【悲報】アンジェリカさん、手加減を忘れ殺っちまった模様。 作:にわか
※戦闘ナシ
「ようこそ士郎様、ささっ、中へどうぞ」
士郎はその日の内に、家の向かい、エーデルフェルト家の屋敷に訪問していた。
その案内に出たのは、ターミネーター執事こと、オーギュストだ。
特にアポイントメントもなく、衝動的に来てしまったので返されても仕方ないと思っていた士郎だったが、すんなりと屋敷まで通してくれた。
だが、だからこそ士郎は気付く。
(これは……魔術的な隠蔽術式?)
士郎の持つ魔術の知識は、前の世界での一囓りと、せいぜいアイリに仕込まれたアインツベルンのものぐらいだ。
だが、それでも"聖杯戦争"の御三家。
よって士郎も、分かる。分かってしまう。
どういう種類のものかまでは分からないが、ここには何か仕掛けられている、と。
士郎の目が少し険しくなる。
疑惑。
からの観察。
思考。
凝らせば、この執事、立ち振舞いが出来ている。
思えば、この時期に2人転校してくるのはおかしい。
士郎は尚考える。
(まさかっ!?)
美遊は言うまでもなく聖杯の力を持つ。
それは、この世界に彼女が移動してきたことが証明している。
そしてその力は……知られれば、世界から狙われる。
特に、魔術師が放っておくはずがない。
つまり……
(敵、か……)
これがまだ一般人なら良かった。
保護されたのだと、養女になったのならよかった。
そこに何の目的もなく、ただ彼女の幸せを願って引き取られたならよかった。
だが、実際は……
(こんな……死の匂いを持つ護衛をつけている)
まだ、こんなのが居なければ希望を持てただろう。
しかし、違う。
エーデルフォルトは気付いている。
工房や本拠地を守るのはまだ分かる。
だが、ただの護衛で、ここまでの者を置くものはいない。
この執事からは、キリツグの同業者、とはまた少し違うかもしれないが、確実に慣れている空気を感じた。
士郎はキリツグの魔術師殺しとしてのやり方も、彼に請い、継承している。幼少期より鍛えられたそれは、並みのものを越える。
その感覚が訴える。
強い。
あくまでキリツグの魔術師殺しの本質は
正面から戦うのは避ける。
まず、士郎は、頭の中で戦闘のシミュレーションを行った。
こちらは通常火器としてワルサーWA2000及びキャリコM950、魔術礼装としてトンプソン・コンテンダーと一発だけ魔弾「起源弾」を使える。"固有時空制御"も衛宮の魔術刻印を継承しているため、反動はあるが使ってもいい。"投影"は、一番慣れてはいるものの、守護者の力という性質上、鍛練はしているが、実戦で易々と使っていい代物ではない。アインツベルンの魔術は戦闘に向かない。
だが、この場で争うにしても、
よって、今使えるのは……
(コンテンダーと固有時空制御、この2つだな)
口径には.30-06スプリングフィールド、つまりは大口径のライフル弾。個人装備で防ぐには、グレードIVクラスの防弾装備が必須だ。
まさに一撃必殺。
(
こちらの方針は決まった。
次に、敵戦力だ。
執事でこれなのだから、恐らく中にも手練れがいる。
キャリコが欲しいところだが、仕方ない。
そして、家主のルヴィアがどういう魔術を使うかにもよる。
支援系で、執事たちを強化されると厄介だ。
(情報が無さすぎる……勢いで来たのは間違いだったな)
引く。
撤退する。
士郎がこの結論に至るまで、そう時間は掛からなかった。
これは、士郎の経験と、キリツグの教えからのものだった。
(俺は兄を名乗る資格は無いのかもしれない。独りこの世界に放り出して、それで終わりだったから。だけど、それでも美遊を救わないと。次は、自分の手で……)
「では、失礼します」
「あ、え……?」
突然、オーギュストが部屋から退出した。
士郎は驚いて、周りを見渡すと、そこには___
「お兄ちゃん!?」
そこにはルヴィアと遠坂、そして愛すべき義妹が
***
執事、オーギュストは部屋から退出した後、先のことを思い返していた。
(衛宮士郎……)
最近、エーデルフォルト家の周りを物理的にも、電子的にも嗅ぎ回る
衛宮士郎。
オーギュストは初めてここで彼に会った。
いや、名前だけは知っている。
お嬢様の話題によく出ている、学校の同級生とのことだ。
更には、美遊の友人であるイリヤの兄でもあるらしい。
彼は、お嬢様に取り付く虫がいるとのことで独自に調べたことがある。
結果は"一般人"。
強いて言うなら、家に使用人を雇える程度にはお金持ちであり、士郎自身は養子であるということだ。
特に戦闘経験があるといったことはない。
ない筈だが……
(一瞬だけでしたが、殺気を放ちましたね……)
その時、自然と腰を落とし、"動ける"体制を取っていたことに、オーギュストは気づいていた。
それは、歴戦の彼だからこそ気付くことであり、同時に、士郎の戦闘センスがある程度の域まで達していると目星をつけていた。
(普段から隠しているなら、あるいは……もう一度、経歴を洗いましょうか。今日暴れるようなら……)
オーギュストの目がすっと細くなる。
その顔には獰猛な獣が現れていた。
久しぶりに楽しめそう、だと。
対して、部屋の方からは、かなり離れたにも関わらず、声が響いていた。
「笑うがいいわ! 惨めなこの格好をぉおおおお!」
「遠坂!?」
目をやれば、顔を手で覆った駄メイドがこちらにむかって走ってきていた。
(ふむ……)
オーギュストの思考はすぐさま切り替わる。
すなわち、エーデルフォルト家の使用人が粗相を犯しているのを止めるというものに。
オーギュストにとって、個人の前に執事であり、仕える家が第一だ。
その品格を落とすことがあってはならない。
それが、例えばお嬢様の
「ふんっ!」
「うぎゃゃぁあ!」
およそ淑女とは思えない声を上げて、通りすぎんとする遠坂をひっくり返した。
「ぎゃふん」
当の彼女は、頭を床に叩きつけ、目を回していた。
「起きなさい、遠坂凛。貴方は今なんですか?」
「うぅ……はぁ? 何いってんのよ」
「答えは?」
「……メイドです」
「よろしい、先の行動の弁明は聞きません。お客様にお茶を出して下さい。これはメイドにしか出来ません」
「くっ、わかったわ」
苦虫を噛み潰したような顔でキッチンに向かうのを見送ると、オーギュストは当初の目的である執務室に向かった。
やるべきことは多々ある。
普段の屋敷の管理は勿論のこと、
クロエの戸籍操作に、小等部への編入手続き。
協会への報告書。
さらには、エーデルフォルトを調べ回るネズミの特定まで。
(おっと、衛宮士郎についても、警戒と、もう一度調べ直さねばなりませんね)
執事の激務はこれからだ!
***
「それで、お兄ちゃん、どおしてここへ? もしかして、私に会いたくて来てくれたとか? きゃっ嬉しい」
「ちょっと、クロは黙ってて! ていうかそもそもお兄ちゃんがクロのこと知ってるわけないでしょ!」
「じゃぁこれからぁ、じっくりとぉ、知ってもらいたいなぁ?」
「ちょっと、胸元広げるの禁止! 」
「二人とも落ち着いて……」
士郎は席に座らせられ、わいわいする皆を見るばかりだった。皆といっても、2人のイリヤだが。
「まぁ、
「あははは……そう、だな」
「その、おに……士郎さん、騒がしくて申し訳ありません」
「あぁ、別にこういうのは嫌いじゃないからいいよ」
メイド服の美遊が申し訳なさそうに言う。
本来ならおもてなしする側だが、家主であるルヴィアに止められた。一人で持ってこさせようとする、いつものハラスメントだった。
一方、士郎は、美遊がお兄ちゃんと言おうとして、士郎さんと呼ぶことに、彼自身、少なからずショックを受けていた。
(美遊……)
士郎は考える。
ここで、自分が兄と名乗り出たらどうなるだろう、と。
美遊は笑って、前のように抱きついてくれるだろうか。
はたまた、怒って、そっぽを向いてしまうのだろうか。
(いや……こんな平和なことを考えれるってことは……ここが、この場が、美遊の居場所なのかもしれない)
もしかしたら士郎が美遊の名前を思い出せなかったように、兄の存在を、美遊は忘れ、もとい、必要としていないのかもしれない。
お兄ちゃんと呼ぶのは、微かな残り香がそうさせているのかもしれない。
また、聖杯は、士郎の願いを聞き届けており、美遊は幸せなのかもしれない。
士郎が考えた、美遊がまた利用されることなんて無いのかもしれない。
たらればなど、いくらでも考えられた。
(……あぁ、なら)
「美遊……ちゃん。今の生活は幸せかい?」
「……え? 幸せ、だと思います」
「シェロ、変わった質問をしますわね。あぁ、まさか! この
「あ、いや……そうだな。流石にないよな」
「ルヴィアさん……凛さんを粗雑に扱ってる自覚あったんですね……」
言われてみれば、おかしな質問だったかもしれない。
士郎は流れに身を任せ、曖昧に答え、笑うしかなかった。