アインズはデミウルゴスから最終作戦開始の報告を受け、〈転移門〉を使用して王都に移動してきていた。
(この作戦は聖王国と違って俺がやることは少ないから、どちらかといえば楽だよな)
以前王都に来た時は、結局ゲヘナの対応だけしか出来ず観光する余裕はなかったので、今回は少しくらいは王都を見物しようと、アインズは密かに目論んでいた。
〈不可知化〉した下僕達と共に、アルベドから作戦実行の合図が来るまで、上空から王都の状況をゆっくりと見回す。
降りしきる雨の中、あちこちから火の手が上がり、人々が逃げ惑っている。
その様子を、特に感慨もなくアインズは眺めていた。
(聖王国は、デミウルゴスの仕込みで亜人が襲っていたけど、王国は、国民同士で争うようにしたのか。どうやったのかは知らないが、アルベドとデミウルゴスが考える作戦は結構えげつない気もするなぁ。やはり、悪魔という種族の本質のせいなのか?)
アインズ自身も人間に対する同属意識などは殆ど残ってはいない。だから、人間達が殺し合うことも、その結果大勢の死傷者が出ることにも、それがナザリックの利益になるのであれば、特に文句を言うつもりはないし、自分よりもずっと頭のいい二人が考えた作戦なのだから、これが最良なのだろうとも思う。
しかし――。
アインズの鋭敏な聴覚は、眼下の人々が上げる怒号や悲鳴の中に、子どもの泣き声が僅かに混じっているのに気がつく。
――あの時も、こんな雨の日だったか?
今はもう、微かにしか感じられない鈴木悟の残滓が、何かを伝えようとしている気がする。
――遠い昔、母を喪って一人きりになったあの時。
――いや、自分は泣いたわけではなかった。
――たった一人で、雨の音を聞きながら、ただうずくまるだけだった。
――本当は泣きたかったのかもしれない。だけど……。
――泣けなかったんだ……。
その時、アインズは、破壊された王都の通りの片隅で、雨に濡れて立ち尽くす幼い頃の自分の姿を幻視した。
本来なら、部下が成功させようとしているプロジェクトに横槍を入れるのは、上司としては失格だろう。時間をかけて練り上げた作戦なら尚の事だ。しかし、今のアインズにとって、王国で行われていることは少しばかり不快だった。
(何なんだろうな。聖王国でも似たようなことが行われていたというのに。俺はどうしてこんな風に感じてしまうのだろうか)
アインズは自分でも説明できない心境に少し苛立つ。しかし、どうにも一度覚えた理由のない不快感を拭うことはできなかった。
「……デミウルゴス」
アインズは、傍らに控えている忠臣に声をかけた。
「アインズ様、どうかされましたか?」
「アルベドからの連絡はまだ来ているわけではないが、もうそろそろいいのではないか? 下で起きている騒ぎを収めよ。私は、無益な殺戮はあまり好きではない」
アインズの言葉を聞いたデミウルゴスは一瞬目を見開いたように見えたが、すぐに頭を下げた為、その表情はアインズにはよくわからなかった。
「畏まりました。では、アルベドにそのように連絡を入れ、最終段階を開始いたします」
「うむ。頼んだぞ」
デミウルゴスは特に異を唱えることもなく、恭しくお辞儀をする。そして一足先に、黒い翼を広げて城壁に近いところまで降りていく。
(俺は、本当に我儘だな……)
アインズは、その姿を見送りつつ苦笑した。
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王国民達は、皆、目の前に現れた魔導王とモモン、そして、守るように羽を広げている天使達を見つめたまま、金縛りにあったかのように動けなかった。
モモンは、ひたすら魔導王を見つめているイビルアイを自分の傍らに立たせ、マントを大仰に翻すと、少々芝居がかった口調で言った。
「お前達は一体何故殺し合っているんだ? 同じ王国民同士だろう。それとも、王国を自分達の手で滅ぼすつもりなのか? このまま争いを続ければ間違いなくそうなるぞ。王国が失くなったら、お前たちはその後どうするつもりなんだ? 廃墟と共に死ぬつもりなのか?」
何しろ、相手はかの英雄モモンである。いくら今は魔導国に仕えているとはいえ、英雄モモンは王都の民にとっても自分達を窮地から救ってくれた恩人であり、亡くなった戦士長や華やかな蒼の薔薇とはまた違う、憧れの対象であることは変わりがなかった。そのモモンに諭された王国民は一様に頭を垂れる。モモンの言葉に答えられる者は誰もおらず、異様なまでの静けさがその場を包む。
だが、一人だけ、それでは収まらない者がいた。
「何だよ!? 何故、王国の冒険者でもないお前が王国のことに口を出すんだ! どうせ魔導国の手先として、王国を滅ぼしに来たんだろう! 王国のことは王国の人間が決める。お前なんかに口出しなんぞさせない! 王国は、俺の物だ!!」
フィリップのその言葉で『馬鹿派閥』の面々の瞳には、再び狂気の光が灯る。自分達の壮大な野望を達成すべく、口々にモモンを揶揄する罵声を上げ、武器を握り直す。そして、他の人々の動きが止まっているのをいいことに、ラナーとモモンに向かって突進した。
それを見たクライムは咄嗟にラナーを庇うように前に出て、相手の剣を受け流し、魔導王の天使が二体、ラナーを守るように舞い降りてガードする。モモンは鮮やかな剣さばきで数人纏めて相手をしているが、所詮貴族程度の腕ではモモンの敵にはなりえない。焦ったフィリップがやけくそになってモモンに上段から剣を思い切り振り下ろす。ガキンという固い音がして、それを剣で受け止めるモモンの脇から、もう一人の男が鋭く斬りつける。
「モモン様!?」
イビルアイは反射的に〈水晶騎士槍〉を唱え、モモンを斬りつけた男に水晶の槍を投げつける。その槍は男の身体を貫通し、鈍いくぐもった呻きをあげながら男は倒れ、イビルアイはそれを見て安堵の息を吐いた。
その時「死ねえ、このガキが!」と叫ぶ声がすぐ側で聞こえた。誰かが自分に向かって剣を振り上げているのが見える。切っ先は既に仮面まで迫っていた。
(しまった……! 油断しすぎたか? このままでは、仮面が……割れる!?)
今からでは魔法詠唱者の自分では避けきれない。イビルアイがこれから来るはずの衝撃と、仮面を失う恐怖に身を固くした時、不意に後ろから誰かに抱き上げられるのを感じ、それとほぼ同時に、今や自分を突き刺そうとしていた男は声もなく崩れ落ちた。
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アインズは、このタイミングで戦闘が発生する可能性があると、デミウルゴスから聞いてはいた。
ただ、今回の作戦では魔導国が非難される可能性を排除する為、ナザリックは戦闘行為には極力介入しないことになっている。その為、重要人物に対する援護は召還した天使に任せ、アインズも後ろに控えている者達も、静かにその場の様子を見守っていた。
(まあ、ナーベラルとパンドラズ・アクターもいるのだから、二人が対応すれば問題ないだろう。天使達だっているんだし、戦力的には十分なはず。デミウルゴスからは、俺は好きに動いてくれて構わないと言われているけど、下手なことをして計画を邪魔するのも何だしなぁ。大人しく見てる方が良さそうだ……)
それにしても、王都の様子は思っていたよりも酷い。妙に悪目立ちして騒いでいる奴は、何処となく聖王国の聖騎士団長を彷彿とさせられて少々イラッとするが、闇雲に状況を悪化させているだけな気がするし、頑張って演説していた王子は倒れてしまったようだ。こんな調子で、今後王国はどうやって復興して行くつもりなんだろう。
アインズが首を捻っていると、イビルアイがパンドラを狙っている敵を魔法で打ち倒したのが見え、次の瞬間、一人の男が怒号と共に、イビルアイのすぐ側から仮面を狙って剣を振り下ろしているのが見えた。
アインズはその光景に、自分の中の何かが凍りつくように感じる。
このままでは、イビルアイは例え死ぬわけではなくても、アンデッドであることがこの場にいる全ての者に知られてしまうかもしれない――。
ほぼ無意識のうちに、アインズは〈時間停止〉を唱えると、二人に向かって歩み寄った。タイミングを見計らって男に対して〈死〉を唱え、イビルアイを抱き上げる。
次の瞬間〈時間停止〉の効果時間が切れ、それと同時に〈死〉が発動する。呪文に抵抗することなく男は倒れた。
アインズは出ないため息をつくと、腕の中にいるイビルアイを見つめる。
(あの時の俺は、何も出来なくてただ現実を受け入れるしかなかった。いや、受け入れたつもりになっていただけなのかもしれないけど……)
――今なら、大事なものを守ることもできるんだ……
鈴木悟の残滓が、ほんの少しだけ笑った気がした。
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フィリップの一党は、まさか動くと思っていなかった人物が動いたのに驚いたのか、総崩れとなりバラバラにその場から逃げようとするが、蒼の薔薇とモモン、ナーベ、そして魔導王を守ろうとする天使達によって、次々と無力化されていく。
一人残されたフィリップは、それでも果敢に、今度は魔導王に襲いかかろうとするが、後ろから飛びかかったティアとティナによって取り押さえられた。
「どうやら、曲者は全部片付いたようだな?」
イビルアイを抱いたまま、魔導王は静かに周囲を見回す。そして、探していたものを見つけたのか、とあるところで視線を止める。いつからそこに立っていたのかは不明だったが、それを合図にしたかのように、宰相アルベドが優雅に歩み出てきて跪く。
「はい。全て片付いたようです」
「そうか。それは何よりだ」
恐怖からか、崇敬からなのかはわからなかったが、王国の人々の中でも、徐々に膝をつく者が増えてくる。
その中を、宰相アルベドの近くまで、レエブン候とクライムを連れたラナー王女が歩み寄ってきた。ラナー王女の黄金の髪が太陽の光で煌めき、そのゆっくりとした歩みは新しい王国の第一歩のようにも感じられる。そして、アルベドのすぐ脇で、同じように跪き、クライムとレエブン候もそれに続く。それを見ていた王国の人々もほぼ全ての者がその場に跪いた。
「アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下、私はリ・エスティーゼ王国第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフと申します。この度は、リ・エスティーゼ王国に御助勢くださいまして誠にありがとうございました。王国に住まう全ての人々に代わり、御礼を申し上げます」
そう言うと、ラナー王女はさらに深く頭を垂れた。
「隣国が困っているのなら、助力するのは当然のこと。礼には及ばない。ラナー王女、頭を上げて欲しい」
「ありがとうございます」
ラナー王女はゆっくりと顔を上げ、自分の目の前に立つ絶対者に対して、恐れることなく目を向けた。ラナーの金髪が風に靡く。
「もう少し早く来ることができれば良かったのだが……。到着が遅れたことをお詫びしよう」
「お詫びなどとんでもございません。王都、そして王国が無事に形を残すことが出来たのは、全て魔導国の御協力があってこそですから」
ラナーの柔らかい笑みに、アインズは一瞬気後れのようなものを感じるが、なるべく重々しい雰囲気を崩さぬように頷いた。
「そのように言ってもらえるとこちらとしても有り難い。亡くなられた方々には、私からも心から哀悼の意を表そう。――ただ、今のこの状況から、国を立て直すのはさぞかし困難ではないか? 貴国さえ良ければ、魔導国は王国の再建に力を貸すことも出来るが、どうかな?」
「魔導王陛下の温かいお心遣いと、寛大なお申し出に感謝いたします。今は、王である父も不在で、兄も重症を負ってしまっているため、すぐにお返事することは叶いませんが、出来るなら、そのお申し出を受けさせて頂きたいと考えております。陛下のお慈悲があれば、いずれ王国も、そう遠くない未来に元の姿を取り戻すことが出来るでしょう」
ラナー王女は、魔導王の赤い灯火の瞳を真っ直ぐに見つめて、力ある言葉でそう答えた。
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ブレインは、暴動の巻き添えで死んだ子ども達を地面にそっと横たえ、心の中で詫びていた。
(絶対に守ってやる、って言ったのにな……)
溢れそうになる涙を片手で押さえ、人に見られないようにする。そして、それほど離れていない場所に立っている、魔導王に目を遣った。どうやったのかはわからないが、奴はガゼフを殺した時と同じような不思議なやり方で、今度はイビルアイを助けたように見えた。
(勝てるなんて端から思っているわけじゃないが、俺じゃまだまだ足元にも及ばないってことか……)
魔導王の超越者然とした立ち姿を見つつ、自嘲気味な笑いを浮かべる。ブレインはいつか機会があったら魔導王に挑んでみたいと密かに思っていた。ガゼフの敵討ちというわけでもなく、強い敵に勝利するためでもない。ただ、自分自身の限界を試すために。
――だが、俺は……こんな小さな約束すら守れないちっぽけな男なんだ。
ブレインは、もはや魔導王に対する戦意を完全に失い、自分の足元に横たわっている子ども達の頭を撫でながら、懺悔の思いを抱えたままひたすら俯いていた。自分の無力さだけが胸に込み上げる。
不意に自分の手に誰かが触れるのを感じた。そちらに目を向けると、そこには、ブレインが背負ってここまで連れてきた子どもが心配そうに見つめている。
「ああ……。お前は無事だったのか。そうか……」
その子は、はにかむような微笑みを浮かべて、小さな声で「助けてくれて、ありがと……」とブレインに囁いた。
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王都の雰囲気は、これまで長いこと淀んでいたものが、まるで雨ですっかり流れ落ちたかのように少し清々しく感じられる。王城の前に集っていた民衆は、自らの手で出してしまった大きな犠牲が徐々に実感を伴うものに変わってきたのか、一様に沈痛な面持ちをしていたが、それでも、どこか憑き物が落ちたような表情で広場から離れていく。
フィリップの一党は、レエブン候の指示で兵士達に捕縛されている。ブレインは、生き残った子ども達を集めて話をしている。ラナー王女やクライムは、兵士達にバリケードを撤去し撤収するように指示を出している。蒼の薔薇の面々は、少し離れた場所でモモンとナーベと話をしつつ、こちらの様子をチラチラと伺っている。配下の者達は、負傷した人々を集めて手当を施しており、天使達はそれを見守るように控えている。
どうやら一段落ついたようだ、と判断したアインズは、自分の腕の中にいるイビルアイをどうしたものかとしばらく悩む。
イビルアイは、抱きかかえたアインズの胸にしがみついたまま、なかなか離そうとしない。まるで幼子のようなその雰囲気に微笑ましい気分になったアインズは、そっとイビルアイを抱きしめた。
イビルアイの身体は酷く震え、泣き声が聞こえるわけではないが、もしかしたら泣いているのかもしれないとアインズは思う。
「どうした? イビルアイ。もう、大丈夫だぞ?」
そんな風に声をかけると、後ろの方から、ギリィという物凄い音がする。それが誰の発した音なのか漂ってくる気配で察したが、アインズはあえて無視をした。
(こういう時は、一体どうやったら泣き止むんだろう。しばらく泣かせておくしかないんだろうか?)
とりあえず、以前アルベドに泣かれた時にやったように、イビルアイの背中を優しく何度か叩いてみる。
しばらくすると、ようやく落ち着いたらしいイビルアイが、掠れるような声で「ありがとうございました。アインズ様」と囁くのが聞こえた。
「少しは落ち着いたか?」
「はい……。もう、大丈夫です」
イビルアイはそこで何かに気がついたようで、口調が若干怪訝そうになった。
「アインズ様……あの、声が、前と少し違いませんか?」
(そう言われてみれば、エ・ランテルで会った時は素の声だったからなぁ。急に変われば疑問に思うのも当然だよな……)
「あぁ、今は声を変えているんだ。変だったか?」
アインズは一年前のあの日のことを懐かしく思い出しつつ、イビルアイに答えた。
「い、いえ、そういう訳じゃないです……。でも、前の方が、その、素敵というか……好きです」
「そうなのか? 配下にもよく言われるんだ。自分としては悪くないと思っているのだが……。イビルアイ、どうやら元気が出てきたようだな。良かったよ」
アインズはイビルアイの頭を軽く撫でると、ゆっくりと地面に下ろした。イビルアイは、どことなく残念そうな雰囲気だったが、おとなしくアインズの傍らに立った。その様子を見ているうちに、アインズはイビルアイをこのまま帰してしまうのが惜しいように感じる。どのみち、今の段階では蒼の薔薇が解散する予定はないはずだから、断られるのだろうが……。
「まだ、私の元には来ないのか?」
イビルアイは、アインズのその言葉に明らかに動揺したようで、左手を固く握りしめていた。しかし、しばらくすると、多少迷いはあるようだったが、アインズの瞳をしっかりと見つめた。
「……あとほんの少しだけ、こちらにいようかと思います」
「そうか……。私は、お前が一緒に来てくれるなら、とても嬉しい……と思う。だが、お前自身の選択を尊重したい。だから、別に急がなくて構わない」
自分を真っ直ぐに見上げているイビルアイの姿は、アインズには何かとても眩しいもののように感じられた。――少々寂しくはあるが、やはり、ここはおとなしく見送るべきだろう。アインズは、イビルアイを安心させるように優しく言った。
「すみません。我儘で……」
「いや、私も我儘なんだ。だから、お互い様だな」
そう言って苦笑すると、アインズはイビルアイに右手を差し出した。
「また、な」
「はい……。また……」
イビルアイは、ぎゅっと両手でその手を握ってくる。アインズも、なるべく力を入れないように気をつけながら手を握り返すと、イビルアイの仮面から見えている耳が真っ赤になっているのに気がつき、少し照れくさい気分になる。
「あ、あの……!」
「ん? なんだ?」
イビルアイは一瞬躊躇したようだったが、アインズの揺らめく光を湛えた瞳を見つめながら、酷く真剣な様子で切り出した。
「――私、アインズ様にお聞きしたいことがたくさんあるんです。その、ものすごく、いっぱい……。だから、次にお会いできたら……、もっと、ゆっくりお話……したいです……」
思いがけないその言葉に、アインズも、自分もイビルアイに聞いてみたいことがいろいろあったことを思い出した。いずれそんな日が来ることが、とても楽しみに思われる。
「あぁ、そうだな。約束しよう」
「ありがとうございます…! や、約束ですよ!」
アインズの髑髏の表情は動くわけではないが、それでもイビルアイには、アインズが少なくともその約束を喜んでくれたように感じられた。それだけで、体中が歓喜でいっぱいになり、自分の動かない心臓が激しく脈打っているような錯覚に陥る。
(どうしよう。私は今とんでもなく、だらしない顔をしてるんじゃないだろうか!?)
イビルアイは、愛する
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アインズが宰相アルベドや配下の者達を伴って、立ち去っていくのを見送りながら、イビルアイは、自分の胸にそっと手を当てた。自分の中で何百年も泣いていた子どもが、今は、少し落ち着いて穏やかな微笑みを浮かべている気がする。
――私は長い間この日が来るのを待っていたのかもしれない。
――誰かが、泣いている私を助けてくれるのを……。
イビルアイは、このまま、アインズを追いかけていきたい強い想いに駆られる。
――だけど、そう。まだ『今』じゃない。
イビルアイは指輪を優しく撫でて、ゆっくりと周囲を見回した。少し離れた場所で大事な仲間達が、興味深げにこちらを眺めているのが見える。どうやら、イビルアイの用事が片付くのを、ずっと待っていてくれていたらしい。
「すまない、待たせてしまったか?」
イビルアイはあのシーンを見られていたことに、かなりバツの悪い思いを感じるが、なるべく普段通りの口調で声をかけた。しかしそれに対する蒼の薔薇の面々の反応は、どれも少しばかり含みのあるものばかりだった。
「そんなことないわよ、イビルアイ。もちろん、後でゆっくりいろいろ聞きたいことはあるけどね?」
「全くだな。随分、良い雰囲気だったじゃねぇか?」
「イビルアイは思ったよりも手が早い」
「これからは、アンデッド・キラーと呼ぶ」
「な、何を言ってるんだ!?」
思わず、恥ずかしさで裏返った声でイビルアイは叫ぶ。
イビルアイのあまりにも正直な反応で、蒼の薔薇はこみ上げる笑いを抑えきれず、久しぶりに心から楽しそうに笑った。
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その後、リ・エスティーゼ王国では、ペスペア侯爵夫妻及び第二王子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフの逝去、そして現国王ランポッサ三世の崩御が公表され、ヴァイセルフ王家に残された唯一の王位継承権者として、異例ながらも、第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフが王国始まって以来の初の女王として即位し、エリアス・ブラント・デイル・レエブン侯爵が宰相として女王を補佐することが宮廷会議で正式に決定された。
また、今回王国で起こった一連の事件は様々な証拠から、フィリップを筆頭とする下級貴族の一党による犯行とされ、国民は単にそれに巻き込まれたものとして、暴動に参加した者も罪には問わないことと、フィリップ一党は投獄され、いずれ処刑されることが決定された。
それと同時に、暴動の鎮圧に多大な援助を受けたアインズ・ウール・ゴウン魔導国に対して感謝の意を示すと同時に、王国の再建の為に、以後は魔導国に恭順し属国となることがラナー女王とレエブン候の連名で発布された。
本来であれば、それは、王国の国民感情としては受け入れがたいものではあったが、王都で魔導王が見せた神を思わせる力に心酔するも者も多く現れ、また、主だった貴族達が王都での暴動でその多くが粛清されたことで、もはや反対する者は殆どいなかった。
その後、ラナーはレエブン候の息子と結婚した。クライムは女王専任の側仕えとなり、やがて表舞台には姿を見せなくなった。女王の部屋から夜な夜な、奇妙な悲鳴が聞こえてくるという噂が密かに流れたが、その噂をする者はいつの間にか消えていった。
王都の街角では、アインズ・ウール・ゴウン魔導王を崇める人々が、新たな神の到来と加護を説いている。
ブレイン・アングラウスは生き残った孤児の一人を連れて、リ・エスティーゼ王国を離れ何処かに旅立って行った。
佐藤東沙様、アンチメシア様、ハメるん様、誤字報告ありがとうございました。
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第二章は、王国の末路編でした。
なんだこのラストは!と思われた方も多いと思いますが、どうか石は投げないでください……。
正直、二章はかなり叩かれるんじゃないかと思って公開するのを結構ためらいましたが、思いがけず読んでくださった方々がいらしたので、なんとか最終話まで辿り着くことが出来ました。暖かい感想や、誤字報告など、とても励みになりました。本当にありがとうございました。
この話のラストが受け入れてもらえそうなら、いくつか幕間を挟んで三章に続きます。
書いてみないとエピソードの分量が読めないので、三章を挟んで最終章になるのか、三章が最終章になるのかはまだ未定です。
次回の投稿は少し間が空くかもしれませんが、とりあえず、始めた以上は話自体には落ちはつけたいと思っていますので、気長にお付き頂けると嬉しいです。