黒の組織総務課福利厚生担当ストロングゼロ   作:逸環

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彼の一日です

ストロングゼロ(自称のコードネーム)の朝は早い。

6時に起床し、朝日を浴びながらコンポのスイッチを入れる。

流れてくる曲に耳を傾けながら、エスプレッソに砂糖を三杯。

芳醇な香りと苦み、そして甘美な甘さを味わいながら、ゆっくりとカップを傾ける。

ホ…ッと一息をつき、今度は煙草を一本咥えて火をつけ、一服。それが終われば、寝間着代わりの黒のジャージから漆黒のスーツに着替え、家を出る。

自転車を漕ぎ一つのビルに到着すると、手の甲でエレベーターのボタンを押す。

目当ての階に到着し事務所に入り、パソコンを立ち上げブルーライトカットの眼鏡をかけると、彼の仕事が始まる。

 

「お、ようやくバーボンが有給申請した。…………いや、何で1日だけぇッッ!?」

 

黒の組織総務課福利厚生担当、自称コードネーム『ストロングゼロ』。

彼の一日に密着してみた。

 

 

 

 

まずはいつもの様に、有休を取らない他部署の上司を威圧しながら電話を終える。

次にすべきことは、黒の組織独自運営の各種保険の整理と申請だ。

殉職率の高い職場ではあるため、自然とこの作業にも身が入る。

最近でもトップに近い、最古参の幹部(ピスコ)が亡くなられ、遺族に多額の保険金を支払うということがあった。

まあ、その死因は身内による粛清なのだがそれはそれ。

生前大企業の会長であった故人は、当たり前の様に最高額の保険に加入していた。

それに関してはきっちりと支払われなくてはいけない。

ということがあったため、次に誰が死ぬかも分からないこの組織。

保険の確認作業は何度しても足りないということはない。

特に危険度の高い仕事に赴くことが多い、実働の組織員にはより高額の保険をお勧めしなくてはいけないのだ。なお、保険に関してだが以前組織の下っ端の女性が亡くなられた際、その妹に保険金を支払う必要があったのだが、その妹が組織から失踪したという話も聞いている。

見知らぬ仲ではなかったストロングゼロとしても、この件に関しては心を痛めてはいるので、どうしたものかと頭を悩ませている。ちなみにだが、付き合いのあった理由が、その妹も妹で有休を全くとらなかったので再三取る様に連絡をしたり、研究室に突撃したからという理由であるのが悲しいところ。

甘い雰囲気なやつはなかった。

 

保険に関する作業が終わったところで、丁度昼休憩に入る。

ここで彼は、一つの電話番号に電話をかけた。

 

「……あ、どうもこんにちはストロングゼロですー。お久しぶりです。はい、はい。えっとですね、キールさんには度々申し訳ないんですけども……」

 

電話の相手は、組織の幹部の一人キール。

キールは水無怜奈という名前で日売テレビの女子アナウンサーをしており、かなりの人気を誇っている。

そんな彼女にストロングゼロが電話を掛けた理由、それは――――――――

 

「沖野ヨーコちゃんのライブのチケット、また手に入らないですかね?あ、いけます?すいません本当に!いつもいつもありがとうございます!はい!今度お礼にご馳走しますので!はい!ありがとうございます失礼します!!」

 

――――――――大好きなアイドルのライブのチケットを融通してもらうためだった。

完全なプライベートである。

余談だが彼が起床後に聞いていた曲も、沖野ヨーコの曲である。

 

黒の組織総務課福利厚生担当ストロングゼロ。

彼は熱烈な沖野ヨーコのファンである。

 

 

 

電話後に昼食を食べ、喫煙所で五本ほど煙草を吸い、昼休みが終われば午後の仕事が始まる。

組織に加入した新人たちへの親睦会の準備だ。

組織の所有するビルの一室を会場として押さえ、食事や飲料の手配を考える。自分たちが裏家業の組織であり、例え些細な痕跡でも極力残さない方が良い事を考えると、ケータリングなどを使用するよりも自分たちで調理をし、使い捨ての容器だけで食器を済ませられる様にするべきだろう。

飲み物も酒類はビール党以外も楽しめる様に各種揃えておき、下戸やドライバーのためにソフトドリンクも充実させなくてはならない。

後はタクシーで帰るメンツのためにタクシーチケットを用意する事と、二次会のために会場近隣のカラオケ店などの把握も必要だろう。

その他諸々の準備を検討している内に、定時間際。

人に有給を取れだのなんだの言っている男が残業をしては、笑い話にもならない。

手早く帰り支度を整え、定時と同時に退勤する。

 

「おっと、今日は確か……」

 

帰宅途中にコンビニに立ち寄り、週刊誌を購入する。

普段は買わない雑誌だが、今週号だけは買わなくてはならない事情があった。

表紙と巻頭のグラビアが、沖野ヨーコだからだ。

ストロングゼロが買わないわけがない。

レジに並んでいる最中、そろそろ煙草が切れる事を思い出し、週刊誌の会計時にいつも購入している煙草の番号をレジに伝え1カートン分を購入する。

コンビニを出てすぐに、出入り口付近に設置されている灰皿のそばに立ち、三本ほど吸い貯めをしてから再び自転車を漕ぐ。

 

自宅に着けば、まずはシャワーを浴びる。

茶色の濃い赤髪を洗う最中に溢れる鼻歌は、沖野ヨーコのポップでキュートな新曲。

体も洗い終われば、童顔を年相応に見せるために伸ばしている顎髭を剃刀で整え、これでシャワーは完了。

黒いジャージに身を包み、冷蔵庫から豚バラ薄切りと卵を取り出し、サラダ油で豚バラを炒めながら卵を溶き、溶き卵に中華出汁を一匙。ある程度豚バラが炒まったところで卵を流し込み、フワッとなる様に加熱すれば、夕飯の完成だ。

昨日炊いておいたご飯の上に炒め物をのせ、丼にしてかき込んでから、冷蔵庫に入れていたキンッキンのビールで喉を潤す。

これで夕飯が終わる。

 

コンビニで買っていた週刊誌を開き、グラビアはしっかりと、他はパラパラと捲る。

読み終われば表紙とグラビアをカッターで丁寧に切り取り、1枚1枚ファイルへと仕舞う。ファイルの背表紙に週刊誌の名前と日付を記入し、本棚へしまえばこれで作業完了だ。

 

コンポのスイッチを入れ、新曲を流しながら筋トレを行い、それが終われば再びシャワー。

テレビを付けてボーッと煙草を何本も消費しながら観ている内に、気付けば23時。

翌日も仕事があるため、もう寝る時間となる。

歯を磨き、布団へ潜り、リモコンで消灯。

 

これが彼の、ストロングゼロの一日。

 

 

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