サイコロ・くじ引き転生【短編集】(改題)   作:しゃしゃしゃ

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 今回も試行錯誤回。いつもと違うので視点がバラバラだったり、情景描写うまくいってなかったりします。力不足 誠に申し訳ありません。
 後編は明日に予約投稿済みです。
前編約9000字、後編約10000字。 がんばりました。



☆□ 25番 浦戸和成 享年25歳の場合 【前編】

 

◆◇◆◇◆

 夢を見ている。

 

 俺は暗い夜道を一人で歩く一人の男の後ろを歩いていた。佇まいから闇に潜む悪党ではなく、清廉潔白な人物であると感じられるような紳士だった。数歩後ろを歩く自分にその紳士が気づく様子はない。これは過去に起こったこと。呪いに刻まれた記憶でしかない。俺はただ見ているだけ。

 しばらく歩いた後、自分たちは町から離れた場所にひっそりとたたずむ廃墟のような建物に到着した。男が扉を開ける。

 

「んー! んー! 」

 

 今、俺の目の前には口と手足を縛られ暴れる男がいる。男はきょろきょろとあたりを見回しながら体をよじって拘束から抜け出そうともがいている。

 

 そして自分の横にいる紳士を見て驚いたように動きを一瞬止めた。

 

「んー! んー!! 」

 

 男は何かを訴えかけるようにしているが、自分も自分と一緒に来た紳士も一顧だにせず、紳士は男の口をふさぐ布を取り除いた。

 

「―――ッガ! ()()()()()()裁判官! た、助けてくれたんですね。ありがとうございます! ここはどこですか?! 私は、気が付いたらここにいて! 脱獄を企てたわけでは―――」

 

 ガリバルディ、と呼ばれた紳士は男の言葉を無視し、どこに持っていたのか分厚い本を取り出し開いた。

 

「被告人、マイルズ・ワグナーは殺人と遺体損壊の罪で死刑が求刑されていた。しかし一部の博愛主義者が騒ぎ立てたため減刑され、懲役刑となった。違いないか」

 

 ガリバルディは冷たく平坦な口調で問いかけた。

 

「さ、裁判官? 」

 一方の男、ワグナーは目の前の裁判官が突然自分の裁判結果について語り始めたことに混乱しているようだった。

 

「沈黙は肯定とみなす。許しがたい事だ 許されざることだ。罪を犯した犯罪者が罰を受けずにのうのうと生きるなど間違っている」

 

 変わらない口調で、しかし確かな熱を持ってガリバルディは言う。ワグナーは何かに気づいたように顔色を変えた。

 

「! ま、まさか裁判官、いや、そんなまさか! 」

 

「ルールは守られなければならない。例外を作ってはいけない。ルールは人を守れなくなる。人がルールを守ることで、ルールも人を守ってくれる。何より、私のなかの『正義』が罪人に罰を与えるべきだと言っている」

 

 ガリバルディは本―立法書(ルールブック)―を捲りながらワグナーを睨めつける。

 

「あなたが! 法の番人であるあなたが! 殺人鬼?! 」

 

「違う。私は正義を執行しているだけだ。ルールブックに定められている通りに、死刑判決とそれに伴う死刑執行を自ら行っているに過ぎない。私は殺人鬼などではない」

 

 

「判決を言い渡す。被告人、マイルズ・ワグナーを殺人・遺体損壊の罪で死刑に処す」

 

 言って、ガリバルディはワグナーに近づいていく。

 

「そ、そんな! 俺は、あんな事したくなかったんだ! 気が動転して! さ、裁判でも証明されたはずだ! 俺は被害者だったんだ! 」

 

 ガリバルディは無言でワグナーの体を引っ張り、廃墟の奥に設置された絞首台に歩いていく。

 

 

「いやだっ! いやだぁ! 殺さないで! 助けて! いやだ!! 」

 ずるずる、ずるずる、引きずられていく。

 

 

 

「―――っかひゅ」

 びくびくとふるえ、やがて動かなくなった。無理矢理に吊るされ、殺されたワグナーの死に顔は恐怖に染まっていた。

 ガリバルディは遺体を眺めたあと、下ろす作業に取り掛かった。これから町の辻に吊るしに行く予定だからだ。彼はこうして見せしめを行うことが正義だと信じているんだろう。

 

「なぁ、ガリバルディ」

 おれはいつものように問いかける。これは夢で、彼に届かないとわかっている。しかし毎回問わずにはいられない。

 

「正義のため って言ってたよな。ならなんで、あんたは殺した後に笑みを浮かべるんだ? 」

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

『プルプルプルプルプル プルプルプルプル』

 

 目を覚ます。子どもの頃から悪夢に付き合ってきているがこの寝起きの気怠さはどうしようもない。

 

『プルプルプルプル ガチャ』

 目を覚ましてくれた電伝虫の受話器をとる。

 

「もしもし、こちらウラド」

 できるだけキリっとした声を心掛けてこたえる。

 

『こちら本部。数分前、ポイント45にて天上金を輸送中の船から救助要請が入りました。至急現地に向かい、海賊の拿捕と輸送船の救助を行ってください』

 

「了解。飛行許可は? 」

 掛けていたコートを羽織り、鏡の前で最低限の身だしなみのチェックをする。…よだれ。

 

『下りてます。…もしかしてウラドさん、お休みでしたか? 』

 

「いや…うん。少しウトウトと。別に調子悪いとかじゃないから、大尉が心配することじゃないよ」

 電伝虫が目を伏せている。なんだろう。

 

『…准将は自分のことに無頓着なところがありますから』

 

 自分は怒られているのだろうか。うーん、そんなつもりはなかったんだが。

「わかったわかった。それではフローウェレ大尉、出発するので切るぞ」

 

『はい、ご武運を。ウラド准将 』

『ガチャ』

 

 電伝虫を切り、バックを持ち、コートをしっかり着用し、窓を開ける。

 さて、

 

「出てこい、ラティアス」

 

 俺はボールから出したラティアスの背にまたがった。

 

『カズナリ! 散歩? なでなで? 』

 

「仕事。てか、分かってるだろ? 」

 仕事であることは状況からしても一目瞭然のはずだが。頭の中に響くラティアスのテレパシーにこたえながら、腕に嵌めたメガリングに手を当てる。

 

『ぶー。分かってるっ! 言ってみただけなの! 』

 

「ごめんて。 でもいつも言ってるだろう? 仕事中に冗談はナシだって。ほら上昇上昇」

 

 ラティアスを促し、上空に昇らせる。ここでいいか。

 

「いくぞラティアス」

 

『うん! 』

 

―――わがキーストーンの光よ、ラティアスナイトの光と、結び会え。

いざ!

「メガシンカ!! 」

 

めきめきめき、とラティアスの体が変化し、薄紫色の体色のメガラティアスに姿を変えた。

 

『カズナリ、どこに飛べばいいの? 』

 ラティアスのテレパシーにイメージで返答する。

 

『…“南の海(サウスブルー)”の………うん、うん。わかった。とぶよ カズナリ! しっかり捕まってるの! 』

 

「あいよ」

 次の瞬間、急加速して景色が後方に消えていった。マリージョアを眼下に置き去り、空を翔る。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 どうしてこんなことに。この思いがトムの頭からずっと離れなかった。

 

 彼の名はトム。職業は船の航海士。“天上金”を輸送する船の船員で、現在進行形で命の危機にあった。

 

「(このくそ野郎! 何が「天竜人への上納金である天上金に手を出す馬鹿はいない」だ! 馬鹿はてめぇだろうが! 訳の分からないことを言って、護衛艦を拒んだ結果がコレか! ふざけやがって)」

 この場にいない船の船長への怒りを心中で叫ぶ。彼は知らないが船長は嵌められていた。この船を襲った“スピアー海賊団”は子飼の女を船長にすり寄らせ、言葉巧みに「護衛をつけない」と言わせたのだ。彼らの作戦は用意周到で、この襲撃をかけた海域もどの支部からも離れていて、海軍が来る前に天上金を詰め込み船員を皆殺しにし、トンズラするのに十分な時間があるはずだった。

 

「おらぁ! さっさと運び込め! もたもたしてるとぶっ殺すぞ! 」

 銃を持った海賊がトムに銃口を向け脅す。

 

「(うぅっ! 俺、殺されるのか…)」

 トムにはわかっていた。海軍の助けは来ない。来たとしても間に合わない。この荷運びが終わったら、犯人が誰か知る自分たちを海賊は皆殺しにするだろうということが。これが普通の略奪なら、名を上げるためあえて船員を生かして捨て置くこともあっただろうが、“天上金”に手を付けたとあっては悪名どころの話ではなくなる。

 

「(モーシェ…ごめん)」

 トムは結婚を控えた妹に心の中で謝った。幼いころに両親を亡くし、妹を育てるため日雇いの仕事を掛け持ちし、その合間に勉強して航海士の技術と知識を学び、今の職に就いた。全ては妹に苦労をさせないためだった。その甲斐あって妹は健やかに成長し、恋をして、彼氏を作った。最初は反対したが二人の愛に根負けし、この仕事から帰ったら友人と相手の家族を呼んで結婚式をするはずだった。それなのに……とトムは海賊船に運び入れながら絶望した。

 

「(ここは海の上で逃げ場なんてない。監視されてて妙な行動をとろうとしたら殺される。終わったな…)」

 “天上金”の一部を置き、船に戻りながらトムはため息をつく。

 

 

 

「ふざけんじゃねぇぞ! てめぇぇ!! 」

 

 突然の怒声と共に、船室から何かが飛んでくる。

 

「が、ぁ………」

 

「(せ、船長?! )」

 それはぼろ雑巾のようになった船長だった。血を垂れ流し立ち上がることもできないほどボロボロになっている。

 

「リ、リーダー! どうしたんです?! 」

 海賊の一人がリーダーと呼ばれた大男に駆け寄る。

 

「あぁ?! 」

「どうもこうもねぇよ! こいつ海軍に救助要請出してやがった! 」

 

 トムも他の船員も、海賊も、息をのむ。

 船員は「もしかしたら助かるかもしれない」と希望を抱き

 海賊は「もしかしたら海軍が来て捕まるかもしれない」と恐怖を抱いた。

 

 

「リーダー…その救助ってぇのは…」

 

「あぁ?! あぁ…ハッ! 来やしねぇよ。快速船で来ても間に合わねぇさ! それに俺たちの船も最新の快速船だ。追いつけやしねぇ。ただな、そうだとしてもな、勝手に海軍呼びやがったそいつへの怒りが収まらねぇんだなぁ! これがっ!! 」

 

「ひぃっ! 」

 傍にいた海賊が腰を抜かす。リーダーと呼ばれた大男の怒気にその場の全員が恐怖で動けなくなった。

 大男が歩く。それだけで恐ろしくてたまらない。船長の前まで進み、話しかける。

 

「おい、勇敢な船長さんよ。無駄で、余計なことをしてくれたな。お前の愚行のせいで俺はお前に殺意を向けなきゃならなくなったし、八つ当たりで船員を惨殺しなきゃいけなくなった」

 

「…………」

 船長は何も言わない。

 

「お前、俺を知らないのか? 俺は“怪拳”のフーファイター。懸賞金5000万ベリーを賭けられた男だ! 」

 

 トムは総毛だつような恐怖を感じた。

「(ご、5000万ベリー!? こんな辺境の海域になんでそんな大物が?! 聞いたことないぞ! )」

 

「リ、リーダー。教えちゃまずいんじゃあ………」

 

「あ?! …そうだったな。………まぁいいだろ! 荷物もあらかた積み終わったし! こいつらを全員ぶっ殺せばいいだけの話だ! おい! 船長には黙っとけよ」

 

「(船長? こんなヤバい奴の、さらに上がいるのか? だめだ。海軍が助けに来てくれたって、支部の海兵たちじゃ相手にならないっ! 殺されちまう…! 俺も! そいつらも! )」

 

 トムが、船員の誰もが絶望し、死への恐怖におびえる中

 

「へ、へへ…」

 

 小さく、笑い声があった。

 

「(船長? )」

 

「ァ? 何笑ってやがる? くそやろう。…あー、そうだお前から殺してやるよ。他のやつらは銃弾でさっさとくたばってもらうが、お前は俺様が直々に殺してやる。俺の異名の元になった、この拳でなあっ! 」

 

「お前らは終わりだ。たかが5000万の首、どうにでもなるはずだ。お前らはもう終わりだ 」

 

 小さく、ぶつぶつと何かを言う。その言葉は誰も聞き取れなかった。

 

「何か言ってるが―――そろそろ死んでもらおーかァ! 」

 

 フーファイターが船長の胸ぐらをつかみ、無理やりに立たせる。固く握りしめ、振りかぶられた拳は船長の顔面に叩きつけられる瞬間を待ちわびているようであった。

 そしてトム達船員にも海賊は銃口を向けていた。

 

「(だめだ…死ぬ! )」

 死を覚悟した瞬間、船長が叫んだ。

 

「私は! もうおしまいだ! こんな事になれば! 帰還できてもクビにされ! 人生終了だ! だが私だけあの世には行かん! 貴様ら海賊も道づれだ! すぐにでも“竜しょ―――

 

―――ぱん

と そんな擬音が付くような風に、船長の顔面は粉砕された。

 

「近くでわめきやがって。うるさくて一発で殺しちまったじゃねぇか、物足りねぇぜおい! 」

 

「せ、せんちょう…」

 思わず声を出す。今回の事態を招いた戦犯でも、船長だった。トムは自分がなぜ声を出すほど感情が動いているのかわからなかった。

 

 声を漏らしたことでフーファイターがトムに目を向けた。

「憂さ晴らしだ。お前も殴る。

 おいお前ら! 俺が殴ったら撃て。皆殺しだ! 」

 

 おォ! と海賊たちが雄叫びを上げ、船員は震え恐れおののいた。

 フーファイターがトムの前に立つ。トムは頭が真っ白になった。

 

「おらいくぞォ!! 」

 

「(モーシェ…)」

 トムの脳裏に浮かぶのは見られなかった妹の晴れ姿。

 

「(お前に)」

 迫る拳、一瞬後には自分は死ぬと、そうトムの本能は告げていた。

 

―――ぶぉおん

 

「(あれ? )」

 

「っ!!?? 」

 トムは自分の上をかすめていった風を感じ、自分がなぜまだ生きているのかさっぱりわからなかった。

 そして目に移る光景。

()()()()()()()がフーファイターを吊るし上げ、フーファイターがじたばたと悶えている光景が理解できなかった。

 

 船にいる誰もが呆然とソレを眺めていた。誰にも理解できなかった。

 

 

「…間に合わなかったか」

 声の方向に目を向ければ、そこには今までいなかった男が船長の死体の前にいた。

 黒髪の年若い男だった。横顔からも20代前半といったところか。なぜか分厚い本を持っている。

 男は黒いスーツの上に真っ白なコートをしっかりと着込んでいた。そのコートには背中に二文字、大きく刻まれた文字があった。

 

 『正義』の二文字。

 

「(海兵? )」

 状況に誰も理解が追い付けぬまま、その海兵はフ―ファイターに目をやる。

 

 

「殺人、海賊行為。以上の罪により死刑。台を蹴れ、<判決執行のルールブック> 」

 

「っ! ~~~っ!! 」

 じたばたともがく。縄は外れない。引きちぎれない。そして

 

「…………」

 

……

………

 

「っ! て、てめぇ! 」

 海賊の一人が叫び、海兵に銃口を向ける。釣られたように他の海賊も銃口を向けるが全員腰が引けている。ありていに言ってビビっている。何が何だかわからない。目の前の海兵がリーダーを吊るした、その原理がわからない。今銃口を向けている自分も吊り上げられてしまうのではないか、という恐怖がぬぐえないのだ。

 

「! そうか、てめぇ能力者だな! 」

 

 海賊の一人がハッと思いついたように言った。

「(能力者? )」

 

「………」

 

「おい! お前らビビるんじゃねぇ! こいつはきっと超人系(パラミシア)だ! 撃てば殺せる! 」

 

「そ、そうか…! 」

「ビビらせやがって…! 」

「こいつを殺せばきっと分け前たんまりだ! 」

「撃つ! 」

 

 ニヤニヤと余裕を取り戻し引き金に力を籠める海賊およそ20余名。

 海賊の言葉から再び絶望の淵に立たされる船員たち。トムも(やはりだめだったか…)と諦めそうになる。

 しかし、ある疑問が顔を出した。

 

―――銃口を向けられているのに何でそんなに平然としているんだ?

―――そもそもこの人はどこから現れたんだ?

 

 

 

「撃てぇ!! 」

 引き金が引かれ、無数の銃弾が海兵を撃ち抜く…はずだった。

 

 

 バキンっ! ボンッ! バゴンッ!

「ぎゃあ! 」

「ひぃっ! 」

「な………! 」

「ひゃあ! 」

 

 海賊の持つ銃は一斉に暴発し、銃弾は一つも発射されることなかった。

 

「(な、なにが起こったんだ…? あの海兵がやったのか? )」

 

 

『ラティアス、ナイス』

『えへへー。もっと褒めてー』

『はいはい。精密なサイコパワー多重処理お見事でした。帰ったら褒めてやるからまだ降りてくるなよ』

『うん! 』

 

ザザザザザ!!

 

 突然大きな音が鳴った。船の上にいた者が音の方向に顔を向けると、音の意味が一目でわかった。

 海賊船が高速で逃げていっていた。この船の仲間を見捨て去って行っていた。

 

「おい! うそだろ! 」

「船長ー! 俺たちを置いていかないで! 」

「そんな…」

 

 海賊たちが悲鳴を上げる最中も海賊船はみるみる遠ざかっていく。尋常でない速さだ。

 

「…さて、そろそろいいか」

 海兵の声。トムは声の方向を見て、自分の耳と目を疑った。海兵が消えていた。

 

「ぐ! 」

「ふぐっ」

「っ! 」

 

 そして、ばたりばたりと倒れる音が連続して、気が付くと船の上の海賊は全員気絶させられていた。

 

「ふう…」

 たった一人の、この海兵が一瞬でやってのけたのだとその場の誰もが理解した。

 

「(あれは…っ! )」

 トムの目には一瞬だったが海兵の腕が青緑色の鱗に覆われているのが見えた。

 

「(確か動物の能力を使えるのが…動物系(ゾオン) だったか? いやでもさっきの縄は…んん? 一体何なんだ? )」

 

「この船の責任者はどなたですか? 自己紹介が送れましたが自分は、救助要請を受けて()()()きた海軍本部准将のウラドです」

 

 その紹介におずおずと船員の一人が手を挙げてこたえる。

 

「私が副船長のドラムスです。船長がその…」

 ちらり、と顔面を粉砕された船長の遺体に視線を送る。

 

「…あぁ。なるほど、そうですか。ではまずお伝えします。現在本部より連絡を受けた近郊の支部からこの船に向かって、海兵と船が出ているはずです。あと数刻後には到着すると思いますので、それまでこの海賊たちの見張りをお願いします」

 

 えっ? という困惑が広がる。

 

「どういうことでしょうか…」

 

「私はこれから先ほど逃げ出した海賊船を追いかけ、乗っている海賊を捕縛しなければいけません」

 

「それはっ…! 」

 

 副船長の沈黙の理由はトムにも痛いほど理解できた。

 ウラドと名乗った彼は海兵で、海を荒らす海賊を取り締まるのが仕事。だから逃げた海賊を追いかけるのも分かる。でも、自分たちは被害者で今倒れている海賊たちが起き上がってきたらどうしようもない。不安と恐怖が続いている。どうかここに残ってくれ、と願わずにはいられないのだ。

 

「残っていては…くれないのですか…? 」

 

「…それはできません。海賊を逃すわけにいかないというのもありますが…何より天上金を取り戻さなければ、皆さんの命にもかかわりますので」

 

「(あ…! )」

 

「なので、行ってきます。それと、海賊たちのことなら大丈夫ですよ。半日ほどは目を覚まさず、覚ましたとしても痺れで動けませんから。支部の海兵には「ウラド准将が海賊船の拿捕に出ている」と伝えてください」

 

 

 そう言うとウラドは船の側面に移動し空を見上げた。

 

『ラティアス、降りてきて』

 

『はーい! 』

 

 するとすごい速度で何かが降下してきた。

 

「(な、なんだあれ?! )」

 それは青紫の不思議な生物だった。同じく空を飛ぶ鳥の類とは全く違い、羽ばたくこともなく空中に静止し、ウラドに笑いかけているようだった。

 ウラドはその生き物の背に、ひょいっと飛び乗った。

 

「あ、そうだ。副船長さん」

 

「はい」

 

「船員はこれで全部ですか? 海賊船に取り残されたりとかは」

 

 副船長ドラムスは周りを見渡して

「………えっと、全員います。海賊船に取り残された船員はおりません」

 

「そうですかそれはよかった」

 

 

 

「では行ってきます」

 

「あ、あの! 」

 トムは思わず声をかけていた。

 

「助けてくれて、ありがとうございました! 」

 

 するとウラドは笑って、

「仕事ですから」

 

 と言って飛び去って行った。先ほど逃げた海賊船以上のスピードであっという間に見えなくなった。

 

 

 

「―――そうだ! “竜将”だ! 」

 

 突然副船長が声を上げた。

 

「わっ。いきなりなんですかドラムスさん」

 

「思い出したんだよ。あの生き物、どっかで見た事あると思ってたら、みんなも覚えてるだろ? 2年前のマリンフォード頂上決戦で! 」

 

「………ああ!! 」

 その場の全員が思い出した。2年前の戦争で、妙な生き物が空を飛び回り海賊船や名だたる海賊たちを吹き飛ばしていた映像を。

 

「あの、えっと…アレですか! 」

 

「そうだ、そしてその上に乗って操っていたのが彼、“竜将”ウラドだったんだよ」

 

「はぇー…。副船長よく知ってましたねぇ。俺知りませんでしたよそんなの」

 

 うんうん、とその場の全員が首を縦に振る。

 

「お前ら…。 ニュース・クーの新聞見てないのかよ。偶に取り上げられてるぞ? 」

 

 さっ、とその場の全員が目をそらす。

 

「………とりあえず、どうしますか? ウラド准将の話では支部の海兵隊が来るってことでしたけど」

 

「そうだな…」

 副船長は気絶する海賊たちと、二つの遺体を見て、うーんと唸った。

 

「………海賊たちはロープで縛っておこう。ウラド准将はああ言っていたが、縛っておいた方が安全のはずだ。起きてしまう前に縛るぞ。それから船長の遺体は…布でくるんでおこう」

 

「死んだ野郎はどうしますか」

 

「こいつはそのままでいいだろ…」

 

「ですね…」

 

「よーし! さぁ動け動け! 」

 

「(ウラド准将…)」

 

 トムは海の向こうを一瞥して海賊を縛りあげる作業に加わった

 

 

 

 

 




前編、公開可能な情報

No.25 浦戸和成 

サイコロ(転生先)
・転生先
 ⇒⚂:⚀ (「ONE PIECE』)

・アイテム特典
 ⇒
 くじ↓
1542・・・判決執行のルールブック(『断裁分離のクライムエッジ』)
1060・・・ラティアスの入ったモンスターボール+キーストーン+メガリング+ラティアスナイト(『ポケットモンスター』)
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???・・・???(???)
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・能力特典
 ⇒???



明日の11時11分に予約投稿済みでーす。
 感想もらうと作者はとっても嬉しい気持ちになります。気力がわいてきます。




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