俺の名前は。   作:kwhr2069

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どうも。先週ぶりです。

前置きは短めにしておいて、さっそくどうぞ!



第三十五話

勝負の分かれ目

 

 6回表、この回先頭は3番の綜先輩。

 ブルペンから、先輩の打席を見つめる。

 

 そこで、左打席に入った先輩の立ち位置に対して違和感を覚えた。

 いつもと比べ、ホームベースから離れて立った先輩を見て、相手バッテリーにも少し戸惑いの色が見える。

 

 その初球。アウトコースに投じられたボールに対し、完全に踏み込んで打ち返す。

 打球はレフト線へ飛んでいき、先輩は二塁まで進んだ。

 

「狙ってたな、先輩」

 

 ブルペンで向かい合う大吾が、声をかけながらボールを投げ返す。

 

 あえて離れて立つことでアウトコースを誘い、狙い打った…のだと思う。

 相手にインコース攻めを続けられていたから自然な立ち位置にも見えるし、さすがの発想力だとしか言いようがない。

 何よりも、狙い球を1球で仕留める集中力がすごい。

 

 綜先輩の長打に盛り上がる風中ベンチとは対照的に、宇戸中はタイムで間を取る。

 

 マウンドの輪がとけ打席に4番の翔介先輩が入ると、バッテリーは明らかなボール球を4つ続け敬遠を選択。

 ランナーを埋めた状態で5番の孝央先輩との勝負に出るかと思いきや、そこでも敬遠。

 

 無死一、二塁からまさかの満塁策。

 ここで打席には、6番のケン先輩が入る。

 

 初球はインコース低めに投げ込まれた直球でストライク。

 2球目、3球目は外に外れてボール。

 打者有利のカウント1ー2から、4球目はインコースへのシュートだった。

 手を出した先輩のバットの根元に当たり、ボテボテの打球がピッチャー前へ転がる。

 

 1ー2ー3の本塁ダブルプレー。

 風中は一気に劣勢。

 

 7番は椿先輩。2球で追い込まれ、3球目はインコースへのカットボール。

 詰まった打球は三遊間へ飛ぶ。

 

 やばい、と思ったその瞬間だった。

 

 

「抜けろー!!」

 

 グラウンド中に響き渡る声とともに、転がるボールが突如不規則に跳ねた。

 グラブを差し出していたサードがファンブルし、その間に声の主は一塁を駆け抜けた。

 

 首の皮一枚繋がり、1点を返して二死一、三塁という場面。

 ここで打席に立つのは、8番丹波先輩…の代打、沢さん。

 

 エラーでの失点に、再度宇戸中の内野手はマウンドに集まりタイムがとられる。

 

 一塁を見ると、ついさっきの声が恥ずかしいのか椿先輩はベース上でベンチに背を向けて座っていた。

 ベンチからの声援や野次にも無反応で無視を決め込んでいる。

 

「あんな風に恥じらう先輩は珍しいかもな」

 

「確かに。いつもなんか飄々としてる感じだし」

 

 俺と大吾も口調がどことなく軽くなる。

 確かなことは分からないが、もし野球の試合に”流れ”が存在しているなら、今それはきっと俺たちについているのだろうと強く感じた。

 

 

 そして…。

 

*  *  *  *

 

「ストライッ!バッターアウト!」

 

 7回ウラ、ツーアウト。

 9番の打順で出された代打をケン先輩が三振に抑え、試合は終わった。

 

 

 6回表、代打の沢さんが2点タイムリーツーベースヒットを打って逆転に成功した風林中。

 続く怜伊先輩はサードライナーに倒れチェンジとなったものの、ケン先輩が2イニングを3人ずつで完璧に抑え、結果3ー1での勝利。

 

 準決勝に駒を進め、対する次の相手は英邦学院となる。

 

「先輩」

 

「ん?…ああ、牧篠か」

 

 試合後、ケン先輩に声をかけ肩や肘のアイシングを手伝う。

 

「完投、お疲れさまでした。

 5回から7回までの3人斬り、見ててほんとにしびれました」

 

「まあ今日は、相手が相手なだけに、完投するつもりで来てたからな…達成できてよかったよ」

 

「…?」

 

「バントで揺さぶる戦術のことだ。

 まだ登板歴が浅いお前に、上手く対応できるか考えてたが無理そうだったんでな」

 

「それは…面目ないです」

 

「いやいや、お前はまだ1年なんだ。出来ないことがいくつあってもそれは仕方ないことだよ」

 

 それに、とケン先輩は続けて話す。

「トーナメントは一回勝負。大事な場面で応えてこそエースだと俺は思ってる。

 永遠にマウンドに立ち続けられる訳じゃないが、投げられる限りは投げないとな」

 

 今日の試合、終盤の先輩の投球は最近見た中でも本当に凄みがあり、何か鬼気迫るものを感じた。

 それは、次に進むために今必要なことが自身の完投だと思っていたからであり、だからこそ力を込めて投げ続けていたのだろうと分かった。

 

 でも、とさらに続ける。

「明日の準決勝、俺一人が投げての勝利は無理だ。

 勝つためには椿、そして牧篠と佐倉の投球が必要になると思う。」

 

 文字通り総力戦だ、とケン先輩は言う。

 

 

 思い返せば、5月。

 まだマウンドに立てなかった俺は、英邦学院に負けた後、ケン先輩が立ち続けたその場所をただ悔しく見つめることしかできなかった。

 

 だが、今は違う。

 俺は一人の投手として風林中にいる。

 できることはまだ少ないけれど、投手としての成長をずっと続けてきたつもりだ。

 

「明日は、俺も自分の出せる全てを尽くしますから」

 

「ああ、頼むぞ」

 

 そう応えたケン先輩の顔には、どこか安心したような笑みが浮かんでいた。

 

 

* * * * * *

 

 夜。

 そろそろ寝つこうとした時、自分のスマホから着信が鳴る。

 相手を確認し、電話を取った。

 

「どうした、ケン。こんな時間に」

 

 そこから流れてきた言葉に、俺は耳を疑った。

 

「大丈夫…じゃないよな?」

「明日はどうなるんだ」

 

 なんと言えばいいか分からず、短文で言葉を交わす。

 

「…そうか分かった。でも」

 

 でも…の先は、言葉が出てこなくなった。

 

「いや、やっぱりいい。とりあえず今日は早く寝とけ」

 

 そう言って、電話を切った。

 そこからずっと、俺はベッドに横になり考え事をしていたが、気付けば眠ってしまっていた。

 

 

*  *  *  *

 

 朝。

 球場に向かう途中で発表したスタメンを見て、13人の部員が驚いた目を俺に向けていた。

 

 今日の相手は、県内屈指の強豪英邦学院。

 一度負けた相手で、その雪辱を晴らすために今日は勝たねばならない。

 この思いは皆で共有して一致しているはずだ。

 

 そんな大事な試合、先発のマウンドには椿が上がる。

 代わってサードに牧篠、ファーストの丹波も沢に代わった。

 

 エースの剣竜は先発登板ではなく、スタメンからも名を外れた。

 

 その理由は一つ。

 剣竜が()()()()()()()()()()()だった。

 




本編お疲れさまでした。

さて、今週の後書きでは、先週投稿した活動報告の一部抜粋ということで、休載していた主な理由に関して触れようと思います。
「一時期ストーリーの過程・展開のさせ方に悩み、上手く書けていない・自分が見ても満足できないと感じ、これ以上は書き続けられないと思っていた。その後、不定期投稿にすると公表した(第三十三話あとがき)ことから責任感が薄れて考えることもやめ、完全に放置することになった。」とまあ、このようなだいぶ身勝手な原因で書けていませんでした。

今後、もしかしたら似たようなことが発生するかもしれませんが(起きないのがベストですが)自分の中でしっかりと満足のいくものが書けるように頑張っていくつもりなので、応援を頂けるとすごく力になると思います。

それでは少し長くなりましたが、今回はこのあたりで失礼します。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
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