【悲報】アンジェリカさん、手加減を忘れ殺っちまった模様。 作:にわか
ダイジェスト+ガバガバ設定でごめんなさい
此度の裏側、クロエは
(お兄ちゃん……)
目線の先には、沼に片足を突っ込んだ義理の兄、衛宮士郎。
クロエはその兄に僅かながら失望していた。
だがそれは、決して自分と同じ様に、情けなくも沼に嵌まったからではない。
(こんな簡単な暗示にかかるなんて)
魔術師としてのレベルの話でだ。
衛宮の刻印を引き継いでいるなら、その家の1人しかいない跡取り、アインツベルンを名乗ることが出来る魔術師であるはずだ。にもかかわらず、クロエの放った、ルヴィア家の書庫にある
クロエは士郎を、自らの存在価値をかける相手に相応しいと予感していた。
衛宮の魔術に技術、それにアインツベルンのモノを加えた、まさに最高傑作。恐らく
故に、その失望は深い。
あの様子なら簡単に下せる、いや、そもそも教育を受けていない素人の可能性すら出てくるのだ。
(だけど、あの男は……?)
少し前にやってきたメガネの男が、士郎を引っ張り上げていた。彼も相当身体を鍛えているようで、すぽんと簡単に士郎を引き抜いた。その様子からして、かなり親しい仲だろう。
しかし何故だろう。
男は引き上げ、その勢いでその腕に士郎を抱える。俗にいうお姫様抱っこだ。二人の顔は近く、士郎も少し驚いている程だ。しかし、それは一瞬。彼はすぐに降ろしてしまった。
そのとき、不意に男がこちらの方を向いた……ような気がした。
(っ!? 目が合った?)
だが、士郎とメガネの男は気にせず話続けている。
と、移動するようだ。
(気のせい……よね。なんだろう、あの男、放っておいたら不味い気がするわ)
沸き上がる名状しがたい気持ちに頭を悩ませながら、二人の跡をそっとつける。もう街明かりは目前だ。
「ところで衛宮。気付いているか?」
わざと、そう、クロエに聞こえるように男がわざとそう言った。その証拠に、士郎が何と返したかは聞こえない。今までは会話など聞こえなかっが、ここに来てわざわざ言うということは……
(っ!? ……やっぱり気付かれてたか。ふーん、魔術師なら神秘の秘匿、市街地で仕掛けてくるなっていう忠告かしら。あの男の方が魔術師っぽいわね)
これは偶然であり、偶々であるが、クロエはそう解釈してしまった。この街にいる、ルヴィアたち以外の魔術師候補1名が入った瞬間だった。
(頃合いね、撤収しましょう)
1つ大きく跳躍し、木々の上から遠方の地面に降り立つ。
そしてそのまま、疑似転移と跳躍で街の家々の隙間を縫いながら、ルヴィア家に戻ることにした。
(お兄ちゃんは刻印を引き継ぎこそすれ、知識は無い。もしもの時の保険かしら。それとも本命はイリヤ? 分からないわ)
考えても、その答えは浮かばない。
だが、実は書庫の本が世間一般____とは言っても魔術界隈での話だが____で見れば、封印指定の一品であったこと、つまり、並の魔術師では防げない代物だったことに気付くのはまだ先の話。また、クロエが簡単だと言えたのは、彼女の本質、"過程を省く"というものの恩恵だった。そして当然のごとく、これの対策を士郎は怠ることはない。結果、これは彼の強化にも繋がることとなる。
(それにしても、あの男、何故私に気付いたの? なにか魔術を使った感じはしなかった。気配とか? まさか、ね)
クロエの考察は的を射ていた。
士郎と共に男、
その本質は暗殺。
気配を察し、消すことは
(あっ)
気付けば、足が止まっていた。
考え事のしすぎで周りが見えていなかったようだ。
一端思考を中断し、はぁ、と一息つくと……
(……帰ろ)
月は高く上り、彼女をやさしく見守るばかりだった。
***
クロエが学校に通うこととなった、その翌日。
イリヤと美遊はそのことを教室で話し合っていた。
「うぅ~」
「あ、イリヤ、その、えっと……一緒に頑張ろ?」
「ありがとう、美遊」
「だから、元気を出して」
「そうだね! 美遊も一緒なんだし、前向きに考えよう! 大体、同じ学校って言っても、クラスが別なら大丈夫だし! 思い出してみれば、うちのクラスにはこの前、美遊が来たばっかだし!」
イリヤは拳を握りしめ、声高らかにそう叫ぶ。
だが、対照的に、美遊は冷静だ。
この後の展開が容易に想像できていた。
(ルヴィアさんが不確定要素のクロエを一人にしておく訳がない……)
つまり、悲しきかな。
イリヤの願いは叶わない。
その事をそっと告げようとするが……
「あ、あの、イリヤ」
「同じクラスに連続で転校生が来るなんてことは、無いだろうし!」
「あのね、イリヤ」
「お? この席誰のだ? さては、転校生でも来るんだな!」
チビッ子の一声で、イリヤはようやく黙った。と言うより固まった。
だが、彼女の持ち味の一つは諦めの悪さ、言い替えると楽観的思考である。
故に、まだイリヤは足掻く。
まだ足掻く。
「……ぅう、それに、もしかしたら転校の手続きに失敗したりとかも!」
「……うん、ソウダト、イイネ」
美遊はもう何も言えなかった。
親友の言っていることを頭から否定するのは中々難しいものだ。
そして幾ばくか過ぎ……
「初めまして、クロエ・フォン・アインツベルンです。クロって呼んでね? えへっ」
「……」
「なんとぉ、イリヤちゃんのぉ、従姉妹なのです! みんな、仲良くしてあげてね」
「タイガー顔が乙女だぞ!?」
「因みにね、私の初めての人なの」
「タイガー何言ってんだ!?」
案の定、クロエは同じクラスだった。
そのときのイリヤの表情は、美遊の席だと後ろからになるから見れないが、絶望に染まっていたのは、想像に固くない。
実際、顔は死んでいた。
「今日からよろしくね、美遊ちゃん!」
よろしく、と美遊は返し、そのまま学校生活がスタートする。
その日、イリヤがやけに静かなのが印象的であった。
だが、事は、体育の授業のときに起こる。
「よぉ、クロちゃん」
「ちょっと面貸してくれるかのぉ?」
「んぁあ゛?」
「え、何? いぢめ?」
どうやらクロエに
美遊は止める理由も無いので、黙って見守ることにした。
「いずれ時が来たら兄貴に捧げる予定だったのに……」
「おぉ、そうだったのか、たっつん! イリヤと同じだな!」
「わぁあ、何言ってんの、何言ってんの!」
(イリヤも同じで、お兄ちゃんのこと……好き、なんだ)
好き。この場合、それには"
そして、美遊自身の兄への気持ちは、同じ"好き"でも、今のところ前者である。
とは言え、美遊の兄は、前の世界の
決して、今の世界の彼ではない。
(それにしても、イリヤのお兄ちゃん、ホントにそっくりだった……)
美遊は、あの雨の日、抱きついたことを忘れられなかった。
いや、忘れられない。
あの雰囲気は確実に兄そのものだった。
(もし、奇跡でも何でもいいから、お兄ちゃんに会えたら……)
静かに目を瞑り、想像する。
だが、頭に浮かぶのは、最期の光景……
(っ……)
お兄ちゃんはもういない。
美遊は言い聞かせるように、その言葉を心の中で繰り返した。
なまじ現実を理解してるが故、甘い幻想は見ない。
きっとそれに浸って、前を向けなくなると推測していた。
「弔い合戦じゃぁー!」
そんな沈む美遊とは対照的な、チビッ子たちの元気な声が聞こえた。
***
「ふぅ、暇ね。危篤状態の重病人でも運び込まれてこないかしら」
「先生、助けて!」
「ボールぶち当たったイリヤが目を覚まさないんだ!」
「あと、何故かクロも……」
あの後、ドッジボールで戦ったイリヤとクロエ。
勝負は、イリヤにクリティカルヒットし、クロエが痛覚共有の魔術でダウンするという、引き分けに落ち着いた。
元々は"奪われまし隊(イリヤの友人+先生)"vsクロエだったのだが、なんやかんやあって
「つまらないわね、ただの軽い打撲。ほとんど外傷らしい外傷は無いわ」
それを聞いて美遊は、ホッと安心する。
イリヤも寝込んでいることだし、イリヤたちの着替えを持ってくることにした。
少しこの場に居づらいというのもある。
「あ、美遊ちゃん、どこ行くの?」
「2人の着替えを取ってくる」
***
「クロ、これ……」
「ん、ああ、ありがと」
保健室に戻ってくると、そこから出てくるクロエに遭遇した。
「アイツにはあまり近付かない方がいいわ。見透かされたくないことがあるなら」
「……」
見透かされたくないこと……この口振りから、クロエは何かに気付いているのだと思った。美遊は少し警戒するが、忠告はありがたく受け取っておくことにした。
しかし、気になるので、どういうことがたったのか、何に気付いたのか問いただそうとすると……
「着替え、ありがとね」
察したのかどうか分からないが、そう言ってすぐに去ってしまった。
いつまでも保健室の前で突っ立っているのもおかしいので、中に入ることにした。
「あら、さっきいた娘ね。まだ何か?」
「いえ、その、イリヤの様子を見に……」
「
「いえ、そうでは……?」
カレン先生の言葉に引っ掛かりを覚えた美遊。
だが、その意を問う前に、来訪者に妨げられた。
「イリヤちゃん、目を覚まして! ほら、お兄ちゃんも連れてきたから! 頑張って! 生き返って!」
「ちょっ、藤村先生。あんたが先に落ち着いて、んごぅ」
「保健室では静かに」
「ふぇ、なんで、俺が?」
そこにいたのは、士郎と担任の藤村先生だった。
士郎は藤村先生に首根っこを捕まれ、連れられてきたようだ。
今は顔にカレン先生の投げた包帯のようなものがぐるぐると巻き付いている。これは"男性を拘束する"という特性を持った聖遺物、"マグダラの聖骸布"であるが、美遊を含め、この場では本人のみぞ知る話だ。
「あ、あの」
「っ!? 美遊、ちゃん……?」
「イ、イリヤは大丈夫です。ボールが顔に当たっただけで……」
「そっか、大怪我とかじゃなくてよかった。この人が大袈裟に言うから……」
「なっ!? 心配して何が悪いっつーの! それでも兄か、コリャア薄情者!」
「そうじゃなくて、もっと冷静に的確な事実確認を……」
「イリヤちゃんがケガをして意識不明って言ったじゃないの! コンチクショウ、アンチクショウ、ほれほれなんか言うてみなはれ!」
仲が良くていいな、とそのじゃれあいを見ながらも、さっきのカレン先生の言葉、"兄妹揃って"という意味を考えざるをえなかった。
(妹が私だとしたら、カレン先生は私に義兄がいることを知っている……? でも、何故? 知るわけがない)
カレン先生が誰かと間違えている可能性もあった。
しかし、あのときの目は、なにか確信をもっているようにも感じる。
(そもそも、その言い方なら、お兄ちゃんがカレン先生と知り合いということに……? それこそありえない。文字通り、世界が違う)
ならばやはり勘違いなのか。
はたまた美遊の聞き間違えなのか。
(そもそも、士郎さんは"はじめまして"と私に言った)
あの雨の日。
士郎は"そう……か。みゆ、美遊か……あぁ、ごめん。
……。
あのとき、何故士郎は"美遊"という名前を大事そうに呟き、暫く間を取ったのだろうか?
今になって思い出してきた。
何かがおかしい。
ずれている。
だが、それが分からない。
思考はぐるぐるまわり、美遊は、やはりありえないという結論に落ち着いた。
"はじめまして"。
この一言が決め手となる。
それだけで、他のことは些細なものに思えた。
と、色々と考えていると、いつの間にかそのじゃれあいも終わっていたようだ。
「では、カレン先生、イリヤちゃんのことよろしくお願いします。士郎もちゃんとイリヤちゃんのこと見てるのよ。失礼します」
「りょーかい」
「分かりました。藤村先生もお大事に」
去っていく藤村先生。
これで保健室の中には美遊、カレン先生、士郎、そして寝込むイリヤの4人になった。
「カレン」
不意に、士郎がカレン先生のことを呼び捨てにして呼んだ。
思わず、カレン先生の方を向くが、特に気分を害した様子もなく、普通だった。
(え、なんで?)
カレン先生は、どちらかというと呼ばれ方に無頓着そうだが、士郎が、まさか先生を呼び捨てにするなんて、想像できなかった。
世界が違うので、その辺微細ながら、変わってくるものなのかもしれない、と美遊は結論付けた。
「すまないが、荷物を取ってくる。その間イリヤを看ていてくれ」
「そう。いやよ」
「へ?」
「面倒だもの。心配ならそこの娘に頼むか、さっさと戻ってきなさい」
「なんでさ……」
だが、それにしてはよく知った仲に見える。
美遊が少しむかむかしてしまう程に。
「じゃぁ、美遊。イリヤを頼む」
「あ、えっと、はい」
ぶつぶつを言いながらも、士郎は言う通りさっさと出ていってしまった。
「……」
「…………」
「………………」
「……………………」
その場は、静寂が支配していた。
流れるのは、カレンがお茶を啜る音だけ。そして時折ノートをめくる音。
カレンは自ら何か言うということは少ないし、美遊も、聞きたいことはあるが、この静寂を破る勇気が出なかった。カレンの些細な言葉で、兄はいないと、もう会えないのだと再確認してしまった。そのため、美遊の心はひどく落ち込んでいた。士郎が急いでいたため、美遊を呼び捨てにしていたが、それを気付かない程に。
***
「イリヤ、気が付いたか」
「んー……お兄ちゃん!?」
あの後、特になにも起きず、士郎は戻り、イリヤを看て、カレンは書類を整理し、美遊は親友の様子を見守るという形に落ち着いた。
「体育の授業中、倒れたって聞いてさ、ビックリしたよ」
「そっか、私、ドッジボールで……」
「でも、大したことないみたいだな、よかった」
「あ、うん。心配かけてごめん」
「まったく、顔は大事にしろよ? 女の子なんだからさ」
「はーい」
「どうする、セラに電話して迎えに来て貰うか?」
「い、いいってそんな、過保護過ぎ」
「イリヤ
「それにしたって限度があるよ」
「……」
2人の様子に、更に気分が沈む。
本当はイリヤが良くなって嬉しい筈なのに。
「(……お兄ちゃん)」
気分を変えるためにも、夕焼け空を眺める美遊。
遠くで2羽の鳥が仲むつまじく飛んでいるのが見えた。
***
カレン以外、誰もいない保健室。
椅子に深く腰掛け、物思いに耽っていた。
「ふぅ、やれやれ。無駄に面倒な子が揃ったわね」
思い浮かぶのは、イリヤ、クロエ、美遊、そして士郎。
全てアインツベルンと関係する話というのが、彼女をまたげんなりさせていた。
カレンは聖堂教会の人間だ。
と、同時に、彼女自身、アインツベルンと
その一環として、アインツベルンの話、そして士郎個人の話を一通り聞いていた。
「奇跡、偶然、必然……意味があるのかないのか、何かが起きるのか起きないのか」
しばらく目を閉じ、ゆっくりとまた開く。
「まぁ、どうでもいいでしょう」
確かに協力関係、教会の情報をアインツベルンに流し、士郎たちを守る報酬を貰う契約だ。とはいえ、むしろ代わりに教会の雑務を士郎にやらせて楽をしているぐらいでもある。始まりは、教会の人脈、もといカレンの人脈を駆使して、名も知らぬ少女を探したことだったか。
とにかく、契約はあれども、人間関係までは専門外。
聖杯の監視と、アインツベルンの調査など外部からのものはなんとかしよう。だが、それだけだ。
「ふぅ、暇ね。半死半生の患者でも運び込まれないかしら」
ポツポツと独り言を溢しながらも、戸締まりをし、机の中から一冊のノートを取り出した。見た目こそ普通の大学ノートといった風だが、その表紙には、小さく
ペンを持ち、そのノートにすらすらと文字を綴る。
『7月4日
定時報告
・本日も異常なし。』
音を立てて椅子を回し、身体を校庭の方を見た。
太陽はもうすぐ沈む。
と、カレンは書いたノートを引きちぎり、そして、おもむろにそれをかざした。
すると、その紙に変化が起きた。
その綴られた文字が黄金に光り、際配列される。
その出来上がった
『
・
【選択肢1】美遊・エーデルフェルトは……
-
衛宮士郎(美遊兄)を男性として愛している
-
衛宮士郎(美遊兄)を兄として好いている
-
衛宮士郎(美遊兄)をどうとも思っていない
-
衛宮士郎(美遊兄)が嫌いだ