主力部隊が5時間かけた道を巨人を多く倒しながら、わずか30分で門から1km手前までたどり着くと、背負っているリュックを下ろした。
しゃがみ込み、リュックの中から短い刀身とガスボンベを取り出してそれぞれ補充する。最後に水の入っている革袋を取り出して水分補給をすると、リュックと水の入った革袋を放り投げ、一気に走り出して門をくぐった。
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・。巨人がこんなにも入ってる・・・」
門をくぐり、屋根へと登ったカエデは息を切らせながらあたりを見回すとか、なりの数の巨人が歩いているのが見えた。
――来る途中で撤退の鐘がかすかにだけど・・・聞こえたからみんな撤退できたのかな?でも・・・もしものことがあるかもしれないから探そう
そう思ったカエデは取り敢えず集中して周りをよく見わたす。
すると遠目に何かが空中から市街地へ落ちていくのが見えた。
――あれ・・・?いま何かが家と家の間に落ちていった!!もしかしてまだ人が!?
その結論に至ったカエデは屋根の上を全力で駆け出す。
そして走り出したカエデの目に、何かが落ちた場所に巨人が近づいていくのが見えた。
――落ちた場所に巨人が!!
ガスを少量噴射させることでさらに加速する。
そして落ちたものが何であるかを確認できたとき、カエデは驚愕する。
そして、落ちたものに巨人が手を伸ばしているのに、落ちたもの――落ちた人物が動かないことに焦りが生まれた。
――あれは!?あれはミカサ!?どうして!?どうして座り込んだまま動かないの!?
そう、落ちた人物はミカサだった。そして、いまカエデの目に見えているように巨人を目の前にして動かないなんて彼女らしくなかった。
「ミカサ・・・ミカサぁあああああ!!立ち上がって!!立ち上がってよ!!」
ビクッとしたミカサはカエデの姿を見るなり決意の篭った目になり、迫ってきていた巨人の手を自らが持っていた半分ほどに折れた刀身で切り飛ばした。
「よしっ!!今行くよミカサ!!」
――ミカサを狙っていた巨人・・・。さらにミカサをはさんで15m級の黒髪の巨人・・・。
カエデ2体の巨人をどのように倒そうかと考え、残り20m程になったところであることに気づいた。
――あの15m級の巨人・・・ミカサを一切見ないで目の前の巨人だけを見てる・・・。あの動作・・・まずいあの巨人奇行種だ!!拳を放つために、思い切り地面を踏み込もうとしてる!!
そう考えたときにはカエデは瞬速を使い、一気にミカサを15m級の黒髪の巨人が踏み込んだ足に当たらないように抱きかかえ、そのままその場所10mほど黒髪の巨人から離れた。
◆◆◆
ミカサSide
カチッカチッと操作装置のトリガーを引き、ちょうど良い距離にアンカーを射出し、刺さったことを確認すると同時にガスを噴射させて移動する。
私はガスの残り少ない訓練兵が、ガスの補給所に向かえるために先陣を切っている。
エレン―――。私の家族で私が失いたくない存在の1つ。エレンが巨人に殺されないように私は努力したし、エレンに少し強く当たった。
先陣を切る前、私は信じられない言葉をアルミンから聞いた。・・・・・エレンが戦死したと。
私は何をやっているのだろうか。なぜ・・・なぜエレンのそばにいて、守ってあげられなかったのか。私はエレンを守るためにエレンと共に訓練兵となったのに・・・。
バシュッ
ガスが切れた音がした。なんだ・・・アルミンに冷静になるように言ったのは私なのに、私が一番冷静じゃなかった。ガスボンベの中身が少ないことは分かっていたのに、無駄遣いしすぎてなくなった。
屋根にぶつかる・・・。受身をとらなきゃ・・・。
ガンッ
「グゥッ・・・」
ゴロゴロゴロ――――バスンッ
あぁ、私は運がいい。ちょうど積まれた荷物の上に落ちることができた。
足を荷物から出し、ストンと通路に降りて膝をつく。
胸がズキズキしてなにもやる気が起きない。そういえば・・・お母さんとお父さんが死んで、賊に攫われたときもこんな感じだった。あの時はエレンとエレンのお父さんに救われたんだ。私はここから立ち上がれるのだろうか・・・。
ズシン―――ズシン―――
巨人の足音が地面を伝って私に響いてくる。
私の人生もここまでだなぁ。
あぁ、この世の中は・・・残酷だ。
でも・・・。
私の家族は殺されてしまったけれど・・・。
いつも私と行動してくれて、私がつけているマフラーをくれて人の暖かさをおしえてくれる・・・エレンという新しい家族ができた。
よくいじめられていたけれど頭が良くて心やさしい・・・アルミンという友達が出来た。
いつもにこにこしていて私の心をいつも温めてくれた・・・カエデという親友ができた。
――――― この世の中は残酷だけど・・・・美しい。
・・・・カエデ。ダメだ、私は生き延びなければならない。私はあの脆い彼女を支えなきゃいけない。
ここで諦めて死んでしまったら、カエデはきっとわんわんと泣きながら私の胸を叩くのだろう。それは・・・その叩く手きっと痛いだろう。もしかしたらその叩く手が強すぎて生き返ってしまうかもしれない。
でも、目の前と後ろから15m級の巨人が来ている。ガス切れで立体起動装置が使えない今、私にこの状況を打破するなんてことは不可能だ・・・。
どうすれば・・・どうすれば・・・。
「ミカサ・・・ミカサぁあああああ!!立ち上がって!!立ち上がってよ!!」
!!!・・・・・カエデ・・・カエデが来てる!!カエデがいるならどんな状況でも打破できる!!
戦おう・・・!!エレンが賊に捕まってしまった時のように!!
落ちた時に半分に折れた刀身がついた操作装置を握り締め、目の前から手を伸ばしてきた巨人の指を切り飛ばす。
「ウッ・・・」
突然体に圧力が加わって思わず声を出した。でもこの圧力は、巨人の手なんかじゃない。
カエデに抱きしめられてる。カエデは相変わらず速いなぁ・・・。
そして私が先程までいた場所に、後ろにいた巨人の足が地面を抉りながら踏み込まれていた。
また救われちゃったな・・・。
◆◆◆
10mほど離れたカエデはミカサのあちこちを、手で触りながら怪我をしていないか確かめる。
「ミカサ!!ミカサ!!大丈夫!?怪我はしてない?」
「う・・・うん。カエデどうしてここに?」
「巨人が北上している報告を受けて急いで戻ってきたんだ。それよりあの奇行種・・・」
「うん・・・巨人を攻撃してる」
あたらめて奇行種の方を見てみると、地面が抉れるほど踏み込んで強力な一撃を巨人に打ち出して顔を吹っ飛ばしていた。さらに倒れた巨人のうなじのあたりを2度3度踏み潰すことで止めをさしていた。
「ミカサ!!・・・とカエデさん!?」
「おーい アルミン!!ミカサは無事か?・・・・・!?もしかしてカエデさんですか!?」
カエデは上の方から声がしたので上を見てみるとアルミンと丸坊主の少年―コニー・スプリンガーが降りてきてこちらに走ってくるのが見えた。
「アルミン久しぶり!アルミンも怪我はないね!!よかった・・・。そちらの人はコニー君だよね?」
「久しぶり・・・なんでここに?」
「それもそうだけどなんで俺の名前を!?」
「アルミン君それは・・・また今度!!コニー君の名前を知っているのはエレンとミカサから来た手紙に書いてあったからだよー!」
アルミンに説明するのがめんどうだったのか、また今度と言って話を変える。エレンとミカサから届いていた手紙に書いてあったコニーの情報は『小柄で坊主』であった。そのため、カエデは一目でコニーと分かることができたのだ。
「ミカサ!!お前いいやつだな!!あっ!カエデさん!俺のことはコニーでいいですよ!」
「そう! じゃあ私もカエデでいいよー!ところでエレンはもう撤退したのかな?」
「「「・・・・」」」
カエデのその発言で一気に沈黙が走る。先程まで盛り上がっていたコニーも下を向いて何も話さなかった。
「あれ? あれ? なんなんだろこの空気!!わ・・・私エレンを・・・エレンを探して――」
「カエデ・・・エレンは死んでしまった。アルミンが言うには片腕と片足を噛みちぎられて飲み込まれてしまったらしい」
みんなの沈黙でエレンがどうなってしまったのかを想像できてしまったカエデは現実を否定しようとその場を離れようとするが、ミカサに現実を突きつけられてしまう。
「ミカサ・・・ミカサ・・・そんなの嘘だよ。嘘じゃなきゃいやだよ・・・。嘘っていってよ・・・ねぇ?」
カエデはミカサの肩を掴んで半泣きの状況でもう一度聞いた。
「カエデ 嘘じゃない」
「でも・・・でも!!片足と片腕をちぎられてあとは飲み込まれただけならまだ生きてるかもしれない!!巨人の胃に入ってもすぐに死んでしまうわけじゃないから!!アルミン君!!エレンを飲み込んだやつはどんな巨人?」
「頭のてっぺんがハゲてて、ヒゲを伸ばしてる太った巨人だけど・・・そんな!? 今から探すの!?」
「当然!!」
「カエデ・・・待って。今、私たち訓練兵は撤退命令が出たのにも関わらずここにいるのはガス切れが原因。そしてそのガスを補給しようにも補給本部に巨人が群がっているために入れなかったところを全員で強制突破で向かっている。常識的に不可能なことを私が・・・私が訓練兵を向かわせるようにしてしまった。カエデには彼らが生き残れるように手助けをして欲しい・・・」
「でも・・でもそのあいだにもエレンが!!」
「わかってる!!私だって生きている可能性があるなら助けたい!!でも・・・今は確実に救える命が多くある!!助けたあとに私も全力で・・・探すから・・・。お願い・・・カエデ助けて・・・」
カエデは正面から肩に手を乗せて、必死にお願いしてくるミカサを見て決心する。
「・・・わかった。すぐに彼らを助けてエレンを探す!!」
「カエデありがとう」
「カエデさんありがとう。まずミカサは僕のガスボンベとミカサのガスボンベを取り替えて。それから刀身も・・・。カエデさんがいるなら大丈夫かもしれないけど・・・。僕に作戦がある――」
「一刻の時間もおしい・・・。アルミン君教えて!」
アルミンは、まっすぐと3人を見て頭の中で作り上げた作戦を話す。
「うん。作戦だけど・・・あの巨人を殺す15m級の奇行種を利用しようと思う」
「巨人を・・?」
「うん。あの巨人は本能で戦っていると思うんだ。こうして話しているあいだもこちらには興味を示さずに近くの巨人を倒すために向かっている。近くにいる巨人がいなくなれば自然とあの巨人が群がる補給本部に向かうはずだ」
「そんな成功するかもわからない作戦ができるか!!」
コニーがアルミンの案を切り捨てるように否定の意を示す。
「でも・・・そんなこと言っている場合じゃない!!早く巨人たちを倒すためにも利用できるものは利用していかなきゃいけない状況なんだ!」
「だけどよ・・・」
「私はアルミン君の案に乗るよ」
「私もアルミンの案に乗ろう」
「・・・わかったよ!!それでどうするんだ?」
「カエデさんには悪いけど先に言ってなるべく補給本部までの道の近くの巨人を数体残しながら殲滅してくれるかな?それでこの奇行種がそこの近くまで行ったらミカサが倒すか奇行種に倒してもらう。そうすることで短時間で補給本部まで行けるはずだ」
「わかった!!じゃあ私は行くね!!ミカサ、アルミン、コニーまたあとで会おうね!」
そう言って荷物の山を足場にしながら屋根に上がったカエデは補給本部までの道に沿いながら走る。
――道の近くにいる巨人は・・・12体・・・大きくて強そうなやつは倒しておこう。そうすると残り8体・・・追加で4体倒して4体残しておこう
そう考えたカエデは早速一番手前の巨人をスルーする。
――まず一体
続いて見えた15m級と10m級の巨人を倒すと決める。
15m級から伸ばされた腕を縮地で一気に15m級の真横まで移動することで避けたカエデは、屋根から跳び、さらにガスを噴射させることで15m級の肩まで飛び乗り、その肩を踏み込んでうなじを削ぎ落としながら道をはさんだ向かい側の家の屋根へと飛び移る。
そしてまた縮地を使い、少し奥にいた10m級の真横に移動して―――
という具合に普通の巨人には知能がないことを利用して、確実に・・・そして最も安全に倒せる方法で、あっという間に計8体の巨人を倒しながらカエデは補給本部の近くまでたどり着く。
そこでカエデの視界に、腕をクロスにしながら補給本部の2階の窓に飛び込んでいく訓練兵達が見えた。
―――そんな一気に同じ場所に飛び込んだら・・・そこに巨人が集まる!!
カエデが思ったとおり、近くにいた巨人たちが訓練兵の飛び込んだところへと向かおうとしていた。
――命懸けでここまできた訓練兵の努力を無駄になんかさせない!!
補給本部に集まろうとしている巨人は、自然とカエデに背を向けている状態だ。
それをうまく活用し、複数いる巨人の肩から肩へと次々飛び移りながら、すれ違いざまにうなじの部分を削ぎ落としていく。
まだ近くに数体の巨人がいたが、ちょうど15m級の巨人を殺す奇行種がこの場についたのを見て、近くの巨人を任せることにした。
そしてカエデは中でなにやら言い争っている訓練兵の元へと行くために、既にガラスを割られている窓から中へと飛び込んだ。
「っ!?!?・・・・カエデ・・?」
急に新たな人が補給本部に飛び込んできたことにビクリとした青年―ジャン・キルシュタインは飛び込んできた人物の名前を確認のために呼んだ。
「ジャンじゃん!久しぶりじゃん!・・・3年前急にいなくなったと思ったら訓練兵になってるじゃん」
「カエデ・・・相変わらず俺に対してはじゃんじゃんうるさいな・・・。どうしてお前がここに・・?」
ジャンはトロイア区出身で、カエデは5年前に彼と知り合い、それからたまに会った時に数回だが遊んだことがあった。急に3年前に姿を見せなくなったので心配をしていたが、エレンから来る手紙に彼のことが書かれており、その手紙が来たときほっとしたのだった。
「簡単に言うと援護のために来たじゃん?あぁ・・そうだ・・・私は今からここにいる巨人をあの巨人を殺す奇行種と共に殲滅する。時間がおしい・・・私にはこれからすることがあるから」
話の途中でエレンを早く助けるために、近くの巨人を倒さなければならないことを頭の中で再確認したカエデは真剣な口調になり話をした。
「なっ!? お前・・・!?」
そこで、腕をクロスにして窓ガラスを割りながらミカサとアルミンとコニーが飛び込んできた。
「うまくいったぞ!!あぶねぇ・・ちょうどガスが切れた アルミン!!お前の作戦は成功だぁ!!」
「痛いっ、痛いよコニー!」
コニーは嬉しさのあまり、アルミンの背中を叩きながら褒めちぎる。
叩かれた本人であるアルミンは痛そうに顔を歪めていたが・・・。
「ミカサ・・・お前生きてたんだな」
ジャンに言われ、ミカサは頷くことで肯定した。。
「じゃあ 残りの説明は彼らから聞いて。私は外の巨人を殲滅するから。ミカサ、ガスの補給を終えたあと、私がまだ巨人の殲滅が終わってなかったら手伝いに来て欲しい」
「うん、わかった。すぐに行く」
「カエデお前1人だけじゃ――」
「ジャン、カエデの実力をよく知らないあなたがカエデを止めてはいけない。カエデは強い、絶対に大丈夫」
「ミカサ・・・私を信じてくれてありがと!。じゃあ待ってるからー!」
後押しをしてくれたミカサにお礼を言うと、カエデは入ってきた窓から下へと飛び降り、真下にいた巨人のうなじを縦に削ぎ落としながら地面へと着地をする。そしてスっと立ち上がったカエデは、周りの状況を確認する。
――右に小さい巨人も合わせて5体・・・そちらは15m級の巨人を殺す奇行種に任せよう。私は左にいる4体の巨人を殲滅する!!
まずは5m級の巨人。伸ばしてきた手を余裕をもって避けながら背後に回り込み、ジャンプをしながら巨人の背中からうなじ部分までを縦に削ぎとる。
――まずは1体
次は7m級と10m級のやせ型の巨人。2体は前かがみになりながら両手を前に出し、カエデを掴みにかかろうとする。カエデはまず10m級の巨人の股下に潜り込み、一気に両足首を切断する。そのまま股をくぐり抜け、両足首を切られれたことで自らの体重を支えるものがなくなり、地面に倒れ込もうとしている10m級の巨人の背後にまわる。そしてその体が傾いている10m級の巨人の背中へとジャンプしたカエデは、そこから背中を踏み込んで一気にうなじまで跳んでうなじの部分を削ぎ取った。
削ぎ取った直後に10m級の巨人の高さを利用し、7m級の肩まで跳んだカエデはそのまま7m級の巨人のうなじも削ぎ取った。
――あと一体
これから崩れ落ちようとしている7m級の肩の上にいるカエデは一度鞘に刀を戻すと、太もものベルトにさしてある短い刀身を操作装置に付け替え、7m級の巨人から最後の12m級の巨人の方へ行くため、アンカーを首あたりに射出しながら刀身を巨人の眼球へと投擲した。
ガスを噴射させながらワイヤーを巻き戻すことで、呻き声を上げている巨人の首元へと着いたカエデは素早く鞘に操作装置を戻して刀を付け、巨人のうなじあたりを抜刀術で大きく削ぎとり、そのまま着地へと向かった。
5m、7m、10m、12mの巨人4体を倒し終えるまでわずか15秒。
――ミカサに援護お願いする必要はなかったなー・・・
そう思いながらカエデは髪を耳にかけながら立ち上がる。そして辺りを見回し、補給本部の入口から奥の方をよく見てみると、数体の巨人が入り込んでいることが分かった。
――補給室は1階だったはず・・・。この巨人達も殲滅しなきゃガスの補給はできないね。
その考えに至ったカエデは堂々と入口から補給本部へと入っていく。
――うわっ。小さいけど7体もいるじゃん。だけど・・・上下左右、壁に囲まれている室内・・・。さらに等間隔で柱が何本も立っているここなら私の得意なステージだね。ここならどんなやつにも負ける気がしない!
カエデはすぐ近くにある柱までジャンプし、その柱を壁蹴りジャンプで近くにいた巨人の真上の天井まで跳ぶ。さらにその天井を蹴り飛ばし、真下の巨人のうなじを縦に削ぎ落しながら地面に着地。そしてまた近くの柱を壁蹴りジャンプして天井へ。その動作を途中からガスの噴射も利用してかなりの速度で繰り返した。
それはまるで狭い空間で思い切りゴムボールを投げつけたように、壁に当たっては跳ね返り、また違う壁に当たっては跳ね返る、そんな動きだった。ただ違うのは、その動きはただ跳ね返るのではなく、目標に向かって跳ね返る――計算されている動きだった。
20秒後――7回目の、バタンという巨人が倒れる大きな音がする。そしてその場に立っているのはカエデただ1人となっていた。
カエデは刀に着いた血を振り払い、刀を鞘にしまう。すると、上からガラガラと音を立てながら1階と2階を行き来するものだと思われる箱の乗り物がゆっくりと降りてきて、その箱の中には銃を持った30人ほどの訓練兵が乗っていた。
そして作戦だったのか、箱を中心とした6方向から武装した訓練兵達が降りてきた。
降りてきた6人はミカサ、コニー、ジャンそして黒髪をポニーテールにしている女性―サシャ・ブラウス、金髪で動きやすい髪の留め方をした女性―アニ・レオンハート、強靭な肉体をもった金髪の男性―ライナー・ブラウン、かなりの長身で黒髪の男性―ベルトルト・フーバーだった。
ミカサはあたりを見回しながら7体の巨人が蒸発していくのを見て、カエデがやったのだと確信を持ちながらも聞いた。
「カエデ・・・。これはカエデが?」
「そうだよミカサー。みんなが降りれないと思って殲滅しておいたよ」
「まじかよ・・・。カエデお前・・・。俺の想像以上にすごいやつだったんだな」
「やめてよジャン!照れるじゃん!」
「・・・はぁ もういいや」
いつも通りのカエデにちょっとほっとしがら呆れるジャン。
「みなさん 巨人は倒しました。早く補給室に行ってガスの補給をしましょう」
その言葉ではっとした訓練兵達は次々と補給室に入ってガスの補給を始める。
カエデもいっしょに行ってミカサの補給が終わるのを待つ間に自分のボンベの補給もしながら話し始める。
「みなさん挨拶遅れました。何人かの人は知っているとは思いますが、私の名前はカエデ・サクライ。調査兵団に所属しています」
誰もが――カエデという名前を知らないわけ無いだろ――と思いながらも言葉に出さず、ガスを入れながら頷いただけであった。誰もがこの状況で早く脱出したい気持ちでいっぱいなのだろう。しかし、その表情は希望に満ち溢れていた。
カエデはガスボンベにガスを補充しているアニを発見し、走って駆け寄る。
「あっ! アニだ!!久しぶりだねアニ!!
「・・・久しぶり」
「アニが・・・アニがまた冷たいアニに戻ってる!!訓練兵になる少し前はもう少し明るかったじゃん!」
「そう?」
「そうだよ!!いい笑顔で笑っていたのが嘘みたいだよぉー」
「え!?このアニが!?グハッ!!」
ジャンが驚いて、つい声に出してしまった途端にアニがジャンの腹部を蹴り飛ばした。
みんな驚きたいのだがその光景を見てしまったがために静かなままである。
「カエデ。私の補給は終わった。エレンを探しに行こう」
「よし!行こうか!!絶対生きてるよ!!みんなまた会えたら私とおしゃべりしてください!じゃあね!アルミン、ジャン、コニー、アニ!!あと・・・ライナーとベルトルト・・だよね?」
「おう!覚えてたか・・・。数回話しただけなんだがな」
「あはは・・・。僕とライナーはおっきいからきっと印象に残ってたんだよ。いや・・・その前に僕は幽霊と間違えられたんだっけ・・・。まあ今はいいよね。カエデ助けてくれてありがとう・・・またね」
「うん!いこっ!ミカサ!」
そう言うとミカサとカエデは走って入口から出て行く。
訓練兵達はエレンはもう死んでいるんだ・・・手遅れだよ――と言いたかったが、カエデの少し無理している笑顔と必死さを見て何も言えず、カエデとミカサを見送った。
外へ出たカエデとミカサは高い所から周りを見渡すために補給本部の屋根へと登った。
それとほぼ同時にガスの補給を終えた訓練兵達が入口から出ていき、壁を上るために壁の方へとガスを噴射して向かっていった。
その中からアルミン、ジャン、アニ、ライナー、ベルトルトはカエデ達のところへ来た。
「カエデさん! ミカサ!」
「・・?アルミン君 どうしたの?」
「僕も一緒に探そうと――。あ・・・あの巨人は!? トーマスを喰った奇行種!!」
カエデはアルミンが見ている方向を見ると、15m級の巨人を殺す奇行種が、先程までいた5体を無事に殺し終え、先程はいなかったエレンと同じ班であったトーマスという人物を食べた奇行種と戦闘を行い、たった今頭を吹っ飛ばしてうなじの部分を握りつぶしているところだった。
「あの巨人を殺す奇行種・・・役目を終えたというように崩れ落ちていくよ・・・」
巨人をただ殺すだけだと思っていた奇行種は、トーマスを殺した奇行種を殺したあとは行動をやめ、やがて膝から崩れ落ちる。そして他の巨人達と同じように少しづつ蒸発していった。
「ミカサ達を無事に運んで切れたあの巨人には感謝しなきゃね・・・。じゃあ私は先に探しにいくね!」
そうミカサに言い、その場から離れてまだ生きているかもしれないエレンを探そうと補給本部の屋根の上から飛ぼうとする。
「カ・・・カエデ!! カエデ待って!!」
「ミカサ? どうしたの?」
カエデはミカサに大声で呼ばれたことで飛ぶのをやめ、ミカサの方を向いた。
すると突然ミカサはアンカーを射出し、巨人を殺す奇行種の元へと走っていく。普通じゃないミカサを見て、カエデもミカサのあとを追うために巨人のいる方へと飛び降り、後を追った。
カエデはミカサが向かう先――蒸発を始めた奇行種の元を見てみると、蒸発して溶けていくうなじの部分の肉から、かすかにだが人間が出てくるのが見えた。
その人間は巨人が頭から蒸発していったことから、まず上半身が巨人から引き離されて顕になった。そして意識がないのか背筋を伸ばしたままで全く動く気配がない。
ミカサはその人間の近くまで行くと、巨人から出てきた人間が誰であるのか確信したのか、蒸発している巨人の上によじ登ってその人間に抱きついた。
「エ・・・エレン!!」
「え・・・?」
カエデはミカサがその人間に抱きついたのを見て、その人間をよく見てみると自分がよく知っている・・・自分が今から探しに行こうとしていた人――エレンだった。
「うぅ・・・うわぁぁあああああん!!」
「エレン・・・エレンよかったぁ。・・・よかったぁ。うぅぅ・・・」
ミカサはエレンの心臓が動いたのを確認したと同時に泣き出し、カエデはミカサとエレン2人に抱きつき、息を殺しながら泣いた。
心のそこではどこか諦めていたエレンの生存。そんなエレンがしっかり生きて目の前にいることが信じられないほど嬉しかったのか2人は5分ほどずっと泣き続けた。
しばらくしてカエデ、意識のないエレン、ミカサ、アルミン、ジャン、アニ、ライナー、ベルトルトは補給本部から少し離れた高い建物の屋根の上にいた。
アルミンはミカサに抱きしめられているエレンの左手と左足をみて唖然としていた。
「一体・・・一体エレンになにが・・!?」
アルミンが見た先には噛みちぎられてないはずの左腕と左手がちゃんとついていて唖然とする。それもそうだろう、目の前で左足を巨人に噛みちぎられ、目の前で自分をかばって左手を失うところを見たのだから。
「エレンになにかあったのは確かだと思う・・・。けど・・・けどエレンが生きていた・・・今この瞬間だけはそれだけでいい」
泣き止み心を落ち着かせたカエデはそうアルミンに言った。
「そうだね・・・」
「じゃあ 取り敢えずみんな壁を登ろう!!きっとみんな待ってるよ!!」
「そうだね!!」
「ミカサはエレンを背負って登れる?」
「うん」
「よしっ! アニ、ライナー、ベルトルトは怪我はない?」
「「「うん」」」
「なら登ろうか!!」
「俺は!?!?」
「ジャンは心配するだけ無駄じゃん?」
「うっ・・・」
「あははっ! 冗談じゃん!行くじゃん!!」
「おぅ・・・」
ありがとうございましたっ!