その日、ストロングゼロ(自称のコードネーム)は、とあるドームに来ていた。
常に来ている黒のジャージは、黒地に特徴的なペイントがされたTシャツに変わり、腕にはリストバンド。
ショルダーバッグを肩から掛けた彼は、その時を待っていた。
そして幕が開き、その時が訪れる。
「それではこれより!沖野ヨーコのスペシャルライブの開催ですッ!!」
「「「「「「「「ヨーコちゃあぁぁぁぁぁあぁぁぁんんんっっっ!!!!!!!」」」」」」」」
スポットライトが照らし、サイリウムが煌き、アイドルは輝く。
開幕から爆発したかのように歓声が上がり、客席のボルテージは一気に最高潮へと達する。
もちろん、その盛り上がる客の中には、ストロングゼロもいる。
サイリウムを振り回し、全力で声をあげて応援する。
そう、ストロングゼロはアイドル沖野ヨーコの大ファンである。
「いやー!今回のライブも最高でしたなぁ!」
「そうですなぁ!いやー!若いのに話せる!ウチの連中にも見習わせたい!!」
「いえいえそんなそんな!あ、グラスが空になってるじゃないですかー!」
「おおっと!これはすいませんなぁ!!」
「「アッハッハッハッハッハッハッハッハッッ!!!」」
ライブ終了後、興奮冷めやらぬままライブ中に意気投合した隣の男性と、そのまま居酒屋に流れ込み、酒を飲み始めること早一時間。
そこにはベロベロの成人男性二名という、見苦しさ全開の組み合わせができていた。
しかも片方は事務職とはいえ、裏稼業の人間という状況。
同僚が見たら三度見は確実の絵面である。
「……ああ、そういえば自己紹介がまだでしたな。俺は……あー……名刺はないか。とりあえず、俺はティム・
そう言いながら髪を弄るストロングゼロの髪の色は、茶色がかった赤。
確かに、日本人ではそうそういない髪色だ。
「ほほー!なるほど!それじゃあ自分も……あー、もしかして自分をご存じない?」
「あー、世事には疎くて……。ずっと見覚えがあるとは思っていたんですが……。有名人の方で?」
「なるほど……よし!それなら今から我が家で飲みましょう!我が家まで来れば、一発で誰か分かりますから!!……それに、前のライブのDVDも一緒に見れますしなぁ!!ダーッハッハッハ!!!」
「ほほう!それはそれは!ぜひぜひお邪魔させていただきます!!」
自己紹介からとんとん拍子に話が進み、気が付けば男の家へ行くことに。
本来ならば怪しいと思うべきなのだが、酔っ払いにはその判断のための理性が残ってはいない。
男と共にアイドルの話題で盛り上がりながら店を出て、しばらく歩く。
「お!ここですここです!ここが我が家兼事務所の――――――」
男が指さす先を見て、ストロングゼロは目を見開いた。
ベロベロに酔っていても、ものすごく聞き覚えと見覚えのある文章が、そこに書かれていたから。
「――――――毛利探偵事務所です!!」
そこは、自分の組織が狙撃した場所だった。
後日、ストロングゼロから毛利探偵事務所に、沖野ヨーコのグッズとお米が贈られたのは、別の話。