僕がこの森に住んで3年程経った、歳は13くらいだろうか。覚えてはいないがおそらくそうだろう。
アイリスからは言葉や、その意味など、様々なことを教えてもらった。その中で役に経つのが哲学と呼ばれるものだ。彼女は時々難しいことを言うが、おそらくそれが哲学なのだろう。これは昨日の時の話だけど。
「ねえ、アレンは人間をどう思う?」
「どう...って?」
「好きに言いなさい?」
「そうだね、汚いものだと思う。」
「それはどうして?」
「だって、好き勝手に戦争をした結果。自然も、文化も、そして自分たちさえも破壊し尽くしたからかな。」
「そうね。人間はね、他の動物より様々な感情を持ちすぎてしまったのかもしれないわね。」
「どういうこと?」
「例えば感情って、喜怒哀楽があるでしょ?でもね、それ以外にも人は欲望のために動こうとしたり...他の良い方をするならば欲深い生き物でありすぎてしまった、かしら。」
「欲深い...?」
「ええ、さきの戦争であってもそうよ。今まで無計画に個体数を増やし、資源を食いつぶしてきたにも関わらず、その責任から目を背け自分たちのみが生き残ろうとしたりね。その結果、どうなったかは知ってるよね?」
「うん、皆滅んじゃった。」
「そう...、確かに欲望とは、行動におけるエネルギーになり得るわ。でもね、それが強すぎてしまうと、周囲が見えなくなり、その結果どこかで没落することになるわ。言ってしまえば、燃料を投下しすぎたが故に爆発を起こしてしまう...という感じかしらね。」
「欲深いって怖いんだね。」
「ええ、そうね。でも欲というもの自体は決して悪いものではないわ。欲と言えば、権力を持った人間が横暴に振る舞うってこともあるの。でもね、それはおそらく自分が強い人間であるということを知らしめて認めてもらいたいという欲からだと私は考えるわ。でもね、滑稽なことね。例え権力があるからといって、何かに守られているからといってその人間自体が強い訳でもなんでもないのにね。それらが無ければ何もできない、ただの一個体でしかなくなるのよ。」
「権力って人の欲望を強くするものなの?」
「そうかもしれないわ。でも、それはあくまで一部だけのこと。正しい使い道を知っていて、先ほど言った通り勘違いしておらず、真っすぐな強い志を持った人間が権力を持てば、それで国民は豊かになるものだし、人々を幸福にするわ。でも、そうではない人間が握れば国民は貧しくなり、人々は荒んでいく。そういえば、とても昔...そうね、数十年前に滅んだ島国では、権力を持った人間達が下の人間に全て苦労を背負わせた結果、国は破綻寸前まで行き、国民による大暴動が起きたかしら。」
「使い方を間違えればそうなってしまうのか。」
「そうね、誤った使い方をすれば最悪な結果は免れないわ。そして、この例では平和という理想が生んだ末路でもあるわ。」
「でもさ、平和であることは悪いことではないんじゃないの?」
確かに、平和であれば戦争も起きなかった。そしてこうやって人類が滅ぶこともなかった。なのになぜ平和が最悪な結果を生み出したのだろうと僕は思った。
「いい質問だわ。確かに、ごく普通の人間達によって築かれる平和は確かに間違いではないわ。でもね、それをずる賢い輩が利用すれば、自らは守られると勘違いし、横暴なことを行ない始める。その結果、先ほど言った島国は滅んだわ。上の立場に立つ以上、それ相応の責任を追う義務はあるのを忘れてはいけないわ。そしてそれを行なわなかったものに対してはそれ相応の怒りを示す必要があるわ。守られているから、だから何をしてもいいという勘違いが生み出す悲劇を起こさない為にね。ある国では暗殺という行為によってそういった人間が排除されることもあるけれどね。」
「でも、なるべく平和であったほうがいいよね。」
「そうね...でも、難しいものなのよ。優しさと甘さを履き違えている間はね。」
「...?」
「優しさとは、時に厳しさを伴うものでもあるわ。そしてそれらはその相手に有益をもたらすわ。でも、甘さは違うわ。それらは受け取る相手のためになることは少ないし、その結果相手がつけあがる事もあるわ。昔に問題となったのは、雌の個体の人間が、雄の個体は雌に合わせるのが当然。という主張や、老いた個体が、若い個体は敬うのが当然。であるとか、商売による相手が、客としてきているのだから神として扱え。などね。それらは甘さを蔓延させた社会が生み出したものね。つけあがった結果、受け取る側はそれが当たり前となってそれ以上を常に求めようとしたわ。渡す側がそれらを当然とするのは別にいいわ、でも、受け取る側がそれらを当然と言うのは滑稽なものよ。あなたも、何かに感謝するということだけは忘れないように生きていきなさい?この森にたどり着いたあなたは心の優しい人間であるから。」
「わかった、ありがとう。アイリス。」
僕はそう言って、昨日は寝床についた。
翌日、僕は早朝から川で魚を採り、庭で鶏の卵を採取し持って帰った。
そして調理をし、アイリスのもとを持って行く。
「偉いわね、朝から。」
「そんな、助けてもらったのだからこれくらいは当然だよ。」
「ふふっ、優しいのね。あなたは。」
僕はこの森とアイリスにとても感謝している。
「それじゃあ、食べよう。」
「そうだね。いただきます。」