落第騎士と鬼神ちゃん   作:カモシカ

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覚醒(プルートソウル)

足りない。あいつに勝つなら、この程度じゃ足りやしない。

覚醒(プルートソウル)

足りない。足りない。届かない。


覚醒(プルートソウル)
《覚醒》
《覚醒》
《覚醒》


そして、俺は遂に、『異界』へ───




「黒鉄くんがなんと言おうと、ボクは絶対──君に勝つ。勝たなきゃ、いけないんだ」

 

一輝に背を向けた綾瀬は、そのまま暗中に消えていった。

体が重いのは《一刀修羅》の反動か、それとも心を覆う暗雲の重さのせいか。

 

「くっそぉぉぉおぉおおおおお!!」

 

膝をついた一輝は、ただ一人、慟哭した。

 

 

 

 

****

 

 

 

「勝たなきゃいけない・・・・・ね。ダメだなぁセンパイ、それはつまらない。けど、一輝くんの栄養くらいには、なってくれるかな?」

 

───霊装展開:茨木の百薬枡

 

「え、ゆ、勇華くん?」

「セーンパイ。これ、飲んで」

 

 

 

****

 

 

 

少女は優しく、また臆病な女の子でした。家族を知らず、友さえいない。それでも少女は、紛れもなく、輝く『人』でした。

 

そんな少女に、転機が訪れました。

 

少女に、友達が出来たのです。

 

水を綺麗に出来る、素晴らしい能力を持つ少年を中心にしたグループのリーダーでした。

 

水と言えば濁って臭いものでしたから、少女にとって、透明な水というのは衝撃でした。

 

少年達のグループは、その街で暮らす子供たちの、いや、全ての人の希望でした。

 

しかし、そんな生活が長く続くわけもなく、その少年は戦場に行く事になりました。何時でも何処でも清潔な水を提供出来る彼は、貧乏軍隊だったその国には都合が良かったのです。

 

残された子供たちも散り散りに。その街は、また昔のように鬱々とした場所に戻っていきました。

 

そんな日々を過ごしていたある日、唐突に銃声が響きました。

 

ならず者達の侵略です。他に言い方があるのかもしれないけれど、少女はそう表すしか無かったのです。

 

惨劇が始まりました。

 

友達だった少年が肉の塊に変わり、可愛がってくれていたお姉さんは犯され殺されました。

 

怯えて震え、隠れることしか出来なかった少女にも、遂に銃口が突き付けられ、下卑た笑みを貼り付けた男達に囲まれ、それでも動けませんでした。

 

──パァン!

 

少女に鉛玉が放たれました。けれど、少女にそんなものは効きません。

少女は、《伐刀者》でした。

 

しかしそれでも、限界はあります。

未だ人でしか無かった少女は、三つの弾丸を防いだだけで力尽きました。

 

少女の名前は、『雨香』と、いいました。

 

いずれ、勇ましく華開く少女でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───なんだか、とっても悲しい夢を見た気がするなぁ。ボクなんかよりも、ずっと寂しい夢を。

 

 

 

****

 

 

 

『さあ、始まりました!七星剣武祭予選第六訓練場・第一試合!実況はワタクシ、放送部三年の磯貝が、解説は折木先生でお送りします!』

 

女子放送部のアナウンスが入り、選手の入場が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・・怖い顔だ)

 

綾瀬は、一輝の表情を見てそんな感想を抱く。今までに見た事がないほどに硬く、険しい表情であった。

 

(でも、これ程冷静さを失ってくれてるなら、あっさり引っかかってくれるかな・・・・・それに、勇華くんに何かをされてから、力が溢れる。負ける気が、しない)

 

『さあそれではご唱和ください! LET'S GO AHEAD(試合開始)!!』

 

 

 

 

短距離走選手のような反応速度で駆け出した一輝は、とある疑問を感じていた。

 

(・・・・・なんだ?この違和感は。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

一輝は、毎日毎日勇華と戦い鍛えられた知覚で、()()()()だけのトラップなど即座に看破していた。

微かな魔力の動きでさえも感じ取れなければ、『散らし、萃める』力の前にねじ伏せられるだけなのだ。

 

(確かに普段は感じない魔力の残滓は違和感だけど、それじゃ無い。強いて言うなら綾辻さん自身だ。確かに反則行為をした事を深層意識で気に病んでいるんだろうけど・・・・・)

 

「かかったッ!」

 

その声によって思考の海から帰還した一輝は、傷を開かれた空間から齎されたカマイタチを、《陰鉄》で斬り裂いた。

 

「は・・・・・?」

 

綾瀬は混乱している。なにせ、自身が反則までして用意した秘策を、()()()()()()()()()のだから。

綾瀬の能力に予備動作はほとんど無い。何せ、傷を付けてしまえば、後は発動させるだけなのだから。だから、その攻撃を回避するには、()()()()()()()()()()()()()

 

(はは・・・・・そっか、黒鉄くんには、小細工なんて通用しないのか・・・・・滅茶苦茶だな。昨日のアレで、ペースは完全に崩せたと思ったんだけど、ね)

 

「・・・・・綾辻さん、貴女は本来誇り高い武人だ。こんな事をせずとも、僕と戦うことは出来る筈だ」

「・・・・・・・・・・

 

一輝の言葉に微かな反応を示したが、次の瞬間に綾瀬は無言で斬りかかった。

不意打ち気味の攻撃ではあるが、この程度の攻撃にやられる一輝では無い。危なげなく受け止め、カウンターの一撃を放つ。

 

「・・・・・重い、な」

 

(やはり、そういう事か。こんな事も出来るとは思わなかったけど・・・・・)

 

「綾辻さん、ソレは貴女から頼んだのかい?」

「・・・・・はは、何でもかんでもお見通しだね・・・・・けど、違うよ。ボクは半ば押し付けられたようなものだ。まあ、今は、感謝してるけどね。だって君に、僕の剣を『重い』と言わしめたんだから」

 

そう言葉を交わしながらも、彼等の剣は止まらない。斬りあげ斬り下げ突いてはいなす。綾瀬は、一輝と()()()打ち合っていた。

 

『おいおい、あの綾辻ってやつ凄くないか?黒鉄と互角だぞ』

『綾辻って・・・・・まさか、《最後の侍(ラストサムライ)》の縁者?』

『まあ、ここまで来れても所詮はFランクって事か』

 

「・・・・・フフッ、本当にすごいや、この力は。ボクみたいな雑魚でも、君と互角に打ち合えるんだから」

「・・・・・・・・・・」

 

そう興奮気味に語る綾瀬の目には、隠しきれない暴性が宿っていた。

 

 

 

****

 

 

 

(一見、力任せの太刀筋に見えるけど・・・・・確かに綾辻一刀流の特徴が残ってる。勇華に剣術なんて扱える訳が無いから、身体の支配を奪った訳では無いだろうな。なら、これは綾辻さん自身の身体能力を底上げしているのか)

 

互角の斬り合いを()()()()()、一輝は綾瀬の正体不明の力を考察していた。

 

(まず間違いなく勇華が何かをしたんだ。勇華は『鬼』だから、反則なんてしないと思ってたけど・・・・・いや、勇華の事はこの試合が終わってからで良い。今は綾辻さんを止めないと)

 

「シッッッ!」

「ぐうっ!?」

 

一見力任せにも見える一撃を綾瀬に放ち、一度距離を開ける。

 

「ぐっ、《風の爪痕》!」

「同じ手は通じないよ!」

 

後退した所に綾瀬の《伐刀絶技》が発動するが、一輝に二度目の、それも一度攻略されている技が通じるはずもない。即座に回避し、さらに距離を取る。

 

「……ボクらは剣士だろう?なんで逃げるんだい?」

「逃げた訳じゃあ……ない、さっ!」

 

一輝が振るった《陰鉄》は、綾瀬の伐刀絶技から解放たれた魔力を()()()()()()()()()()()()()

 

「はあ!?」

「まだまだ勇華には届かないけど、あれだけ見せられればこれくらいは出来るさ」

「意味わかんないね!」

「勇華ほどじゃないよ」

 

強化された身体能力任せに、綾瀬は一輝の弾幕を回避した。逆に言えば、回避出来る程度には、一輝の弾幕は小さく遅いのだ。……とはいえ、以前の綾瀬が避けられるスピードでは無かったのだが。

 

『おい、黒鉄の能力って身体能力倍加だろ?』

『隠してたのか?』

 

観客席がザワついた。勇華は公式戦に出ないため、勇華が独自開発した魔力操作技術だと知られていないのだ。

ただ、《雷切》を始めとした一部の強者(勇華にボコされたやつら)は、()()が勇華の使う魔力運用技術だと気付いていた。

 

『お、おぉ?ここに来て黒鉄選手の新能力が発覚か!?解説の折木先生、これは一体どういうことなのでしょうか!』

『まず、勘違いしてるみたいだけど、あれは能力じゃない。魔力操作の応用である、歴とした技術なんだ。この学園だと青鬼さんがよく使ってる、というか彼女の開発した技術なんだけど……まあ、みんなは知らないよね。実際、あんまり有名な技術じゃないから』

 

勇華は未だに触らぬ神に祟りなしと避けられているので、一輝のように模擬戦を挑む生徒など皆無であり、故に誰も知らない幻の技術なのだ。

ちなみに、本人はいい加減慣れたため数少ない知り合いにちょっかいを出して日々を過ごしている。

 

『なるほどー。では具体的にどういった理論でなりたつ技術なんですか?あれ』

『えっと、確か……魔力を一箇所に集めて、圧縮し、魔力放出の要領で発射する、だった筈だよ。これの凄いところは、魔力操作が一定以上なら、()()()()()()()()()()使()()()って事なんだ』

『んん!?他人の魔力を使える!?どういうことですかそれ!?』

『みんなも分かると思うけど、魔力って基本的に出したら戻せないし、ましてや他人の魔力を取り込んだりなんかできないよね。けどこの技術、通称《弾幕》は、放出した自分の魔力を薄く薄く膜のように広げて、漂う他人の魔力を包み、好きな形に成形するんだ。そしてそれを魔力放出で飛ばすなり黒鉄くんのように《霊装》を使うなりして攻撃する。開発者が基本的に遠距離攻撃として使ってたから、《弾幕》と名付けられたんだね』

 

そしてその声は当然、綾瀬にも聞こえていた。

 

「へえ、そんな技術があるんだ。勇華くんに教えて貰ったの?」

「いいや。勇華は誰かにものを教えられるほど器用じゃない。見て、盗んだだけだよ」

「そっか。いつも通りだね…………まあ、どうでもいいけどー」

 

綾瀬は、もはや並の学生騎士が出せるものでは無いスピードで一輝に迫る。鬼の薬酒は、綾瀬の体を確実に蝕んでいた。

 

「オラァっ!!」

「──第三秘剣:円」

「……グあっ!」

 

一輝は鬼の膂力を打ち返した。それも、微小弾幕のオマケ付きだ。

 

「ぐゥぅ……」

「綾辻さん、聞こえてないかもしれないけど、僕は貴女を尊敬している」

「ラァっ!」

 

躱すまでも無かった。綾瀬の剣術の根幹までをも読み取り、不完全ながら模倣した奥義で、受け流す。

 

「貴女はこれまで、たった一人で、蔵人に勝つため己を鍛えてきた。僕も一人だったから、その辛さは、苦しさは、分かるつもりだ」

「セォァ!」

「だから、君の戦いに敬意を表する」

 

そう言うと、一輝は《陰鉄》を大きく振り、綾瀬と距離を取る。今の綾瀬なら一足で飛び込めるが、僅かに残った剣士としての本能がそれを諌めた。

 

「僕は、君がいずれ至る『最強』で、君の誇りを、剣を取り戻す」

 

薄く、僅かな青い燐光が放たれた。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「《身体能力倍加》そして──綾辻一刀流奥義《天衣無縫》!!!」

「…………あ、あぁぁぁぁああ!!」

 

我武者羅に、綾瀬は走り出した。

 

羨ましかった。自分よりも伐刀者としては劣っているのに、圧倒的とすら言えるその実力を持つ事が。

 

恐怖した。能力に頼らず、純粋な剣の才能で上り詰めたことを。

 

見たくなかった。もっと自分が努力すれば、あの領域に辿り着けると証明されてしまうから。

 

そして、怒った。

己が知りすらしない奥義を知り、あまつさえ、自分を倒す為だけに使った事が。

 

怪力にものを言わせ、魔力放出すら併用した、この日……いや、人生で最高の威力の剣を振り上げる。

悠々と近づく一輝を粛清するために。

 

かくして、剣は振り下ろされる───

 

「あなたにも薄々分かっている筈だ……無駄、だよ」

 

────第一秘剣:犀撃

 

 

『…………し、試合終了ー!!黒鉄選手、またも無傷で勝利!この最強のFランクに勝つ生徒は一体だれだ!?快進撃はまだまだ続く!今年の七星剣武祭はどうなるのか!私まったく分かりません!ただ一つ、これだけは確実に言えるでしょう。黒鉄一輝は、強い!!』

 

会場が歓声に沸く。

 

それに応えるように、一輝は、拳を突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、やっぱり一輝くんは期待に応えてくれるねぇ。……大好きだよ。いつか、()を殺してね」




最後はちょっと駆け足。なんかダレてきたんじゃい。
状況を説明すると、綾瀬さんのフルパワー脳筋太刀を《天衣無縫》で受け流して、犀撃で撃破。《天衣無縫》はまだ何かしらの身体能力強化を併用しないと実戦では使えません。


茨木の百薬枡・・・・・酒を注げば、飲めばたちどころに傷を癒す薬酒になる魔法の枡。
また、健康な状態でこの薬酒を飲んだ場合、一時的に怪力が備わるようになる。
ただし、服用後しばらく(一晩程度)時間が経つと鬼のように凶暴な性格になる副作用がある。怪力はこの時も残っているため、周囲に死傷者すら出るほどの大迷惑をかけてしまう。

pixiv百科事典より抜粋


独自設定の技術、《弾幕》
勇華が使うスペカの弾幕をどう再現するか悩んだ結果の謎技術。基本は本編でも言ってる通り。ちなみに魔力の少ない一輝くんは、霊装で直接滞空魔力を絡めて集めてるって設定です。というか一輝くんは魔力少な過ぎてこうするしか無いです。魔力操作こそ勇華との戦闘で底上げされてますが、魔力量は《覚醒》するまでどうしようもなく……。ちなみに、一輝くんの《覚醒》のタイミングは原作より早くなる予定です。

原作では今のところ放出された魔力がどうなるのか記述されてなかったと思うので、独自設定を捩じ込みました。


B.A.D.については知らない人も多いと思うので簡単に説明致します。

残酷に切なく、醜悪に美しいミステリーファンタジー。
死者と言葉を交わし、『異界』と最も深い繋がりを持つ少女、繭墨あざか。鬼を孕まされ、死にかけたその時にあざかに救われた青年、小田桐勤。
『空から降る臓器』の事件を切っ掛けに、彼らは『狐』の暗躍を知る。果たして小田桐は、自身の因縁を前に何を思うのか。大切なものを守れるのか。

概ねこんな感じの話です。全13巻で外伝4冊。グロいです。そして人が死にまくります。準レギュラーくらいなら容赦なく殺されます。そういうのがダメな人はお気をつけを。

以下、B.A.D.本編について多少のネタバレあり。












『異界』
『紅い女』が住む、文字通り異なった世界。異能の産物が現世に増え過ぎると、世界が『異界』に傾いて大変な事になったりする。『狐』が起こす事件の大元は大体ここに繋がる。

『鬼』
勇華が体現している鬼は今のところ東方の鬼達のみ。けれどB.A.D.で鬼と言えば・・・・・

『鬼を孕まされた小田桐さん』
アッーされた訳では無いです。子宮を埋め込まれただけです。






興味の沸いた人はぜひ読んでね!(ダイマ)
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