習についての大まかな流れ、予定についてを話したところでお開きとなった。
とうとうピッチャーに一歩踏み出した主人公。
どんな投手になるかは実は未定で...というのはもちろん嘘です(これが嘘です?)
そして睦子ちゃんのピッチャー転向(?)への理由補完。
個人的にはグッドな感じに出来たと思っていますが...どうですかね?
あと、試合描写サボってすみません。次話はやります。
…予告したので、これで来週の俺は書いてくれるはず!
まあ実際、そろそろ試合描写やっとかないと忘れてしまう恐れこそあるので...(笑)
ここで、少し雑談。
この第弐章:中学生編(1年の部)を何月までやるか、今迷走中です...。
出来ればアニメのクールの区切り、すなわち一、四、七、十月で各章分けていきたい願望があるのですが、四月から新章はなんか早すぎる気がしてましてね...ということでその辺り、決まりましたらまたご報告させて頂くことになるかもしれません。
とはいえ今は、連載中のこの章を頑張って書くことに集中していきたい。
今後とも皆さま、応援いただけると大変嬉しい限りです。
…なんかこの台詞、年末最後の投稿で言うべきだった気がするけど...まあいっか(笑)
それでは長くなってしまいましたが、今回はこのあたりで失礼致します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。