イビルアイが仮面を外すとき   作:朔乱

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3: 未知への一歩

 蒼の薔薇が全員揃って、魔導国冒険者組合の二階にある広めの会議室に顔を出した時、冒険者組合長プルトン・アインザック、魔術師組合長テオ・ラケシルは既に奥の方の席に陣取って、白熱した議論をしている真っ最中だった。

 

 冒険者組合では、月に一度、冒険者組合長、魔術師組合長、アダマンタイト級冒険者チームのリーダー、及び、組合の監査役になっているアウラ・ベラ・フィオーラ、訓練施設整備役としてマーレ・ベロ・フィオーレによる定例報告会議が行われることになっており、現在の組合の状況に関する情報交換や、冒険者組合から魔導国への要望の取りまとめ、発生している問題についてる対処法の検討などが行われている。

 

「おぉ、蒼の薔薇の諸君。全員で来るとは珍しいじゃないか。さあ、適当な席に座り給え」

「ありがとうございます、組合長」

 

 軽く挨拶した蒼の薔薇は空いている席に思い思いに座った。まだ、定められた時間までは少しばかり時間がある。のんびり雑談をしていると、外が妙に騒がしくなってきたのを感じる。何事かと顔を見合わせたその時、扉を軽くノックする音がした。

 

「どなたかな?」

 

 アインザックが声をかけると、「魔導王陛下の御着きでございます」という聞き覚えのない鈴のような女性の声が返ってきて、アインザックの返答を待つこともなくそのまま静かに扉が開く。

 

 室内にいた者たちは全員慌てて立ち上がり、部屋に入ってくるアインズを出迎えた。

 

「あぁ、突然来て済まなかったな、アインザック。皆、気にせず楽にしてくれ」

 

 アインズは後ろにモモンとマーレ、アウラを従えて部屋に入ってくると、鷹揚な態度で軽く手を振った。お付きのメイドは扉を閉め、アインズの脇に控えている。誰かが小さな声で「ラッキー」と呟いた。

 

「陛下、とんでもありません。わざわざ足をお運びくださるとは、光栄でございます」

 

 アインザックが丁寧にお辞儀をすると、アインズは部屋の上座にある椅子に向かい、メイドが引いた椅子に支配者らしい堂々とした仕草で腰を下ろした。

 

「お前達も立っていないで座るといい。別にそのようにかしこまる必要はないぞ」

「はっ、ではありがたく」

 

 マーレとアウラはアインズの右隣の席に座り、モモンは左隣に腰を掛けた。メイドはアインズの後ろに立っている。アインザックが恭しくお辞儀をしてから着席すると、残りの全員も同じように頭を下げ先程までの席に座った。組合の受付嬢が紅茶を運んできて全員に配って歩き、一礼をすると部屋から出ていった。

 

 アインズは冒険組合長に目を向け、穏やかに口を開いた。

 

「アインザック、今日は報告会の後で少し提案したいことがあって来たのだ。それと、久しぶりに直接お前たちの様子も確認したくなったのでな。だから、私のことはあまり気にせず、普段どおりに進めてくれ」

 

「畏まりました。では、メンバーも揃ったようですし、そろそろ始めるといたしましょう。陛下、せっかくですから、最初に何か一言お言葉を賜りたいのですがよろしいでしょうか?」

 

「もちろん構わない」

 

 アインズは頷き、部屋の中にいるメンバーをゆっくりと見回した。

 

「今のところ我が魔導国の冒険者組合は、当初アインザックやラケシル達と話をした理念を実現するため、日々努力している途上にある。建国当初は、皆も知っての通りエ・ランテルには冒険者らしい冒険者は殆ど残っていなかったが、ここにいる皆の尽力のおかげで、現在はかなりの数の若い冒険者達が魔導国で冒険者を目指そうとしてくれるようになった。これはとても素晴らしいことだと思う。まずは、それについて皆に感謝をしたい」

 

 アインズは軽く頭を下げ、アインザックやラケシルは慌ててアインズに頭を上げてくれるように懇願した。蒼の薔薇の面々もさすがに驚いたのかアインズの様子を見つめている。

 

「アインズ様、そういうことをすると、皆びっくりしちゃいますよ」

「そ、そうですよ。アインズ様がそのようなことをされなくても……」

 

 他のものと同様にマーレとアウラは一瞬驚いてアインズを見ていたが、それでもなんとか場を取りなそうと頑張っている。

 

「そうか? 私は単に感謝の気持ちは伝えるべきだと思っただけなのだが……」

 

 やはり王がこのような態度を取ると、部下を逆に萎縮させてしまうのかと反省しながら、アインズは頭を上げた。アインズとしては不本意だが、これも仕方がないのだろう。

 

「いえ、我々こそ陛下に感謝しております。私もこのような仕事を長くやってまいりましたが、長い冒険者人生で今が一番やりがいを感じております」

 

「私もですよ。おまけに、冒険者組合だけではなく、魔術師組合も加入希望者が殺到しておりまして。やはり、陛下の強大なお力に憧れるものも多いのでしょう。もちろん、私も、その、第八位階の魔法とか機会があれば一度見てみたいとか、少し思っておりますが……」

 

 ラケシルはおのれの欲望を隠そうとするつもりはないようで、熱のこもった目つきでじっとりとアインズを見ている。以前魔封じの水晶の中身が第八位階魔法だと知った時のラケシルの狂乱ぶりを思い出し、アインズは思わず笑いを洩らしそうになる。しかしあの時、そんなラケシルを見ていたのはモモンなのだから、流石に反応する訳にもいかない。アインズは必死になって平静を保った。

 

「ふむ。ラケシル、高位の魔法を見たからと言って他のものの参考になるかどうかはわからないが、魔導国の魔法詠唱者にとって何か得るところがあるというなら、そのような機会を設けてみるのも面白いかもしれないな」

「もちろん、参考になりますとも! やはり高い目標というのは刺激になるものでございます」

 

 ラケシルの目は再び異様な狂気に満ちはじめ、アインズは触れてはいけないものを見てしまったような気分に陥る。

 

「まぁ、そういう気持ちはわからんでもないがな。帝国のフールーダですら高位魔法の話には興味があるようだし」

「陛下、当然でございますよ。魔法詠唱者にとっては知識というのは何よりも代えがたいものなのです!」

 

「お前の気持ちも熱意もよくわかった、ラケシル。だから、少し落ち着くが良い。……そうだな、せっかくだから、他にも何か提案などがあれば聞いておきたい。意見があるものは遠慮なく話をしてくれ」

 

 放っておくとどこまでも力説しそうなラケシルの言葉を遮り、アインズは他の者に話を振る。ラケシルは残念そうな顔つきで、一旦黙り込んだ。アインザックや他の面々は少し考え込んでいる様子だったが、部屋の端の方からためらいがちな声がした。

 

「あの、私からも意見を申し上げてもよろしいでしょうか?」

「なんだ? イビルアイ。もちろん構わないとも」

 

「これは必ずしも冒険者組合に直結する話ではないかもしれませんが、私は魔法詠唱者を育成する学校があるといいと思います。比較的訓練がたやすい戦士と違って、魔法詠唱者は才能が必要なうえ、特別な訓練を受けなければ魔法を覚えることが出来ません。第一位階を使えるものですら数が限られています。しかし、アイ――陛下のお考えになっている冒険者は、やはり最低でも第三位階以上の力を持つ魔法詠唱者が必要になると思います。帝国の魔法学院のような感じでもいいですし、他のもっといいやり方があれば、そちらでもいいと思うんですが」

 

「ほう、なるほどな。学校というのは前にも誰かに……、ああ、ユリだったか? まだ具体的には何も動いてはいなかったが、確かにそれは考慮すべき提案だな。ありがとう、イビルアイ」

「いえ、そんなことはないです。少しでもお役に立てたなら、その嬉しいです」

 

 イビルアイは若干照れたような感じで頭をぺこりと下げた。アインズはそれを見て少しばかり、微笑ましい気分になる。

 

「陛下、魔法詠唱者を育成する学校に関しては、我々も必要性を痛感しているところでありまして。実はラケシルと一緒に近々ご相談させていただこうと思っておりました。是非前向きにご検討頂けると幸いです」

 

「わかった。お前達二人の要望でもあるというのであれば善処しよう。問題はどういう形で行うかだな。まずは設置に関する検討をしなければならないから、その結果にもよるが、場合によってはラケシル、お前を帝国の魔法学院に派遣し、どのような教育を行っているのか視察してきてもらうことになるかもしれない。それは問題ないか?」

 

「はっ、もちろんでございます。こちらから出した要望でもありますので、それに関することであれば、なんなりとお申し付けください」

「そうか。ではなるべく早く設置の可否を含めて連絡することにしよう。それでいいな?」

「ありがとうございます、陛下。もちろん構いません」

 

「よし。前置きがすっかり長くなってしまったな。アインザック、早速本日の報告会を始めてくれ。その後、私が本日ここに来た用向きを話そう」

「畏まりました。陛下。――ではまず、蒼の薔薇の方からは何か報告が必要なことはあったかね?」

 

「はい。まず、今行っている訓練設備のテストに関してですが、マーレ様からお伺いした想定レベルは銀級向け、とのことでしたが、出現モンスターが若干強いように思われます。遭遇率を下げるか、もしくはもう少し弱めのモンスターの方がよろしいかと思います」

 

 ラキュースの報告を聞いたアウラが手を軽く打って頷いた。

 

「あー、なるほどー。まだちょっと強かったか。モンスター配備の担当はあたしだから、別のモンスターを見繕ってみる。ラキュース、それでもう一度試してもらえるかな?」

「あ、あの、それじゃあラキュースさん、先日お願いした新しい階層のテストは、今の階層の調整が終わってからでいいです」

 

「わかりました、アウラ様、マーレ様。先に銀級の方をテストしてから問題なければ、新しい階層に移るようにします」

「うん、それでお願い」

 

「銀級連中の話で思い出した。俺からも一言いいたいことがあったんだ。今は組合近くの少し広めの場所で剣の指導をしてるんだけどよ、できればもうちょっと模擬戦のようなことを安全に出来る場所があったほうがいいと思ってるんだ。どうしても、熱が入ってくると周りで見ている奴らも結構危ない時がある」

 

「ガガーラン、それは言えているな。私も魔力系魔法を時々教えてやっているが、できれば実戦形式で教えてやりたいと思うことがある。だが、実戦形式ともなると、どこに魔法が飛ぶかわからんからな。さすがに危ないので躊躇していたんだ」

 

「なるほど。ガガーラン君とイビルアイ君の言うことはもっともだ。それなら、陛下、いっそ闘技場のような形の物をお作りになられてはどうでしょう? 国民にとっては娯楽にもなりますし、普段は冒険者の訓練施設として使えばいい。それに、例えば年に一度トーナメント形式の試合を行って、冒険者としての実力を競い合うというのも悪くないかもしれません。冒険者仲間といっても、なかなかお互いの実力を見せ合う機会というのもありませんしな。リ・エスティーゼ王国では、時々御前試合みたいなのをやっておりましたが、そういう形式でもいいかもしれません。もっとも帝国の闘技場のように、死ぬまでやるというのはいただけませんがな」

 

 アインザックは苦笑いをした。

 

「闘技場か。確かにそれは魔導国にもあってもいいかもしれん。帝国ではたいそう人気があったようだし」

 

(それに結構な収入になってたみたいだったしな。やはり収入源が増えるというのはありがたい。最近税収もだいぶ増えては来ているが、ナザリックの維持のためにも金はいくらあっても困ることはないし、俺の手元にも、もう少し自由に使える資金がほしい……)

 

 乏しい自分の懐具合を考えつつ、後でパンドラズ・アクターに相談しようと、アインズは心の中にメモをする。

 

「闘技場があれば、陛下の魔法も見せてもらいやすくなりますかね!?」

「えっ? ラケシル、確かに普通の場所でやるのはあまりお勧めは出来ないが、闘技場でやるのもな。私としてはあまり気乗りがしないのだが……」

 

 何の見世物だよ、と心の中で突っ込んだアインズは、慌てて話題を変えた。

 

「そういえば、貸出をしているルーン武器の使用感とか評判はどうなんだ?」

「その件については、ガガーランの方が詳しいと思うのですが……私が見た限りでは、駆け出しの冒険者が使うのには非常に良いのではないのかと思われます」

「そうか。やはり、まだ強化度合いが上位の冒険者には物足りない感じか?」

 

「俺たちの手持ちの武器と比べると多少見劣りはするっていうだけで、普通にミスリル級とかなら十分だと思うぜ。値段との兼ね合いにもよるけどよ。ただ、確かにもう少し魔力の強度が強い方がありがたいとは思う。でも、あのクラスのものがそこそこの値段で何時でも入手出来るって言うなら、それだけでも、かなりいいと思うがな。やはり、いい魔法の武器の流通量は少ないんでね。それを考えれば、今くらいのでも悪くないと思う」

 

「なるほど。そうすると流通量の確保と、もう少し質の高い品の開発が必要そうだな」

 

(となると、ゴンド達にもう少し強度の高い武器の研究をさせつつ、そろそろ大量生産化の手法を考えてもらったほうがいいかもしれないな)

 

 報告会はその後も順調に続き、全員の話が一段落したことを確認すると、アインズはおもむろに話を切り出した。

 

「参考になる話をいろいろ聞かせてもらえて、非常に有意義な報告会だった。皆、ご苦労だった。――さて、ここからが私の本題なのだが、実は、そろそろ魔導国冒険者組合の実績を作ってみてはどうかと思ったのだ。もちろん、組合の活動自体がまだ軌道に乗ったわけではないので、あくまでもテストケースとしてだが」

 

「なるほど、それは確かに良い頃合いかもしれませんな」

 アインザックは頷いた。

 

「そこでだ。せっかく魔導国には『蒼の薔薇』と『漆黒』の二つのアダマンタイト級冒険者チームがいるのだから、二チーム合同で、適当な地域を探索してみてはどうだろうか。もちろん今回はテストも兼ねるから、それほど遠い場所である必要はないと思う。それに実際に試してみることで、今後の活動の指針にもなると思うのだ」

 

「私は賛成です。その二チームが組めばかなりの難敵にも対応できるでしょうし、何より他の者にとっても良い手本となるでしょう。本当は私が行きたいと言いたいところですが、やはりここは蒼の薔薇と漆黒に任せたいところですな」

 

 ラケシルが笑う。アインザックはゆっくりとモモンとラキュースの方を向き直った。

 

「漆黒、それと蒼の薔薇は魔導王陛下の提案をどう思うかね?」

 

「私は異論ありません。麗しい蒼の薔薇の皆さんさえ構わないのであれば」

 モモンは若干オーバーアクション気味に軽く手を広げるようにしながら即答した。

 

「も、もちろん、私も構いません。皆はどう?」

 そんなモモンに見とれていたラキュースは一瞬顔が紅潮するが、すぐにいつもの様子に戻ると他のメンバーの顔を見回した。

 

「俺は望むところだぜ。若いのに教えるのも悪くはねぇけど、俺自身の力をそろそろ試してみたいしな」

「私は問題ない」

「もちろん、賛成」

「同じく」

 

「では魔導国冒険者組合は、陛下のご提案通り、第一回目の探索チームとして蒼の薔薇と漆黒を派遣することに決定しよう」

 アインザックが決すると、自然と拍手が起こった。

 

「問題はどこに行くかですが、陛下、どこかご希望の場所はございますか?」

「いや、私の方からは特にはないな。むしろ、冒険者の自主性に任せたいところだ」

「畏まりました。では、行き先の選定は蒼の薔薇と漆黒の協議で決めるということで」

 

 その時モモンが軽く手を挙げた。

 

「組合長、よろしいですか?」

「なんだね? モモン殿」

 

「場所の選択は蒼の薔薇の皆さんにお任せして構いませんか? せっかくの初の試みですし、彼女たちの選ぶ場所を見てみたい気がします」

「ほう? 蒼の薔薇はそれで構わないかね?」

 

 ラキュースはあからさまに残念そうな顔をしたが、素直にそれに同意した。

 

「では、後ほど冒険者組合で管理している地図を蒼の薔薇に渡そう。地図に載っていない場所を目標として定めるというのは難しいとは思うが、それも今回のテストの内ということで」

「わかりました、組合長」

 

「では、今日はこの辺でお開きとしますか。陛下、本日はわざわざお運びくださりありがとうございました」

「いや、気にするな。私が勝手に来たことだ。それでは探索が上手くいくことを祈っている。是非、未知の世界を既知にしてきてくれ。蒼の薔薇の諸君。それから、漆黒もな」

 

 魔導王が立ち上がり退室しようとした時、その後ろに付き従っていたアウラが急になにか思いついたように振り返った。

 

「あー、ちょっとだけ、いいかな? ラキュース」

「はい、なんでしょうか? アウラ様」

「出来れば、竜王国と法国付近は避けたほうがいいかも。どうもあの辺危ないみたいだからね」

 

「確かに、竜王国の向こうにはビーストマンの国もありますから、そちらは避けたほうが賢明だと私も思います。それに私達も法国にはあまり近寄りたくはありませんから、その辺は大丈夫です」

「それなら良かった。じゃあ、頑張ってね」

 

 アウラは笑顔で手をひらひらと振り、ちらっとイビルアイを流し見ると、そのままアインズの後を追って出ていった。

 

 

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 竜王国の北東に位置する山岳地帯には、周囲を岩山で囲まれた高原がある。そこはまさに天然の要塞であり、ビーストマン達の国の首都ともいうべき場所だった。

 

 都市に繋がる門からは、大勢のビーストマン達が何処かから運んできた大勢の人間を詰め込んだ巨大な檻を荷車で運んでおり、市場のような場所では、生きた人間を競りに出していたり、立ち並ぶ屋台では既に何らかの加工をされた大量の肉が売られている。市場に出入りしているビーストマン達はそれを当たり前のように売り買いしていた。

 

 道には兵士らしい粗雑な武装をしたビーストマン達も行き交っている。兵士たちは都市を守るようにあちこちに配置され、油断なく警戒をしているようだったが、それでも、長らくこの都市を攻められたことはなかったのだろう。自然の防壁となっている巨大な岩の各所に隠れて見張りをしている筈の兵すらのんびり雑談したり、何かを齧るのに夢中になっているものも多く見受けられる。

 

 そして、その場を更に見下ろす位置にある岩山の切り立った崖の上にコキュートスとデミウルゴスが立っていた。二人は前方の遥か下に見える巨大な石造りの都市を、じっくりと検分するように見下ろしている。

 

 二人の背後には、コキュートス配下の雪女郎(フロストヴァージン)が二人、デミウルゴス配下の嫉妬の魔将(イビルロード・エンヴィー)及び、低位の悪魔たち等、二人のシモベたちが大勢控えていた。

 

 しばらく都市や周囲の状況を眺めていたコキュートスが、ガチガチと牙を鳴らすと、おもむろに口を開いた。

 

「デミウルゴス。私ハ御方ニ、決シテ我ガ望ミを口ニ出シテハ、イケナイトズット思ッテイタ。御方ハ、私ニ既ニ恥辱ヲソソグ機会ヲオ与エクダサッテイル。シカシ、御方ニハ、ヤハリ見抜カレテイタノダナ……」

 

「コキュートス、当然だろう。アインズ様は遠い未来まで見通していらっしゃるのだ。君の望みくらいとうの昔にわかっておられたさ。ただ、これまで相応しい機会がなかっただけで、常に君のことを考えていらしたに違いない。その証拠に、シャルティアにも機会を与えられていただろう?」

 

「ソウダナ。アノ話ヲ聞イタトキハ、私ハ先ヲ越サレタト思イ、カナリ焦リヲ感ジテシマッタガ。ヤハリ、アインズ様ハ我々ヲ統ベラレルニ相応シイ慈愛ニ満チタ御方。私モ今回コソハ、アノ時ノヨウナ屈辱ヲ味ワウノハゴメンダ。デミウルゴス、ドウカ私ニ、チカラヲ貸シテクレ」

 

「無論だ。もちろんビーストマンを攻略する作戦計画については、コキュートス、君に全て任せるがね。ともあれ、作戦の第一段階としては我々の存在を知られることなく、ビーストマンを掌握することだ。作戦の都合上、我が配下が召喚したシモベを使ってもらうことにはなるが。君の命令には絶対服従するように既に命じてあるから安心して欲しい。コキュートス、君の采配を楽しみにしているよ」

 

 凍河の支配者は、炎獄の造物主を見やると、自信ありげに頷いた。

 

「必ズヤ、アインズ様ノゴ期待ニオ応エシ、今度コソ、御方ニ勝利ヲ捧ゲテミセル。見届ケテクレ、デミウルゴス。我ガ戦イヲ」

 

 デミウルゴスは深い笑みを浮かべ、盟友に激励の言葉を送る。コキュートスは背後にいた嫉妬の魔将を呼び寄せると、最初の指示を出した。

 

 




五武蓮様、典型的凡夫様、バーバリー湿布様、瀕死寸前のカブトムシ様、キャスト様、誤字報告ありがとうございました。

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予定よりも公開に時間がかかってしまい、大変申し訳ありませんでした。
書いても書いても、なかなか目的のところまでたどり着かず。
いただいた感想のおかげで、なんとか三章も書き上げることが出来ました。
本当にありがとうございました。

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