イビルアイが仮面を外すとき   作:朔乱

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4: 闇にうごめくもの

 レエブン候との会談を無事に終えたラナー達は、帰り道も余計な寄り道をすることなく馬車を走らせ、無事に王都に帰還した。

 

 蒼の薔薇とは馬車の所で別れたラナーは、その足でクライムだけを連れてザナックの部屋へ向かった。ザナックの部屋の前には、護衛の騎士が二人立っていたが、ラナーの姿を見て丁寧に礼をした。

 

「お兄様に帰還のご報告に参りました。取り次いでいただけますか?」

「はっ、王女殿下、少しお待ち下さい」

「クライム、貴方はここで待っていてくださいね」

「はい、ラナー様」

 クライムは頷いて、扉の脇に控えた。

 

 騎士の一人が扉をノックし、ラナーの来訪を告げる。やがて、中からメイドの一人が現れラナーにお辞儀をして部屋の中へと案内した。

 

「ザナック王子殿下、ラナー王女殿下をお連れいたしました」

「うん、わかった。お前は下がれ」

「はい、失礼致します」

 

 メイドが部屋から出ていくのを見送った後、ラナーはザナックに優雅にお辞儀をした。

 

「お兄様、只今エ・レエブルから無事に帰還いたしました」

「ああ、無事に戻ってきてくれたようで嬉しいよ、ラナー。それで、首尾はどうだったんだ?」

 

「はい、レエブン候もさすがに王国の窮状には心を痛めていらしたご様子で、なるべく早めに王都に戻られるそうです。長い間王都を不在にしたことをお兄様にお詫びしたいと、仰っておられましたわ」

「そうか! レエブン候がようやく戻ってきてくれるか……。さすがはラナーだな。あのレエブン候を説き伏せられるとは。しかし一体どうやったんだ? 何か魔法でも使ったのか? 俺は、正直、頷いてくれるとは思っていなかったのだが……」

 

 王都で一人奮闘していて緊張気味だったのか、少し青ざめた顔をしていたザナックも、ラナーの言葉で安心したのだろう。多少頬に赤みが戻ってきた。

 

「別に魔法など使っていません。普通にお願いしただけですよ」

 ラナーは穏やかに答えた。

 

「はは、そうなのか? まあいい。ともかく、ラナー、全てお前のおかげだ。本当に感謝する。これで王国も少しは持ち直すかもしれない。これからも宜しく頼む」

 

 ザナックがラナーに差し出した右手を、ラナーも柔らかく握り返す。

 

「ふふ。もちろんですわ。お兄様があの約束を守ってくださっている間は、私も協力は惜しみません。ところで……魔導国に何か動きがあったのではありませんか?」

 

 ラナーは少しだけ小首を傾げる。ザナックはその言葉で一瞬顔を引きつったように歪ませたが、すぐにいつもの顔に戻ってため息をついた。

 

「もう、お前の千里眼には慣れたよ、ラナー。お前がレエブン候のところに行っている間に魔導国から使者が来た。親父への見舞いの品を贈る使者を送るそうだ。一週間後に王都に到着するらしい」

「あら、別に千里眼という訳ではありませんよ。ただ、そろそろいらしてもおかしくない、と思っていただけです。それで、魔導国からはどなたがいらっしゃるのですか?」

 

「前回同様、宰相アルベド様だそうだ。式典にはさすがに今回は親父が出席できる状態ではないから、お前とレエブン候に頑張ってもらわないとな。でないと、あの馬鹿共が何を始めるかわからん。できれば、あの連中は公の式典から排除したいところだが……」

 

「あそこまで勢力が大きくなってしまうと、それは難しいでしょうね。必要最低限の相手には招待状を送らざるを得ないでしょう」

「そうだな……。後で人選の相談に乗ってくれ。さすがに今日は疲れただろう。休むといい。この件については明日また改めて話そう」

 

「わかりました。では、お兄様、明日またお伺いしますね」

 ラナーは無邪気な微笑みを浮かべ、王女に相応しい気品のあるお辞儀をした。

 

 

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 ザナックへの報告を終えたラナーは、クライムを伴って優雅に宮殿の廊下を歩き、自室まで戻ってきた。

 

 部屋の中にはメイドが一人控えており、ラナーとクライムが部屋に入るとお辞儀をして出迎えた。ラナーはそのメイドに湯浴みの支度を言いつけると、くるりとクライムの方に振り向き、可愛らしい笑顔を見せる。

 

「ああ、クライム、さすがに私も長旅で少し疲れちゃいました。湯浴みをしたら、今日はもう休もうと思います。ですから今日は貴方も部屋に戻って構いませんよ」

「わかりました。ラナー様。それでは、今日はこれで失礼します」

 

 クライムはラナーに一礼すると、部屋から退出していった。それを見送り、部屋に誰もいないことを素早く見回して確認したラナーの顔は、やがて怪しい笑みを湛えた表情に変わる。

 

 ラナーは、部屋の片隅に置いてある鏡の所に行き、その中をいつもの様に覗き込む。そこに映っているのは、先程までの可愛らしい王女ではなく、大きく歪んだ目と唇をした一人の化物だった。

 

 長かった。ラナーはそう思う。本当に長いこと、ラナーはやがて来るその日を待っていた。

 

 遠い昔、冷たい雨の中で拾った仔犬はすっかり大きくなった。彼の瞳はあの頃のまま、ラナーをひたすら信じて熱意がこもった視線を自分にだけ向け続けている。あの瞳を、そして彼の全てを手に入れるのももうすぐだ。

 

(これで私の方の下準備はほぼ全ておしまいね。ああ、少し最後の仕上げをした方がいいことも残っているけれど。後はあの方々にお任せしておけば……)

 

 コツン、と奥の浴室から誰かが出て来る足音が聞こえた。

 

 鏡の中の顔は、いつもの愛らしい王女のものに変わる。

 

「ラナー様、湯浴みの支度が整いました」

 先程のメイドが、頭を下げてラナーの後ろから声をかけた。

 

「わかりました」

 ラナーは振り返ると、ふいに何かに気がついたような表情を浮かべる。

 

「……あら、わたしとしたことが、ただいまの挨拶をお父様にしに行くのを忘れてしまっていました。今ならまだ間に合いますね。クライムは部屋に帰してしまったので、付いてきてもらえますか?」

 無邪気そうな笑顔でラナーは首をかしげる。

 

「畏まりました」

 

 メイドは静かに礼をすると、部屋の扉を開けるために扉の側に行く。メイドの後ろ姿を見ながらラナーは密かに暗い笑みを浮かべるが、すぐに元の笑顔に戻ると、メイドを供にランポッサ三世の部屋へ向かった。

 

 

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 人払いをした静かな部屋の中に、小さな人影が入ってくる。手には二つのカップを載せた盆を持っている。

 

「……お父様。只今戻りました。よろしければ、また一緒に紅茶を召し上がりませんか?」

 

 ひどく優しい声をベッドの上に横たわる部屋の主にかけるが、何の返事もなく、微かな寝息が聞こえてくる。

 

「……眠っていらっしゃるのですか?」

 

 少女は、盆をベッドの脇にある小さなテーブルの上にそっと置き、部屋の主に近づく。主の顔には全く生気がなく、少女がかける声に反応する様子は見られない。

 

「そうですか。では、せめて一口だけでもいかがでしょう?」

 

 可愛らしい笑みを浮かべて、少女は懐から出したものを自らの口に入れ、カップの紅茶を一口含む。そして、部屋の主にそっと口付けをするように、口の中に流し込んだ。やがて主の喉がこくんと微かに動くのが見える。それを確認してから、更にもう一口主に紅茶を飲ませ、口の周りをハンカチで丁寧に拭う。

 

 それから、少女は懐からまた何かを取り出して口の中に入れると、ベッドの脇に置かれている椅子に腰掛け、今度はもう一つのカップを取り上げて、ゆっくりと紅茶を楽しむように自分自身でそれを飲み込む。

 

 ベッドの様子を窺いながら、自分の影に向かって一言二言呟く。やがて、影が返す言葉を聞いて軽く頷くと、カップの紅茶を全て飲み終えた少女は優しく部屋の主に語りかける。

 

「それでは、ゆっくりとおやすみください、お父様」

 

 その表情は、ゆらりと悪魔のような形相に変わり、自分の仕上げを満足そうに見つめる。

 

 そして、部屋に入ってきた時と同様にテーブルの上の盆を持つと、そのまま部屋を振り向きもせずに出ていった。

 

 

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 レエブン候が王都に帰還したのは、ラナーが王都に戻ってから二日後のことだった。

 

 レエブン候が政務に復帰することは、対抗勢力を抑えるために帰還直前まで極少数以外には秘されていたが、レエブン候が王都の門をくぐると、その話は瞬く間に王都中に広まった。以前であれば、王都の一番広い通りを進むレエブン候の馬車を一目見ようとする人々で道は賑わったものだが、今回は偶然通りかかった者が、僅かに通りの端に身を寄せるだけだった。

 

 王城の前で出迎えたザナックは、笑顔で馬車を降りてきたレエブン候とがっしりと握手し、二人の間柄が健在であることを他の勢力にアピールした。

 

 王派閥も貴族派閥も、不意打ちのようなレエブン候の帰還で騒然となったが、元々どちらもレエブン候とは手を組んでいた関係から、表面上は好意的にレエブン候を受け入れた。

 

 そんな中、レエブン候に対して不快感を露わにしたのは『馬鹿派閥』だった。

 

「そもそも、二年前の戦争で負ける原因を作ったのはレエブン候だろう! 何を今更のこのこと戻ってきたんだ!? 大人しく領地に引っ込んでいればいいものを……」

 

 フィリップは王都にある自分が懇意にしている商人の館の一室で、歩き回りながらいらいらと親指の爪を噛む。

 

「フィリップ様、別にお気になさることなどありませんよ。レエブン候は以前は確かに王国の中心人物といってもいい地位を築いていらっしゃいましたが、それも今は昔。今の中心人物は貴方様。そうでしょう?」

 

 痩せ細ってはいるものの未だ美女としての面影を残している女性が、近くにあるソファーに座って妖艶な笑みを浮かべている。

 

「くそ、せっかくもう少しでラナー王女を俺のものにできるはずだったのに……。ヒルマ、何かいい手はないのか!?」

 

(この馬鹿、まだそんなことを言っているのか)

 

 ヒルマはどす黒い感情を覚え、思わずフィリップを始末してしまいたくなる。しかし、今日までなんとかこの馬鹿を宥めすかして来たのだ。その日々ももうすぐ終わりなのだから、と自分自身を必死に抑えた。

 

「そういうチャンスもそのうち巡ってくることでしょう。フィリップ様。王位を狙うなら慎重さが大切ですよ」

 

「ああ、そうだった。いつもヒルマの言うことは正しかったからな。まあ、いい。俺はラナー王女とアルベド様、二人とも手に入れて王国も魔導国も俺のものにするんだ。ははは。そうすれば、ヒルマ、お前にもこれまでの借りを全部返してやれるし、贅沢もさせてやれる。……そうだ。もっと良いことを思いついたぞ。いっそ、王国とか魔導国とか小さなことを言ってないで、俺が世界の王になれば完璧だと思わないか!?」

 

「…………は?」

 

 フィリップは自分のあまりにも素晴らしい思いつきに目を輝かせる。だが、ヒルマは開いた口が塞がらなかった。

 

 ヒルマは己の前にいる男が、普通では信じられないレベルの馬鹿であることは知っていた。しかしながら、まだ何一つ自分の力でなし得ていないくせに、どうしてこういう碌でもないことばかり思いつくのか。馬鹿という言葉で済ませるには限度というものがあるだろう。むしろ、馬鹿に失礼なんじゃないだろうか。ヒルマは一瞬真剣に悩むが、それ自体がこの馬鹿の術中に嵌ったようなものだと思い返し、頭を切り替える。

 

「フィリップ様なら、いずれそのような日も来るかもしれません。しかし、まずは一歩一歩確実に進めていきませんと……」

 

 かろうじて、ヒルマは冷静な声でフィリップを宥めようとする。

 

「はは、そうだな。まだ少しばかり早かったか。まずは、ラナー王女と王国からだな。……でも、ヒルマ、俺は冗談でこんなことを言ったんじゃないぞ。俺は、そのうちこの世界の頂点に立つんだ。そうだ。あの魔導王なんて糞食らえだ!!」

 

 フィリップは、自信に満ち溢れた声でそう断言する。もう彼の中では、彼が両腕でラナーとアルベドを抱きかかえて巨大な玉座に座り、世界中の人々が彼を賛え歓呼の声を上げるのが確定事項になっている。

 

(もうやめて……! あの人達を怒らせるようなことを言うのは……。絶対、この会話だってあの人達に聞かれてるのよ……!?)

 

 ヒルマは恐怖に慄きながらも、どうにか笑顔を取り繕った。あとほんの数日の我慢だと、自分の中で必死に言い聞かせながら……。

 

 

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 事件が起こったのは、魔導国宰相アルベドが王都にやってくるという日の昼過ぎのことだった。

 

 その日も朝から雨が降っていて、もともと舗装された道路の少ない王都では、このところずっと続く雨でほとんどの道路がぬかるんでおり、それをおして通りを歩くものはあまり多くはなかった。

 

 そんな中、スラム街にほど近い治安があまり良くない地区で、焼き討ちにあった近くの村から王都に移り住んでいた十代前半の双子の姉弟が、雨やどりをしながら道端に座り込んでいた。そこを偶然馬車で通りかかった貴族の一人が、それなりの見目だった姉を無理に馬車に連れ込もうとし、それに弟が抵抗しようとして貴族にとっさに石を拾って投げた。

 

 その石は暴れる姉を押さえつけようとしていた貴族の片目に当たり、怒った貴族は腰に差していた剣を抜いて弟をざっくりと斬りつけた。悲鳴をあげて崩れ落ちた弟を蹴飛ばして道端に押しやると、貴族はそのまま姉を馬車に乗せて連れ去った。慌てて人々が助けに寄った時には、弟はかろうじて息はあったが、神殿に連れて行く間もなく、姉を心配する言葉だけを残して息を引き取った。これは、ある意味、このところの王都では珍しくもない事件の一つだった。

 

 しかし、この事件はこれだけで終わらなかった。

 

 この姉弟は、困った人を見かけると、いつも声をかけ手伝いをしていた。ぎりぎりの生活の中でも人好きのする笑顔を絶やさない姉弟を、この界隈の者たちは我が子のように可愛がっていた。王国の貧困層には、ひたすら毎日を耐え忍び、単に命を繋いでいくだけの人生しかない。しかしこの二人は、どこか遠くにいる王族などよりも、よほど人々に生きる希望と安らぎを与えてくれていたのだ。

 

「――俺は許せねぇ。俺達から何もかもを奪っていく貴族達をよ……」

 残された弟の遺体をそっと布で包みながら、一人の男が呟く。

 

「何もこんなことをしなくたって……。あんなに可愛い子どもたちだったのに……」

 その様子を見ながら、涙を流す女性も大勢いた。

 

「王国が、王族が、貴族がこれまで俺たちに何をしてくれた? このままでは奴らにいいようにされて死んでいくだけだぞ?」

「どうせ死ぬなら、いっそ奴らに一泡吹かせたくないか?」

 そんな風に誰かが呟く。

 

 そして、その声はこれまで現状をひたすら耐え忍ぶだけだった王国民とは思えないくらい、少しずつ大きくなってくる。

 

「そうだ! 貴族を殺せ! 奴らの館には大量の食料があるというぞ!」

「連れ去られた娘を、救い出すんだ!」

「王城もだ! あいつらが無能なせいで、こんなことになっているんだ!」

 

 手にありあわせの棒を持った人々が寄り集まってくる。最初は数十人程度の集団だったが、三十分くらいで、その人数は一万人を越すほどの集団に膨れ上がっていた。

 

「行くぞ! これまで俺たちを無視してきた奴らに思い知らせてやるんだ!」

 

 先頭には、どこから持ってきたのか冷たい光を放つ刃のついた抜き身の剣と火の付いた松明を手に持ち、顔を布で隠した一人の目つきの鋭い男が立っている。

 

「まずは、貴族だ! 奴らの館を焼き払え! 俺達の力を、恨みを見せつけてやるんだ!!」

「おおぉおぉーーー!!」

 

 それに唱和する老若男女を問わない大勢の声がスラム街に響く。松明を持っているものはそれを空に掲げる。

 

 やがて彼らは、確固たる決意を持った表情で、貴族たちが住む高級住宅街へと向かっていった。

 

 

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 蒼の薔薇は、いつものように宿屋で、思い思いに過ごしていた。

 

 一番最初にそれに気がついたのは、物思いに沈んだ様子で、部屋の窓から外を見ていたイビルアイだった。

 

「何か街の様子がおかしい。向こうの方から煙が上がっていないか?」

 

 椅子にだらしなく座り込んでいたティアとティナは、それを聞くとお互いに顔を見合わせて一つ頷き、すぐに姿を消す。ラキュースとガガーランは、イビルアイが見ていた窓を慌てて開き、そこから外を見回す。

 

「確かに煙くさいわね。それに、街の雰囲気がおかしい。何かあったのかしら?」

「こりゃまずいな。ここからじゃよくわからんが、王都で何か起こっているのは間違いなさそうだ。この宿を撤収して、一旦王城に行ったほうがよくないか?」

 

「そうね。荷物を纏めて、ティアとティナが偵察から戻ったら、ラナーのところに向いましょう。どのみち、ラナーなら何か情報を既に握っているかもしれないし、対策を取るにもラナーのところにいた方が話が早いでしょう」

 

「……。何か、嫌な予感がする。まるでヤルダバオトが襲ってきたあの夜みたいな感じだ……」

 

 イビルアイの言葉を聞いて、ガガーランとラキュースは黙り込む。

 

「……でもよ、ヤルダバオトは倒されたんだろう? あの魔導王によ」

「そうだな。少なくともヤルダバオトのはずはない。魔導王陛下が倒したというなら、間違いなくヤルダバオトは死んだはずだ」

 イビルアイは、指輪をそっと撫でながら呟く。

 

「ん? イビルアイ、前から魔導王に陛下って付けてたか? 前はモモン様の敵とかいって嫌ってたよな? それとも、いつの間にか、魔導王の評価を変えたのか?」

「えっ、いや、私は、その……、魔導王……陛下も、今は少し尊敬しているというか……」

 

 ガガーランの思わぬ突っ込みに、イビルアイは耳まで赤くなる。イビルアイは魔導王に対してかなりの嫌悪感を持っていると思っていたが、これはどういうことなのだろう。イビルアイのモモンに対する反応と魔導王に対する反応が、正直あまり変わらないように見える。ラキュースとガガーランは思わず顔を見合わせた。

 

「そんなこと初耳だわね。あんなにモモン様一筋だったのに。実は魔導王陛下も好みのタイプだったのかしら?」

 

 ついこの間まで、自分と一緒に未経験同盟を組んでいたはずだったイビルアイに、なんとなく裏切られた気分になったラキュースは少し嫌味っぽく言う。

 

「い、いや、そうじゃない! その……いろいろ心境の変化があったというか……それだけだ!!」

「まぁ、いいんじゃないか? 無意味に嫌っているよりは、好意を持つって方がよほど建設的だと俺は思うな」

 ガガーランはニヤニヤしながら、イビルアイをからかう。

 

「う、うるさい! 今はそれどころじゃないだろう!?」

 

 その時、一瞬目の前を影が通ったかと思うと、ティアとティナが姿を現した。

 

「かなりまずい。多分、王都で暴動が起こってる」

「高級住宅街の方から火の手が上がってる。ここも早く引き上げたほうがいい」

 

 二人のその言葉で、蒼の薔薇は先程までのふざけた空気は一瞬で消え、素早く宿の撤収を開始した。

 

 

 




アンチメシア様、Sheeena 様、誤字報告ありがとうございました。

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