黒の組織総務課福利厚生担当ストロングゼロ   作:逸環

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男二人の旅行です

その日、ストロングゼロは珍しくジャージでもなければ、スーツでもなかった。

黒のベストにスラックス、赤いシャツに黒のネクタイとソフト帽という、お洒落な出で立ち。

なぜ彼がそのような恰好をしているかというと、今回は静岡県にある、とある旅館に訪れているからだ。目的は今度行う予定の慰安旅行の下見。

そして今回の下見のための旅行は、一人同行者がいた。

 

「……なんで僕が慰安旅行の下見に同行しているんですかね?」

 

「こうでもしねえと休まないから。安心しろ。これも仕事ということで、給料は発生するから」

 

ミスター過労死こと、バーボンが今回の下見旅行の同行者である。

ちなみにだが、バーボンの本日の装いはピンクのTシャツの上に白の上着を羽織り、胸ポケットには黒縁の伊達眼鏡。そしてグレーのスラックスといったもの。

旅館の外門から玄関までの道を並んで歩きながら、二人は話す。

 

「まあ、とりあえず名目は非力な事務員さんの護衛ってことで、出張申請通してるんでよろしくな。バーボ……あー、安室さん?」

 

「絶対に人前でコードネームで呼ばないでくださいね、ティムさん」

 

「そっちこそな」

 

「いや、貴方正式にはコードネームないですよね?貴方の場合自称ですよね?」

 

「…………うん」

 

ぐうの音も出ないとはまさにこのこと。

本当はコードネームがないのに、コードネームで呼ぶなとは片腹が実に痛い。

 

「ま、まあそれは置いといて!事前の調べだとこの旅館は源泉かけ流しの温泉で評判でな!きっとみんなの日頃の疲れも癒えると思うからここに下見に来たんだよ!うん!」

 

「なるほど。それは悪くないですね」

 

「ちなみにだが、今回の慰安旅行は先に希望者を募ってから企画しててな。我々としては非常に嬉しいことに、ベルモットさんは不参加です!!」

 

「それは本当に良かった!」

 

全力でガッツポーズをする童顔成人男性二人組みだが、かなり失礼な話ではある。

しかしこれも仕方のないというもの。

ベルモットという組織のトップお気に入りの幹部女性には、常日頃から良いように使われたり、更には玩具扱いされるなどしている二人からすれば、この女性が不参加というのはガッツポーズものなのだ。

 

男二人でそんな話をしながら玄関の扉を開けると、そこには和の趣溢れるお出迎えの空間。

フロントでチェックインを済ませると、仲居さんに部屋へと案内される。

 

「こちらのお部屋になります」

 

「「おぉー!!」」

 

通された部屋は、部屋自体は普通の畳敷きの和室。特徴としては、宿泊客の荷物入れのためにか、鍵のかけられる箪笥があるということ。しかし、窓から見える景色は普通ではなかった。

窓からは静岡の海が、全客室で見られるのがウリという前情報に違わない、素晴らしいロケーション。

この日は快晴ということもあり、煌く空と海に目を輝かせる二人。

 

「素晴らしい景色ですね!」

 

「扉を開けてすぐにこの景色とは、こりゃぁ良いもんだな」

 

海ではサーファーたちが波と戯れ、遠くには漁船も見える。

それを見ながら、慰安旅行の時には釣り船での釣りを予定に組み込むのも良いか?と思案するストロングゼロだが、事実静岡の海で獲れる海産物は非常に美味しい。釣りも釣果が良ければそれは盛り上がるだろう。昼は釣りで楽しみ、夜は釣った魚を食べて楽しむというのも、悪くない。

とはいえまずは、自分たちのこの下見旅行を楽しまなくてはいけない。自分が楽しめなかったもので、人を楽しませることなどできないのだから。

 

「こちら、お部屋の鍵になります。それから、お食事はお部屋に19時頃にお持ちいたします」

 

「あ、分かりました。それでよろしくお願いします」

 

仲居が部屋から立ち去り、残された男二人。

ふと、あることに気づきストロングゼロがバーボンに問いかける。

 

「聞き忘れてたけど、安室さんって煙草おーけーな人だっけ?」

 

テーブルに置いてある、灰皿とマッチを指さしながら。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、良い湯だった良い湯だった!」

 

「食事も美味しかったですね。特にキンメダイの煮つけが絶品でした」

 

「おぉ、この宿にして正解だな。こりゃ慰安旅行も成功するぞ」

 

チェックインをしてから数時間後、二人は旅館を満喫していた。

食事を楽しみ、温泉に癒され、現在は部屋に戻り敷かれていた布団の上でくつろいでいる。

バーボンはテレビを観ながら、ストロングゼロは持ち込んでいたノートパソコンに思いついた企画を記入しながら話す。

なお、二人とも手には缶ビールが握られており、部屋には数本の空き缶が転がっているあたり、既にまあまあ飲んでいる様子が窺える。

 

「……なあ、安室さんや安室さんや」

 

「何ですかティムさん?」

 

「好きな女子誰よ?」

 

「……修学旅行の高校生ですか貴方は?」

 

「あ、分かった。小五郎さんとこの蘭ちゃんでしょ?ダメだよ?未成年に手を出しちゃ?」

 

「違いますからね!?」

 

「じゃあ、ポアロのあの可愛い店員さんか」

 

「じゃあ!?って言うか、貴方毛利探偵と仲良くなってると思ったら、いつの間にポアロにまで!?」

 

「この間小五郎さんとこで飲んだ帰りに、モーニング食べたかったから……丁度開いてたし……」

 

「えぇ……この人いつの間に僕の生活圏にここまで入り込んでたんですか……?」

 

そして酔いが回ってきた男どもの会話ほど、どうしようもないものは中々ない。

驚くほどに中身がない会話をしているが、いくら裏稼業とはいえ日常会話としてはこの程度だろう。

バーボンが自分の知らなかった生活圏への浸食に頭を抱えているが、それはまあ許容範囲内だと思いたい。

 

「あ、Twitterリプ来てんじゃん。リプ返しないと」

 

「貴方、絶対に組織の中で一番世俗にまみれてますよね」

 

「ただの事務員だしね。あ、ヘレス=ケレスさんじゃーん。最近忙しそうだったけど、Twitterに顔出せるくらいは落ち着いたんだ。良かったー」

 

「事務員だからとかじゃ、絶対にないでしょう……性格の問題ですよ」

 

「えー」

 

酒と無駄話で、男たちの夜は更けていく。

そしてその翌日、事件は起きた。

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