己の世界を守る楓   作:ふぁむな

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今回はカエデの過去編ですー。


カエデの過去①

ウォールマリアの北東――巨大樹の森特有の大きな木と大きな雑草が生えていて、さらに凶暴な獣が多く住み着いた森の中に、カエデとカエデの父――ツカサと、母―サクラは暮らしていた。

 

 

これは6年も前にあったカエデの過去である。

 

 

 

 

 カエデとその両親は、高すぎると言っていいほどの運動能力と、天才的な才能を持っていた。その能力のおかげで凶暴な動物に襲われたとしても素早く察知し、逆にその動物を狩り、食卓に並べるというほどだった。カエデも8歳のときには既に狩る側として、獣を狩っていた。その才能は両親を上回るほどだ。

 

 そんな3人家族は寂しくはあるが、仲良く家の横の土地を耕し、寒さに強い作物を育てて平和に暮らしていた。3人では管理が大変なため、小さい畑で収穫が早くできる様に種を品種改良して植えていた。

 

 

 

 

839年のやけに気味の悪い曇り空の日、3人はいつものように過ごしていた。

 

 

 時計の針が13時を示している頃。3人は、小さな家で保存しておいた動物の肉と自らの畑で育てた野菜を入れた、暖かいホワイトシチューを食べていた。

 この小さな家は1階建てで10畳ほどの1ルームだ。家の右端に入口のドアがあり、入口から見て左側に四角のテーブル、そしてその奥にキッチンと暖炉が備え付けられていて、隣には裏口がある。ちなみに入口の正面には狩った獣から得た皮を絨毯として敷いていた。

 

 

「お母さん! このシチューすごくおいしい!!」

 

「うん! さすが私の嫁だ! はっはっは!!」

 

「カエデありがとう。あなた、こんな料理のおいしいお嫁さんがいてよかったわね!」

 

「おう! 違いない!!」

 

「なんかお母さんとお父さんからピンク色のオーラが出てる気がするー」

 

 

 いつものように3人だけだけれども賑やかな食卓。

 

 

 ツカサは皿にまだ残っているシチューに再び手をつけようとした時、家の入口付近からダァァンという重い銃声音がした瞬間、小さい銃弾がツカサの頬を掠めながら四角のテーブルの中央に置いてあった花瓶が音を立てながら割った。

 

 

「キャッ」

 

 

 銃声と花瓶が割れたことでカエデは思わず短い悲鳴をあげてしまう。

 

 

 

「よしっ!! 中に東洋人がいるぞ!! なるべく下の方を狙って撃ちまくれ!!」

 

「「「おう!!」」」

 

 

 銃声が聞こえた入口付近から男性の低い声がいくつも聞こえ、リーダーだと思われる人物が指示を出した途端、今度は多くの銃声音が鳴り響いて家に穴を開けていく。

 

 

 

「クソッ!! お前ら伏せろ!!」

 

 

 カエデとサクラに伏せるように指示を出し、もったいないがシチューのお皿の乗ったテーブルをひっくり返し、家を時折貫通してくる銃弾を防ぐ壁にした。

 

 ツカサは耳を澄まし、銃声が入口付近からだけだと確認し、机を盾にしながら2人と一緒に少しずつ裏口付近まで移動する。

 

 

「よし、銃声は前方からだ。1・2・3で一気に裏口から出るぞ!!」

 

「わかったわ・・」

 

「うん!」

 

 

 

「じゃあ行くぞ...。1・2・3!!」

 

 

 

 ツカサからの合図によって3人は裏口のドアへと駆け出し、一気にドアを開け放った。

 

 

「打てぇ!!」

 

「なっ!?」

 

 

 3人が見た光景――それは、いつの間にか回り込んでいたリーダーである男と、3人の男性が裏口から10mほど離れた地点で銃を構えて待っている姿だった。

 

 リーダーの男の口から出た言葉「打て」―その言葉を聞いた瞬間に、ツカサは鍛え上げた反射神経と運動能力で銃を持った人達に背を向け、しゃがみ込みながら2人を覆う形になった。

 

 

 この賊達はもともと東洋人を捕獲し、人身売買するという目的で来ていた。そのため動きを制限させるために銃を足元のあたりに向けて打たれたが、ツカサはしゃがみ込んで2人を覆う形で銃弾から守ったため、無情にもほぼすべての銃弾を背に受けてしまう。

 

 

「グゥゥゥゥッ!!」

 

「お父さん!!!」

 

「ツカサ!!」

 

 

 自分たちを守り、背に銃弾を浴びたツカサに対し、2人は必死に呼びかける。

 ゴフッと口から出る出血の量から見て、すぐにでも息絶えてしまうことを自らで悟ったツカサは最後の言葉になるであろう言葉を、時折急に口からでる血を吐きながら2人に必死に語りかける。

 

 

「......この先進んだところに大きな岩があっただろう? ゴフッ。その岩の...すぐ横に立体起動装置という装置が入った木箱を埋めてある。それを腰につけ...うまく操作して逃げ延びるんだ」

 

「うん! わかった! わかったからぁ。お父さんも一緒にいこうよ!!! エグッ お父さん死なないでよぉ!!」

 

「この子だけは必ず守るから...!」

 

 

 ツカサの言葉にカエデは何度も頷き、泣きながら意識の朦朧としている父親に呼びかける。サクラは目から涙を流しながらも、決意のこもった瞳でツカサを見つめ、手をギュッと握った。

 

 

「カエデ、絶対生き延びるんだぞ。いつも笑顔でいろよ? サクラ...こんな俺に愛情を与えてくれてありがとう....。 あとは、まかせた...」

 

 

 

 

 カエデを撫でていた手とサクラが握っていた手がパタリと地面に落ち、ツカサの体重が2人にかかる。

 死んでしまっても2人を守る盾なってくれているツカサにの影に隠れながら、サクラは泣いているカエデの手を握りながら話しかける。

 

 

「カエデこれから私があいつらに向かって火炎瓶を投げつける。そしてあいつらが一瞬でもひるんだ隙に、一気に走り抜けてツカサが言っていた大きな岩まで走るわよ。私たちの足の速さならきっと大丈夫!」

 

「う、うん!」

 

 

 サクラは裏口のすぐ横に取り付けてある料理を作る際にも使っている暖炉へ手を伸ばす。

この暖炉は上に穴があいており、料理をしていない時は上にあいている穴は閉じている。

四角の暖炉の上に置いてある今日の料理で使ったワインをそっと手に持ち、自分の服の端を少し破き、既にコルクが抜いてあるワインの瓶を傾かせて中身を出し、破いた服の端を湿らせる。そして瓶から端だけでるようにして破いた布を詰め込むことで火炎瓶を作る。その手間わずか10秒。

 

 

 

「コソコソ何かやってないで、武器になるものを置いて出てくれば殺さないぞ? お前らもそこの男みたいになりたくなかったら早く出て来い!!」

 

「わ、わかったわ! わかったから、そちらも銃をおろして頂戴!」

 

 

 サクラは男たちの言葉をのむ様な形で男たちを油断させ、銃を下ろさせる。その言葉とは裏腹に先程作った火炎瓶からでた服の切れ端の先端を、すぐ隣にある暖炉の火を使って火を点け、ツカサの影からリーダーを始めとした男達に投げつける。

 

 

 

「行くよカエデ!!」

 

「うん!」

 

 

 男たちに投げ込まれた火炎瓶はボウッと燃え上がり、男たちは自分達の服が布で燃えやすいこともあり、慌てふためく。その隙に2人は勢いよくツカサの影から抜け出し、自分たちの進路にいる邪魔な賊は蹴り吹き飛ばしながら走り抜けていく。

 

 

「あんのクソあまぁああああ!!」

 

 

 男たちの声を完全に無視をし、2人は大きな岩まで走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 高さ2m、幅5m程の大きな岩のそばまで走ってきた2人は、ツカサに言われた通りに横の土をサッサと払いながら木箱を探す。探すこと数十秒、カエデは手に木のような感触が手に伝わってきたのを感じ取ったのか、そのままそこを中心に土を払い除け木箱の存在を明らかにした。

 

 

「お母さん!お父さんのいっていた木箱ってこれだよね!」

 

「それね。早く開けましょう」

 

 

 そう言ってサクラは木箱を開け、中に入っていた3つの立体起動装置のうち2つを取り出し、土の上に置いた。

 サクラは数回、ツカサと立体起動装置を扱ったことがあり、操作は完全にマスターしていた。その経験を思い出しながら、カエデに使い方を簡単に説明しながら立体起動装置を装着した。

 

 

「使い方はわかったかな?」

 

「うん! 大丈夫!」

 

「それなら早く逃げましょう!! 取り敢えず賊から逃げるために、危険だけれども壁の外へ行くわよ!! そこから壁の周りを走ってからまた壁を登るわよ」

 

 

 そうサクラに言われ10mほど先からそびえ立つウォールマリアの壁を見上げた。

高さ50mもある壁。その壁はレンガで作られた壁などとは違い、掴めるところは全くないために素手で登るのは不可能だ。そのために立体起動装置を使ってアンカーを壁に向けて射出して登るようだ。

 

 どうやらサクラは一回外へ出てから壁沿いに移動し、違う場所からまた立体起動装置を使って戻ろうとしているみたいだ。

 そして準備が整ったサクラとカエデが壁に向かって走り出そうとした時、すぐ近くで馬が走る音が聞こえた。

 

 

「カエデ行くよ!!」

 

「わ、わかった!!」

 

 

 2人は壁に向かって走り出し、壁の前に来たところでアンカーを壁に打ち込む。そして2人は自らの持つ運動能力を活かして地面を強く踏み込んでジャンプし、さらに立体起動装置のガスを噴射させて高く飛ぶ。そしてそこからアンカーに繋がっているワイヤーを引き戻すように起動させて壁を登ろうとする。

 

 

「見つけたぞクソあまあぁぁあ!! 打て!!! 打てぇぇぇええええ!!」

 

「カエデ!!危ない!!」

 

 

 

 先程の賊が向けた銃は、ダダダッと重い銃声を出しながら銃弾を2人のいるところへ乱射する。その銃から放たれた銃弾がカエデの方へ向かっているを見て、カエデが避けられないと判断したサクラは自らの操作装置を握り締め、カエデの方へ迎えるように操作する。

 

 そしてサクラはカエデと銃弾との間へ割り込み、銃弾を胸で受けた。

 

 

「くぅっ!!! ああああぁああ!!」

 

「よし!! 大人の方はやったぞ! 子供も撃ち落とせ!!」

 

 

 自分の体へ銃弾が数発食い込んだサクラはバランスを崩してしまう。そしてバランスを崩したことによって壁に差し込んでいたアンカーが外れ、自分の体を支えるものがなくなったサクラは落下していく。

 落下していくサクラを見て一瞬硬直するが、自分が狙われているとわかったカエデは当たらないようにガスを噴射させて避けていく。その腕前は、普通立体起動装置を使う際、全身にベルトを張り巡らせることで体を安定させたり、重心を移動させたりするのだが、ベルトがないにもかかわらずうまく操作し、細かい動きをしていることからかなりの腕前だと分かる。

 

 

「カエデ行って!!絶対....絶対に生き延びて!!」

 

 

 

 明らかに致死量の血を流しながらサクラはカエデに叫ぶ。

その言葉を聞いたサクラは一瞬戸惑いを見せるが、壁と飛び越えようとガスを噴射させて壁の上に向かうように加速する。銃の音がしないと思って下を見ると、サクラが最後の力を振り絞って立体起動装置を操作してガスを噴射させ、自分の落下する場所を銃をカエデに向けている賊へと変更し、ぶつかっているところだった。

 

 

「お母さん!! お母さん!! うぅっ。私生き延びるよ!! 絶対生き延びるよ!!」

 

 

 

 

 カエデは涙を流しながら壁を飛び越える。その際、ガスの噴射が強すぎて高さ50m幅10mもある壁の上空15mほど体が飛んだ。

土の中で保存していたせいか、もともとの量が少なかったのか上空15mのところでカエデのガスが切れ、そのまま壁を飛び越えながら自由落下し始めた。

 

 

 

 

 上空65mにある体が自由落下した時に体にかかる負担。それを頭の中で危険だと感じとったカエデは即座に空中で体勢を変えることで重心を動かし、壁になるべく近づけるように努力する。しかし壁の上に乗るには僅かに高さが足りず、必死に壁の側面に張り付こうとする。

 

 

「くぅぅぅ!!」

 

 

 体にかかる勢いを殺すべく壁に張り付くように足を壁につけ、靴と壁のあいだに摩擦を起こさせて自身にかかった重力による勢いを殺していく。

 高さ残り5mを切ったところで上に飛ぶように壁を蹴り、さらに勢いを殺して地面近くに差し掛かったところで軽く膝を曲げる。そして床と足が触れるとともに深く膝を曲げ衝撃を吸収し着地した。

 

 

「はぁ はぁ はぁ。うぅぅぅっ エグッ.....。おとうさぁん、おかあさぁん。あぁぁぁぁ......うわぁぁああああん」

 

 

 数十分前にいつもどうりの平和な日常は崩され、さらに自分の両親であり、自分が話したことあるただ2人の人を失い、完全に1人になってしまったことを実感したカエデは、賊に対する怒り、1人になってしまったことの悲しみを吐き出すかのように大声で泣きちらした。

 

 

そして泣き疲れたカエデはそのまま壁にもたれかかるように眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

ドシーン ドシーンと大きな地鳴りと振動が地面から体に伝わったことで起きたカエデは目の前の光景に驚愕する。

 

 

「な、なに!???地震!??」

 

 

 

自分と同じ人間の様な形をしているが、どうも体の形が少しおかしく、なにより今までみた人間より大きかった。その高さは見た限り10m。

 

 

――そういえばお父さんから聞いたことがある。壁の外には巨人がいると。その巨人は例外はいるものの、ほとんどが人間を食べる欲求だけで動いているのだと。最後には100年近く何もないから俺たちには関係ないと思うけどな!! とも言ってけど。

 

 

 

そのことを思い出し、取り敢えず冷静になったカエデは迫ってきた手から逃げるために全速力で駆け出し、ある程度離れたところで止まる。そしてこれから起こることを予想し準備に取り掛かった。

 

カエデは素早く、ガスがもうなくなって使えない立体起動装置を素早く腰から外し、刀身のついた操作装置――剣で立体起動装置と操作装置をつなぐケーブルを切り、ただの刀身の着脱ができるだけの剣となった操作装置を両手に持ち、こちらに向かってくる巨人を向かい打つために剣を構える。

 

 先ほどとは違い、ドンドンドンと大股で巨人がカエデに迫ってくる。

その走ってくる巨人の地面につく足が左足になる瞬間を予想し、その左足が地面に着くであろう場所の真横に縮地で飛び込む。

 飛び込んだ場所の真横に左足が地面についた瞬間に剣で巨人のアキレス腱を切り飛ばす。巨人はアキレス腱を切られたことで、左足を存分に動かすことができなくてバランスを崩す。その隙をついて巨人の右足へ駆け出し、すれ違いざまに右足のアキレス腱も切り飛ばした。その後、両足が使えなくなった巨人はドシンと音を立てて仰向けで倒れた。

 

 

――これで動けないはずだよね....?

 

 

 そう思ったカエデは仰向けの巨人の上に乗り、巨人の首元にブレードを突きつけた。その光景は様々な決闘などによく見られる光景で、次の瞬間には相手の命を刈り取ることができるということを現状で表し、降参させるものだった。

 

 カエデは先程まで目の前の巨人に自分が食べられそうだったにもかかわらず、巨人に降参をさせることによって見逃そうと考えていた。この考えに至ったのは彼女が8歳という年齢だったことと、両親が無情にも殺されてしまったことが関係していた。

だが、このカエデの行動は次に起こされた巨人の行動に自分が間違った選択をしたことを思い知らされる。

 

 

「ぇ!?? .....っ!!!」

 

 

 巨人が降参すると思い切っていたカエデは、横からきた巨人の手に反応できずに胸から足までを掴まれてしまう。

 

 

 

「ぁぁぁああ!!」

 

 

 握り潰されるような圧力によって、強烈な痛みが全身を襲う。その痛みによって現実に引き戻されたカエデは、瞬時に自分を握る巨人の手に腕が掴まれていなかったのを確認し、持っていた剣で巨人の手の指を切り飛ばして脱出した。

 

 

――肋骨に数本ひびが入っている...。

 

 

 小さい頃より過酷な環境で育ったカエデは自分の体を触り冷静に判断し、取り敢えず巨人から離れた。離れたカエデは応急処置として着ていた上着を脱ぎ、胸部を締め付けて固定するのに適した形へと破き、できた応急処置用のバストバンドとなった服を巻きつけ固定する。

 

 

――仕方ないよね...。殺すしかないよね。

 

 

 そう思い剣を握り直し、巨人を見たカエデの顔はまたも驚愕の表情となる。

確実にアキレス腱を切り飛ばし動けないはずの巨人が目の前に立っており、足首の方へと目をむけると何事もなかったかのように無傷に修復されていた。そんなありえない状況に一瞬硬直するが、すぐさま戦闘態勢に移り、凄まじいスピードで巨人に攻撃を仕掛けていく。

 

 

 

 それからカエデは数分かけて、すごいスピードで再生されると分かっていても両足のアキレス腱を切り、一回の攻撃で一箇所、心臓、喉元、そして最後に頭を切ったり刺したりすることで普通の人間なら死に至らしめる場所をに大きなダメージを与えた。

 

 

――なんで、なんで死なないの!??この巨人たちは不死身なの!?不死身じゃないとしても倒し方わからないから取り敢えず逃げよう。私は絶対生き残らなきゃ!でも。絶対に巨人は私を追ってくる。ならばどこかに身動きがとれないようにしなければ...。でもどうやって!??

 

 

 そう思い、周りを見渡すと最初に取り外した立体起動装置と、そのすぐ近くに大きめの木が見えた。

 

 

「あれだ!! あれを使えば身動きがとれないようにできるかもしれない!!」

 

 

 そう言いながらカエデは、先ほど置いておいた立体起動装置の下まで走り、操作装置の頭の部分で思い切り立体起動装置を叩き壊し、中からアンカー付きのワイヤーを取り出す。そのワイヤーを輪の形に重ねて持ちやすくする。そしてワイヤーをカウボーイのようにブンブンと振り回し、アンカーに勢いを付ける。

 

 

――よし。ワイヤーを巨人の脇に刺してから走ってからいっきにうなじのところまでいって、脊髄にダメージを与えるように削ぎ落とそう。それからそのまま巨人を後ろにある木に倒れるように引っ張って。それから木にぐるぐる巻きに縛れば大丈夫だよね!!

 

 

 

 カエデが今回脊椎を狙う理由は、脊髄には神経細胞の集合体で、脳から肛門のあたりまで伸びていて、上から頚椎(けいつい―首の部分)、胸椎(きょうつい―胸のあたり)、腰椎(ようつい―腰腰のあたり)、仙椎(せんつい=骨盤)の4つの領域に区分けしてあり、脊髄を損傷すると、損傷したところとそれより下位の神経系すべてに影響が及ぶ。

 

 

 今回のカエデの作戦は、うなじのあたりにある脊髄をそぎ落とすことで全身の神経系にダメージを与えて動けなくするようだ。

これから起こそうとすることをカエデは正確にイメージしてから、向かってくる巨人の脇までの距離と、これからアンカーを刺そうとしている脇から、これから切り落とそうとする首までの距離が同じになるところを見計らってワイヤーを思い切り投げ、狙いどうりに脇に刺すことに成功する。

 それからカエデは全速力で駆け出し、巨人の脇のやや斜めを通り過ぎ、ワイヤーが張ったところで跳び、張ったワイヤーによって振り子のように持ち上げられた体をそのまま巨人の首元へと持っていく。

 巨人のうなじの横を通り過ぎながらカエデは、深くうなじの肉を削ぎ落とした。

作戦の最初のステップを終えたカエデは、巨人に振り向かずことなく着実に着地し、次の行動を起こそうと脇に刺さっているアンカーに繋がるワイヤーをしっかりと握り、木のある方向へと走りながら引っ張った。

 

 

 

――あれ......? すごく軽い。

 

 

 先程まで戦っていた巨人を見る限りかなりの重量だと思われたし、なにより目覚めるとき地面の振動で起きたのだからその軽さに違和感を覚えカエデは後ろの巨人がいるであろう方向を向く。

 

 

 

「ぇ!?...巨人が蒸発してる!もしかして、うなじの部分が弱点だったんだ!!」

 

 

 弱点がうなじの部分だった理由が、脊髄が関係しているとは限らないが、大きな巨人は異臭を放ちながらみるみる蒸発していき、やがて消えていった。その光景にカエデはやり遂げたという達成感とともに、先程まで気を張っていたせいで気づかなかったお腹の減り具合を実感した。

 

 

「お腹すいたなぁ......。壁もう登れないし。なにか食べるものを探しに行こうかな。」

 

 

 

 立体起動装置もう壊してしまったために壁を登ることは現状では不可能になったことを少し絶望的に思いながら、食べれるものを探すためにカエデは壁から離れるという選択をして歩き出す。

 

 

 

「うぅぅっ。寒いっ!」

 

 

 外の気温があまりに寒く、カエデはぶるぶると体を震わせる。肋骨を固定するために上着を脱いでしまって寒さをどうすることもできないと思ったカエデは、その歩きを少しでもここより暖かい場所である南側へと変更する。

 

 歩き出したカエデの肌に1粒の小さな雪が乗った。

 

 

「ゆ、雪!?」

 

 

 薄気味悪かった曇り空は、カエデをいじめるかのように急に雪を降らせ始めた。

 

 

 

「ぇええ!?やばいよっ!さむいよっ!冷たいよっ!......お腹すいたよ?」

 

 

 雪が肌にあたり、危機感を感じたカエデは少しでも早く南側へと移動するように歩きを走りに変えた。

 

 

 




今回も最後まで読んで下さりありがとうございました!
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