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◆◆◆
そして遠征当日―――
今回の遠征ではトロスト区の門は大岩によって防がれているためにウォールローゼの東から出ているカラネス区から出発し、シガンシナ区まで遠回りしていくことになる。
現在、調査兵団一行はウォールマリアへと続くカラネス区の門の前にいた。カエデとエルヴィンを先頭として、リヴァイ、ハンジ、エレンと続いて多くの兵士が集まっている。列の中央あたりには多くの馬車があり、今回の物資が多く積まれていた。
壁の上から外の様子を監視している駐屯兵から支持が出される。
「今なら門の前に巨人はいない!!開門30秒前!!」
それを聞いたエルヴィンは隣にいるカエデの方を見て、右手に拳を握ってカエデの方へ突き出した。
それに応えるようにカエデもその拳に自分の拳をつけた後ふにゃりと笑った。
「よし、カエデ最初はいつもどおりに頼むぞ」
「はい!!」
エルヴィンに言われたカエデは刀を鞘から引き抜き、門の目の前に立つ。
カエデの表情は笑った顔から真剣な眼差しになり、殺気のような威圧が漏れ出した。
「開門!!」
「第57回壁外調査を始める!!行くぞぉ!!!」
カラネス区の門が上がり、訓練兵から新しく調査兵団に入った者を含めた調査兵団は馬の手綱を引いて指示を出し、門をくぐり始める。
まず最初に先陣をきったのは準備を終えているカエデだ。助走を付け、一気に目の前に広がる市街地の一番手前の家の屋根の上にあがる。そしてあたりを見渡して走り出した。
それを見てエルヴィンを先頭に調査兵団が馬に指示を出し、スピードをつけさせて駆け抜ける。
「左前方に10m級が急接近――」
そう先頭付近を走る隊員が言った時にはすでにカエデによって巨人のうなじが削ぎ落とされていた。
まさに早業だった。削ぎ落とす深さ、位置、スピードどの点においても完璧で、新兵をはじめ、見慣れていない調査兵団の兵たちもその腰まで伸びる美しい黒髪をなびかせながら華麗に動くカエデを見て、見惚れていた。
「す・・・すごい・・・」
クリスタはそう口からこぼした。言わなかっただけで、カエデの実力を目で見たことない人は皆そう思ったことだろう。
毎回この仕事を行っているカエデだが、数体の巨人が様々な場所から来た時はさすがに対処できない。そういうときは調査兵団が市街地を駆け抜けるまでの時間稼ぎ、および討伐を任されている援護班によって引き付けられる。
調査兵団が市街地を抜けるまでに5体の巨人を狩り終えたカエデは隊の一番うしろをついてきている愛馬に飛び乗って隊に加わった。
◆◆◆
調査兵団一行は列を作ったまま市街地を抜けた。その列の一番後ろには周りを警戒しながら馬を走らせているカエデもいた。
「長距離索敵陣形!!展開!!」
市街地を少し離れ、平原に出たところでエルヴィンが指示を出す。それを聞いた調査兵団一行はそれぞれに任されている役割分担のために移動を始めた。
「うーん。・・・やっぱり右翼側だよね!!」
みんながバラバラに分かれている中、ポツンと1人だけになったカエデはそう呟くと馬に右側へ行くように手綱を引いた。
エルヴィンが考案した長距離索敵陣形の作戦内容は、極少人数の小隊が等間隔に離れて丸みおびた矢印の形に陣形を作る。その後、それぞれの小隊が周りを見渡し、巨人がいた場合は赤色の煙弾を打ち上げ、それを見た近くの小隊も伝達するように赤色の煙弾を打ち上げる。
その煙弾を見たエルヴィンが最も安全な進路を考え、その進路に向けて緑色の煙弾を打ち上げる。それをまた近くの小隊が同じように打ち上げてそれにそって全体が進むというものである。
ただ例外は、奇行種を見た場合は黒色の煙弾を上げた後、奇行種だけは狩ることになっている。そして、陣形を保つのが不可能なくらい打撃を受けた場合は黄色煙弾を上げる。
そして今、カエデは陣形の右翼側にいた。
なぜ陣形の右翼側にいるかというと、市街地を抜けたあとにすぐに中央へ行ったカエデはミカサがいる中央より、多くの友達がいる右翼側の方が何かあったときに不安だったからだ。
そしてどちらの班も中央に近いのだが、ミカサの近くにはリヴァイがいると言うのも理由の一つだった。
エルヴィンの指示に従いながらカエデは周りを見回しながら馬を走らせる。
「うーん・・・。特に何もないよねー・・・」
カエデが今いる伝達班と索敵支援班との間では特に何もなく、独り言をつぶやく。
基本的にこの陣形では索敵支援班が巨人と出会い、戦闘になるのだから何もないことはごく自然なことだった。もし出会ったとしても見えづらい場所にいたか、奇行種が索敵支援班を無視して中央へ移動してきたときくらいだろう。
「そういえば遠征に出る前にエルヴィン団長が聞いてきたのはなんだろう?」
◆◆◆
トロスト区奪還作戦時に捉えた巨人が何者かの手によって殺された日―――
ハンジが巨人が殺されたことに発狂している中、エルヴィンは同じ質問を調査兵団の兵士たちに聞いて回っていた。
エルヴィンは数人に同じ質問をした後、カエデの元へとやってきた。そして耳元で周りの人には聞こえない程度の音量で聞き始めた。
「カエデ。君には何が見える?敵はなんだと思う?」
そんなエルヴィンの質問に対してカエデはふにゃりと笑って
「私は自分の世界を守るために戦います。今までも、これからも!!」
「そうか、答えてくれてありがとう」
そういってエルヴィンは再び調査兵団の兵士達に話しかけに行った。
そしてすぐ近くにいたリヴァイがカエデの方へと向かう。
「その世界には俺はいるのか?」
「えっ・・・」
リヴァイのその質問にカエデは、ほんの少し頬を赤らめながらあちこち視線を動かす。
そしてそっとリヴァイの方を見てふにゃりと笑い
「うん!!・・・入ってるよ!」
「あ・・あぁ。そうか、よかった」
リヴァイは顔をカエデから逸らし、そう言うと足早にその場を去っていった。
◆◆◆
「ふぅー。おかしいな、私の服装じゃ暑くないはずなんだけどなぁ・・」
手を自分の方にパタパタとやりながら数日前のことを思い出していた。
そしてカエデは大きく息をはくと、まっすぐと前を見た。
――私も成果を残すために何かしないと・・・。
そう思ったカエデは、戦闘がありそうな右翼側の一番端の索敵援護班の元へと向うために馬を走らせる。
馬を走らせているカエデの目に、長距離索敵陣形の右翼側の一番端の班が見えたとき、遠くから重音の足音と共にいくつもの足音が聞こえてきた。
――この音は・・・?
多くの巨人の1つの足音だけ妙に重く、そしてどんどん大きくなっていくことに嫌な予感がしたカエデは右翼の一番端へと急ぐ。
――っ!?こ・・これはやばい!!
カエデの目に見えた光景は、引き締まった筋肉を持った15m級の女型の巨人、その後をおってきている数多くの巨人だった。その女型の巨人のスピードは凄まじく、あと数十秒程で一番近い班に到着するように見えた。
そして、一番端の班に着いたカエデは短い言葉で指示を出していく。
「みんなは下がって!!黒と赤の煙弾をあげて!!私がこの場をなんとかするから黄色の煙弾はいらない!!1人はエルヴィンに伝達をお願い!!他の2人は違う班に伝達をお願い!!狩ることはせず時間稼ぎをするだけでいいと!!」
「で・・・でも、1人で戦うのか!?」
この班の人はカエデの小隊にいない人だったのだろう。カエデへの認識が強いというものは分かっているがどれほど強いのか理解していなかった。
カエデはこの人たちが心配をしてくれていることはわかったが、今はそれどころじゃなかった。
「いいから早くして!!死にたくないでしょ!!」
「「「りょ・・・了解!!」」」
カエデの怒鳴り声にビクリを体を震わせたあと、素早く3人は馬に指示をだして中央へと向かう。
3人がそれぞれの役割を果たすために解散したのを見たあと、カエデは馬から降りて刀を構える。
「ふぅー」
カエデは深呼吸をしながら腰を低く落とす。
女型の巨人はカエデとの距離を150mとしたところでカエデの姿を目に捉える。他の調査兵団とは違う服装、違う装備をしているためにカエデだということはすぐに分かるだろう。
「――!?」
女型の巨人は一瞬目を見開いた後、急にまっすぐ走っていた進路を急に右斜め前方に進路を変えた。その急な行動は、明らかにカエデのことを知っていて警戒しているように見えた。
「え・・・?」
数多くの奇行種と出会い、見てきたが、人間を無視することはあっても、進路にいる人間を避けることはなかったため驚くカエデ。
――もしかして私のことを・・・知ってる?
そう思っている間にも女型の巨人はカエデを避ける進路で陣形の中央へと走る。
カエデは女型の巨人のスピードを目で測り、すぐさま最短の進路を導き出す。
「行かせないよ!!」
そう言って、カエデは低い姿勢のまま地面を踏み込んで女型の巨人の方へと走る。
女型の巨人とカエデとの距離は30m、20mと近づいていく。
そして10mに縮めたところで、カエデは右足で地面を思い切り踏みしめて縮地を行って、地面に着地した左足の真横に移動する。そしてそのまま左足のアキレス腱を削ぎ落とそうと刀を振る。しかし、その刀は宙を切った。
女型の巨人は凄いスピードで走っている間もカエデの方をチラチラと見て距離を目分量で測っており、10mとなったところで着地した左足をすぐさま地面から離しながら、前転をする様に前方へ回ることで避けたのだ。その避ける様は、まるでカエデの使う縮地を理解しているかのような完璧なタイミングだった。
「あなた・・・強いね」
そう呟きながらカエデは宙を切った刀を腰を落としながら鞘へと戻し、代わりに太ももにつけている短い刀身を操作装置につける。そして前方へ回っている女型の巨人の前まで一気に駆け出し、女型の巨人が顔を前へ持ってきたところで、目に向けて短い刀身を投擲した。
女型の巨人は回転しながら目に迫ってくる刀身をすぐさま右手を硬化させながら目を覆うことで防いだ。
一方のカエデは投擲したあとすぐに再び太ももから短い刀身を操作装置に取り付け、そして今度は首筋へと投擲した。女型の巨人は部分的に意識することで硬化するのか、首筋に投擲された短い刀身は見事に突き刺さった。
傍から見れば短い刀身は目を潰すときに使うものであり、首筋に突き刺さった刀身は手元が狂ったと思うだろう。しかし、この後すぐに女型の巨人が行った行動を見ればカエデが何を狙ったのかわかるだろう。
右手で視界を塞いでしまった女型の巨人は、首筋に刺さった物が刀身ではなくアンカーだと勘違いし、うなじにすぐに迫ってくると思ったのか刀身部分に手を握るように置いたのだ。おそらくワイヤーを掴んで近づかせないようにしようと思ったのだろう。
――作戦通り・・・
右手をどける前にカエデは女型の巨人の足元に潜り込んだ。そこで右手をどかして前を見ることができるようになった女型の巨人はすぐさまカエデの居場所を探そうとするがどこにもおらず、キョロキョロと見回す。
その間にカエデは両足のアキレス腱を削ぎとる。そしてしゃがみこんでいる女型の巨人の太ももへ跳び、その太ももを踏みしめてうなじ部分までガスを噴射しながら跳躍する。そして刀を一気にうなじ部分を削ぎ落とすために振り下ろそうとする。
しかし、カエデは一瞬見えた女型の巨人の顔によってその行動は中断された。
「え・・・・?」
カエデは振り下ろす刀の軌道を無理やり変え、そのまま女型の巨人を飛び越えた。
――この女型の巨人・・・泣いてた・・・
カエデは目の前にいる女型の巨人の顔に何処か見覚えのあるような気がした。そして目からスっと涙が頬を伝っていくのを見て、本能的に殺すのを中断したのだ。
中断したものの、カエデはこの女型の巨人を先に行かせるわけにはいかないため、足の修復が終わる前に女型の巨人の進路の前に立ちふさがった。
「あなたがなんで泣いているかはわからない・・・。そしてなぜ私から進路をそらしたのかもわからない・・・。けど私はここから先通すわけにはいかないんだ。この先には・・・友達がいるからさ・・・」
そう言ってアキレス腱の修復が終わり、立ち上がった女型の巨人に刀の先を向ける。
それに応えるように女型の巨人も右手と左手に拳を握って顔の前で構えをとる。
そしてそこから女型の巨人との戦闘が始まった。
「・・・・・」
女型の巨人の右拳のフェイクからの鋭い左足がカエデに迫るが、それを予想していたカエデは斜めに飛びながらうまく体をひねって躱す。
躱されることをよんでいたのか、女型の巨人は素早くしゃがんで、飛んでいるカエデを払い飛ばすように右足を繰り出す。それすらもよんでいたカエデは爆発的にガスを噴射させ、地面に張り付くことでギリギリ躱す。
「そう・・・なんだ」
カエデは小さくそう呟きながら、女型の巨人から放たれた左足を軸とした右足のローキックを自らの脚力とガスの噴射によって飛ぶことで避ける。すると女型の巨人は右足を戻さずにそのまま軸として、後ろに体を捻って左足の回し蹴りをカエデにいるところに繰り出す。この攻撃は女型の巨人が体を捻り始めた時にはカエデは真下にアンカーを射出しており、回し蹴りが自分の元へと来る前に引き戻すことで回避した。
カエデの実力ならばすれ違いざまに足を切り落とし、その後に殺すこともできたはずだ。実際、先ほどの戦闘は20秒たらずで決着がついていたことから明らかだ。だが、それをしなかったのは、カエデはこの女型の巨人が構えた瞬間に気づいてしまったのだ。この女型の巨人が誰なのかを。そして、そのことに気づいてしまったカエデは、巨人が修復する能力を持っていると分かっていても刀を振るうことさえしなくなった。
―――アニ・・・。
最初の攻撃は私との訓練で何度も見せてくれたよね・・・。
次の攻撃は始めて会ったとき・・・。
刃を先に向けたのは私だけど・・・。
できないよ・・・。アニを傷つけるなんて私にはできない。
そうカエデが思っているあいだにも様々な攻撃が繰り出される。どれもカエデは見たことのある攻撃で、少し余裕を持ちながら避ける。
――アニを追ってきた巨人がそろそろ追いつくね・・。
カエデはそう思い、攻撃を避けながら見回す。視界に入っただけでもその数20、きっと30体は近くにいるのだろう。しかも、女型の巨人――アニと比べて普通の巨人だっただけで、ほぼすべての巨人が奇行種だった。
――他の巨人なんて木だ・・・木だと思おう。
私の近くには木がいくつも立っている。
木から生える2本の枝は危険だから避ける。
カエデはそう思いながら一瞬目を閉じ、巨人達を木だと思い込む。こうすることでなるべくアニの攻撃に集中する。
「よし・・・」
カエデは再度刀を握り直し、アニの蹴りを後ろにいる10m級の巨人の頭にアンカーを射出し、引き戻すことで避ける。途中でアンカーを引き抜き、10m級の頭上を超えたところでガスを噴射し、10m級のうなじを縦に削ぎとる。
削ぎ終えたとき、カエデの視界にはアニの巨人の方へと走る巨人が見えた。どうやら気づいていないようでカエデの方をジッと見ていた。
――この巨人達はアニにも?
そこでカエデはあえてアニの方へと走り、巨人達が2人に集まるようにした。
そこからは数秒で決着がついた。
さすがにアニも状況がわかったのか、左足を軸として軽く膝を曲げ、中段の強烈な右足を半回転しながら巨人に放ち、蹴り飛ばす。前方にいた巨人の3分の1は首のあたりを大きく抉られて死んだ。残りも頭が吹き飛ぶか、胸のあたりを抉られて修復しなければ行動不能な状況になる。
一方のカエデは、アニが膝を曲げたことをいいことにその膝に飛び乗り、蹴りが繰り出される前にアニの後方にいる巨人の肩へと飛び乗った。そこからは巨人の肩から肩へと縮地で移動して通り過ぎるたびに一回転してうなじを深く削ぎ落とす。1体を1秒ほどで次々と倒していくカエデに巨人達も反応をしきれておらずあっという間に死んでいく。
後ろ半分を狩り終えたカエデは、アニの狩り残しを狩った。
巨人を倒したあとは再び2人は戦闘を自然と開始し、30分以上の常に動きの止まらない戦闘が繰り広げられた。
アニもさすがに30分も避けるだけ、さらに巨人に攻撃されるところを気づかせてくれたカエデを見て、自分が女型の巨人の正体と気づいたと分かったのか目から再び涙が流れ落ちた。
――アニが・・・また泣いた・・・。
私はアニを笑わせたいのに・・・。
そう思いながら、空中にある体にアニが放った右の蹴りを避けようとガスを噴射させようとトリガーを引いた。
バシューー ・・・・パシュ・・・
「え・・・・」
カエデが引いたトリガーによってガスが噴射されることはなかった。もともと長時間のガスの使用を考えていないカエデの装備には小さいガスボンベしかついていなかったのだ。
アニを傷つけることなく避けることだけをしていたカエデは多くのガスを消費した結果、ガス切れを起こしたのだった。
―――私はここまで・・・かな・・・。
アニ・・・ごめんね。
最後に・・・笑わせるどころか・・泣かせちゃったね・・・。
カエデはそう思いながら目から涙を流し、力を入れていた体の力を抜いてこれから自分に当たるであろう右足を待った。こうも簡単に受け入れたのは、やはりアニとの戦闘は心が痛んだからなのだろう。
アニはカエデの状況がわかったのか、スピードの乗った足のスピードを落とそうとするが、アニの足はスピードが落ちきれないままカエデの体にめり込む。
バキバキバキッ
骨が数本折れるような音がしながら、アニの足によってカエデの体は宙に蹴り飛ばされる形になった。そのカエデの体は放物線を描きながら速いスピードで飛んでいく。そして、勢いのついたカエデの体はそのまま地面へと落下し、バウンドした。
アニは蹴り飛ばした後すぐさまカエデの方へと走っていて、カエデが再び地面に落ちる前に手ですくい上げるように優しく包み込んでキャッチした。
アニはすぐに手の上に乗っているカエデの容態を見るために持ち上げた。
「ア・・・ニ・・・。最後・・・に・・なか・・せて・・ごめ・・」
「っっっ!!!」
カエデは朦朧とする意識の中そう言っては意識を失った。
アニの目から3度目の一筋の涙がこぼれた。
◆◆◆
――カエデ・・・カエデ!!どう・・・すれば・・・。
意識の失ったカエデをよく見てみると胸が上下に動いていることが分かった。
けれど落ちた際に頭をうって血を流していた。
――ま・・まだ大丈夫。でも頭から血が・・・そして呼吸が荒い・・・。早く手当しないと!!
その時、カエデの声ではない声がアニに届いた。
「カエデさん!!カエデさんを返せ!!」
アニは遠くから誰かが来ていることは気づいていたが、カエデとの戦闘に集中しているために誰が来ているかは確認していなかった。
遠くからきたのはアルミンの班であるアルミン、坊主頭の人の良さそうな男性―ネス、そしてシスという男性の3人だった。
――アルミンに一体どこから見られていたの・・!?
ダメ・・今はカエデをどうにかしないと・・・。
アルミン達に預けても、おそらく中央付近にいる団長の下まで行き、そこから戻っていては途中でなにがあるかわからない・・・それに馬に載せるとしても、台車に乗せるとしても振動が強くて悪影響だよ。
そう判断したアニは、少しでも他の部隊が来るのが遅くなるように、3人が今持っている煙弾を打ち上げる銃だけつまんで壊し、チラリとアルミンを見たあとカエデを優しく包み込んだまま南下する。途中でネスとシスがアンカーを打ち込んできたが、引き抜くだけにした。
――急がなきゃ・・・急がなきゃ・・・
アニは自らの持つ全力のスピードで、なおかつカエデに振動が行かないように南下し、シガンシナ区を超え、さらにまっすぐ進んだ。途中、アニを追ってくる巨人は多くいたが、アニの本気のスピードに追いつく巨人は一体としていなかった。
◆◆◆
リヴァイとエレン、ミカサは今、司令班が上げた緑の煙弾の方向へと移動していた。
30分ほど前、黒と赤の煙弾が右翼側から同時に上がるという、普通に考えて異常な出来事があった。それから10分ほどしたとき、左翼側からも赤の煙弾が打ち上がったのにも関わらず、司令は大きく進路を左側に変更したことにより右翼側に何かあったと考えられる。ただ、黄色の煙弾は上がっていないことから今もなお、陣形は乱れていないのだろう。
リヴァイは今回の作戦の本当の内容を知らされているため、エルヴィンの打ち上げる煙弾の意味を多方理解していた。
――これは、エレンを狙う巨人になれる人間が来たということだな。
左側を進むと巨大樹の森だしな。
だが・・・右翼側ということはカエデと戦闘になっている可能性が高いのではないか?
そんなことを思いながらリヴァイはエルヴィンが打ち上げる緑の煙弾の方向である左側へと馬を引き続き走らせる。
その時、遠くから1人の調査兵団が向かってきた。
どうやら彼は今回の作戦でエルヴィンの信頼を勝ち取っている兵士のようで、周りの兵士に聞こえないように小さい声でリヴァイに話しかける。
「リヴァイ兵長、報告です」
「なんだ?」
「右翼の端でカエデさんと知能を持った女型の巨人、そしてその女型の巨人を追ってきた奇行種だと思われる巨人が20体以上と戦闘していると」
「20体以上?正確にはどれくらいか分からないのか?」
「彼らは遠目で見えただけでも20体だったと」
「そうか・・・。それで他には何かあるか?」
「エルヴィン団長は伝達班の1つにカエデさんの様子を見に行くように指示を出し、陣形自体はなるべく戦闘している場所から離れて巨大樹の森へとスピードを調整しながら行く進路にしているみたいです。そして、伝達班からの煙弾を見て今後の進路を決めるみたいです」
「・・・。煙弾の種類はどうなっている?」
「突破された場合は黒色の奇行種の煙弾。殲滅完了の場合は、特別に持たせたオレンジ色の煙弾だそうです。もし黒色の煙弾が打ち上がった場合は巨大樹の森へ向かうスピードを上げるみたいです」
「わかった」
「それでは私は戻ります」
そういってリヴァイから離れて、来た方向へと戻っていった。
――カエデ・・・。いや、大丈夫か。カエデはワイヤーを多く使う戦闘スタイルではないから平地でもそこまで不利になることはないだろう。あいつの強さは俺が一番わかっているからな。
「リヴァイ兵長。どんな報告だったんですか?」
エレンがリヴァイに近づき、先ほどの兵士から聞いた内容を聞く。リヴァイはどう話そうかと考え、答え方が決まり口を開いた。しかし、その口からはすぐには言葉は出てこなかった。その理由は、遠くから紫色の煙弾が打ち上がったからだった。
「・・・・紫色の煙弾だと!?」
「え?」
紫色の煙弾は緊急事態のときに上げる煙弾だ。その煙弾が陣形の右翼側からさらに離れた場所から打ち上げられたのがリヴァイの視界に映ったのだ。打ち上がるのはオレンジ色の煙弾だと確信していたリヴァイは紫色の煙弾に動揺する。
一方のエレンはというと、なぜ陣形から離れた場所から煙弾が上がるかも、リヴァイがこんなに焦っているのかも全く理解していなかった。
――どうゆうことだ。カエデに一体なにがあった!?俺はエレンから離れるわけにはいかねぇし、この班には本当の作戦を知っている奴はいねぇ・・・。クソッ・・・状況を知りてぇ
「――兵長!!リヴァイ兵長!!」
「なんだ?」
「なんだじゃないですよ。どうしたんですか?」
――・・・今は信じるしかねぇ。
そう思ったところで指揮からの緑の煙弾が打ち上がる。その方向は、本来の目的地がある方向だった。
「・・・なんでもない。進路が変わった、行くぞ」
「はい!!」
エレンは特に疑うことはしなかった。
リヴァイは心に不安を持たせたままだが、こうして後方班をはじめ、調査兵団の陣形は進路を変え、目的地の方向へと馬を走らせた。
◆◆◆
アニは両手でカエデを優しく包んまま壁外を南下し続けた。アニの行く先にはうっすらと巨大樹の森が見えた。
――あそこだ・・・。あの巨大樹の森の端にある木・・・
目的地である昔カエデが住んでいた巨大樹の森にある木の前に着いたアニは、あたりを見回して近くに巨人がいないことを確認し、カエデをゆっくり地面に寝かせてアニは巨人化を解いた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「カエデ、もう少し頑張って」
アニはそう言いながらカエデを抱え、自分にあらかじめつけておいた立体起動装置をつかって木を登っていく。
――たしか2本目には医療系のものもあるって・・・
1本目の枝に登ったアニはゆっくりとカエデを少し長く伸びた芝生の上に横たわらせてよく容態を確認する。
カエデの状態は右足を受けて左側の骨が折れていた。カエデは日々すごいスピードや跳躍をするほどの筋力、そのスピードを出すことによって体にかかる圧力に耐えうる強靭な体を持っていたために、アニの攻撃にも大怪我ではあるがなんとか耐えられたようだ。
しかし問題は落ちたときに打った頭の方だった。
危険だと判断したアニは、2本目の枝にすぐさま登って医療器具類を持ち、1本目に戻る。そして持っている知識からこの状況にあった治療法を導き出し、持ってきた医療用の薬などを取り出して手際よく対処していく。
1時間後――
「スゥー・・・スゥー・・・」
「よかった・・・」
カエデの体のいたるところに包帯や固定具が巻かれており、先ほどまで荒かった息はだいぶ落ち着いているようだった。
そんなカエデを見たアニは、ほっと息を吐いて安心した顔になる。
――これで大丈夫なはず・・・。よかった・・・。カエデを死なせずにすんだ。
巨人化、そして長距離移動、カエデの手当を終えて疲れ果てたアニはそのままカエデの隣りで眠りに落ちた。
「・・・zzZZZ」
◆◆◆
翌朝――
ちゅんちゅん
「ん・・・」
鳥の鳴き声でカエデは目を覚ました。
カエデの目に映ったのは緑の葉に太い枝、線の様にまっすぐと伸びる日光だった。
――あれ・・・?ここは・・・巨大樹の森の・・・私が住んでいた木の上?
昔よく見ていた光景に驚いて体を起こそうとするが左半身に激痛が走り、昨日のできごとを思い出す。
――あの時・・・女型の巨人の手の上で・・・。あれ・・・アニ・・・アニはどこ!?
カエデは痛みに耐えながら体を起こそうとすると右側が重いことに気づく。そちらの方に顔を向けると、そこには安心したような顔で右側からカエデに抱きついて寝ているアニがいた。
――アニは可愛いなぁ・・・。
寝ているアニを見てそんなことを思いながら、カエデは左腕と左足が細い木の板と包帯で固定されているのを見てアニがやってくれたのだと分かった。
ぐっすり眠っているアニに悪いと思いつつもカエデはアニの肩を揺らす。
「アニ・・アニ・・・起きて?」
「う・・・うーん?カエデ?・・・あと10分・・・」
「アニ・・・可愛いこと言ってないでおーきーてー!」
「う・・うん」
アニは目をゴシゴシとこすって体を起こした。
「アニ・・・。なんで私を攻撃したの!!死ぬところだったじゃん!!」
「ご・・ごめ――」
カエデに睨みつけられ、一気に目が覚めたアニは謝ろうとするが、抱きしめられ、さらに頭にカエデの右手が乗ったことで言葉の続きを言うのをやめた。
「うそだよ・・?アニ・・・助けてくれてありがとう」
「え・・・?なんで?私はカエデを殺しかけたんだよ?」
「アニは悪くないよ・・・。
アニは最初から私に気づいて進路を変えたし、その後アニを最初に攻撃したのは私だからね・・・。
アニにはやることがあったのだろうけど結局私を助けることを優先してくれた。
私はそれだけで十分だよ」
そう言うとカエデはいつものようにふにゃりと笑ってみせた。
ただ、病み上がりだからか少しだけ顔色が悪かった。
「カエデが死ななくてよかった・・・。カエデは、いつ私だって気づいたの?」
「アニが構えたときだよ。何年も手合わせしてるからすぐに気づいちゃった。
私にはアニを殺すことなんてできない・・・だからといって友達の元に行かせることもできなかった」
「それで私に全然攻撃してこなかったんだね・・・なのに私は・・・」
「アニの行動が普通だよ?私も逆の立場だったらそうしてたと思うもん」
「そう・・・。そっか。カエデありがとう」
「アニ?笑ってよ!!私はアニを泣かせたくないんだ」
「ふふっ・・。カエデは優しいね」
「あははっアニが笑ったー!」
カエデはアニの頬をむにむにとさせながら笑いかける。それに応えるようにアニも笑顔だった。そんなアニを見てカエデは、ギュッと抱きしめてアニの髪にそって撫でた。そしてそれを受け入れるようにアニはカエデの胸に頬を着けて目をスっと閉じた。
お読みいただきありがとうございます。
20話までアニメ見ました(*´д`*)ノ
奇行種が普通の木にぶつかって止まったのに対して、アニは巨大樹の森の木を吹き飛ばすとは・・・。アニ強いっΣ(゚д゚;)
そしてリヴァイ兵長すごく性格いいですね(〃ω〃)アニメで見ると髪もかっこいいです・ω・
今度は最後までアニメ見ようと思います_(_^_)_