「なんだあのクソ理事長、ぶん殴らなかった私を誉めてやりたい」
理事長が吹っかけてきた用件とは、要するに黒鉄くんをいじめろというものだった。人としても『鬼』としてもとうてい許せるものでは無いので即答で断ってきたが。
しかし理事長は私が断ったらすぐに次善(理事長にとって)の策を取ってきた。即ち、次席の桐原静矢にいじめ役をやらせるのだ。
桐原のいじめは陰湿だった。何度取り巻き諸共蹴散らしてやろうと思った事か。だけどその度に黒鉄くんが視線で止めてくるから未だ解決出来ずにいる。黒鉄くんがいくら精神的にも肉体的にも強いからと言って、ここまでのいじめを受けていたら心配にもなる。
だからせめて私だけは普通に接してやることにした。
友達のいない私の対応が果たして普通と言えるのかという疑問は撲殺しなさい。出来ないなら私が(疑問を)殴り殺しに行きます。
あ、私も巻き込もうとしてきた時は返り討ちにしました。さすがに正当防衛は黒鉄くんも止めなかったので、これ幸いとストレスをぶつけた。そしたら噂が悪化した。反省も後悔もしていない。ただやっぱり凹んだ。
それからのいじめは直接的なものでは無く間接的で陰湿なものにシフトした。それも、学校規模で。それまでのいじめも学校規模だったが、実戦科目を受ける最低限の能力水準とかいうのを設けて授業からの締め出しを始めたり、学園の近辺に悪評をばらまいたり。
さすがにこれには呆れた。
怒りとか通り越して気が抜けた。
なので最低限進級に必要な科目や出席日数を稼ぐ以外、授業には出ないことにした。数少ないAランクで、【狂鬼】とか【鬼神】とか呼ばれている私に過干渉する度胸などこの学校の教師陣にはない。私の評判をこれ程ありがたく思ったのは初めてだ。
で、そのサボった授業の時間に何をしているのかと言うと。
「でえぇぇぇりゃあああああ!!!」
学校の敷地内の山を吹き飛ばしています。
比喩でもなんでもなく、言葉通りの意味で山を殴り飛ばしています。むしゃくしゃしてやった。今はまだ反省していない。でも多分そろそろ怒られるから戻しておこう。でも山がある学園って凄いよなあ・・・・・。
『鬼』の持つ通力のひとつである念動力で散った山を元に戻す。・・・・・吹き飛ばす前の半分くらいの高さになったが気にしてはいけない。まあ山とは言っても標高二十メートル程の、どちらかと言えば丘なのだが。
「・・・・・むん。満足まんぞく」
最近は吹き飛ばす山は一つだけで我慢できるようになってきた。『鬼』として気性が荒い上に、こうしてガス抜きしないと破壊衝動が止められなくなるから仕方なく山を殴り飛ばしているのだ。強敵と戦えた日はその限りではないが。そういう訳だから学校で私の事を【破壊神】とか呼んでるやつはいつか締める。
そんな事を考えながら学園に帰っていった。
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「・・・・・・・・・・あの」
「うぇいっ!?」
誰もいないと思っていたので変な声が出た。というか気配を感じさせずに近づくというのは、《伐刀者》にはなかなか居ない武術に精通した人物という事になるのだが。・・・・・はて、授業をサボるような人の中にそんな人は居ただろうか。
「青鬼さん・・・・・だよね?こんな時間に何してるの?」
「ああなんだ黒鉄くんか・・・・・」
件の黒鉄くんである。そりゃあ黒鉄くん程の武人が気配消したら気づけるわけないか。私に武術の才は無かったし。
「いやあー、その、サボりというかなんと言うか」
「ええ・・・・・」
「いや、強敵が居ないから退屈だとかそういうんじゃ無いんだよ。ただ不快というかなんと言うか・・・・・」
狡猾なやり方や騙し討ちが嫌いな鬼としては、黒鉄くん一人を悪意で締め出そうとするこの学園のやり方は気持ちのいいものでは無い。正々堂々騎士らしく決闘でもすればいいのにとも思ってしまう。
「不快?・・・・・ああ、実像形態じゃなきゃ『鬼』としては気持ち悪いとか?」
「うん。まあ・・・・・ってそうじゃなくて。いやそれもあるけど」
「?・・・・・じゃあ、なにが?」
「いや・・・・・その、なんだ、明らかにおかしいじゃないか」
そして、それを歯牙にも掛けない君が、見ていて痛いんだ。
・・・・・なんてことは言えない。それは黒鉄くんへの侮辱になってしまうだろうから。
「ああ・・・・・ごめんね。僕のせいで」
「そんなことは無い!悪いのは黒鉄くんじゃ無いだろう!」
「あ・・・・・・・・・・」
思わず叫んでしまった。昔からこうだ。思っている事が行動や言動に直結してしまうのだ。どこから仕入れたのか分からない知識を持つ兄にも、これだけは解決出来なかった。
驚きからか目をまん丸に見開く黒鉄くんに、何だか申し訳なくなってしまう。
うーん。どうしようか。いやほんとに。
沈黙が降りる。私は黒鉄くんを下から覗き込むように見上げ、彼の表情を伺った。
・・・・・・・・・・あれ、視線が逸らされた。
もう一度見上げる。逸らされる。また見上げる。逸らされる。
なんてバカみたいな事を続けていると、黒鉄くんが先に音をあげた。
「・・・・・ぷっ、ふふっ」
「へ?」
「いや、なんだか可笑しくってさ」
互いの身体能力をフル活用して無駄にレベルの高い視線の追いかけっこをしていたら、黒鉄くんが不意に吹き出した。
「僕、こんなふうに誰かとバカなことしたこと無かったなって」
「・・・・・そっか」
「うん。だから、なんて言うか・・・・・ありがとね」
「何がかは分かんないけど・・・・・どういたしまして」
なんだか、黒鉄くんと友達になれたような気がした。
勘違いじゃないといいなぁ・・・・・。
****
「それからかなぁ・・・・・僕が勇華と毎日模擬戦するようになったのは」
「へえ・・・・・なんだか色々規格外ね」
「それ、ステラが言う?」
「うっさいわよイッキ」
その部屋には二人の男女が居た。模擬戦にてAランク伐刀者、《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオンを降したFランク騎士黒鉄一輝と、負かされたステラ・ヴァーミリオンその人である。
ちなみに、ステラが寝ている一輝の筋肉を触って興奮していたなども言う事実をここに記すことは無い。主に彼女の名誉と一輝の社会的地位を保護する為に。
(イッキの信頼も厚いようだし・・・・・強敵ね、ユーカ)
模擬戦で幻想形態とは言え斬りつけられたと言うのに、反感を持つでもなく既に八割方
反応良ければ続くかも