イビルアイが仮面を外すとき   作:朔乱

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蒼の薔薇、新たなる旅立ち(二)

 ラキュースの話を聞いた蒼の薔薇の面々は、これまでの状況から予想される話ではあったものの、一様に難しい顔になった。

 

「組合長がそう言うなら、王国で冒険者は続けられないってこと?」

「出来なくはないけど、魔導国冒険者組合の王国支部のような扱いになるかもしれない、という感じかしら」

「ふーん。そうなると、このまま王都にいるメリットはないかも」

 

「魔導国の冒険者組合は、モンスター退治じゃなくて、土地の探索みたいなことをするとかいう話を、以前組合に伺った時にアインザック組合長から聞いたわ。ただ、魔導国の冒険者組合は、独立組織じゃなくてあくまでも国の機関。その代わりに、冒険者の育成とかバックアップとかも国が責任を持ってしてくれるらしいけど」

 

 あまり話には興味なさげに手に持ったものを弄り回していたイビルアイは、魔導国の話題になったとたん異様にキラキラした目になった。

 

「魔導国に行こう! それでいいじゃないか!?」

「イビルアイ、悪いけど少し黙ってて。あなたはどうせ他の選択肢は考えてないんでしょ?」

「うっ……、い、いや、そんなことはないぞ!? ちゃんと考えて言ってるんだ! いいじゃないか、魔導国!」

「はいはい。他に意見ある人は?」

 

 ラキュースは、よりにもよって二股をかけるなどという許しがたい裏切りをした、元未経験同盟者に冷たく言い放つ。

 

「魔導国以外に行くとなると、候補は何処だ? 帝国だって魔導国の属国なんだから状況は変わらねぇだろうし、聖王国はどうだ?」

「聖王国は今内乱中らしいから避けたいわね。私は人間同士で争うのは、正直二度とごめんだわ」

「それは言える。どうせなら、もっと建設的なことをしたい」

 

「そういえば、鬼リーダー、朱の雫は? 何か聞いてないのか?」

「先日お会いした時に少しお話したのだけれど、アズス叔父様は、そろそろ引退してもいい頃合いではあるが、最後に竜王国に行って一暴れしてくる、と仰っていたわ」

「竜王国か。あそこは、確か法国が手を貸しているんだよなぁ」

 

「それはまずい。法国と一緒に何かするのは遠慮したい」

「同じく」

「そうよね。私達はあそこの陽光聖典とやりあっちゃってるし、法国にはあまり近寄りたくはないわね。イビルアイもそうでしょ?」

「全くだな。どうせ、奴らは私を殺したいに違いないだろうし、私達と一緒にやるなんて、向こうも願い下げだろう」

 

 取れる選択肢が案外限られていることに気が付き、段々、話し合いの場にはどんよりとしたムードが漂い始めた。

 

「聖王国もダメ、竜王国もダメ、法国は論外……。後は人間でも行けそうな国だと、評議国か、都市国家連合しかないじゃないか」

「評議国は、人間もいないわけじゃないけれど、冒険者組合は亜人が殆どよ。流石にちょっと難しいんじゃない?」

 

「となると、都市国家連合かぁ。そういえば、帝国のアダマンタイト級だった銀糸鳥は都市国家連合に移籍したんだっけか?」

「そういう話は聞いた」

「銀糸鳥ね……」

 

 若干微妙な空気が蒼の薔薇の間を流れる。同じアダマンタイト級冒険者といえど、蒼の薔薇としては『朱の雫』や『漆黒』ならともかく、『銀糸鳥』では同じ国で仕事をする相手としては少々力不足、という認識だ。

 

「正直、銀糸鳥のメンバーはあんまり興味ないんだよなぁ。あいつら絶対童貞じゃねぇし」

「全員対象外」

「同じく」

 ガガーランとティナの言葉にティアも真面目に頷いている。

 

「ちょっと! 問題はそういうことじゃないでしょう!?」

 

 三人の不真面目な発言に少々呆れたラキュースは机を叩いた。その勢いで机の上に置いてあるグラスがぶつかり合って耳ざわりな音を立てる。

 

「だから……魔導国に行けばいいじゃないか……」

 ぼそりとイビルアイが呟く。

 

「ああ、イビルアイの意見はわかってるから。――皆ちゃんと考えて。私達の大事な将来の話なのよ?」

 

 恨めしそうにこちらを見上げているイビルアイを軽くあしらい、どう見てもあまり深刻そうに見えない三人を軽く睨むと、ラキュースは考え込んだ。確かに、今の状況的には魔導国に行くのはそう悪い選択ではないようには思われる。だが――。

 

 ラキュースは自分の隣に座って、幾分ふくれっ面をしている魔法詠唱者の顔をちらりと見る。

 

(魔導国に行くことになって、一番喜ぶのはイビルアイなのよねぇ。別に仲間の幸せを願ってないわけじゃないんだけど、なんか微妙に納得いかないわ……。魔導国にはモモンさんだっているし。――女の友情なんてほんとあてにならないわね)

 

 我ながら心が狭いような気もするが、できれば、他のメンバーにも明確なメリットがあれば、魔導国に行くと決めるのもやぶさかではないのに。そんなことを思いつつ、ふと、ラキュースはモモンを思い浮かべる。イビルアイは、二股じゃなくて、ただの勘違いだったとか、いろいろ言い訳していたけれど、先日の事件の時だって、モモンに全く気がないわけではなさそうだった。そもそも、その気がないのなら、モモンさんには手を出さないで欲しいと思い、ラキュースは微妙にいらっとする。

 

(やはり、チームリーダーとしてはチームの利益が優先だもの。べ、別にイビルアイに嫉妬してるとか、そういうわけじゃないんだから!)

 

「ともかく、今のところ、魔導国が有力な候補なのは間違いないけれど、私達自身、それでちゃんと納得して決めなければいけないと思うの。だから、今日はこの辺までにして、明日までに皆もう少し真面目に身の振り方を考えておいてちょうだい。いいわね?」

 

「そうだな。まぁ俺はぶっちゃけ面白そうなら何処でもいいんだけどよ」

「同じく。可愛い男の子がいればそれでいい」

「ハンティングしやすいのは重要。それは譲れない」

 

 イビルアイが何か言いたそうな顔をしてこちらをジト目で見ているが、ラキュースはあえて無視した。

 

「明日、もう一度皆で話し合いましょう。私としては、なるべく全員にメリットがあるようにしたいの。誰か一人だけとかそういうのは無しでね」

 

「あいよぉ」

「りょうかいー」

「わかった」

「…………」

 

 メンバーのあまりやる気のなさそうな返事を聞いて、ラキュースは重いため息をついた。

 

 

----

 

 

 夕方近くなって来た頃、部屋の扉をノックする音がした。

 

 他の誰も立ち上がる気配がないのを感じ、ラキュースは渋々扉の所に向う。

 

「どちら様ですか?」

「私、ラナー女王陛下からのご命令で参りました。近衛騎士のロベルと申します」

「ラナー陛下から?」

 

 以前ならこういう場合はクライムが来たのだが……。少々不審には思うが、名前には聞き覚えがあったため、ラキュースはとりあえず扉を開けた。確かにそこに立っていたのは近衛の徽章をつけた騎士であり、数回挨拶もしたことがある相手だった。

 

「ご苦労様。ロベル殿。それでどのようなご用件なのかしら?」

「はっ。ラナー女王陛下に於かれましては、是非とも蒼の薔薇の皆様にご相談されたいことがあると。そのため、明日の十時に執務室までおいで願いたい、とのことでした」

「明日の十時ね。了解致しました。ラナー陛下には、その時間にお伺いしますとお伝え下さい」

「はっ、畏まりました。お寛ぎのところ突然お邪魔いたしましたこと、お詫び申し上げます。では失礼致します」

 

 騎士は丁寧に礼をして去っていく。その姿を見送ってラキュースは扉を閉めた。

 

「なんだぁ? 女王様からのお使いなのに、来たのは童貞じゃないのか?」

 

 武具の手入れをしていたガガーランが不審そうに顔をあげる。

 

「もしかして、クライムは童貞じゃなくなったから来ないのかも」

 ぼそっとティナが呟くが、ラキュースは聞かなかったことにした。

 

「そうね。私もクライムじゃないのは少し気になったわ。ただ彼は王宮で見たことがある人だから、ラナーからの伝言ということで間違いはないと思うの。やっぱり女王ともなると、いろいろ形式とか格式とか、面倒なことが増えているのかも知れないわね。――クライムも気の毒に……」

「確かにクライムの場合、王女の時ですらやばかったのに、女王の側仕えっていうのは流石に問題があるからなぁ」

 

「一応、ラナーは今後は帝国や魔導国のように血筋よりも実力重視で取り立てたいという意向みたいだけどね。クライムも、王国の中ではまだ腕が立つ方ではあったわけだから、その辺りも含めて整備していくつもりだとは思うんだけど……」

 

「まだ、女王様も王位に就いたばっかりだしな。これからじっくりやっていくんだろ。レエブン候もついてるんだし、その辺は心配ねぇだろ」

「そうね。王国もこれから魔導国の属国にもなることだし、いろんな事がどんどん変わっていくんでしょうね。私達の未来もだけど。でも、きっと良い方向に変わるんじゃないかと信じているわ」

 

 ラキュースは自分に言い聞かせるように言った。

 

 

----

 

 

 蒼の薔薇がラナーと直接話をするのは一ヶ月ぶりくらいだった。ラナーは女王になってからも、質素倹約を心がけているらしく、王女の頃よりも若干上質ではあるが、それほど華美ではないドレスを纏っている。国が苦しい時に、国のトップが贅沢をするわけにはいかないとラナーは笑って言っていたが、それを実践できるのはラナーくらいだろうとラキュースは思う。

 

 ラナーは執務室の奥にある席から立って蒼の薔薇を出迎えた。

 

「お久しぶりですね。蒼の薔薇の皆様。急にお呼び立てして申し訳ありません」

「女王陛下のお呼びとあればいつでも参りますわ」

 ラキュースはいつもとは違う少し真面目な表情で、貴族らしい優雅なお辞儀をした。

 

「そんな……。どうか、畏まらないでください。これまで通りラナーで構いません。蒼の薔薇の皆様は、私にとっても特別なのですから」

 ラナーのその言葉で、流石に女王の御前ということで多少は改まった雰囲気だった蒼の薔薇も以前のような砕けた空気に変わる。

 

「そう言ってもらえるとありがてぇよ。何しろ、堅苦しい雰囲気は苦手なんでね」

「ふん、そうだな。前回会った時に比べると、随分女王らしい貫禄が出てきたようじゃないか。感心した」

「そうですか? イビルアイ様にお褒め頂けるなんて、私も成長したということですね」

 

 にこやかに微笑みながら、ラナーは部屋の中央に設えてあるソファーに座るよう蒼の薔薇に促し、メイドにお茶の用意を言いつけると自分もソファーに腰掛けた。

 

「ところで、ラナー、クライムの姿が見えないようだけど、どうしたの?」

「クライムですか?」

 ラナーは少し首を傾げてラキュースを見ると、くすりと笑う。

 

「実は、クライムには私の特別な仕事を頼んでいるのですよ。覚えないといけないこともたくさんありますし。だから、クライムは今とても忙しいのです」

 

「女王陛下の特別な仕事。意味深」

「ちょっと興味ある」

「ふふ、知りたいですか?」

 

 ティアとティナはラナーの様子に何かを感じたのか、目をキラキラさせており、ラナーは悪戯っぽい表情で二人を見ている。しかしこの二人がこういう表情をしている時に、そのまま野放しにしておくのは不味いことを、ラキュースはよく知っていた。

 

「ま、まあ、そういうことは後にしましょうよ。ラナー、今日はそういう話をするために私達を呼び出したわけではないのでしょう?」

 

 ラナーは少し残念そうな顔をしたが、すぐに頷いた。

 

「ええ、その通りです。もうすぐリ・エスティーゼ王国が正式に魔導国の属国になる、ということはご存知ですよね? それと、冒険者組合長からも既に聞いているかもしれませんが、私は王国の冒険者組合は、今後徐々に規模を縮小していき、最終的には魔導国の冒険者組合に組み入れてもらうのがいいのではないかと思っています。もちろん、最終的に決めるのは冒険者組合であり組合長ですが……。ただ、私は魔導国の属国になれば、恐らくこれまでの形態の冒険者は、王国には不要になると考えています」

 

 蒼の薔薇は、少々苦い顔をしながらも静かに頷く。

 

「それで……、差し出がましいとは思いましたが、私の方から皆様のことを魔導国の宰相様にご相談させて頂いたのです。そうしましたら、魔導国では冒険者組合の改革に力を入れておられるとのことで、蒼の薔薇の皆様さえ宜しければ、是非魔導国に招聘したいと。宰相アルベド様からこのような文書をお預かりしています」

 

 そういうとラナーは一通の封筒をテーブルの上に置いた。

 

「――内容を確認させてもらうわね」

 

 ラキュースは封筒から文書を取り出し、目を通す。そこには、蒼の薔薇を魔導国のアダマンタイト級冒険者として、そして、後進の指導者として迎えたいと旨が記されており、提示されている諸条件は破格のものだった。そして、宰相アルベドのサインと国璽が押されてあり、魔導国からの正式な文書であることは間違いなかった。

 

「恐らく、これ以上の条件を王国では蒼の薔薇に提示することは出来ません。私としては長く王国に尽くしてくださった皆様に何も報いる事が出来ないことは非常に心苦しく思っています。でも、これが私が出来る精一杯だったのです」

 

「ラナー、それは気にすることはないわ。私達が、祖国である王国のために冒険者として働くのは当然のことなのだから。それに、私は貴女をとても大切な友人だと思っている。もちろん、ここにいる皆も同じ思いよ」

「ありがとうございます。そんな風に思って貰えていたなんて……」

 

 ラナーは心なしか、少し目に涙を浮かべているように見える。蒼の薔薇の面々も、その様子に胸が熱くなるのを感じる。

 

「それで、どうでしょう? このお話、蒼の薔薇の皆様としてはどのようにお考えですか?」

「正直、とても魅力的なお話だと思うし、このようなお話を頂けただけでも光栄なことだと私は思っています。皆はどう?」

 

「俺も悪くねぇと思う。どのみち、身の振り方を考えていたところではあったしな」

「勝手に魔導国に行きそうなのもいる」

「わ、私は勝手には行かないぞ!? その……一応、お前達が向かうところに行くとは決めてるんだからな!?」

「はいはい。じゃあ、この件は少し私達で話し合わせてくれないかしら。それとも、すぐに返答が必要なの?」

 

「別にこれは急ぎという訳ではありません。ですから、ゆっくり話し合っていただいて構わないです。蒼の薔薇の皆様にとっても大事な問題でしょうし、魔導国ではいつでも皆様を歓迎する、ということでしたので」

「そう。わかったわ。それと、この文書は私達で預かっていていいのかしら?」

「ええ、もちろんです。もし、魔導国の冒険者組合に移籍されるのでしたら、それを魔導国の冒険者組合長アインザック様にお持ちいただければ、それで話は通るようになっているそうです」

「なるほどな。そりゃ、逆に俺達からも女王様に感謝した方がよさそうだ」

 

「それと、これはまた別のお話なのですけれど、近々、私とレエブン候、それに他の有力貴族達と魔導国に赴き、魔導王の御居城で属国承認の儀及び晩餐に招かれているのです。それに蒼の薔薇の皆様も非公式に招待したいと打診されているのですが、皆様はどうされますか? 特に強制ではないそうですけれど」

 

 『魔導王の御居城』という辺りで「ふぇっ」という妙な声が上がったが、ティナが素早くその声を上げた者を押さえつけて口を塞いでいる。ラキュースはちらりとそれに目を遣り冷たく睨んだ。

 

「わざわざご指名で御招待頂いている、というのは光栄ではあるけど、本来、そのような場に冒険者が行くのはあまり例がないように思うの。ラナー、冒険者として招待されているのは私達だけなのかしら? 朱の雫にも声はかかっているの?」

 

「朱の雫の皆様にもお声がけは致しましたが、あの方々は近々竜王国に向かわれるとかで、お断りになられました」

「ああ、それもそうよね……」

「はい。あの方々らしいです」

 ラナーは苦笑した。

 

「皆はどう? あ、イビルアイの返事はいらないわ」

 

 口を塞がれたイビルアイはくぐもった声で抗議をしているようだが、蒼の薔薇は全員それを無視した。

 

「俺は行ってもいいぜ。ちょっとその御居城とやらも見てみたいしな」

「せっかくだから、行ってもいい。化物しかいなさそうだけど」

「メイドは全員美人らしいから、私は行く」

 

「そう。じゃあ、そちらのご招待には参加させていただきます」

「わかりました。では、詳しい日取り等が決まったらお知らせしますね。魔導国の方々も皆様が参加されるのであれば、お喜びになることでしょう。ああ、せっかくですから、こちらのお茶とお菓子も召し上がっていってください。どちらも魔導国から頂いた物なのですが、とても美味しいのですよ」

 

 メイドが、全員の前に芳しい香りの紅茶と見たこともない菓子を並べていく。その初めての香りは蒼の薔薇の心も非常にくすぐるものだった。

 

 

----

 

 

 二週間後、先頭にリ・エスティーゼ王国の国旗を掲げた近衛騎士団長、それから少し離れて、現在のリ・エスティーゼ王国としては最大限に贅を尽くして仕立てられた五台の馬車にラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ女王、宰相エリアス・ブラント・デイル・レエブン侯爵を筆頭とした王国の有力貴族達、蒼の薔薇がそれぞれ乗って、現在は魔導国の都市であるエ・ランテルを訪れた。馬車の周囲には、近衛騎士四十人が左右に分かれて、馬車を警護している。

 

 エ・ランテルの城門脇にある巨大な魔導王の二つの像の脇には、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の国旗とリ・エスティーゼ王国の国旗を手に持って交差させた煌びやかな装備をしたスケルトンが一行を歓迎するように列を作っている。

 

 その中を、女王一行の馬車がゆっくりと通り抜け、エ・ランテルの街に入る。

 

 エ・ランテルは以前来た時よりも一回り大きくなっているように見え、街は何処を見ても綺麗に整備されている。ラナー女王の来訪に、道路沿いには大勢の市民が集まり歓迎の声をあげている。もちろん、市民は人間だけではなく、様々な種族が入り混じっている。

 

 女王の一行は、馬車の窓から軽く手を振ってその声に応えつつ、そのまま旧都市長の館に向かう。

 

 館の入り口には、城門前と同様に揃いの装備を身に纏ったスケルトン達が再び二つの国の旗を交差させて並んでおり、ラナー女王とその一行が馬車を降りると、歓迎のファンファーレが鳴り響き、続いて聞いたことのない音楽が演奏される。

 

 その中を一行が通り抜けると、扉の前に控えたメイドが恭しく館の扉を開き、その奥には、宰相アルベドが出迎えに出ていた。

 

 ラナー達は、あらかじめ打ち合わせてあったように、ラナーを先頭に、レエブン候、有力貴族達、それに蒼の薔薇が付き従う形で入場し、同じく整列し、跪いた。

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国宰相アルベド様、私はリ・エスティーゼ王国から参りました、女王ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフと申します。この度は私共リ・エスティーゼ王国の為にこのような場をご用意頂いたこと、深く感謝しております」 

 

「ようこそ、お出で下さいました。ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ女王陛下。私、魔導国宰相アルベドが、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下に代わり、この式典を取り仕切らせて頂きます。それと、ラナー女王陛下、どうかお立ちになってください。これから両国は末永くお付き合いしていくのですから」

 

「宰相アルベド様、お心遣いに感謝いたします」

 

 アルベドの言葉で、ラナーは立ち上がり優雅に一礼をする。

 

「この後の予定でございますが、魔導王陛下の御居城に移動して頂きまして、属国承認及び拝謁の儀、その後、リ・エスティーゼ王国の皆様への歓迎の晩餐となっております。陛下には王国の皆様に十分な歓待をするようにと仰せつかっております。ただ、少々距離がございますので、今回は特殊な手段を使わせて頂きたいと思います。セバス、皆様方を御案内してください」

「畏まりました」

 

 アルベドの言葉で、白髪の品の良い執事が歩み出てラナーに会釈をする。残りの面々もその言葉で立ち上がった。

 

「それでは私がご案内させて頂きます。皆様方、こちらにお出でください」

「はい、どうぞ宜しくお願いいたします」

 

 にこやかに答えるラナーに、執事は重々しく頷くと、一行を若干小振りの部屋に案内した。

 

 部屋自体はごく普通の古ぼけた印象で、旧都市長の時代からあまり手を入れた様子はなかったが、部屋の奥には非常に美しい彫刻が縁に刻まれた巨大な鏡が一つだけ掛けられている。執事はその脇に立つと恭しくお辞儀をした。

 

「この鏡は通り抜けることが出来ます。通り抜けた先に迎えの者達が控えておりますので、以後の案内はその者達が行わせて頂きます」

 

 興味深そうに鏡を見ていたラナーは何気なく手を鏡に伸ばしてみる。そうすると、確かにそこには鏡があるのに手は鏡面には触れず、その先には空間が続いているようだ。

 

「あら、面白い仕掛けになっているようですね。これも魔導王陛下の偉大なる御業なのでしょうか? では、私から先に入らせていただきます」

 

 ラナーは、執事に会釈をするとそのまま、迷うことなく鏡の中に入っていく。残された貴族達は、それに一瞬慌てた様子だったが、諦めたように、そのまま後に続いて鏡の中に消えていく。蒼の薔薇も、軽く顔を見合わせると、鏡の中に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 




黒帽子様、佐藤東沙様、Sheeena 様、アンチメシア様、誤字報告ありがとうございました。
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