今回は長めです。
「―――! ―エデ!! おいカエデ!!」
「ふぇえ!?!」
クラウスの大きな声によってカエデは夢から覚醒し、変な声を出しながら飛び起きた。
カエデはベットの横に立っているクラウスの顔を見てみると、怒っている顔だ。この状況は今まで何回かあったことだったので、慌てて横に置いてある時計を見る。その時計の針は予想どうり、起きる時間を30分もすぎたところを示していた。
「もうとっくに起きる時間だぞ?それにしても...うなされていたが大丈夫か?」
怒っていた顔から一変、クラウスはカエデの頭に手を乗せて心配そうな顔でそう言った。
「すみませんすぐ起きます!! 私にとって最悪な1日だった夢を見ていた気がします」
「...そうか。まあ今はすぐ起きて朝食を食べろ。食べ終わったらすぐ出発するぞ」
「わかりましたすぐ行きます!」
「にしてももっと子供らしくしていいんだぞー? カエデは大人みたいになったり子供みたいになったりと激しいぞ?」
「しょうがないじゃん!! 数年前にはすでにこんな喋り方だもん!」
「おぃおぃ。いきなり子供っぽくなったな!」
「ぶぅー」
「それじゃあ 早く来いよー」
弄られたことで頬をふくらませているカエデに背を向けて、軽く右手を上げながら部屋のドアから出て行く。
そのあとをぱぱっと着替えたカエデがすぐに後を追い、朝食の用意されているであろう部屋まで走っていった。
カエデは朝食の用意されている部屋に入ると、隊員が数人だけいた。そして大テーブルの一角にカエデの朝食がぽつんと用意されており、そこの席に着くと「いただきます」手を合わせてから急いで食べ始めた。
「くっくっく。カエデちゃん、また寝坊かぁ?」
そう言いながらカエデに近づいてきたのは、お調子者の青年であるイェルクだった。
彼は準備を終えて、寝坊してまだ朝食を食べているカエデをいじりに来たみたいだ。
「もぐもぐ...。いへるふはん!」
「ちゃんと飲み込んでー?」
「ごっくん...。早く食べないとクラウスさんに怒られるの私なんですからー!」
食べているご飯を飲み込み、必死で訴え掛ける。
「いいじゃん! いいじゃん! クラウス隊長なんて怖く――」
「ほぅ? 怖く...なんだって?」
イェルクは突然聞こえた声に体を震わせたあと、そっと後ろを振り返ると...。ゴゴゴゴッと聞こえるような雰囲気を纏い、イェルクを睨んでいるクラウスがそこに立っていた。
「カ、カエデちゃん! い、急そぐんだぞ!!」
そう言い残してクラウスは風のように去っていく。
そのスピードから考えるに、後ろに立っていたクラウスの顔が相当怖かったに違いない。
「あいつ、カエデと一緒に今度走らせてみようか...」
クラウスはそんな独り言を言いながら外へと足を向けた。
その間にカエデは朝食を全て食べ終えた。食器を片付けると、イェルクとクラウスの後を追うように外へと走っていった。
外に出ると、いつも見る人達が馬に乗って隊を作っていた。
「カエデおせーぞー!」
「やっと来たわねカエデ! さぁー行きましょ!」
遅れたのにもかかわらず笑顔でカエデを迎えてくれる隊員達。今回の調査が終わりシガンシナ区に戻ったら今度は1ヶ月ほどの休暇がある。そのため隊員達はまるで遠足へ行く子供のような、うきうきとした顔をしている。
「それでは寝坊助カエデが来たから出発するぞー!」
「「「りょーかい!!」」」
「はーい!」
全員揃ったことを確認したクラウスは全員に指示を出し、シガンシナ区のある方向へと馬を歩かせる。その後ろに続きまばらな列を作って隊員達がクラウスのあとに続いた。
馬を進めてから1週間。途中に数体の巨人と接触したが、カエデの援護とクラウスの指示によって確実に仕留めていた。そして小隊25名誰1人として欠けることなくシガンシナ区へと馬を歩かせていた。
「ここら辺ならギリギリ、シガンシナ区の壁が見えるんじゃないか?」
「おう! そうだな!! えっと...。あった、あった!!」
クラウスが会話の途中で言った一言に、うきうきが抑えきれないイェルクがゴソゴソとカバンのなかをあさり、望遠鏡を取り出す。そしてそれを顔の前に持って行き、斜め上の方向に向けて覗き込む。
「少しぼやけてるけど壁が見えたぞ!! この感じだと・・・うーん。あと6時間くらいで着くぞ!」
「そうか総員こ――」
「た...隊長!!」
「なんだ慌てて...。なんかあったか?」
「か、壁の前に巨人が.....巨人が立っているぞ!?」
あと6時間と聞いた隊長は少し休んでから、ノンストップで行こうと指示を出そうする。しかしイェルクがそのクラウスの指示を遮り、急に驚愕の顔をしながら普通じゃありえないことを叫ぶように言った。
その内容にクラウスは理解が追いつかずに惚けたような声を出してしまう。
それもそうだろう、自分達が戻る場所であるウォールマリアから突起しているシガンシナ区壁の高さが50m、そんな壁がこの距離からだとギリギリで見えるのに、彼は巨人だと言った。つまりそれは壁より高いということになり、今まで最大でも15m級の巨人だったのが、たった今50m越えが壁の前にいると言うのだから。
「急に現れたんだ!!クラウス隊長も見てくれよ!!」
そう言って渡された望遠鏡を覗き込む。そこには60mほどの大きさで、皮膚がついていない赤い巨人がいると判断した瞬間――ドシーン!!という何かが壊された音が聞こえた。
そのことに何事かと思ったときには、望遠鏡越しに見えていた巨人は白い煙とともに消えていた。
「消えた!?それよりまさか!? まさか今の音はシガンシナ区の門が壊された音か!?」
「「「っ!?!?」」」
「そんな......!! ...隊長急いでシガンシナ区に向かいましょう!! 先ほどの音が鳴り響いてから、遠くに見えていた巨人がシガンシナ区の方向へ歩き始めてます!」
「この様子だと、すでに壁付近にいた巨人は入り込んでいるかもしれない!!総員、馬を走らせ急いでシガンシナ区へ向かうぞ!!平和だと思っていたところにこんなことが起きたのだから全然対処が出来ていないはずだ!」
「「「了解!!」」」
――エレン、ミカサ....無事でいて!!
カエデは、初めて出来た友達の無事を祈りながら小隊の先頭を走る。そして次々とエンカウントするシガンシナ区へ向かっている巨人たちを、無理して倒すことなくアキレス腱を切るだけに止め、その間をぬってスピードを落とさずに向かっていく。
その後ろを、カエデの援護をしながら残りの隊員も無理のない動きでついていく。その様は何年も練習してできたかの様な熟練したチームワークが伺えた。
◆◆◆
小隊が壊されたシガンシナ区の門についたのは、音がなってから1時間後のことだった。
門の前へとついたカエデ達は門にいる巨人を殺したあとに門をくぐった。
「なんだ、なんなんだこの状況は!!」
「ひどい。...エレンとミカサを探さなきゃ!!」
「待て! カエデ!! 1人で行動するな!!」
クラウスは一人で先に行こうとするカエデの腕を掴んで止める。カエデはクラウスの方を振り返り、すぐに行かせてくれないことに不満な表情をする。そんなカエデの頭をクラウスは撫でて落ち着かせた。
「うぅ...。隊長....」
「お前1人で行動するより隊員たちと力を合わせたほうが早く見つかると思うぞ?大丈夫だ。きっとあの2人は生きているさ」
「...うん」
「班別行動をするぞ!! 班別行動のA班の5人で中央を、B班の10人は右側、C班の10人は左側に行き、住民たちをできるだけ救出せよ!! いいか! 絶対に班全員で行動しろ!! おまえら絶対死ぬなよ!!」
「「「了解!!」」」
「A班は俺について来い!! いくぞカエデ!!」
「B班は私に!!」
「C班は俺に続け!」
クラウスは小隊を3つに班分けし、それぞれの担当する場所を指示する。
この作戦の班分けは、出身地や仲の良さ、相性の良さなどをクラウスが判断して分けたものだ。
A班であるクラウス、イェルク、他女性2名は、クラウスを先頭に、中央に向かって立体起動に移りってアンカーを射出し、家の壁に打ち込む。さらにガスを噴射し加速をつけ、未だ襲われているであろう住民のもとへと向かっていく。カエデはその隊員達の横にある建物の上を次々と飛び移りながら並走し、周りの状況をよく観察する。
「きゃぁああ!! 誰か! 誰か助けて!!」
移動し始めてから少し時間が経った時、女性の甲高い悲鳴が聞こえてきた。
クラウスはすぐに位置を把握し、顔だけ後ろに向け、女性がいるであろう方向を指差しながらA班の4人に指示を出す。
「女性を助けるぞ!! カエデと俺であの巨人を倒す。残りの3人で奥にいるこちらに向かってきている巨人を少しの間だけ引きつけておいてくれ!」
「「「了解!」」」
指示を出された3人は、さすが小隊の中でも精鋭といったスピードで奥の巨人へと向かっていく。
そしてカエデとクラウスは今にも巨人の大きい手によって掴まれそうになっている女性の元へと急ぐ。
「ふっ!!」
女性が巨人に掴まれ、これから握りつぶされるというところで巨人の元へとついたカエデは剣を一閃し、巨人の腕を切り落とす。そして空中で手から解放された女性を、カエデの小さな体で抱きかかえる。その後、カエデはワイヤーを射出して減速するように操作することで、女性に負担をかけないように難なく着地した。
女性を抱きかかえたときにはクラウスは巨人のうなじの部分に回り込んでおり、体を回転させることで剣にスピードをつけ、うなじを削ぎ落として巨人を倒す。
「ありがとう! ありがとうカエデちゃん! ありがとうクラウスさん!!」
「いえいえ!! 隊長、私は奥の巨人に向かった隊員の援護をしてきます。隊長はその女性にこれからの指示を!」
助けた女性はきっと調査へ向かうときにカエデを見たことあったのだろう。カエデの名前を知っていた女性はカエデに本当に感謝しながらお礼を言う。そのお礼を少し照れながら手短に受け取る。
「わかった! 指示をだしたらすぐに向かう!」
「はい!」
カエデはさきほど向かった隊員達の援護に向かうべく地面を蹴り、自身の脚力とガスの噴射により屋根の上まで跳び、着地すると同時に駆け出した。
カエデは走りながら奥の方を見渡す。すると、2体のうち奥にいる巨人はイェルクが自前の瞬発力と立体起動装置の操作によって、1人で巨人の攻撃を軽くあしらいながら圧倒している姿が見えた。一方、手前の巨人は立ち止まって下を見ており、手を伸ばそうとしているのはわかったのだが、引きつけ役の女性2人の姿が見えない。
――いったいどこに?
そう思ったとき、叫ぶように言い争っている声がカエデの耳に入ってくる。
「助けて! 助けて!!」
「すぐに助けますから足を掴んでいる手を離してください!!」
「怖い...怖いのよ!! 行かないで! どこにもいかないで!」
「離してくれないと助けることができません!! 早く離してください!」
この会話から女性の隊員達は、シガンシナ区の住民に掴まれていることで身動きがとれていないようだ。
―――奥の巨人はきっとイェルクさんが倒してくれるだろう……。それに今は女性の隊員達が危ない!!
そう走りながら判断したカエデは進路を変更せず、手前の巨人の元へと向かう。
「くっ!! 離して!! くぅぅ...ああぁぁああああ!!!」
「くぅあ....あぁあああああ!!」
巨人まであと50mを切ったところで女性隊員達の叫び声が聞こえ、起動装置からガスを噴射させさらに加速し、2秒もかからない間に巨人までたどり着いたカエデは、自身についたそのままのスピードで巨人のうなじを削ぎとる。
つけた勢いを殺すために真下にある家の屋根にアンカーを刺し込み、しゃがみ込むような形で足を屋根につけた。足と屋根が摩擦し、数m進んだところで勢いを殺し終えて止まった。そこからカエデはすぐさま巨人のいたところまで走って戻り、屋根の上から通路へと飛び降りる。
そこでカエデが見た光景は、恐怖のあまり歯をガチガチを震わせながら腰が抜けて立てない女性と、2人一緒に掴まれたのであろう――向き合う形で全身から血を垂れ流し、体が折れ曲がっている女性隊員2名がいた。
2人の隊員はどう見ても即死の状態だった。
「っ!! ねぇ!! ねぇ!! 目をあけて!! 死なないで!! 死んじゃいやぁああああ!!」
カエデは隊員達のそばにすぐさま寄り添い、脈をとり、死んでいることを確認したカエデは胸部圧迫をしようとするが、肋骨がバキバキに折れて内臓に突き刺さっているため、なす術がなく、女性隊員達の前で泣きじゃくる。
「カエデ!! しっかりしろカエデ!! 今おまえが動かなければ死人は増える一方だぞ!! それじゃあ死んでしまったこいつらが可哀想だろう―」
「うぅっ...。 エッグッ」
「初めて出来た友達も探すんだろう??」
「っ!!...うん」
「よし! 頑張れカエデ! 奥の巨人の相手をしているイェルクの援護をするんだ。1体では圧倒していたが、今あいつは2体と戦闘中だから早く行って援護してやってくれ。俺はこの女に指示を出す。」
自分達の後ろにいる女性を、普段は女性にとても優しいクラウスが、鋭い目つきで睨みつけているのを見て、心が少しだけ軽くなった自分に少し嫌気がさしながら、カエデは指示された通りに奥の戦闘が行われている場所へと駆け出す。
「カエデ!!やっときたか!」
猛スピードで自分が戦っている場所へと駆けてくるカエデを見て、イェルクは一瞬ほっとする。その後すぐに普段の性格がお調子者だとは思わせないほどの鋭い目つきに戻り、これから小隊のエースである少女によって殺されるであろう目の前の巨人と向き合う。
なるべく自分に注意をひかせて、巨人の後ろからくるカエデがうなじを切り落としやすいようにするためにイェルクは行動を開始する。
左右にいる巨人の顎に1つずつアンカーを射出して差し込む。そしてそのまま巨人がいる方向とは逆の方向へ駆け出し、巨人に刺さったアンカーから出るワイヤーが張ったところでガスと噴射させ、巨人の顎を支点にして体を空中に運ぶ。やがて空中で体の速度が0になり自由落下を始めようとするときに再びガスを爆発的に噴射させ、なおかつ全体重をかけてブランコのように一気に巨人の間を通り過ぎた。
イェルクの行動により、アンカーが刺さっている顎にかかった重力にはさすがの巨人も耐えられなかったようで、2体の巨人の顎はワイヤーによって引かれて顎を引く形になり、後ろからきたカエデにうなじを見せつけるかたちになった。
その隙をカエデが見逃すはずがなく、カエデは2体の巨人のうなじ部分を削ぎ落とした。
「援護ありがとうございますイェルクさん」
「おう!それはこっちのセリフでもあるぜ!!にしても…カエデが元気の欠片もないなんて珍しいな?」
イェルクはいつもの調子でカエデの変化を指摘する。
いつものカエデならここで頬を膨らますところだが、今のカエデの心情は冷え切っていた。
「私だっていつも元気なわけじゃないですよ。女性隊員が巨人と愚かな人間によって亡くなりました。」
「最初の発言には意義を唱えたいところだが...。そうか、あいつら死んでしまったか」
「私がもう少し早く行ければっ!!」
「カエデのせいじゃねぇよ。ほら行くぞ! ここら一帯はまだまだ危険だぜ?」
「...はい!」
イェルクはカエデの報告により女性隊員が死んでしまったことを知り、悲しい顔をしたがすぐに真剣な目をしてカエデの顔を覗き込みながらぽんぽんとカエデの頭を2回軽く叩く。
そこに追いついてきた隊長が巨人を瞬時に倒した2人を褒め、それからこれからの指示を出す。
「カエデ、イェルク 取り敢えずよくやった。残念だが、休んでいる暇はないぞ。このすぐ近くの川沿いを1kmほど進んだところにある、船乗り場に来ている救助船に乗るためにかなり多くの住民がそこに行っている。そんな多く人がいる場所に巨人がいかないはずがない...」
「もしかしたらそこにエレンとミカサもいるかもしれない!」
「おそらくそうだろう。3人だけだがこれから船乗り場にすぐに行き、巨人を殲滅するぞ。おそらくだが、残りの小隊もそのことに気づいたらそこに向かうだろう」
「それじゃあ いっちょやってやりますか隊長! カエデ!」
「おう!」
「うん!」
イェルクがそう言うとクラウスとカエデもやる気を出し、できる限りの住民を救えるかもしれないと、1km先の船着場まで向かうべく3人で屋根の上を走る。走る理由はカエデにとってはいつものことで、残りの2人は現時点で巨人は船乗り場の近くにはいなかったため、ガスを温存するという目的である。
「あそこが船乗り場だな!乗れていない住民も多いみたいだな...。これは巨人が向かってくるのも時間の問題だな」
「そうっすねー。取り敢えずぱぱっと行っちゃいましょう!」
「うん!! きっとあそこにエレンとミカサも――。 っ!!?!?
隊長! 奇行種だと思われる巨人がすごいスピードで船乗り場に走っていくよ!!」
カエデがイェルクの方を向きながら言ったあと、その視界の奥から体の引き締まった巨人が船乗り場に向かって、ものすごいスピードで走っているのが見えた。
「あれはまずいっ!! イェルクは立体起動に移れ!! カエデは先に行って、できることならばあの巨人の注意を引きつけてくれ!!」
「言われなくても、もう準備してますよ隊長!」
「わかりました!」
クラウスとイェルクは立体体制に移り、すぐさまアンカーのついたワイヤーを射出する。そしてガスを噴射させて船乗り場へと急ぐ。そして、その2人よりも早いスピードでカエデは屋根の上を走っていく。
しかしカエデのスピードでも、船乗り場に向かっている奇行種になかなか追いつくことができなかった。
普通の奇行種くらいならすぐに追いつくカエデだが、今回の奇行種はキチンとしたフォームで走っているため、普通の奇行種より倍以上早かった。
――やばいっ!! このスピードではギリギリ間に合わない!!
残り300mを切ったところでそう判断したカエデは立体起動に移り、ガスを少し噴射させて加速する。すると、船から聞こえる大勢の住民の悲鳴と叫び声のなかに、聞き覚えのある声が2つとその2つと会話しているもう1つの声が聞こえた。
カエデはその方向を見てみると、つい最近友達になったばかりのエレンとミカサ、そして小柄で金髪の少年――アルミン・アルレルトだった。
「駆逐してやる!!この世から一匹残らず!!」
船の端から憎しみの篭った瞳で巨人を睨みつけるエレン。そんなエレンの腕を引っ張って、船に向かってきている巨人から少しでも早く逃げようとするミカサ。
「エレンそんなことを言っている場合じゃない。こっちに向かってくる巨人は他の巨人とは全然違う!!」
「エレン!! ミカサ!! 早く逃げようよ!! この船が標的にされてるよっ!?」
「くそぉぉ!!」
「っ!!! エレン、ミカサ危ない!!」
「「ぇっ...!??」」
先程まで走るだけだった巨人が急に地面が抉れるほど踏み込み、そこから先程とは比べ物にならないほどのスピードをつけて船に迫る。
そして言い争っていたエレン、ミカサがいる場所を中心として、乗っている船にむけて拳の握られた巨人の右腕が振るわれる。エレンとミカサは思わず目を瞑り、―死んだ―そうエレン達は思った。
だがエレン達に巨人の拳は届くことはなく、次にエレンが目を開けた時に目に映ったのは、巨人の拳は手首から切り落とされて川へと蒸発しながら落ちていく光景だった。
◆◆◆
巨人が地面を抉れるほど踏み込んだとき、カエデはこれから起こることを瞬時に予測した。そして、カエデは自らが編み出した技を使うことを決断する。
体にかなりの負担がかかるため滅多に使わない技――縮地と立体起動装置のガスの爆発させるほどの噴射を組み合わせた『瞬速(しゅんそく)』を使うために準備をする。まずカエデは右手に持っている操作装置を持ったまま左太ももに装着された鞘に戻す。そして右足を巨人と同じように屋根が抉れるほど踏み込み、かつ爆発的にガスを噴射させた。
そうして一瞬でエレンに迫っている拳の右隣まで着いたカエデは、そのスピードを殺すことなく左太ももの鞘から新しい刀身がついた剣を引き抜き、抜刀術を巨人の手首に繰り出した。
その振られた刀身によって真空状態になった刀身の軌道から、かまいたちが作り出され、巨人の右手首を綺麗に切り落とした。振り終えた刀身は新しかったのにも関わらず、役目を終えたと言うかのようにバラバラになった。
エレンとミカサを取り敢えずは救えたことに安堵しながらアンカーを真下にある屋根に射出した後屋根に足を着けて腰を落とし、長い距離をかけて止まる。
「くぅっ!!」
『瞬速』によって体に掛かった圧力と、止まるときに足に掛かった負担により意識が飛ぶかのような激痛がカエデを襲う。その痛みに耐えながらエレンたちのいる船へ向かう。
そして追いついたクラウスとイェルク、さらに右側の住民救助に向かわせていたB班がマリアウォールの方からやってきて合流する。
カエデを抜いたA班とB班は先ほど船に走ってきた巨人の追撃へと向かった。
「エレン!! ミカサ!! 大丈夫!??」
「カエデ....。カエデが今のをやったのか?」
「私たちは大丈夫。それより、カエデの体は大丈夫?」
「うん、やったのは私だよ。...ちょっと無理しちゃったから体の方はあんまり大丈夫じゃないかな」
「カエデ! 助けてくれてありがとう。ホントに強いなカエデは!」
「えへへー! いっぱい訓練してるからね! それじゃあの巨人倒してこなきゃ―。行ってくるね!」
「カエデ...無理はしないでね。 絶対にまた会おうね!」
「うん!!これ、取り敢えずミカサに貸しておく!」
カエデの体の具合を心配するミカサに、調査に行く際小さい女の子からもらったヘアピンをミカサの手に載せて握らせる。
「わかった」
「それじぁ、皆足止めしてくれているから行かなきゃ!」
「待ってくれカエデ!! 俺も! 俺にもやらせてく―――」
ぱぁぁぁぁん!
援護に向かおうとしたカエデはエレンのもとへ戻り、エレンの右頬を平手打ちした。カエデによって平手打ちされたエレンは赤くなった頬を手で押さえ、カエデを睨みつける。
「な・・なにすんだよカエデ!!俺だって――」
「馬鹿なこと言わないで!! 訓練された人達でさえ死んでしまうのに、立体起動装置も扱えない、巨人の弱点もしらない、戦う力もない、そんなエレンを連れて行けるわけ無いじゃん!! それに...。さっきみたいにミカサまで犠牲にすることになっちゃうよ」
「くっ!!」
「―――なんだよ」
カエデは俯きながら小さな声でエレンに言う。よく聞こえなかったエレンはカエデの方を見ながら首を傾げた。
「ぇ...?」
「エレンとミカサは私にとって初めての友達なんだよ!! お願いだから...。お願いだからそんなこと言わないで」
カエデが泣きそうな顔で言われた言葉にエレンは冷静になりカエデに頭を下げる。
「ごめん。いつか必ずカエデの力になれるようになるから!! そのときは一緒に、一緒に戦ってくれ...」
「うん!! ミカサ、エレンのことお願いね!! そこのミカサ達の友達もまた会おうね!」
「わかった、まかせて」
「ぁっ! はい!」
ミカサとアルミンは首を縦に振って了承した。
「カエデ!! カエデ援護を頼む!! 奇行種が他に2体も左エリアから来た!!」
「...ぇ!?あの特殊な奇行種が3体も!? すぐ行きます!!じゃぁ、またあとで!」
「カエデ絶対生きてまた会おうなぁああ!!」
エレンの声援を背中で聞きながらカエデは隊員達が奇行種3体と戦闘を繰り広げている場所へと駆け出だし、クラウスの隣へ指示を仰ぎに行った。
「隊長! 作戦は...?」
「来たかカエデ! 駆けつけてきてくれたB班の中の5人はあの奇行種の奴らにやられた。俺を合わせて残り8人。....特殊な武器も今はないからいつもの作戦は使えない」
「そんな...。じゃあ引きつけ班と討伐班に分けるのですか?」
「いや、先程までやっていたがあの奇行種の奴ら妙に動きがよくて、さらに連携しているようにも見えて、次々とやられてしまった。班別行動でA班がやっている作戦を俺とカエデ、イェルクの3人で行い、厳しいかもしれんがB班5人には2体の引きつけをやってもらう」
「そんな!? その引きつけを私がやって、残りの7人で作戦をやるわけには?」
「......だめだ。それだと成功率があまりにも低くなってしまう。俺たちが早く1体を倒し、すぐに援護に向かうのが最善だ!」
「...分かりました」
「総員に次ぐ!! A班の3人で班別行動の作戦A。標的は最初に船へ向かった一番小さい12m級の奇行種だ!! B班は残りの2体、15m級と17m級を引きつけてくれ!! 俺たちは12m級を倒し次第援護に向かう!!」
「「「了解!!」」」
カエデを説得したあと、大声で隊員たちに作戦内容をつげ、B班は2体を引き付けるように行動し、イェルクはクラウスとカエデのいるところに、うまくガスを噴出させて飛んでくる。そして膝を曲げながらゆったりと屋根の上へと着地した。
「3人での行動だからそれぞれの役割を言うぞ。カエデは中央から注意を引きつけてくれ。イェルクは右側から、俺は左側から攻めて巨人を翻弄しながらうなじまで到達して削ぎとる。この奇行種はやけに頭が良くてワイヤーを掴んでくることもある!ワイヤーを使う際は短時間にして行動するようにしろ!!それでは行くぞ!!」
「おう!」
「はい!」
カエデが中央の道、クラウスが左側、イェルクが右側の屋根の上に登ったのをお互いが確認すると同時に3人は20m先からこちらに向かってきている巨人に向けて走り出す。
先行して走っていたカエデは、操作装置を縦に振ると同時についていた刀身を着脱させて12m級の目に向けて投擲した。
だが、目に刺さるはずの刀身は12m級が右手を顔の前にもってくることによって防がれる。
内心驚きながらも、走るのをやめしかなくなった12m級の隙を見逃さず、真横の家の側面までジャンプして体と壁が垂直になるように膝を曲げながら足の裏を壁につける。
そこから曲げた膝のバネを十分に活かして巨人の両足のアキレス腱のあたりを通り過ぎるように跳び、そのまま両足のアキレス腱を深く切り、巨人の足を一時的にだが機能停止状態にした。
「うがあぁああああ!!」
その場で一時的だが動けなくなった巨人は、叫び声を上げながら右手に拳を握りカエデに振り落とす。カエデはその拳をそれを横に飛んで難なく避けた。
「「これで終わりだっ!!」」
クラウスとイェルクは2人はガスを噴射させ、屋根から一気にうなじのあたりまで飛んでうなじを切り落とそうとする。
「っ!?!? なんだと!?」
切ろうとしていたうなじは突然12m級が左手でうなじの部分を覆ったことにより防がれる。
さらにその手は普通の巨人より硬く、傷はつけたが刀身が欠けてしまった。
いろいろな奇行種を見てきたが、自分の弱点を知り、防いだ巨人は初めてだった。だがあらゆる状況で判断してきたクラウスはすぐさま指示をだす。カエデもまた、殴り落とされた右腕に飛び乗り、腕の上までいっきに駆け上がる。
「まだだっ!! イェルクと俺で左手を手首から切り落とすぞ!! 切り落としたあとのとどめはカエデにやってもらう」
「了解だっ隊長!」
2人はすぐさま新しい刃をつけ、イェルクが剣を手首に深く差し込みながら半分ほどそぎ落とす。さらに間を開けずにクラウスが残りの半分を切り落とし、手首が切られたことでうなじを隠していた12m級の左手が地面へと落ちた。そこでカエデが巨人の肩に到着した。
「がぁぁああ!!」
「そんな攻撃あたらないよっ!!」
12m級はさせるかと言うように叫び声をあげながら、右腕をすぐさま動かして肩へと手を伸ばし、カエデを捕まえようとする。カエデはそれを巨人の頭上方向へ斜めにジャンプすることで避け、頭上に数m上空に到達したカエデは体を半回転宙返りさせ、そこからガスを噴射させることで一気にうなじまで到達し、そのまま縦にうなじを削ぎ落として巨人を絶命させた。
「よしゃっ! 倒したぞ!! すぐさま援護に行きましょう!!」
「取り敢えず合流しましょう!」
「そうだ...な...。いや....それは必要無さそうだ」
イェルクはすぐさま3人はB班の5人と合流を図ろうと、残り2体の奇行種がいるであろう奥200mの方を見た。しかしそこには、引きつけていたはずのB班の戦っている姿はなく、お前らの部下はすべて殺したぞと言うような笑みと、この奇行種には仲間意識があったのだろうか―憎しみのこもった目をしながらこちらへ走ってくる奇行種2体の姿があった。
「そんな!?みんな、みんな殺されてしまったの!??」
「クソッ!!あの巨人の奴らッ」
「今は悲しむのも憎むのもこの状況を打破してからだ!! まだ住民が避難を終えていないから逃げられない、今いる人数は3人、さらにもうガスボンベの中身も残り少ない・・・。
短期決戦をするには無謀だから住民が避難を終えるまで引き付けるぞ!! 大きな隙を見つけたらすでに死んでいる駐屯兵のガスボンベをとって自分の残り少ないやつと取り替えるんだ。おそらくあまり使われていないだろうからな」
「おう! 取り敢えず会話はここまでのようだな!絶対生きて帰ろうな2人とも!!」
「「言われなくともっ!!」」
3人は連携を取りながら巨人2体から距離を取りながらうまく引きつけ、時間を稼ぎ、1本ずつではあるがガスボンベを取り替える。そしてカエデはストックがなくなった自分の鞘の中に刀身を補充する。
「よしっ! この調子だ!! あの最後の船が行くまでこのまま耐えきるぞ!!」
クラウスがそう言ったつかの間、巨人は突然動きを変え、船に向かって全速力で走り出した。
巨人の長い足は広い歩幅を作り出し、さらに引き締まった筋肉によって異常なスピードを出しており、あっという間に引き離された距離は3人に焦りをもたらした。
「なっ...!? 嘘だろ!!?」
「まずい!! すまないが....カエデ頼んだ!!」
「わかった!」
クラウスは最も早いカエデを先に行かせて少しでも足止めをしてもらうために指示を出した。カエデは体に負担にならない程度のガスを噴射させながら巨人を追いかける。クラウスとイェルクもカエデには到底及ばないが、巨人を追いかけるためにガスを噴射させ、自分たちにとって最大速でカエデの後を追いかける。
――この奇行種...今まであった巨人の中で一番速い!!
先程まで船から6kmほど引きつけていた距離も残り1kmになったところでカエデはやっとのことで2体に追いつき、後ろの15m級の足が着地したところを狙ってアキレス腱を切ろうと剣を振りかぶる。
シュッ。
――えっ!? 外した!!
切る予定だった足はそこにはなく巨人の姿も視界からいなくなっていた。
―― 一体どこに?
っ!?...上!?
そう思ったとき自分周辺に大きな影ができていることに気づき、15m級が踏みつぶそうと落ちてきたのを縮地で一気に前方に避けた。そして前方の17m級も足を止めてこちらを見えたので足止めできたとほっとするが、その考えは違った方向で間違えていることに気づく。
――か、囲まれた!!隊長とイェルクさんはまだ全然追いつきそうにない。
......まさか最初から私を2人から引き付けるために!?
上から落ちてきたのを前に避けたことにより必然と、もともと前を走っていた巨人と挟まれることになったカエデに緊張が走る。
カエデを囲んだ状態になったのを見て、15m級は不気味にニヤリとし、奥の17m級はカエデに向けて右手に拳を放つ。それをジャンプして躱すが、その行動をよんでいた手前の15m級は、あらかじめ構えていた左手の拳をカエデへと打ち出す。
前方へ重心をかけながら体の中心からはなられた巨人の拳は凄まじい威力とスピードを持って空中にいるカエデへと襲いかかる。
しかし、緊張したこの場面で限界まで集中力が高まっていたカエデはその拳のスピードと軌道を正確に瞬時に把握し、その拳を自分の体ギリギリまで引きつけてからガスを爆発的に噴射させ、さらに体をひねることで服をかすめながらも避けることに成功した。
避けられた拳は勢いを抑えられることなくもう一方の17m級の、最初にカエデに放って地面を抉っていた右腕の肘を吹き飛ばし、そのまま右脇腹に突き刺さった。
――よしっ!! 再生する前にこのまま一気に仕留める!!
15m級の両目にアンカーを射出して刺して視界を奪う。そこからすぐにワイヤーを巻き込むとともにガスを噴射させ巨人に接近する。
そこで巨人の右腕が動いたのが見えた。
――うなじをまた守ってくる。勢いを付けて手首ごとうなじを...。っ!?!?
カエデのその予想は大きく裏切られた。
なんと15m級の右腕は自分のうなじではなく、眼球の方へ持っていきワイヤーを掴んで引っ張ったのだ。
カエデは予想外の巨人の行動にほんの一瞬硬直するが、瞬時にワイヤーを切ることで自分の体を巨人の思いどうりにさせることを防ぐ。
しかし空中に体が投げ出され、さらに手首ごとうなじをそぎ取るために体を横にひねっていたせいで、空中でなにもできない体制になってしまった。
そこで右腕の再生を終えた17m級が、カエデを仕留めようと再び拳を握った右手を打ち出す。それをすぐさま体を縮めることで、これから来るであろう衝撃に備えて生存率を少しでも高めようとする。
しかし、巨人の打ち出した拳はどう考えても生き残れる威力ではなかった。
――あぁ。 死んじゃう。
お父さん、お母さん...生き残るっていう約束守れそうにないや.......
「っ...!!」
背中に衝撃を感じた瞬間、カエデの体はなぜか上に飛ばされた。
その衝撃に、すぐに目を開けて下をみたカエデの目には、心配そうな、悲しそうな顔をしながらグッと親指を立てるクラウスの姿があった。
巨人の拳が放たれるとき、ようやく戦闘の場についたクラウスは絶体絶命のカエデの下へとガスを噴射させて潜り込み、上に蹴り上げることで巨人の拳の軌道から脱出させた。
その際、無駄死には絶対しないという決意で巨人のうなじの方向へ蹴り飛ばすのを忘れずに…。
「たいちょ――」
バキバキバキッ
クラウスは巨人の拳の衝撃を引き受けた体の右側から骨を折られながら、住宅の壁へと吹き飛ばされた。クラウスが拳に骨を折られながらもカエデの方をしっかり見て満足した様な笑みをしていたのをカエデはしっかりと見た。
「ク、クラウスたいちょ......。ぁぁあああああああ!!!」
カエデは大声を出しながら、15m級のうなじ上空にある、クラウスによってうまく蹴り上げられたことによって安定した体をガスを噴射させることによって、一気に無防備になっていた15m級のうなじを切り落とした。
「隊長!! 隊長ー!!」
地面へと着地したカエデは少しはなれた隊長の吹き飛ばされた住宅まで走って向かい、倒れて絶え間なくあらゆるところから出血をするクラウスの肩をゆする。
そこにイェルクが到着して、クラウスの脈、体の状態を確かめると首を横に振った。
「カエデ......隊長はもう―――「言わないで!!」...」
カエデはイェルクの言葉を遮って、その先を言わせないようにする。
「カエデ。おまえが足止めしてくれたおかげで住民の乗った船は無事に壁を超えた。...撤退するぞ。」
「せめて、せめてあの巨人だけは!!」
「落ち着けカエデ!!これ以上戦っても疲労するだけだ!!」
「うぅっ...。でも、あの巨人がいる限り私は逃げ切ることができてもイェルクはできないよ!」
「じゃあ 俺はここに残って少しでも戦って時間を稼ぐ!!」
「それを無駄死にって言うんです!!」
「んだとぉ!?」
イェルクは自分がカエデより弱いことは承知だが、カエデの言い方にムキになった。
「私が15分引きつけます!! その間に...どうか、どうか隊長とともに壁を超えてください!!」
イェルクは少し考える仕草をすると再びカエデの顔をよく見る。
「カエデ...。いいか? 絶対無理はするなよ? そして15分たったら絶対に撤退して壁を超えること!」
「はい!!」
「すまないなカエデ...。それじゃまたあとで!!」
取り敢えずは落ち着いたカエデの正論により、イェルクはクラウスの亡骸を背負って固定すると、壁の方へと去っていく。それを17m級が追おうとしているのをカエデが素早く縮地で近づき、左足のアキレス腱を切ることで防いだ。
「2人の後は追わせないよ!!」
「がぁぁああああ!!」
左足のアキレス腱を切られた巨人は倒れそうになるのを右足で踏ん張る。そして先ほどの戦闘で普通の攻撃は当たらないと学んだのか2回建ての石造りの家の角を掴み崩し、壁だった石をカエデに向かって投げた
「甘いよ!!」
次々迫ってくる大きな石を時には切り、時には避けて、最小限の動きで回避していった。
「きゃっ!」
「....え?」
カエデは巨人しかいないと思っていたこの場に、普通じゃありえない小さな叫び声を聞いて声の聞こえた巨人の崩した石造りの家の方向を見た。
――なっ!? あの子はヘアピンをくれた女の子!!
巨人も小さな女の子の叫び声を聞き逃すわけがなく、小さな女の子の着ていた服をつまみ上げて自分の口へ入れようと口元へ持っていく。
「た、助けてカエデお姉ちゃん!!」
「今助けるからね!!」
――あんな大げさな行動......あの巨人の罠かもしれない。
それならば巨人の目に止まらない速さで駆け抜けるしかない!!
――『瞬速』――
石を避ける行動を屋根の上で行っていたため、その屋根から一気に瞬速で少女を掴んでいる手を手首から切り落とした。
折れた刀身を操作装置から外しながら地面にアンカーを刺し込んで自分についた速度を減速する。そしてある程度減速したところで地面を踏み込みもう一度瞬速を使い、巨人の手から離れた少女を優しく包みこみ、なるべく衝撃が少女にかからないように連れ去った。
「ぐッ...!」
2度も瞬足を使ったカエデは体中が悲鳴をあげるが勢いを殺し、止まることに成功した。
そして腕の中で、凄まじい速度に耐え切れなかったのであろう―気絶している少女をゆっくり壁に体重をかけさせるように座らせた。
――この少女を連れてあの巨人から逃げるのは無理。
それなら...この巨人は倒す!!
そう決意したあと、状況を見るため周りを見渡すと、シガンシナ区にはもう住民がいないためにターゲットをこちらに変えて、遠くからこちらに向かってきている巨人が数体見えた。
――時間をかけている暇はないね。短時間で倒す!
カエデは新しく操作装置に刀身を付けて巨人に向かって構えをとり、地面にを強く踏み込む。
「はぁぁぁああああ!!」
地面を抉れるほど踏み込んだため、体中の骨にひびが入る痛みがして顔を痛みに歪めるが、一気に巨人の右足を瞬速のスピードそのままに剣を振るって切り飛ばす。
切り飛ばした直後に残り1つしかないアンカーを、巨人のうなじまでの距離を正確に把握しながら太ももに刺し込む。そして鞘にある最後の新しい刀身に付け替えた。
勢いを殺していない体は、数本の骨が音が折れながら張ったワイヤーによって空中に上がり、状況の理解できていない無防備な巨人のうなじまでたどり着き、遠心力そのままに一気にうなじを削ぎ落とした。
こうしてカエデは17m級の奇行種を自身の限界を超える攻撃によって倒すことに成功した。
巨人を倒すことには成功したが、カエデの体はとうに限界を超えていた。
――だめ、体が思うように動かないよ....。
瞬速の多用と、先ほどのワイヤーを使ったアクションにより全身の骨のところどころにひびが入り、肋骨を数本折れたことにより体が思うように動かなかったカエデは地面に体をバウンドさせながら転がり、やがて気絶しているさきほど助けた少女の前で止まった。
――うぅっ!! 立たなきゃ...立って行動しなきゃこの子は死んでしまう!! 動け!! 動け!!
「うぅっ....」
足をフラフラさせながらゆっくりと歩いてきた普通の10m級の巨人にむけて構えをとる。
しかし、構えをとっただけで動かない体は巨人に簡単に掴まれてしまう。
「はな...して!!」
――生きるんだ!! 死んでたまるもんですかっ!!
カエデは強い意志のもと、掴んでいる巨人の手を切り落とそうとする。
しかしその思いは虚しく、先程の無理な扱いによりすでにボロボロだった刀身は真っ二つに折れた。
「あああぁぁああああ!!」
少しずつ巨人の手からかかる圧力にカエデは悲鳴を上げる。
バシュッ
その1秒後、カエデは肉が削ぎ落とされる音とともに体にかかる圧力がかからなくなったことに気づく。そして先程の巨人を切ったであろう人物がやさしくによって抱きかかえられた。
そのぬくもりに安心したカエデはその人物に体を預けた。
――あったかい...。私はまだ生きてる...。
カエデはゆっくりとその人物の顔を見た。
その顔は鋭い目つき、容姿が良く、顔つきから予想した年齢から考えると身長の小さい少年だった。
「あな...た...は?」
「今年で卒業する予定の訓練兵―リヴァイだ」
「助けてくれて、ありがとう...」
「っ! ぁ、ぁあ! あとは俺がお前を連れて壁を超えてやる! 安心して眠っていいぞ」
「ありがとう。私の近くにいた少女...は?」
「俺と一緒に来た奴がもう連れて行ったぞ」
「よかった....。守ることができた」
カエデは頬を少し赤らめたリヴァイにそう言うと安心したように眠った。
「こんな少女が人類最強か。
たしかに遠目だが、一瞬で奇行種を倒していたからたしかだが...」
――にしても、お礼を言ったときの笑顔は可愛かったな...
まてまて、俺はロリコンじゃねぇぞ!
首をブンブンと振り、いつもの鋭い目つきに戻ったリヴァイはカエデを連れて壁を越えるべく、カエデを背負い壁へと向かっていった。
リヴァイはゴロツキの時、エルヴィンに拾われてその後訓練兵に・・・っていう設定です。
ちなみにこの時点で17歳の設定です。