イビルアイが仮面を外すとき   作:朔乱

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ツアー、旧友が来訪する

 その日、彼はいつものように、ここ数百年ほど自分の塒にしている気に入りの場所で微睡んでいた。

 

 この数年間というもの、彼は常に自分の意識を飛ばして、この世界に既に来ているかもしれないプレイヤーの影を探していた。彼が以前遭遇した邪悪な雰囲気を纏った吸血鬼は、あの後いくら探しても姿を見つけることはできなかった。しかしそれとは別に、明らかにプレイヤーと思われる存在が強大な魔法を行使し国を立ち上げたことには気がついていた。

 

(あの存在も正直、邪悪な部類に属する存在だと思っていたのだけれど) 

 

 しかし、ツァインドルクス=ヴァイシオン、またの名を『白金の竜王』とも呼ばれる、が観察する限りその存在は完全な邪悪とも思えないのだ。

 

(少なくとも『彼』が今現在作り上げている国の在り方からして、法国とは相反する主義の持ち主みたいだし、八欲王のように自分の利益だけを求めて周辺諸国を蹂躙するわけでもないし、武力だけに頼ることもしていない。恐らく『彼』がその気になれば、この世界などあっという間に滅ぼせるくらいの力は持っているはずなのに……)

 

 ツアーは首を傾げる。

 

 あの存在については正直わからないことばかりだ。これまでのプレイヤーとは違い、特定の種族に肩入れすることもなく、無差別に何かを仕掛けることもない。

 

 しかし、既に小国とはいえ一国を建国し、帝国は完全にその属国になってしまっているし、王国や聖王国にも少なからぬ影響を及ぼし始めているようだ。おまけにこれまで統制のとれていなかった亜人種や異形種なども、それなりの数の部族を秘密裏に支配下に置いているらしい。さすがに、そろそろ評議国としても、そして世界の『調停者』としても、真剣に対応を考えなければいけないだろう。

 

(リグリットはあの後ここに来てくれてはいないけど、少しはユグドラシルのアイテムの情報は手に入れられたのだろうか?このギルド武器を使うことは僕にはできないし……)

 

 親しい友人のことと、自分が守っている貴重な宝のことを少しの間考え、それからまた『彼』について思考を戻す。

 

(ようやく『彼』のギルド拠点らしきものは見つけたけれど、彼らは一体どの程度の戦力なのだろう。恐らく、以前出会ったあの吸血鬼は『彼』の仲間なのだろうけど、そもそもあの吸血鬼はプレイヤーなのか、それとも従属神なのか?)

 

 彼らは自分たちの情報が外に漏れることを極端に警戒している、とツアーは思う。

 

 これまでツアーは何度もプレイヤーと対峙してきたが、今回のようなケースは初めてだった。大抵は、自分たちの力がこの世界では非常に強いことに気がつくとその力を誇示し、良きものなら世界を救い、悪しきものなら世界を滅ぼそうとする。そして、多かれ少なかれ、この世界に大いなる希望か絶望をもたらすのだ。突然一人きりで見知らぬ世界に降り立ち、混乱し、逆にひっそりと隠遁生活を送ろうとするものもいなかったわけではないが、それはそれでかなりの稀なケースだ。

 

 なにしろ、プレイヤーという存在は、この世界から見ればまさに神に等しい力と、強力な魔法が込められたアイテムを複数持っているのが当たり前なのだから。力に溺れない方がおかしいのだ。

 

(『彼』がこの世界にとって良い存在だとはっきりわかればいいんだけど……)

 

 ツアーはそう考えてため息をつく。それを知るには、やはり本人と直接対峙して対話するしかないだろう。少なくとも相手はある程度は良識的に振る舞ってはいるようだから、評議国、そして『白金の竜王』から正式に対話を申し出れば、拒むことはないように思われる。

 

(やはり、リグリットあたりの意見も聞いてみたいところだな。彼女ならもっと細かいことまで情報を集めているはずだ。いい加減、顔を見せてくれるといいのに……)

 

 

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 ツアーが考えるのをやめ、再び意識を世界に飛ばしつつまどろもうとした時、急にその場の空気が乱れ、誰かが侵入してきたことに気がつき一瞬警戒をする。しかし、入ってきた相手が誰なのかが分かると、微笑みを浮かべた。

 

「……ああ、君か、リグリット。久しぶり。ちょうど君が来てくれるといいと思っていたところだったんだ。それにどうやら、珍しいお客さんも一緒だね?」

 

「ツアー。ちょうどこちらに向かおうとしている時にいきなり訪ねて来たんでね。せっかくだから、引っ張って来たのさ」

 

 くつくつと意地悪そうに笑うリグリットの後ろには、少しバツが悪そうな顔をしたイビルアイが仮面を外して立っていた。

 

「いや、私は、リグリットにちょっと話というか、相談……があっただけだったんだが……。まあ、ツアーにも聞いてもらってもいいかな、とも思って……」

 

「君の相談だなんて興味深いね、キーノ。一体、何があったんだい?」

 

 ツアーが珍しくからかうような口調でイビルアイに声をかける。側に立っているリグリットもニヤニヤ笑いが抑えられないようだ。

 

「ツアー、ちょっと見てご覧よ。インベルンの嬢ちゃんが左手の薬指に指輪なんて嵌めてるんだよ? 随分長いこと一緒に旅をしたりもして来たのに、これまではずっとそんなことには全く興味がないって顔をしていたのにさ」

 

 そのリグリットの発言で、イビルアイの顔は真っ赤に染まる。

 

「へぇ……。僕は人間のそういう風習についてはあまりよくわからないんだけど、それってもしかして、キーノに彼氏とかいうのができたっていうこと?」

 

「い、いや、違う! まだそんなんじゃない!!」

 

 耳まで真っ赤にしたイビルアイが、ツアーの言葉に反論した。

 

「でも、少なくとも、指輪を相手から貰ったってことには変わりないんだよねぇ? しかも後生大事にその指に嵌めるってことは、つまり、インベルンの嬢ちゃんにもようやく春が来たってことなんだろう?」

 

 ひどく楽しそうに笑い声を上げるリグリットに、イビルアイは頭を抱える。

 

「くぅ……。絶対にこうなるって思ってたんだ……。リグリットのバカ野郎!! 人をからかうのも大概にしろ!」

 

「だけど、これまでどんな男性にもなびかなかったキーノがそんな風になるなんてね。僕でも少し驚いたよ。君の心を射止めたのがどんな相手なのか、僕としてはとても興味があるんだけど。よかったら教えてくれないかい?」

 

 ツアーのそのセリフに、イビルアイは一瞬びくっとして黙り込む。その様子に、少し不審なものを感じたツアーとリグリットは顔を見合わせる。

 

「どうしたんだい? 相手に何か問題でもあるのかい?」

 

「いや……、問題というか……、その……。ちょっと言いにくい相手なんだ……。だから、私が、この話をしたのも他の人には内緒にしてほしいんだが……」

 イビルアイはしどろもどろになりながら答える。

 

「そんなに問題のある相手なの? もしかして、ひどく身分が違うとか? でも君がそんなことを気にするとは思えないし、僕たちも相手が誰だろうと気にするつもりはない。それに、友人の大事な話を誰かに漏らすようなことはしないよ」

 

「全くだね。むしろ相手が誰だろうと、これまで散々拗らせてきた友をようやくその気にさせてくれた相手なら、誰でも歓迎するつもりだけどねぇ。我々を見くびってもらっちゃ困るよ、嬢ちゃん」

 

「嬢ちゃん、いうなぁ! リグリット、歳はほとんど変わらないだろうが!」

 

 その言葉を聞いてツアーとリグリットは笑い声を上げる。それが少々癇に障ったのか、イビルアイはぷいっとそっぽを向いた。

 

「まあ、その辺にしておこうよ、リグリット。キーノが可哀相じゃないか」

 

 ツアーは正直その相手というのにかなり関心があった。寂しがり屋の癖に、誰かと深く付き合うことに対して妙に怯えるところがあるイビルアイが、一体どんな相手に心を許す気になったのか?それに相手はイビルアイがアンデッドであることを受け入れて指輪を渡したのだろうか?だとすれば、ツアーとしてはそれだけでもその相手にかなり好感が持てそうな気がする。

 

「……。その……聞いても、驚いたり笑ったりしないって約束してくれるか?」

 

 珍しく真剣な表情でイビルアイが二人に問いかける。その様子に、これ以上からかうのはやめた方がよさそうだと感じ取ったリグリットも、さっきまでの調子とは打って変わって真面目に頷いた。

 

「もちろんだとも。友の愛する相手を笑ったりなどはしないさ」

「あぁ。僕としても、キーノの気持ちは大切にしたいからね」

 

 二人のその返事に少し安心した様子になったイビルアイは、覚悟を決めた様子で告白した。

 

「実は……その…………魔導王陛下なんだ」

 

「……………え?」

 

 人間よりも遥か長い年月を生きてきたツァインドルクス=ヴァイシオンも、リグリット・ベルスー・カウラウも、イビルアイに何を言われたのか一瞬理解することができずに、ただ沈黙した。

 

 

----

 

 

 永遠とも思える時間が経ったような気がしたが、それは恐らくほんの五分ほどの間であっただろう。

 

 やがて、最初の衝撃が収まったツアーが口を開いた。

 

「魔導王というと、一年ほど前に建国したアインズ・ウール・ゴウン魔導国の王だよね? 非常に強力なアンデッドで魔法詠唱者だという。キーノ、一体彼と何があったのか聞いてもいいかい?」

 

「何があったか、と言われても……。どちらかと言えば、私の方が一方的に一目惚れしてしまったのが発端だったんだ。王国で起こったヤルダバオトの事件の時に」

 

「あぁ……、そういえば、おぬしが誰ぞに血道を上げているという話を聞いたような気がするねぇ。でも、大悪魔に王都が襲われた時は、まだ、魔導国ができる前の話じゃないか? もしかして、王になる前の魔導王に会った、ということかい?」

 

「詳しくは言えないけど、まあ、そうだな。彼にとっては多分偶然だったんだろうけど、あの時通りすがりに私を助けてくれたんだ。それで、まさに、一目惚れと言うか、なんというか……」

 

 イビルアイは、さすがに後半は気まずくなったのか、いつもよりも大分歯切れの悪いもごもごした言い方になり顔を俯けたが、それが自分の顔が真っ赤になっているのを二人に見せたくないからのように見えた。そんなイビルアイの様子は長い付き合いの二人といえども一度も見たことがなく、それだけでもなんとなく微笑ましい気分にはなる。しかしながら、相手があの『魔導王』というのは、さすがに素直に応援していいものかどうか、ツアーとリグリットにとっても判断に迷う問題だった。

 

「インベルンの嬢ちゃん、まさか、相手がアンデッドだったら誰でもいいとかいうんじゃないだろうね?」

 

「な、何をいっている!? そんなんじゃない!!」

 

 リグリットの訝しそうな問いに、イビルアイは必死の形相で否定する。

 

「……。ふうん。僕は魔導王はプレイヤーだと疑っていたのだけれど。……君を助けてくれたということは、彼は邪悪というわけではないのかな……?」

 ツアーがボソリと呟く。

 

「ツアーがいうように、彼はぷれいやーなのかもしれない……。そういわれてもおかしくない桁違いの強さを持っていると思う。でも、あの方は、見た目は少し怖いけど、とても優しいし思いやりのある方なんだ」

 

 そういって、イビルアイは左手の指輪をそっと撫でる。

 

「ふうむ。そうはいっても魔導王といえば、カッツェ平原で大量殺戮をしているそうじゃないか。確かにあやつはアンデッドだから、おぬしの本性を知ったとしても、そりゃ気にはしないだろうが……。本当にそんなやつを信じていいのかい?」

 

 リグリットの言葉で、イビルアイはリグリットを軽く睨みつけ、きっぱりと言った。

 

「それは、確かにその通りだ。あの方は良いことばかりをしてきたわけじゃない。そんなことはわかってる。だけど、人をたくさん殺してるのは私だって同じだ。だからそれが理由であの方を信じられないというなら、私だって信用できないんじゃないのか? リグリット」

 

 イビルアイのその反応で、言葉を失ったリグリットは黙り込む。

 

 ツアーはその二人の様子を面白そうに眺める。

 

 ツアーも魔導王がカッツェ平原で行ったという殺戮の話を聞いていないわけではないが、あれは所詮人間たちが行う愚かな戦争の一部として行われた行為として認識している。どのみち戦争なんて相手を殺すためにやるものだし、それをいい始めたら、国を治める者たちで大量殺戮者ではないものなどいないだろう。竜王国の現状は悲惨なものだが、国民を守れない為政者だって、無意味に民を大量殺戮しているのと全く変わらない。そしてそれは世界の歴史としては自然な成り行きだ。だから評議国はある意味縁戚ともいうべき竜王国に対しても、特に援助も干渉もするつもりはない。

 

 それよりも――。

 

 ツアーはイビルアイが毅然とリグリットに反論したことの方が興味深かった。ちょっとしたことですぐに泣きべそをかいていた、あのキーノの姿は何処にもなく、何か一本の強い芯のようなものが彼女を支えているように感じる。それも悪い意味じゃない。これまでだったら、彼女が正面から向き合えずに逃げていたことからも、今の彼女なら立ち向かえる強さをいつの間にか身につけているようにも感じられるのだ。

 

(これが恋の力とでもいうものなのかな? 僕にはあいにく経験はないけれど。だとしたら、キーノの心にこれだけ短期間で強い影響を与えた魔導王というのに、僕としてもかなり興味を引かれるのは否定出来ないな。……可能なら、敵対しないですませられるといいのだけれど……)

 

 別にツアーはプレイヤーと喧嘩したいわけではない。仲良くとまではいかなくとも、お互い許容できる関係になれるのならそれに越したことはないのだ。

 

「僕としては君の恋路を邪魔するつもりも反対するつもりもないよ。キーノ。君がそんなに誰かに打ち解けられたのなら、それはそれで友として喜ばしいことだからね。ただ、これだけはいっておくよ。僕はまだ魔導王とは今のところ何の交渉もしていない。だけど、近い将来彼に対して何らかのアクションは起こさないといけないとは思っている。だからその結果僕と彼は敵同士になるかもしれない。もちろんそうならないほうが嬉しいけどね。ただ最悪君の愛する人を、僕は殺さないといけないと判断するかもしれない。それは頭に置いておいてほしいんだ」

 

「それはわかる。ツアーの立場ならそうだろうし、最悪そうなってしまうのも仕方がない」

 

 そのツアーの返事を予期していたイビルアイは頷く。しかし、直ぐに吹っ切れたようないい笑顔になって言い返した。

 

「だけど、その時は……、私も彼を守るために共に戦うつもりだ。だから彼と戦うなら覚悟しておいてくれ、ツアー! 君は大事な友人だけど、彼は私にとってはかけがえのない人……じゃなくて、アンデッドなんだ。だから、そう簡単には彼を殺させはしないからな!!」

 

「あはは、それは怖いな。僕だってなるべく君とは戦いたくはないよ」

 

 そういうと、ツアーは楽しそうに笑った。そんなツアーにつられて、イビルアイも声を合わせて幸せそうに笑う。

 

「なんじゃ、二人ですっかり話が纏まってしまったようじゃな」

 

 呆れたような口ぶりでちゃちゃをいれるリグリットも、さすがに二人のやり取りで毒気を抜かれたようだ。

 

 他人の恋路に下手に首を突っ込んでもどのみちろくなことはない。本人が幸せなのなら、その結果多少痛い目にあうとしても人生にとってのいいスパイスにはなることだろう。リグリットは自分の淡い初恋を思い出し、苦笑いをした。

 

「ところで、相手のことはこの際置いておくとして……、嬢ちゃんの相談事というのは一体なんだったんだい?」

 

「あぁ、そうなんだよ、リグリット! 実は、この指輪は確かに魔導王陛下から頂いたんだが、陛下にはまだ付き合ってもいいとかそういうことを言われたわけじゃないんだ。だけど、わざわざ指輪をくれたってことは、少なくとも陛下は私に気があるってことなんだよな!? ツアー、君ならどうなんだ!?」

 

 急に真顔になったイビルアイの話の内容に、二人は困惑する。

 

「えぇ、そうなの? うーん、そんなこと僕に聞かれても困るよ……。そういう経験とかないし……。リグリット、君ならわかるんじゃない?」

 

 リグリットは、自分に面倒事を押し付けたツアーを睨みつけたが、イビルアイの必死な様子にため息をついて答えた。

 

「……、あまりこういうことはいいたくないが……、嬢ちゃん、おぬし、本当に魔導王に女性として相手にされておったのか?」

 

「え? それはもちろんだとも! ちゃんと『でーと』だってしたし、その後で今日は楽しかったから、といってこの指輪をくださったんだ! 私に、その、興味があったからこそ、そういうことをしてくれたに決まってるじゃないか!?」

 

 それはどうだろう。と思わずツアーとリグリットは顔を見合わせる。

 

 イビルアイが魔導王にかなり熱を上げてるらしいことは理解した。しかし魔導王にはそこまでの熱意はないような気もしなくはない。だが、それを期待で目をキラキラさせて必死になって言い募るイビルアイにいうことは、さすがの二人にもできなかった。

 

「まあ、嬢ちゃんがそう思うならそうなんじゃないかね?」

「僕はそういうことは詳しくないけど、キーノがそう思うならそれでいいんじゃないかと思う」

 

 二人はそっと目を逸らしつつ、無難にそう答える。

 

「……、ツアーもリグリットも、真面目に取り合ってくれてないな?」

 

「いや、そんなことはないに決まっておろう! 友の恋路を応援しているだけさ。なあ、ツアー?」

 リグリットは乾いた笑いで取り繕う。

 

「う、うん、リグリットの言うとおりだよ」

 

 軽く頬を膨らませているイビルアイを見ながら、ツアーはふと、その魔導王がくれたという指輪に興味を持つ。恐らく何らかのマジックアイテムなのだろうが、どんな品物をくれたのかがわかれば、彼がプレイヤーかどうかも彼の人となりも、少しはわかりそうな気がしたのだ。

 

「キーノ、せっかくだから、その指輪少し見せてもらってもいいかい?」

 

「ん? ああ、もちろんいいとも!」

 

 イビルアイは左手の薬指から大事そうに指輪を抜いてツアーに渡した。ツアーは渡された指輪に鑑定魔法をかけ、その魔法効果に絶句する。

 

「これはこの世界では最上位に近い品物じゃないか。簡単に人にあげられるような品物ではないよ。しかも、効果も君にちょうど合っているし。……これをくれたのなら、彼は確かに君に少しは好意を持っていると思っていいんじゃないかな。少なくとも、僕はそう思うよ」

 

 そういって、ツアーはイビルアイに指輪を返す。ツアーの言葉を聞いて、ぱぁっと明るい顔になったイビルアイは、再び宝物を扱うように指輪を元の指に嵌め、優しく撫でている。

 

 そんなイビルアイの様子を見て、ツアーはまるで自分の娘を嫁に出すような気持ちに近い何かを感じたような気がしたが、それとは別に、彼がこれまで疑念として持っていたものの裏付けが取れたことで、若干気をひきしめる。

 

(これではっきりした。『彼』は間違いなくユグドラシルプレイヤーだ)

 

 しかも、このレベルの品をあっさりとイビルアイに渡すところを見ると、彼は恐らくかなりのレベルのマジックアイテムを相当数持っていると思っていいのだろう。となると、それなりに強い複数の従属神を連れていたとしてもおかしくない。問題は彼らの規模がどれくらいなのかだが……。

 

(敵に回すとかなり厄介そうだな……)

 

 ツアーはこっそりため息をつく。

 

「やっぱりツアーは頼りになるな! ありがとう! 少し自信が持てたよ!」

「まったく、現金じゃな、嬢ちゃんは……」

 

 そんなイビルアイをリグリットが軽く小突き、イビルアイがリグリットにお返しとばかりに軽く肩を叩く。そういえば、昔からこの二人はこうやってよくじゃれていたっけ、とツアーは懐かしく思い出す。

 

「もう、リグリットなんて当てにしない。次からはツアーに直接聞きに来る!」

 

「えぇ、キーノ、そんなことやめてくれる? 僕はほんとにこういうことは疎いんだから。……そういえば、リグリット、君の用事はなんだったの?」

 

 ツアーは慌てて話を変えた。

 

「ああ、そうじゃった。別に大した話ではないのだが、以前おぬしに頼まれたユグドラシルのアイテム探しの件、今のところあまり上手く行っていないと一言いいに来ただけじゃ。恐らく法国に行けば何かしら手に入るのだろうが、あそこには正直あまり行きたくないしのう」

 

「そうか……。まぁ、それは仕方ないよ。僕だってそうそう簡単には見つけられていないからね。それよりも、今日はキーノから魔導王がどんな人なのか聞けただけでも大収穫だった。僕の方でもこれで魔導国への対策を少しは立てやすくなったと思う。感謝するよ、キーノ」

 

「いや、私こそ二人に話を聞いてもらえて助かった。だからお互い様だ!」

 

 イビルアイは、にっこり笑ってツアーとリグリットに礼をいう。

 

 それから、しばらく三人は昔の思い出話に花を咲かせた後、リグリットとイビルアイはツアーに別れを告げ帰っていった。

 

 

----

 

 

 再び静けさを取り戻した自分の塒でツアーは伸びをする。

 

(まぁ、たまにはこんな風に旧友とのんびりする日があるのもいいものだ)

 

 そう思いつつ、ツアーはそのうち相まみえることになるだろう、魔導王のことに想いを馳せる。

 

(スルシャーナに似た感じのアンデッドという話だったと思ったけれど……。もしかしたら、ユグドラシルのアンデッドはこの世界のアンデッドとは違って、そんなに邪悪なものばかりじゃないんだろうか?)

 

 いずれにしても、彼と会って話をしてみるのが少しだけ楽しみになってきているのを感じる。確かに、評議国の今後のこともあるし、世界にとって彼がどう影響するのかというのもある。だけど自分にとっては大事な友人であるイビルアイのことだって、もちろん気にかからないわけじゃない。

 

(彼はキーノを幸せにしてくれるだろうか?)

 

 もしかしたら、もうあの泣き顔を見なくてすむかもしれない。それはツアーにとっても少し嬉しいことだ。

 

 突然の来客ですっかり邪魔されてしまったが、ツアーは再び微睡もうと丸くなり、そっとその目を閉じた。

 

 

 

 

 




Sheeena 様、佐藤東沙様、誤字報告ありがとうございました。

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