イビルアイが仮面を外すとき   作:朔乱

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2: 王国の暗雲

 蒼の薔薇がエ・ランテルを訪問してから、もうすぐ一年が過ぎようとしていた。

 

 当時、崩御されたという噂が流れた魔導王は、復活して聖王国でヤルダバオトと再戦し、メイド悪魔を従属させ、見事魔皇を打ち倒して国に帰還している。聖王国ではまさに英雄だと称える声も多いらしい。もっとも、当の聖王国では新聖王カスポンドが主軸となって国の立て直しを図っているが、元から軋轢のある北部と南部のいざこざで、思うように進めることが出来ていないようだ。

 

 通い慣れた道を歩きながら、イビルアイは今の王都の風景を眺めた。

 

 イビルアイは、二百年前のまだ建国したばかりの頃の王都の様子を覚えていた。あの時は、新しい王を賛え、新しい国を歓迎する声で王都は溢れていた。魔神によって完全に蹂躙されつくした国土を、王も貴族も民も力を合わせて復旧させようとしていたのだ。それなのに、今はどうだろう。道行く人の顔は疲れ切っており、荒んだ雰囲気がそこかしこから感じられる。あの時の生き生きとした面影は何処にも残されてはいない。

 

 しかし、それも仕方がないことだろう。何しろ、今の王国は圧倒的に様々な物資が不足している。物価は上がるばかりで庶民の生活は苦しくなる一方だ。去年の冬も酷いものだったが、それでもかろうじて乗り切ることはできた。だが今年の冬に関しては、もはや神のみぞ知るといったところだろう。収穫が期待できない耕作地を捨て、都市のスラム街に流れ込む人々も多い。表面上はまだ落ち着いているように見える王都だって、少し裏の方に行けば、仕事も食べる物もほとんどない貧民達が道端で大勢暮らしている。皆、悪化するだけの現状に絶望しきっているのだ。

 

(どうして、王国はこんなに上手くいかないんだ? 同じ人間同士だというのに……)

 

 蒼の薔薇は、ラナーの依頼で王都周辺の村々の治安維持に赴くことがあるが、そのたびに、イビルアイは王国の現状と、魔導国の現状を見比べないわけにはいかなかった。

 

 人間は儚く脆い種族だが、だからこそ持ち得る素晴らしい面がたくさんあるとイビルアイは思っている。それは、自分自身が失ってしまったものだからこそ、よりそう思うのかもしれない。だが例え一人一人が弱くとも、仲間を思いやったり助け合ったりして大きな力を発揮することの素晴らしさを、イビルアイは愛していた。それが、イビルアイが実力差があるにも関わらず、蒼の薔薇として活動する大きな理由の一つでもあった。

 

(しかし、今のこの国の現状はどうだ? どう見ても、人間が人間を滅びの道に導いているようじゃないか……)

 

 もし、この国を『彼』が導いてくれたなら、そんな問題はあっさり解決してしまうかもしれないのに。イビルアイはふとそう思ってしまう自分に気が付き苦笑いする。そして、そっと自分の左手の薬指に嵌められている宝物を優しく撫でた。

 

 そんなイビルアイの様子に目ざとく気がついたのか、すかさず、ティアが突っ込みをいれる。

 

「イビルアイ、また触ってる。そのうち触りすぎて指輪が減る」

「べ、別に、そんなに触ってない!!」

 

 慌てて指輪から手を離すが、それを様子を見ていた蒼の薔薇は楽しげな笑い声をあげる。

 

「イビルアイはいつも幸せそうでいいよなぁ。俺にも今度モモンを少し分けてくれよ。俺の勘じゃ、あいつは多分童貞だ」

「な……なんてことを言うんだ! ガガーラン、絶対に、絶対にそんなことごめんだからな!?」

「冗談だよ、本気にすんな」

 

 必死になって抗議するイビルアイに、ガガーランは豪快な笑い声をあげると背中を思い切り叩き、ちょっと拗ねたようにイビルアイはそっぽを向いた。

 

「……全く、いつもいつもからかって……、もう、皆もいい加減忘れてくれればいいのに……」

 

 苦虫を噛み潰したように呟くイビルアイの様子は、それでも、そのからかいを満更でもなく思っているように見え、ほんの一時ではあるが、それぞれに重苦しい物を抱えていた面々は気分が明るくなるように感じる。

 

「イビルアイを見習って、私もいい加減いい人を作らないとね。いつまでもこの『無垢なる白雪』を装備できるのも考えものだわ……」

 

「鬼リーダーは選り好みしすぎ。もっと性別も広く捉えるべき」

「年齢も大事。男の子は素晴らしい」

「やっぱ、童貞だよなぁ!」

 

 そんなラキュースを揶揄する声が次々にかけられる。

 

「こっちは真剣に悩んでるのよ!? はぁ……イビルアイの気持ちが少しわかったわ……」

「そうだろう!? やっとわかってくれたか、ラキュース。ほんと酷い奴らだよな!?」

 

 恋愛経験値が妙に高い三人組に太刀打ちできない乙女二人は、珍しく手を取り合って三人を睨みつけた。

 

 

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 エ・ランテルでの執務を終えた後、アルベドとデミウルゴスから重要な案件について相談したいと連絡を受けていたアインズは、エ・ランテルの旧都市長の館からナザリック第九階層の自室に帰還していた。

 

 約束の時間になると、部屋の扉をノックする音が聞こえ、インクリメントの取次でアルベドとデミウルゴスが入室してきた。

 

 アルベドとデミウルゴスはアインズの前で一礼すると、手に持ってきた書類をインクリメントが持ってきた盆の上に載せ、ほぼ同時にその場に跪いた。インクリメントがその書類をアインズの手元まで持ってくる。アインズは、この手順にうんざりしながら、その書類を手に取り、表題を読むと中身を少しだけめくってみる。

 

「二人とも、立つがいい」

 

 アインズの許可でアルベドとデミウルゴスは美しい所作で立ち上がり、恭しく頭を下げた。

 

「これは……、王国の件だな?」

 

「はい、アインズ様。これまで長い時間をかけ、果実が腐って自然に落ちる時期をはかってまいりましたが、そろそろ収穫の時期かと存じます。そのため、かねてよりデミウルゴスと共に練っておりました、王国に対する最終作戦を実行するご許可を頂きに参りました」

 アルベドが、穏やかな微笑みを浮かべながらアインズに告げた。

 

「ふむ、なるほど……。ついに、王国も潮時ということか……」

 それらしいことを言いつつ、真面目に読んでいる振りをしながらアインズは書類をめくった。

 

(うーん、なんだこりゃ。またよくわからない作戦計画書を作ってきたな……。頭いい奴はこれで理解できるんだろうか?)

 

 アインズは、読み終えるのがあまり早くなりすぎないように気をつけながら、書類に目を通した。しかし、今いち要点が理解できない。なにしろ、今回の作戦は、実際に戦闘をするわけではなく、謀略がメインになっているので、アインズとしてはかなり苦手な部類なのだ。恐らく、ぷにっと萌えなら、目を輝かせて読んだのだろうが、自分の頭では正直理解の範疇外だ。しかしながら、信頼する二人の守護者相手にそんなことを言うわけにはいかず、わかった風を装いつつ支配者としての威厳を崩さない程度に、なんとかもう少し詳しく説明してもらおうと試みることにした。

 

「二人とも、なかなか素晴らしい作戦案だと思う。流石は、私が最も信頼する智慧者二人が練り上げた作戦だけのことはある。……ところで、私はこの作戦には利点が四つほどあると理解しているが、それで間違いはないか確認したい。デミウルゴス、お前の考えているこの作戦の利点を説明しては貰えないだろうか?」

 

「はっ。お褒めに預かり光栄です。流石はアインズ様、この作戦の利点を全てお見通しでおられるようですね。まさに端倪すべからざる御方……。そのようなアインズ様に改めてご説明する必要など、私としては全く感じませんが……」

 

 デミウルゴスとアルベドが「さすが、アインズ様」と頷き合っている様子を見て、アインズは焦った。

 

(えっ、そうなの? もっと正直にわからないって言ったほうがよかったか? でも、ここで引き下がるわけにはいかない。せめて、もう少し詳しく内容を聞き出さなければ、聖王国の二の舞いだよ)

 

「世辞はいい。私としては、万が一にも、互いの理解に齟齬があってはいけないと常々思っている。だからこそ、お前達の狙いをはっきりとさせておきたいのだ。いいな?」

 

「では僭越ながら、この作戦の趣旨と目的をご説明させていただきます」

 

(先生、なるべくわかりやすくお願いします……)

 

 祈るようにアインズはデミウルゴスの説明に耳を傾ける。やっぱり、この場にせめてシャルティアかマーレ辺りも連れてくるように言い含めておくべきだった。そうすれば、もっと詳しい説明を聞きやすかったのに……。

 

「まず、この作戦については、既にほとんど旨味が残されていない王国の刈り取りが主目的となっておりますので、ナザリック側の介入は最小限に留め、原則として現地民に実行させる手はずとなっております。そのため、万が一、この作戦がシナリオ通りにいかなかった場合でも、被害の全てを王国が一方的に受けることで、王国は自然と滅びの道を辿ることになるため、結果が変わらないというのが利点の一つです。第二の利点ですが、この作戦の成功時には既に我々の協力者となっている例の女を支配の仲介として使うことにより、円滑に属国化を進めることができます。第三の利点については、魔導国が王国を救うことになるため、魔導国の平和的統治を他国に対しこれまで以上にアピールすることができます。第四の利点については、この作戦でよりアインズ様の神格化が進み、アインズ様の素晴らしさをより多くの者どもに知らしめることができるでしょう」

 

「…………神格化?」

 

「はい、アインズ様こそが、この世界の神であると知らしめる一歩として、ふさわしいかと存じます。既に聖王国ではアインズ様の寵を受けたネイア・バラハが設立した団体がかなり勢力を増しつつあります。そのような状況を王国でも作り出せるかどうかの実験も合わせて行いたいと考えております」

 

 自信満々に説明するデミウルゴスを、アインズは呆然として眺める。あまりの驚きに昂ぶった精神が一瞬で沈静化されるが、想像を絶するパワーワードに再び酷く動揺してはまた沈静化する。

 

(ちょっと待って!? 世界征服以外に、いつの間にかまた新しい設定が生えてない!? 神とか一体どこから出てきたんだよ? 少なくとも俺は一度もそんなことを言った覚えはないはずだ。しかも、ネイア・バラハがそんなことをやってたなんて知らなかった……。彼女はシズの友人というだけじゃなかったのか?)

 

 いくら考えても全くわけがわからないアインズは、止めさせようにも、それを納得させる材料すら見つからず、無い胃がキリキリと痛むのを感じる。

 

「この世界全てを支配されるアインズ様が、いずれ神の座に着かれるのは当然のこと。それにも関わらず、アインズ様のお望みにこれまで気が付かなかった愚かなシモベをお許しくださいませ。今後はより一層、アインズ様の御心にお応えできる作戦を立案するように努力いたします」

 

 アルベドが神妙な顔をしながら軽く頭を下げる。

 

(いや、だから、そんなことは俺が望んでいることじゃない! 一体どうしてこんなことになったんだ……)

 

 しかし、智慧者二人の目は異様なまでに輝いており、まさにこれこそ自分たちの進むべき道とばかりに、全く疑っているようには見えない。そして、そんな二人にそれを否定するようなことを言える勇気などアインズにあるはずもなかった。

 

「は、はは……。我が真意をよくぞ見抜いたな……。流石は、アルベドにデミウルゴス。お前たちに任せておけば間違いなど起きようはずもない。わかった。では、この作戦の実行を許可しよう。必要な部隊編成は、アルベド、お前に全て任せる。実行部隊の指揮はデミウルゴスが行うように」

 

「アインズ様の御心のままに」

「ありがたき幸せ。決して、アインズ様に後悔させるようなことはいたしません」

 

 守護者二人は深くお辞儀をして、やる気に満ち溢れた様子でアインズの命を受ける。

 

「ああ、ただ二点ほど気をつけてほしいことがある。今回の作戦では無垢なる者達には極力被害が及ばぬようにし、必要であれば保護をせよ。それと、蒼の薔薇に関しては今後も利用価値があるかもしれないので、いたずらに傷をつけることは避けて欲しい」

 

「それは……、特にイビルアイを、ということでしょうか?」

 

 さり気ないデミウルゴスの突っ込みに、アインズは一瞬動揺する。そういえば、以前守護者達が揃った時にイビルアイのことを説明したら、いつもに増してデミウルゴスがいい笑顔で頷いていたように思ったが、デミウルゴスにも何か利点があったんだろうか。おまけに聞き捨てならない名前を聞いたせいか、アルベドの肩がびくっと動くのが見える。

 

「えっ、いや、そういう訳ではないが……、まぁ、そう思ってくれてもいい。イビルアイは既に我が配下同然だからな」

「畏まりました。重々気をつけるように注意いたします」

 

 アインズの返答を聞き、何事もなかったかのように二人とも頭を下げたため、二人がどんな表情をしているのかは見えない。ただ、なんとなくアルベドからは若干異様な雰囲気が漂ってきている気がする……。しかし、余計な詮索はしない方が身のためだと判断したアインズは、あえて気が付かなかったことにした。

 

「では、二人とも頼んだぞ。今回も素晴らしい働きをしてくれると期待している」

「はっ、お任せください!」

 

 いずれにしても、既に動き出した巨大プロジェクトを止める術などない。例えそれが大赤字になるのが見えていたとしても。それは現実(リアル)で一社員だった頃から、既に嫌というほどアインズも身にしみていた。そして、ナザリックの誇る智慧者二人に反論などしても、所詮アインズの頭では勝ち目はないのだ。

 

(俺は一体どこまで行くことになるんだろうな。神か……。はは。そんなものになる日が来るなんて思ってもみなかったよ……。いや、まだなってないけどさ。ギルドの皆が聞いたら、どんな顔をするんだろう?)

 

 アインズは虚ろな目をして考える。

 

 そんなアインズを他所に、守護者二人は意気揚々と部屋から退出していき、その姿を見送ったアインズは出ないため息をついた。

 

 こんな時にこそ、誰か一人でも自分を理解して弁護してくれたら、少しは違う結果になるのではないだろうか。だが、少なくとも NPC 達では駄目だろう。自分の息子同然のパンドラだって、恐らくこの計画には乗り気であるに違いない。

 

(そういえば……イビルアイはどうなんだろう?)

 

 アインズとしては、彼女の気持ちは未だ理解しきれないところはあるが、NPC 達や自分に畏怖や崇拝をしてくる者達とは少し違うような感じがしていた。そんな彼女がこんな話を聞いたら笑うのだろうか。それとも怒るのだろうか。

 

 しばらく考えてみても、イビルアイがどう反応するのか全く想像できなかった。しかし反応が全く予測できない配下というのは、アインズにとってはかなり希少な存在だ。冒険者組合長のアインザックのように、NPC 達も駄目なことは駄目だと言ってくれる方が嬉しいのに、とも少し思う。

 

(こんなことなら、やはりあの時、無理にでも引き止めればよかったかもしれないな)

 

 イビルアイのほんのり甘い香りを思い出して、何とも言えない気分になるが、今更後悔しても仕方がない。

 

 部屋に一人取り残されたアインズは、こうなったら行くところまで行くしかないと覚悟を決める。どうせ、世界の支配者も神もそんなに違うわけではない。そんな苦しい言い訳を自分の中でひたすら繰り返してしているうちに、だんだん真面目に考えるのも面倒になってきて、未来の自分に全て丸投げすることに決めた……。

 

 

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 王都で定宿にしている高級宿屋の食堂で朝食をとっていた蒼の薔薇の元に、クライムが訪れたのは翌日の朝のことだった。

 

「ん? 童貞、またいつものお使いか?」

 

 大きめの肉の切り身を口の中に放り込みながら、目ざとくクライムを見つけたガガーランが声をかける。その声を聞いて、人探し顔をしていたクライムは食事をしている蒼の薔薇の面々に気がつき、ゆっくりと歩み寄ってきた。

 

「おはようございます。皆さん」

「おはよう、クライム。よかったら、そこの椅子に掛けていてくれるかしら? 何か食べるなら適当に頼んでも構わないわよ」

 スープを上品に口に運んでいたラキュースが空いている席をクライムに勧める。

 

「いえ、自分はもう朝食は済ませてきましたので……」

「まだ、朝っぱらからの訓練続けてるみてぇだな。程々にしとけよ? 訓練ってのもやればいいっていうのとは違うからな」

 ガガーランは、クライムの右手の袖口近くに付いている真新しい打ち身の跡を目ざとく見つけて、呆れたように言った。

 

「今日は、珍しくブレイン様が朝の稽古に付き合ってくださいましたので……。おかげで前よりは攻撃の繋ぎのタイミングがわかるようになってきたと思います」

「へぇ。あいつも何だかんだ言って結構優しい男だよなぁ。まあ、クライムのことを気に入ってもいるんだろうが」

 

 ガガーランのその言葉でクライムは少し照れくさそうに笑う。

 

「ところで、クライム、ラナーからのお使いで来たのよね? 今度はどんな用件だったのかしら?」

 ラキュースは飲み終えたスープ皿の上にスプーンを置くと、クライムに尋ねた。

 

「はい、実は昨日の今日で申し訳ないのですが、ラナー様がまた蒼の薔薇の皆さんに護衛をお願いしたいと。それで、今回は少し遠出する予定なので、支度を済ませられてから、なるべく早めに王城までお出でいただきたいとのことです」

「こんな時期にラナーが遠出? 一体どこに行くのかしら……」

 ラキュースは少し眉をひそめる。

 

「詳しくはラナー様からご説明があると思うのですが……」

 そういって、クライムは辺りの様子をさり気なく伺う。とりあえず、こちらの話に聞き耳を立てている人物はいないようだが、だからといって油断するのは危険だろう。

 

「ああ、確かに、こんなところでする話ではないだろう。……ラキュース、そういうことなら急いだ方がいいんじゃないか?」

 頬杖をついて飲み物だけ飲んでいたイビルアイもカップを置く。なぜか、いつもとは違うクライムの様子に、妙に気分が動揺するのを感じる。

 

「そうね。ティア、ティナも急いでくれるかしら?」

「了解。鬼ボス」

「もう、食べ終わる。いつでもいける」

 

「それじゃあ、クライム。ラナーの所に先に戻っていてくれる? 私達も準備ができ次第伺うと伝えてほしいの」

「わかりました。お食事中のところ、失礼いたしました。ではまた」

 

 クライムは丁寧に蒼の薔薇の面々に一礼すると、宿を出ていく。それを見送ったラキュースはため息をつきたくなるのを我慢して、無理やり笑顔をつくると、席から立ち上がった。

 

「さて、私達は請け負う仕事に最善を尽くすのみよ。今日も頑張りましょう」

「全くだな。よし、行くとするか」

「了解」

 

 いつものように食堂から部屋に向かう四人の後ろから、イビルアイもゆっくりついていく。

 

 自分らしくもなく、ラナーの用件に珍しく多少の不安に駆られてしまったようだ。この王国に、自分を倒せるような者などいない。だから、不安を感じる必要なんて何もないはずだ。だけど――。

 

(王国にもしものことがあったら……、アインズ様は助けに来てくれるだろうか? ……いや、そんなことを考えても仕方がない。彼は他国の王で、そもそも王国を守る義理なんてない。自分たちの国は自分たちで守る。それが当たり前だ。アインズ様はアインズ様で自分の国を守らなければいけないんだから……)

 

 イビルアイは、完全に無意識に左手の指輪を撫でる。そしてそんな風に思いつつも、心の中で彼が側にいてくれたらよかったのにと願わないではいられなかった。

 

 

 




佐藤東沙様、Sheeena 様、アンチメシア様、スペッキオ様、誤字報告ありがとうございました。

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