源氏物語、陽炎…じゃなかった蜻蛉日記などの古典において、女性の人間関係は複雑怪奇であり、男性諸氏において到底理解の及ばぬ範囲である。スイカを栽培する二重スパイのダンディな彼だって「女性は向こう岸の存在だよ、我々にとってはね。 男と女の間には、海よりも広くて深い川があるってことさ。」と言葉をこぼす。同時にその艶美な感触は時代や国境を越えて小説のネタにあり、また逆にその土壌から現在でもメディアのネタになり、現実でもその関係は実際にありうる。
つまり何が言いたいのかと言うと、鎮守府は今日も修羅場であるということだ(白目)
場所は食堂。時刻はある昼下がりのひと時。本来なら間宮の食事に舌鼓を打ち、和気あいあいとしているはずのその空間には殺伐とした空気が横溢していた。普段より一層ピリピリとした、いやバチバチ且つドロドロした空気。姫級?指先一つで終了です。
合図は「そういえば司令官。唐突ですが、私達の呼び方にこだわりってあるんですか?」と言うパパラッチの言葉。きっかけも語る必要があるが、そもそものこの鎮守府の経緯を話そうと思う。
この鎮守府はいわゆるブラック鎮守府と言うものであった。連続出撃、十分な休息も補給もなく、捨て艦戦法が常套手段と化していた状況。駒でしかなかった日々。幸いにも沈んだ艦がいなかったのは奇跡と言うほかないが、そのような中で表情は死に夢も希望もなく、感情などない方がよかったと思い、そして湧き出る提督と言う人間に対する不信と疑惑と、憎悪。果たして敵はどちらなのかと思っていた時、今の提督が着任した。前任者は私たちの命や他の生きる意味を踏みにじって昇進したらしいが、どうでも良い。今度の人間も同じなのだろうと思っていた矢先、その提督が発した言葉は、
「週休二日制にしようぜ。三食しっかり食べて、眠ること。まずは飯と掃除と休みから。」
「資材?君たちが心配することじゃないの。戦うのが君たちの仕事。体制を整えてしたくするのが私の仕事。」
一瞬何を言っているのかがわからなかった。疑う者やその言葉にすがりたい者。だけど、その言葉は信じられない。ゆえに、
「嘘言わないでっ!どうせあんたも私たちを駒のように扱うんでしょ?平和の為とか言いながら、結局自分のことばかり、いい加減にしてよ、私たちをなんだと思ってんのよ!今回の言葉も、どうせ少しでも効率よく使うためのきれいごと何でしょ?!」
息を荒げ叫ぶように言う瑞鶴。隣の翔鶴が止めようとするも、その言葉はこの鎮守府にいるすべての艦娘が感じていたことである。だから、止められない。ただ提督は当たり前のようにこう返した。
「前任者に対しては何も言えない。ただ、君たちが何者かはわかる。」
「君たちは艦娘だ。」
たったそれだけのことなのに、胸の重しがとれたような気がした。私たちの存在意義、存在理由、それの歯車がカチリとはまり、動き出した音がした。その音は唸りを挙げていくことになる。
数か月後、環境を整備し、艦娘と交流を徐々にしながら流れにのっていたある日のこと。駆逐艦の遊び相手名になる姿も見られ、信頼関係を築けていると思っていた日々、執務室を通りかかると、提督の電話をしている声が廊下まで響いてきた。耳をそばだてると、
「ですから、そのような指示には承諾しかねます。何卒再検討を。」
「地位を降格?どうぞご自由に。そのせいで彼女たちを無為に沈めないのであれば」
その後も静かながらも込められた怒りは膨大であったが、同時に胸に暖かなものが浮かんできた。
そして
「彼女たちは!俺の!誇るべき艦であり!愛すべき娘の!艦娘だ!」
唸りは轟音に変わった。私たちの提督はちゃんと見てくれる。大事にしてくれる。そこからは加速した。ほのかな思いは激情に、気が付いたら走り出していた。
「瑞鶴、ノックくらいちゃんと、」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
提督さんの胸に子どものように泣きつき、抱きついた。提督さんは何も言わず抱きしめ返してくれた。とても暖かった。彼の温もり、香、安心した。そしてこれは二度と手放したくない。手放してなどなるものか。この話は鎮守府中に広まり、方向性が決まってしまった瞬間である。(諦観)
駆逐艦をはじめ容姿が幼い艦は彼に甘え、戦艦や空母などは必要以上に密着し、飢えた狼は既成事実を作ろうとして迷彩柄の姉にギロチンチョップを食らった。
その後の状況が加速した一部をご覧いただこう。
「大井っちさー最近提督に近づきすぎじゃない?あんなに嫌っていたのに」
「あら、北上さんこそ頻繁に執務室にいりびたっているじゃないですか。」
「あら鳳翔さん、提督のお昼は私が用意するはずですが、どうなされたのですか。」
「ごめんなさい。間宮さん。昨晩居酒屋に来ていただいたときにお料理を褒めて頂いたものですから。お昼も食べてみたいな、と。」
「ジャガイモばかりの国は品が無いわね。」
「あら、パスタよりは長く味わえるのよ。知らなかった?」
序の口である。無論作戦中は共闘するものの、それはただ提督に褒めてもらいたいがため、自分だけを見てもらいたいためだけである。ややもすれば後ろから撃ち兼ねない空気さえあった。
そんな折である。提督が居酒屋鳳翔にて呑んでいた時だ。鳳翔は自分の前に特等席として目の届くところに提督を置き、呑兵衛どもは一瞬で席を殺りにきていた。そこでこう呼んだのだ。
「鳳翔『さん』。いつものをお願いします。」
「準鷹、ほどほどにな。ポーラも。」
心が彼に近づくまでは気づかなかったその一言。視線は交錯し、カウンターを境に勝敗が決した瞬間である。
「ッか~~~~ッ。良いねェ!今日はいい酒が呑めそうだ!鳳翔サン追加お願いします。」
「そうだな。貴様がいると良い酒が呑めそうだ。鳳翔サンこちらにもよろしくお願いします。」
コップが紙屑のようにひしゃげた。震源は鳳翔の手元である。
その時のことを提督はこう語る。
「何と言うか挟まれてた感じがする。」その通りだよ馬鹿野郎。
その後も各所で提督からの呼ばれ方に関する騒動がおき、今に至るのである。
「皆サーン、準備はいいデスカー?恨みっこナシでーす。」
「あら、似非外国人はそもそも呼ばれることがあって?」
「焼き鳥製造機は大将呼びがせいぜいデショウ?オリジナルが有りますよー。」
「っ…あ?」
「…ハッ。」
日常だなあ。今日はあのパパラッチと妖精さん監修のもと、全艦娘が提督の呼び方に対しての情報を受ける体制ができている。プライベート?無いよ。遠征や出撃任務に出てる艦娘も無線で聞ける状態である。チョコ混ぜながら戦ってるんだから余裕。
そして始まるのは聖戦である。提督から特別な呼び方があれば、この戦い我々の勝利だと拳を掲げられる。
「まず、基本的には艦の呼び方で呼び捨てだが、さんを付けるとしたら、一つ基準がある。」
「基準ですか?」
「飛龍と蒼龍だ。」
まず呼ばれたのは二航戦の2人。改二にもなり、容姿はいわずもがな体形は申し分なし。その胸部装甲に提督が目線が行くように仕向けているのは皆が知るところである。息をのむ二人。私たちが基準とは一体何か。
「同年代な感じがする」
よっしゃぁ!
「やったね飛龍!気安いってさ!」
「もしかしたら私たちが呼び捨てしても提督怒らないかも!」
盛り上がる二人をよそに視線は二人に向いていく。二人は調子に乗っているが視線に乗っているのは嫉妬である。
「もしの話をすれば、赤城先輩とか加賀先輩とか呼ぶかもしれないな。」
次に来たのは一航戦。
「やりました。さすがに気分が高揚します。鶴とは違いましたね赤城さん。」
「提督からまさか、…提督のことを君付けで呼んでみましょうか。良くできましたね、なんて。」
既に状況は一部が大進撃である。ただ、慢心はしてならない。
「逆に、鳳翔さんや間宮さんを呼び捨てにできれば、なんか女性として考えられるのかもしれないな。」
「……。」
「……。」
「鳳翔さん、私の考えてることわかります?」
「間宮さん、手を組みましょう。」
「まずはそこからですね。」
「ええ、そこからです。」
「(それからは早い者勝ち。あとで裏切ればいい。)」
交わされる堅い握手。ミシミシ言ってるが気にしない方向で。
ただでさえ手ごわい二人が手を組み、より強大な敵になった。
「一つは武蔵と陸奥、もう一つは金剛型が思いついた。」
「きたか。やはり伊達ではないぜ。」
「あら、あらあら。お姉さんは何て呼ばれるのかしら。」
妹二人が呼ばれる中、姉二人は膝をついている。
「武蔵はむっちゃんで、陸奥はむーちゃんだと思う。」
「むっちゃん。むっちゃん。良いな。痛快だ。むっちゃんはここだ。」
「むーちゃん、か。なんか恥ずかしいけどいいわね。今度呼んでもらおうかしら。」
「なぜだ、提督。わたしだってながちゃんはありだろう!」
「大和ではダメなのでしょうか提督。ホテルの用意もありますのに。」
「あ?」
「ちっ。」
そしてもう一方。
「キマシター!私達デース!」
「気合!入れて聞きましょうお姉さま。」
「緊張してきました。いえ、なんと呼ばれようと受け入れます。榛名は大丈夫です!」
「これは予想外、さすが司令です。」
金剛型四姉妹は古くから鎮守府を支える戦艦である。長姉は自他ともに認める提督LOVE勢だし、二番目のヒエー隠せてないがLOVE勢である。三番目と四番目は以下同文。実は裏でギスギスしているが、提督の前では仲良し四姉妹であり、提督からはいいなあと思われている。
「「ハル―」とか、先輩だったら「ハルさん」とか」
「ハル―でもハルさんでも榛名は大丈夫です!!ええ、は・る・なは大丈夫です!」
ことさら自信を強調する榛名。他の三人に対しては愉悦の表情である。逆にさん付けされた長姉は「金剛さん…ヒデェ……あんまりだ……ッ!こんな、こ、これが人間のやることかよォッ!!」と涙を流し、ヒエーは「むしろ、そこからこう、突破できそう」と腹黒さも全開である。霧島?いじけてる。そして最大の爆弾。
「ハルナって普通に女性の名前だから、実は意識してしまったよね。女性として。」
もう榛名山噴火ですよ。一瞬で改二の服装になり執務室にいざゆかん、榛名、参りますと扉に走り出そうとしたところを同じく改二になった霧島に足をかけられ、比叡にラリアットをされ、金剛に縛られた。この間、僅か0.5秒である。しかし、
「榛名は大丈夫です。意識されてますから!」
試合に勝って勝負に負けたとはこのことである。あ、金剛が榛名の顔に落書きしてる。
やはり、今日の鎮守府も修羅場である。
後半息切れした。他にも少し案はあるけど気が向いたら書きます。