《伐刀者》。
己の魂を武装ーー《固有霊装》として顕現させ、魔力を用いて異能の力を操る千人に一人の特異存在。古い時代には魔法使いや魔女と呼ばれた現代の魔術師だ。
そして、彼ら《伐刀者》と呼ばれる存在は大別して四種類にわけられる。
主に身体能力を強化する身体強化系能力者。
炎、雷、氷などを操る自然干渉系能力者。
特定の物、言葉などに込められた概念を操る概念干渉系能力者。
因果、確率等を操る因果干渉系能力者。
我らが学園の落ちこぼれ、通称《落第騎士》黒鉄一輝くんなんかは身体強化系だし、学園最強の一角である《雷切》東堂刀華は雷の自然干渉系だ。
そこに来て、私は分類上概念干渉系の《伐刀者》という事になるのだろう。《伐刀者》としての力に目覚めた日は大変だった。炎とかの自然干渉系では無かったから火事とかにはならなかったのが不幸中の幸いだろう。まあ、十何年か前の事なので詳しい事は覚えていないが。
しかし、目覚めた能力が曲者である。
私は、『鬼』という概念を操る概念干渉系の能力者だったのだ。普段の私は普通の女の子だ。断じてバーサーカーなどではない。
だというのに、学園での私は触れてはいけないどころか名前を呼んではならないあの人みたいな扱いを受けている。
それというのも、全て私の能力が悪い。『鬼』という特性上、どうしても荒々しくて残虐な戦い方になるのだ。ランクAというのもあってまともに対応してくれる人は一人しかいない。それも異性なもんだから友達とお泊まり会なんて女の子らしい事は出来ないし。……なんだかイライラしてきたので、その唯一のお友達である黒鉄一輝くんをジト目で睨む。八つ当たりとも言う。
「え、ええっと……どうかした?」
「べっつにー、何でもありませーん」
「ええ……えぇ……?」
戸惑う一輝くん。戦闘中の修羅のごとき面構えとのギャップが可愛い。弟ってこんな感じなのかな。
そんなことを考えながら、一輝くんと初めて会った時のことを思い出していた。
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スカートが短い制服に不満を抱きながら一年一組の教室に向かう。《伐刀者》の学校だからといって校舎や教室に一般校との差はそう無い。
担任の教師の自己紹介に続き、生徒の自己紹介に移る。残念な事に私の苗字はあ行なのですぐに順番が回ってきてしまった。
「ええっと……私は青鬼勇華と言います。よろしくお願いします」
まあこんな所でいいだろう。ぼっち気質の私に友達など望むべくもないし、《伐刀者》としてもそこそこの実力があるからいじめを受けることもそう無いだろうし。
そう考えた私は、クラスメイトの自己紹介を聞き流す。人間、興味のない事柄には集中できないものだ。
ああ……昨日緊張してて寝不足だったから眠い。さすがに初日から……居眠り……なんて……
「あの……もうホームルーム終わったよ」
「んぅ……くあぁあ」
いつの間にか寝てしまっていたらしい。教師も起こしてくれればいいのに。あれか、受験の時の実技試験でやらかした事が広まってるのか。
……あの時の名も知らぬ試験官、許すまじ。
「ねえ、もしかしなくてもそれって《固有霊装》?」
私を浅い眠りから解き放った件の少年が、私の頭を指さしながらそう訊ねてくる。
やべっ、霊装出てたか。
「そうだよ。なんて言うか、私にとって霊装が出てる方が本来の姿みたいなとこあるからさ。気を抜くと出ちゃうんだよ」
「そ、そうなんだ……でも《固有霊装》の無断使用は校則違反だから気をつけてね」
「うん。気をつけるよ。起こしてくれてありがとう」
「いやいや、席も隣だし気にする事は無いよ」
たしか目の前の少年は黒鉄一輝くんだったか。寝る前の事だから辛うじて憶えている。
そして、その黒鉄くんは朗らかな笑みを浮かべ手を差し出す。
「じゃあ改めて。初めまして、僕は黒鉄一輝。これから一年間よろしくね」
「初めまして。私は青鬼勇華。青色の青に化け物の鬼と書いて青鬼だよ。よろしくね」
そして、私は差し出された手を躊躇いなく握った。勿論、力は加減して。出なきゃ入学早々スプラッターを見ることになってしまうからね。『鬼』のブレイザーというのも大変なのだ。
「うん。知ってるよ。ていうか君の事を知らない人なんてこの学校に居ないんじゃないかな」
「……へ?どゆこと?」
「あれ、知らない?ネットに動画が上がってたし、そうでなくとも君の名前は一日に一度は聞くぐらいに噂になってるよ」
……ほわいじゃぱにーずぴーぽー!
何 が 起 き た !
「いやー、まさかこんな温厚な人とは思わなかったよ。動画だと笑いながら《解放軍》の兵士を潰してたし、《固有霊装》をへし折ってたし」
何だそれは。何故《解放軍》のテロ
周囲を見渡すと全員がサッと顔を背ける。……これは、こやつの言っている事は真実だということか。
い、いや、逆に考えるんだ。これで平穏な学校生活が手に入ったんだ。うん。(震え声)
ふえぇお友達欲しいよぉ……
「……ま、まあ、僕はそういうのは気にしないから、そんな落ち込まないで、青鬼さん」
「うぅ……黒鉄くーん」
苦笑する黒鉄くんが輝いて見える。きっと彼は神様が私にくれたお友達なのだ。初めての。いや、ないか。ないな。
「……って、もうこんな時間。ごめん黒鉄くん。理事長に呼ばれてるから行くね」
「分かった。じゃあ、また明日」
「うん。また明日」
やばい。やばいぞこれは。何がやばいってこの友達みたいな会話がやばい。この気持ちはなんだろう……そうか、これが嬉しいってことなんだ。
なんて感情を初めて知ったロボットごっこをしながら理事長室に向かう。
勿論というかなんと言うか。
私が廊下を歩くと、屯していた生徒が顔を俯かせながら道を開けた。凹んだ。