【悲報】アンジェリカさん、手加減を忘れ殺っちまった模様。   作:にわか

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命儚い、恋せよ少女よ

 だがしかし、ここに1人士郎の発言に疑問を持つ者がいた。

 

(お兄ちゃん、本当に変なこと(・・・・)を聞くのね……)

 

 クロエ、クロエ・フォン・アインツベルンは先程の様子を、イリヤと戯れながらも、静かに観察していた。

 

(昨日の雨のとき、美遊の態度はおかしかった。そして、お兄ちゃんの美遊へ接するそれも何か引っ掛かる)

 

 クロエは、元々は両親が封印していたイリヤの小聖杯としての機能と人格で、長い年月と地脈およびカレイドステッキの魔力など、様々な影響によって顕現した存在だ。 故に、その在り方は不安定。例えるなら、マスター不在で現界してしまったサーヴァントだ。それは魔力供給をどこからか受けねば、魔力枯渇により消滅するということを意味する。

 

「ちょっとクロ、聞いてるの!?」

 

 その対象は、イリヤ・フォン・アインツベルン。

 詳しくは割愛するが、元が元だけに、効率がいい。

 そして、本来、クロエはイリヤの危機において一時的に人格が交代して彼女の安全を保持するための安全装置だ。 そのスペックは見た目が小等部学生とはいえ、並み一通りではない。元アインツベルンの最高傑作で、当然のように魔術には通じ、その本質は過程を省くこと。擬似瞬間移動などを使える。

 では、これらクロエのスペックの中でも焦点を当てるべきところはどこか。それは、彼女の持つ知識だ。

 魔術刻印というのは、その家の者を識別する目印のようなものにも使われる。なので、知っている者、即ち一族には分かってしまう。

 それは、生まれながらにして知識を植えつけられたクロエも例外ではない。既にアイリとキリツグは夫婦だったため、衛宮の魔術知識も入っているのだ。

 

(衛宮士郎。お兄ちゃん。こうして外に出てまで魔術刻印を感じることから……最初は衛宮家だからかと思ったけど、どうやら違うみ。お兄ちゃんは……魔術師。これに、美遊と一体どんな関係が……? そもそも、美遊はアインツベルンの関係者?)

 

「ていやぁ!」

「あいたっ」

 

 クロエは思わず声を出してお腹を抱えた

 思考を中断せざるを得ない勢いで、イリヤのパンチが決まったのだ。

 

「ちょっと、イリヤ! 何するのよ!」

「だって、クロがお兄ちゃんの方をずーと見てたんだもん。熱っぽい視線で」

 

 クロエは、知らないうちに思考に耽ってイリヤのことをほったらかしにしていたらしい。

 何と言ったものかと悩んでいると……

 

「はいはい、イリヤにクロ。そろそろじゃれあうのはよしてくださいな。いい加減シェロに、クロエ、あなたを紹介しなければなりませんでしょう?」

 

 ルヴィアに言われ、イリヤは渋々ながらも引き下がったようだ。その顔は、ぐぬぬ、と今にも飛びついてきそうな雰囲気を漂わせている。

 

(ハァ、イリヤは子供ね……まぁ、確かにルヴィアの言うように紹介してもらわないといけないし。魔術と美遊については後で聞けばいっか)

 

 クロエは後で士郎に会いに行こうと心に決めながら、士郎たちの方に向き直った。

 

「えーと、紹介? 随分大袈裟だなぁ」

これから(・・・・)のことを考えると、今のうちにと思いまして」

「あ、ルヴィアさん、凜さんが戻ってきました」

「あら、そう……あら? あらあら? 遠坂凜、メイド服はどうしたのかしら?」

「くっ、別にいいでしょ」

「さっきのも可愛かったぞ」

「~~ッ! バカっ」

「いてっ」

「くっ、こうなったら(わたくし)も」

「張り合わないでください……」

 

 美遊ですら呆れた声を出す。

 次第に場はいつも通りの彼女らに戻っていた。

 ……クロエを除いて。

 

「お兄ちゃん、私、クロエ・フォン(・・・)アインツベルン(・・・・・・・)。イリヤの従姉妹(いとこ)になるのかな? よろしくね!」

 

 内心とは別に、にっこりとした笑顔でそう言ったのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 その帰り、家に直帰する気分にもなれず、士郎は町をぶらぶらと歩いていた。そして、ふと、先程のことを思い出す。

 

(クロエ・フォン・アインツベルン……アインツベルンか)

 

 クロエの名字、たった数文字だが、士郎はこのワードに表情を強張らせた。

 

 そして、衛宮士郎はこの言葉に反応せざるを得ない理由(・・・・・・・・・・・)がある。

 それは……

 

(アインツベルンは……もう、ない)

 

 そう、魔術師のアインツベルンはすでに存在しない。

 彼らは裏切った魔術師殺しとホムンクルスによって一掃された。

 

(そして従姉妹……そんな話は聞いたことがない)

 

 ならば……

 

(復讐、だろうか)

 

 例えば、かの家に生き残りがいたとして、この数年で力を取り戻したとしよう。

 すると、彼らが考えることは何か。

 復讐。

 魔術師の悲願、根源を目指すための手段である聖杯戦争を止められた怨みの無いはずがない。

 故に、クロエを送り込む。

 あり得そうな話だ。

 しかし、それならわざわざ警戒されるであろうアインツベルンの名前を出す必要は無い。

 

(ならば、彼女は何なのだ? 何かを見落としている……?)

 

 こちらの聖杯戦争のあらましを一通りは聞いている士郎だが、全くもって見当がつかない。

 

 次第に思考の海に耽り、美遊のこと、クロエのこと、そしてエインズワースの、ジュリアンのことを考えていると……

 

(自然の匂い……あっ)

 

 気付けば森に入っていた。

 時刻は既に日をまたぎそうだ。

 

(……しまった、こんな遠くまで。もう暗い。後でまたセラに叱られそうだ)

 

 士郎はひとつ、ため息をつくと、森から出るために足を踏み出した。

 すると____

 

「うわっ!?」

 

 足を踏み出した先に沼があったようだ。

 どうやら底無し沼と言う奴らしい。

 ずるずると引き込まれている感じがする。

 

「はぁ、まだ片足でよかった」

 

 士郎は踏ん張り、足を引き抜こうとする。

 しかし、中々抜ける様子はない。

 しかも、感覚で分かることだが、魔術を阻害する効果もあるらしい。

 

「しかし、なんでまたこんなトラップが……」

 

 士郎がどうしようかと思案していると、ふいに声を掛けられた。

 

「何をしているんだ?」

「あぁ……って、一成? どうしてこんなところに?」

 

 振り返るとそこには、穂群原学園の生徒会長、柳洞一成(りゅうどういっせい)がいた。

 その姿は制服で、とてもこんな森に来る格好ではない。

 

「大丈夫か、ほら、手を貸せ」

「すまない、ありがとう」

 

 不思議に思いながらも、感謝の言葉を告げる。

 因みに、引き上げるときの一成は、士郎の手はがっしりとしていて男らしいな、とポツリとこぼしていたが、士郎には聞こえなかった。

 

 泥を払い、早々に立ち去ることを決めた士郎と一成。

 改めて士郎はどうしてこんなところにいるのか訪ねてみることにした。

 

「街で衛宮を見掛けてな、目が合ったから挨拶しようとしたんだが、何処かに虚ろな目で歩いていて、そのままスタスタ行ってしまったんだ。それで、様子がおかしいと思ったからからつけてきた、という訳さ。しかし、衛宮は歩くのが速いな。追い付くのが大変だったぞ」

 

 なるほど、たしかに一成の手には買い物袋のようなものが握られており、その帰りだったことが伺える。

 

 そして、彼の発言を少し考察してみる。

 

(虚ろな目? 俺が一成に気付かないなんて……しかも、ここまで来る途中の過程を思い出せない)

 

 友人の言う事だ。嘘ではないだろう。

 士郎はこの現象の心当たりを探ってみる。

 虚ろな目。ある一点に向かって誘導する。道中の過程を思い出せない。このことから導かれる解は……

 

(まさか、暗示!? いつ掛けられた? 一体誰が……)

 

 そう、こんなこと普通(・・)はありえない。

 ならば、魔術関連で何かされたと考えるのが打倒だろう。

 士郎は動揺を表に出さないよう、取り繕い一成に向き合う。

 

「そうか……少し考え事をしていたから、そのせいかもしれない。すまない、一成」

「疲れているんじゃないか、週末にいつも一緒にやってる宗一郎兄との鍛錬、今週は無しにしてもらおうか」

「いや、大丈夫だ」

「無理は良くないぞ」

「葛木先生みたいな使い手の指導を受けられるんだ。休むなんて勿体ないだろ?」

 

 葛木宗一郎(くずきそういちろう)は穂群原学園の倫理を担当する先生だ。と、同時に、役割の異なる二つの拳打を用いた特殊な暗殺拳"蛇"の達人でもある。

 その構えは、左は"しなる鞭のように円弧を描く"と"垂直かつ直線的"という二つの軌道を組み合わせての牽制と可変軌道による強襲を担当し、対する右は普段は動かさず、ここぞというときに強力な一撃を放つ、という代物。形が非常に奇特で読みづらく、奇襲についてこの上ないほどに優れるものだ。

 士郎たちは、特に士郎は葛木先生から望んで指導を受けている。

 

「はは、衛宮も物好きだな。その熱意、一体何と戦うっていうんだ?」

「っ……それは……」

 

 士郎は一瞬で思案する。

 

(俺の仮想敵としているのは……エインズワース。特に、最強の英霊、ギルガメッシュのサーヴァントカードを持つ女性だ。彼女に負けないようにするには……手札は大いに越したことはない)

 

 現に、守護者の力だけでは彼女には勝てなかった。なので、キリツグ、アイリからそれぞれ教導を受け、己の戦略の幅を広げた。だが、それでも油断はできない。日々の鍛錬という、出来ることは必ずし、さらに余裕のある範囲で新しい技を習得するのは、この士郎にとって必要なことである。

 その点、葛木先生がそういう使い手で、本人も誰かの役に立つという願いを持っていたのは、士郎にとって幸いであった。両者の目的が合致し、弟子となることが出来たのだから。

 

「あぁ、いや、別に深い意味はないぞ。そんな悩まないでくれ」

「あぁ……」

 

(いつか、話せる時が来るといいんだが……)

 

 秘密という大層なものではないが、巻き込むのは忍びない。

 と、ここで士郎はどこからか視線を感じた。

 

「ところで、衛宮。気付いているか?」

「……あぁ。つけられてるな」

「心当たりは?」

「ない……が、もしかしたらキリツグの顔が割れたかもしれない」

「キリツグ……衛宮の養父か。前に一度会ったときの感じでは、そんなへまをする人には見えなかったんだがな」

 

 とは言え、一成には、多少はぼかしているがキリツグのことを紹介している。先生にも、守るための力が欲しい、と同じような話で通した。

 

「過信は禁物だ。人間ミスする生き物なんだから」

「師匠とも言える人物に辛辣だな。いや、そういう教えと言っていたか。っと、気配が消えたな」

「ああ。街に戻ってきたし、一般人を巻き込むのを避けたのかもしれない」

「父親がその業界(・・・・)では名の知れた傭兵、か。改めて、衛宮の立場は大変だな。フィクションだったら絶好のネタなんだがな」

「ああ……」

「だが、それに準ずればこの場合、相手が一人とは限らないんじゃないか? 早く家に戻った方がいい」

「わかった、そうするよ。そしてすまない。一成もこれでターゲットに入ったかもしれない」

「なに、気にするな。俺も衛宮と同じで宗一郎兄の弟子だ。そう易々とヤられたりせんよ」

「そうか」

 

 頼もしい発言に、気を使ってくれているんだな、と感謝しながら、遂に分かれ道にたどりついた。

 

「じゃぁな、衛宮」

「おう、またな一成」

 

 2人は夜道を分かれ、それぞれ帰路につく。

 そこに立つ街灯は、ぱちぱちと点滅しながらも二人の背中を照らしていた。

 

 

 

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