表示を見ると、そこには彼が最も苦手とする
あからさまに「ウゲ……ッ」と表情を歪めるも、コールは止まずに鳴り続けている。
仕方がないので通話に出ると、聞き慣れた、聞き慣れてしまった声が聞こえてきた。
「はーい、もしもし。こちら総務課福利厚生担当のストロングゼロでーす」
「……はい、こちらバーボンですが。どうしました?」
少し高めで、明るい男の声に耳を傾けながら、要件の予想は付いてるが聞かなくてはいけない。
それが聞きたくないことであっても。
「あっはっはっは。再三申し上げてるんですけどね?…………とっとと有給消化しろやボケ。良いか、有休は権利じゃねえ。義務だ。取れ。良いな?」
「……………はい……」
明るかった声が一転し、ドスのきいた低い声へと変わってしまう。
これは総務課からの連絡ではなく通告であると、強制的に理解させられてしまう声だった。
子供が聞いたら小便をチビリ、泣いて逃げ出してしまうような声だった。
この声相手には、ただただ肯定の意を示さざるを得ない。
ならば仕方ない。
ここで有休をとり、
そう考え、組織の有休を申請しようとするその瞬間だった。
「では、来週の金曜日から「ああ、先に言っておくけども、確か毛利探偵事務所に潜入中だとかだそうですけど、そちらの方で活動した場合は勤務したとカウントされるので。有休は取り消しになるから。良い仕事をするためにも、きっちり休め。悪事を行うには体が資本だ。休め。
「……わ、分かりました」
まるでこちらの行動を予見したかのように通告してくるストロングゼロに、流石のバーボンもタジタジになりながら受け答えをする。
「それじゃあ、申請の方はメールの方で改めて。なお、明日の昼12時までに申請がなかった場合、再度連絡いたしますのでそのつもりで。それでは、失礼いたしました」
「ど、どうも……」
最後に再び少し高めの明るい声に戻り、事務的に通話を終えられたバーボン。
携帯電話の画面を眺めながら、どこか哀愁を漂わせる背中でポツリ、と呟く。
「……どうでもいいけど、あの人幹部じゃないからコードネームはないはずじゃあ………?」
付け加えるなら、ただの平事務員が他部署の幹部にドスをきかせて会話をしたことにもなるのだが、それが問題にならないのは何故なのだろうか。
そう思いながらも、彼の指はメール画面を開き出す。
有給の申請を行うために。