俺の名前は。   作:kwhr2069

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こんにちは。
今日は幕間章二つ目のお話です。

特に前置きすることもないので、さっそく本編へどうぞ!


第四十二話

新キャプテン

 

 俺がそのことを知ったのは、新チームでの練習が始まって四日後、同じクラスの翔助から聞いた話がきっかけだった。

 それは『大吾がキャプテンを辞退し、部をやめようとしていること』だ。

 

 はじめは、大吾がそう簡単に与えられた責任を放棄するような性格ではないし、何かの間違いだろうと思った。

 しかし話を聞く限り、大吾は風林中をやめシニアチームに入ろうとしているらしい。

 

 大会後も他の同級生は部の練習に出ていて自分より状況に詳しいはずだから、何か自分の知らないところで問題が起きたのだろうと考えた。

 

 最近は自分が高校受験することを配慮してか、学校でも最低限の会話で俺を邪魔しないようにしようとしてくれていた。

 ただ今回のケースで、我慢できず翔介が話してしまったらしい。

 自分から言ったことは内緒にしてくれとも言われた。別に気にしなくてもいいと思うのだが。

 

 俺は一応前キャプテンとして、大吾に役を任せた身として、話しておくべきことがあると思い放課後帰路につく大吾を追う。

 

 

「大吾!」

 

 歩く背中に呼びかけてみると、ビクッとして振り返った後俺の顔を見て微妙な表情を浮かべた。

 

「綜キャプテン…どうされたんですか?」

 

「おいおいキャプテンはやめてくれよ、もう引退した身だぞ?」

 

「あっ、確かにそうでしたね…すみません」

 

「いやまあ、別に謝らなくてもいいさ。

 …それで?現キャプテンの大吾はどうして練習せずに帰ってるんだ?」

 

 本題を尋ねると、バツの悪そうな顔をする大吾。

 

「…長くなるなら、そこの公園のベンチにでも座るか」

 

 そう聞くと首を振り、意を決したような顔をして口を開いた。

 

「俺、中学校でもっと野球が上手くならなくちゃいけないんです。

 先輩たちのいた世代はホントに強くて、毎日勉強させてもらってました」

 

 黙って聴き続ける。

 

「でも先輩たちが抜けて、俺らは8人になった。

 確かに自分より上手い同級生はいます。でも8人じゃ、何もできないんですよ」

 

 強く、自分に語りかけているかのように話す大吾。

 

「試合はもちろんできないし、練習だって今は先輩たちがいるから何とかやれてますけど、このままずっと頼るわけにもいかないじゃないですか。

 だから俺は、自分のレベルアップのためにシニアに行くんです」

 

 そして顔を上げ、俺の方をじっと見てきた。

 

「風林を出て強豪校に行く綜先輩なら、この気持ち分かってくれるんじゃないですか?」

 

「……」

 

 黙ってしまった俺を、返答を求めるように見つめてくる。

 

 俺は悩んだ挙句、一言だけ口にした。

 

「…嘘だな」

 

 

* * * * * *

 

 嘘だな、と曇りのない目で言われた。

 まるで自分の全てが見透かされているようで怖くなった。

 

 黙ってしまった俺に、綜先輩は重ねて問う。

 

「本当は何か、違う理由があるんじゃないのか?」

 

 図星だった。

 もちろんさっき言ったことがまるっきり嘘というわけではない。

 あれは、自分を納得させるための二つ目の理由。

 

 本当はもう一つの理由があった。

 

「悩みがあるなら聴くぞ。こう見えても俺は元キャプテンだからな」

 

「…先輩にはかないません」

 

 気づいたらそう答えていた。

 

 

 大会後初めての練習、俺はいつも通り参加していた。

 ただ今日からはキャプテンとしてであり、これまでと違う心情を抱えていた。

 

「大吾、今日からの練習だけど…」

 

 練習前、牧篠に提案されたのは練習メニューの変更。

 これまでより基礎練習を多くして、経験の浅い睦子や関鳥にある程度の基本を固めてもらうのが良いのではないかと言っていた。

 

 俺はそれを、そのまま受け入れるしかなかった。

 

 また練習では、自分がキャプテンということでノックを打ったが打球が思ったところに飛ばない。

 それを、広い守備範囲で悠々カバーする太鳳や弥生に圧倒された。

 

 初日の練習が終わった後、俺は漠然とした不安を抱いていた。

 『俺は、キャプテンとして本当にチームのみんなをまとめていけるのか』という不安だ。

 

 そして決定的だったのが翌朝、目が覚めたとき。

 昨日から取れていない疲労感に気づき、俺にキャプテンは無理だと悟った。

 そこで、シニアに行くという都合のいい理由を盾にして逃げるつもりだった。

 

 だったのだが…。

 

 

「なるほど。大体の事情は分かった」

 

 話を聞き終えた綜先輩は、頷きながら言った。

 

「すみません。せっかくキャプテンに指名してもらったのに、こんな意気地なしで…。

 でも、ほんとに俺がキャプテンで良いんでしょうか?

 牧篠の方が適任だと思っていたんですけど」

 

「…あいつはダメだ。たまにリミッターが外れると止められなくなる。

 そのためにお前を指名したんだからな」

 

 それと、と先輩は続けてこう言った。

 

「大吾、お前は自分のことが分かってないみたいだな」

 

 

* * * * * *

 

 その後少し日が経ってから、大吾は部活に戻り正式なキャプテンとして部活を引っ張っていく決意をしたらしい。

 

 その話をした翔介は、俺にどんな魔法を使ったんだ?と聞いた。

 

「別に魔法なんかは使ってない。

 ただ単純に、背中を押してあげただけだ」

 

 訳が分からないという顔をした翔介を無視し、俺はつぶやいた。

 

「がんばれよ、新キャプテン」

 

 決して、自分と同じようなキャプテンにはならなくていい。

 自分らしく、ありのままの姿でチームを引っ張る。

 その姿勢が一番大事なのだと、大吾に伝わっていることを信じて俺は参考書を開いた。

 




本編お疲れさまでした。
原作と違う設定なのだから展開も違っていいじゃない!ということで、思い切って今回は元キャプテンに動いてもらいました。楽しんでいただけましたでしょうか?
幕間章はまだ続きますので、ぜひ次週もお楽しみに。

それでは、今回はこのあたりで失礼します。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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