アウラはフェンリルに乗って、ビーストマンの国と竜王国の間にある森を偵察がてら走り回っていた。
山岳地帯の裾野を越えたところに広がるその森は、トブの大森林ほどではないようだがかなり広く、鬱蒼とした背の高い木が空を覆い隠すようにどこまでも続いている。とはいっても、レンジャー技能に長けたアウラにとっては別にたいした問題ではない。
「この森にも面白いのがいたりしないかなぁ。ハムスケみたいなやつ。そしたら、アインズ様にお願いしてペットにするのもいいよね」
ほんの少しでも興味を持てるような存在を探して森の中をあちこちうろつくが、不思議なことに、あまり動物や異形種のような生命あるものの存在が感じられない。もっともレベル百のアウラにとって意識できるほどのレベルの存在がいないというだけなのかもしれないが、それにしても妙だった。
「どう、何か感じる? フェン」
どことなく緊張した様子のフェンリルに気が付き、アウラは警戒感を強める。森の奥から漂ってくる風に妙に生臭い何かを感じ、アウラはそちらに向かってフェンリルを走らせた。
奥に進むにつれてその匂いは徐々に強くなる。おまけに、まるで行く手を阻むかのように、おかしな霧のようなものまでがたちこめ始め、さしものアウラでも先を見通すのが困難になってきた。
「なんだこりゃ。この霧……、どことなく、カッツェ平野の霧と似ているような? フェン、注意深く行くよ」
アウラは奥に突き進むのではなく、霧が広がっている範囲を確認しようと、ゆっくりとフェンリルを歩かせた。それはかなり広範囲に渡っており、まるで何かを隠すように広がっているようにも思える。霧のせいでよくわからないが、奥の方には何か変わった面白いものが存在しているのかもしれない。そう考え、アウラは少しばかりそれが何なのか興味を惹かれた。
「うーん、これは、他の子たちも使わないと難しそうかな」
アウラは自分の使役している魔獣達のうち、隠密行動に長けたものを選び出し、霧の奥の方を探らせる。しばらくして、戻ってきた魔獣達と言葉を交わすと、アウラはしばらく腕を組んで考えた。魔獣達の報告では、その霧の奥にはかなり開けた場所があり、非常に多くのアンデッドがうろついているらしい。
(多分、あたしでも問題なく対処はできるとは思うけど、あたし一人で深入りするよりも、まずはアインズ様にご判断いただいたほうがいいよね)
アウラは軽く頷くと魔獣達に指図した。
「お前たち、この辺りに何かを近づけないようにして。あまり生き物の気配はないから大丈夫だとは思うけど。あたしはアインズ様にご報告してくる」
見張り用の魔獣を霧からある程度離れた場所に何体かずつ配置する。これなら恐らく自分が戻ってくるまで何かがこの中に立ち入ることはないだろう。
自分の仕事に満足したアウラはフェンリルに飛び乗り、ひとまずシャルティアの元に向かった。
-----
漆黒と蒼の薔薇のアゼルリシア山脈探索は順調に進んでいた。途中で、巨大な羽を持つ人の顔をしたペリュトンや、凶悪なハルピュイアの群れなど、この山脈特有のモンスターに何度か襲われたものの、その程度のモンスターは蒼の薔薇と漆黒の敵ではなかった。
通る道もない山肌を縫うように進んでいく行程は、新しい道を自分たちが作っていくという新鮮な感覚があり、しばらく進むたびに見えてくる新しい景色も心奪われるものがあった。不可思議な次元の門らしきものから熱いドロドロした溶岩が流れ落ちていく危険地帯を越えると、ゴツゴツとした熔岩性の黒い岩と高山独特の灌木や鋭い葉を持つ植物が生い茂る急な斜面がどこまでも続いている。
ティアとティナは、休憩のたびに地図にこれまで通ってきた道や発見した動植物などを書き記している。
午後遅い時間になると、野営の準備のために比較的平らな場所を探す。モモンとガガーランは協力して雪や氷を削ってある程度の広さを確保し、モモンが
いくら飲食と睡眠を不要にするアイテムを装備していても、やはり厳しいアゼルリシア山脈を踏破するのは精神的にも疲れを感じる。見た目は小さいのに、中に入るとかなりの広さがある魔法のコテージは、設置場所を探すのもそう難しくない非常に便利な代物で、夜になると適当に部屋に分かれてのんびりくつろぎながら、明日通るルートを確認したり、思い思いに食事などを取りつつ日中の疲れを癒やした。
ひたすら険しい道なき道を頂上を目指して登るにつれ、地面はだんだん土から万年雪と氷に変わっていき、木々の高さも低く這うようなものに変わっていく。もらった冷気耐性の指輪の効果で寒さはさほどではないが、吹き付ける風もだんだん強くなってくる。身体の軽いイビルアイなどは何度か飛ばされそうになり〈飛行〉を使ってなんとか落下を避けた。
しかし、自分たちの最終目的地へと確実に近づいているという感覚は、日々の野営地から見る景色の変化からも明らかだった。
行く手を遮る巨大な氷の岩をその圧倒的な筋力でよじ登ったモモンがロープを垂らし、それを伝って他の全員も岩の上に登りきる。その作業を何度か繰り返したのち、ようやくたどり着いたその場所こそ、間違いなく、伝説にも伝え聞くことのないラッパスレア山の山頂だった。
フェオ・ベルカナを出発してから既に十日が経過していた。数々の苦難を乗り越えてこの地にたどり着いた一行は、恐らく人間としては初めて見る光景に圧倒的な衝撃を受け立ちつくした。
遮るもののないどこまでも広がる空と、その下に広がる雄大なアゼルリシア山脈の山並みはあまりにも美しく、これまでの自分達の人生観がまるでちっぽけなものだったように感じさせられる。遠く北の彼方には恐らく海だと思われる水平線も見える。その更に先まで見通すことはさすがに出来ないが、それでも、世界はもっとずっと遠くまで広がっているはずだ。
吹きすさぶ風は強く、完全に凍りついて足掛かりになるものがほとんどない山頂は、油断すると足元をすくわれそうだったが、漆黒と蒼の薔薇は自分たちが通ってきた道を感慨深く見下ろしながらも、しばらく神秘的な山の光景に見入った。
「これが未知の世界を既知にするってことか。魔導王陛下もなかなかいいことを思いついたもんだな……」
「本当に。モンスターを倒すことだけが冒険じゃないってことね」
興奮して話をしている蒼の薔薇の面々をよそに、イビルアイは風に飛ばされないように注意しながら、エ・ランテルがあると思われる方向を必死に探した。しかし山の稜線に隠れてしまっているのか、どれほど目を凝らしても、それらしいものを見つけることは出来なかった。
(この景色、できればアインズ様と見たかったな……)
自分の隣に立つ愛しい骸骨を幻視して、胸の中が喜びでいっぱいになるのを感じるが、次の瞬間その気持ちは冷たい風に吹き飛ばされたかのように消え去った。
もちろん、いつも仕事で忙殺されているアインズが、こんなところにわざわざ足を運べるわけがない。頭ではそれがわかっていても、今自分のかたわらに彼がいないことをイビルアイは酷く寂しく思った。
いつものように指輪を撫でると多少は飢えた心が慰められたが、それだけではもう自分の中にぽっかりと空いた穴を埋めることが出来そうもなかった。
(どうしたんだ? 私は……。アインズ様が欲しくてたまらない。なんなんだ、この欲求は)
イビルアイはアインズとの間に感じている、踏み越えたくても踏み越えられない一線の存在をいつもよりも強く感じて歯噛みをする。
立場とか身分とか、そういう余計なことは忘れて、彼の全てを手に入れたい。彼のほっそりとした身体をしっかりと抱きしめれば、彼も優しく自分に応えてくれるだろう。そして思い切り甘えたら、喉元に牙を突き立てる。そうすれば、きっとこれまで味わったことのないような甘露が味わえるはず……。
そこまで考えて、イビルアイはぎょっとし、そんな恐ろしい考えを頭からふるい落とそうとした。
――なぜためらう? キュウケツキがそうしタイとノゾムのはアタリまえだろう。
頭の中で誰かがそう囁く。
そもそもアンデッドである身体はあまり寒さなど感じないはずで、しかも冷気耐性の指輪までもらっているというのに、自分の中にいる何かは身体の奥底から凍えさせようとしているのか、酷く冷たく感じられ、身体の震えが止まらない。それに、その存在はこれまで以上にアインズを欲していて、その欲求を抑えることもできない。
(ホシイ……ワタシはほしイ……アインズさまゼンブホシ……)
どうすることも出来ず、自分のものではない声に半分身を委ねているうちに、イビルアイはこんな風に感じるのは初めてではないことに気がついた。そして、ソレがアインズを欲している原因が、間違いなく自分自身が持っているアインズに対する執着であることも。
その存在が何なのか、イビルアイはよくわかっているわけではなかったが、もうソレは消えてしまったものだとずっと信じていた。だが、それは今まで自分の中でずっと眠っていただけで、自分の欲望の高まりに惹かれて目を覚ましてしまったのだろう。
このまま放置していれば、自分自身の自我が再びそれに乗っ取られてしまうに違いない。そう、以前と同じように……。
焦ったイビルアイは、自分を中から支配しようとしているモノに必死で抵抗した。
――何をキレイゴトをいっているんだ? カレのすベテがホシイのならワタシをうけいれればいい。
自分の中でナニかがクスクスと嘲笑っているのを感じる。今のイビルアイには、もはや目の前の美しい光景を見ている余裕など完全になかった。
(不味い。どうしたらいいんだ? アイツはやっぱり滅んだ訳じゃなかったんだ。こいつを生かしたまま、アインズ様のお側にいたら、私はまた同じことを繰り返してしまうかもしれない)
イビルアイは唇を噛む。
――ワタシはオマエダ。タンにワタシとヒトツになればいい。ソウスレバ、カレにフサワシイだけのチカラあるソンザイになれるぞ?
(うるさい、うるさい、うるさい! 黙れ! もう、お前の操り人形になってあんなことをするのはゴメンだ!)
イビルアイの中で何かが哄笑している。
(私はもう二度とお前に自分を明け渡すようなことはしない! 必ず、お前を滅ぼして見せる。もし、それが駄目ならその時は……)
イビルアイは指輪を強く握りしめ、心に固く誓う。あの日のようなことを魔導国で起こしてはならない。絶対に。そんなことをするくらいなら、死んだほうがましだ。
そんな決意を憐れむように、もう一人の自分が自分を嘲る声がひっきりなしに聞こえる。イビルアイはひたすら自分の中にある暖かいアインズの存在にしがみついて、自分を何か別のものに変えてしまおうとするもう一人の欲望に、これ以上魅入られないように耐えた。
----
「そろそろ、引き上げよう。ここにあまり長時間いるのは危険だ。それに今回の目的は十分達成できただろう」
「そうですね。名残惜しいですが……。ティア、ティナ、地図は大丈夫?」
「書き込みは終わった。問題ない」
「もうちょっと眺めてたいが、仕方ねぇよな。安全第一だ」
「あ、あぁ、そうだな……」
モモンにそう声をかけられ、一行は名残惜しい気持ちを抑えつつ帰路についた。イビルアイは悪い夢からようやく覚めたような気分で後から着いていく。
雪で覆われた山を下るのは思いのほか困難で、何度も足を滑らせそうになりながら、一行はゆっくりと来た道を戻るが、ふいに頭上をなにかの影のようなものがかすめるのを感じた。
「まずい、かなりのでかぶつが上空を飛んでる!」
「まだこちらには気がついていない様子だけど、時間の問題」
ティアとティナが素早く状況確認して警告を発する。
「む、まずいな。蒼の薔薇は一足先に撤退。俺は予定通り殿を受け持つ。ナーベは援護せよ」
「かしこまりました」
「わ、私も一緒に戦うぞ! モモン様!」
「いや、イビルアイは、蒼の薔薇のメンバーを守ってやってくれ」
力強いモモンの言葉に、ラキュースは即座に決断した。
「……先に逃げるなんて嫌だけれど、私達では足手まといになりそうね。皆、急いで! 撤退よ! ただし、滑落には注意して! イビルアイ、援護をお願い」
「わかった。任せてくれ、モモン様、ナーベ、悪いが時間稼ぎ頼む!」
「心得た!」
モモンは、背中から二本のグレートソードをナーベの補助で鞘から引き抜き、ナーベもすぐさま、戦闘態勢に移れるようにモモンの脇で身構える。
見上げると、上空のかなり高いところに、一見炎のようにも見える巨大な鳥のようなものの姿があった。それは、時折縄張りを確認するかのように首を動かしながら、悠々と空を飛んでいるように見えたが、やはり、地上にいる不審物を見咎めたのか、一声聞いたこともないような高い声をあげると、向きを変え、こちらへと降下してくる。
イビルアイは、必死でそのモンスターが何かを思い出そうとし、以前ツアーから聞いた一つの名前を思い出す。
「あれは、もしかしてカッパスレア山の天空を支配しているとかいう、ポイクニス・ロードじゃないか!? 難度は不明だが、二百以上という話もある! モモン様なら問題ないだろうが、急げ、ラキュース! 下手すると死ぬぞ!」
「なんですって!? 皆、急いで! モモン様、下で会いましょう!」
蒼の薔薇は必死で岩から垂らしたロープを滑り降り、そのまま凍りついた山肌をなるべく急いで降りる。自分たちがこの場から早く離脱すればそれだけモモンとナーベが動きやすくなるし、逃げることだって出来るはずだ。
遥か後ろの方では、モモンの双剣が恐らく敵の鉤爪を弾いているかのような、金属音が鳴り響いている。
その時だった。
先頭を駆け足で進んでいたガガーランの足元の雪が崩れ、そのままガガーランは急な斜面を転がり落ちていく。
「うわあぁあ!!」
「ガガーラン!?」
慌てて、ティアとティナがガガーランが滑落した場所に向かうが、ガガーランの姿は既に見えない。十メートル程先で斜面は更に切り立った崖のようになっており、ガガーランはどうやらその下に放り出されてしまったらしい。
「ガガーラン! 無事なの!?」
ラキュースが大声で叫ぶが、返事が戻ってくる気配はない。
「〈飛行〉のネックレスを使う暇もなかったか?」
「かなり勢いがついていたから、もしかしたら、ネックレスが外れて落ちてしまったかもしれないわね……」
上を見上げると、まだ、モモンとポイクニス・ロードの死闘は続いているらしい。時々、ライトニングと思われる光と、吹き上げる炎のような赤い光が見える。
「ともかく、私はガガーランを探しに行こう。さすがに、このまま下に落ちていたら、ガガーランといえども無事では済まないだろう」
「そうね、私も行くわ。ティア、ティナ、この場所なら恐らくモモン様達の邪魔にはならないと思うから、モモン様達が引き上げて来たら合流して状況を伝えてくれる?」
「わかった」
「今のガガーランなら、自力で空を飛べるようになっているかもしれない。きっと生きてる」
流石にティアの軽口にも今は笑う余裕がない。
「だといいけれど。イビルアイ、行きましょ」
イビルアイは〈飛行〉を唱え、ラキュースはネックレスを握りしめると、ガガーランが転落していったと思われる崖の下にゆっくりと降りていった。
----
崖の下は頂上とはかなりの高度差があり、氷と雪で覆われた世界とは一転して背の高い木々が生い茂る森になっていた。樹々の葉の隙間から僅かに空が垣間見えるものの、中を見通すのに十分な光とはいえず、薄暗く見通しが非常に悪い。イビルアイとラキュースは周囲を確認しながら慎重に地面に着地すると、名前を叫びつつ、ガガーランが落ちたと思われる場所の周囲を探し回った。
しばらくすると、頭上からガガーランらしい声で弱々しく返事が聞こえた。二人が見上げると、木の枝にガガーランが引っかかってぶら下がっている。
「ガガーラン! 怪我はないの!?」
「あぁ、落ちてくる時に岩に酷くぶつけて右手を折っちまったかもしれん。ぎりぎりのところでペンダントを発動できたから、下までは落ちずにすんだけどよ。まったく、危うく死ぬところだったぜ……」
強がっているようには見えたが、ガガーランはかなりの痛みを堪えているらしい。
イビルアイとラキュースは再び〈飛行〉で飛び上がると枝に絡まった荷物を外し、ガガーランを枝から下ろした。
「ガガーラン、傷を見せて。治療魔法をかけるわ」
「おう、ありがとよ。っつ、全く、このガガーランがみっともないところ見せちまったな」
ガガーランは痛めた右手を差し出し、ラキュースが〈重傷治癒〉を唱えると、変な風に曲がっていた右手がみるみるうちに元通りになっていく。
「どうかしら? まだ痛む?」
「いや、大丈夫そうだ。いつも助かるぜ、ラキュース。ありがとよ」
ガガーランは指をわきわきと動かした後、軽く右手を回して問題ないことを確認している。
「ああ、モモン様たちの目印になるように、灯りか何かをつけるか」
イビルアイが〈永続光〉を唱えると、周囲がぼんやりと明るくなった。どうやら来たときには通った覚えのない場所らしく、下手に動くと道に迷いそうなくらい樹々が複雑に入り組んでいる。ガガーランは地面に座り込んで、落ちた時にぐちゃぐちゃになった荷物の整理をしている。
「そういえば、モモン様、大丈夫かしら? まさかよりにもよって、ポイニクス・ロードが現れるなんて……」
「大丈夫だろう。ナーベだっているんだし。まぁ、ざっと見た限り、難度はヤルダバオトほどじゃない。モモン様なら問題ないだろう」
「それもそうね。――モモン様、無事にこの場所を見つけてくれるかしら?」
いつもならリーダー然として落ち着いた雰囲気を崩さないラキュースが、どことなくそわそわしているのを感じ、恋に悩むイビルアイは少しばかり親近感を覚えた。
「……ラキュース、私が言うのもなんなんだが、モモン様のこと、本気なのか?」
「え!? べ、別に本気とか、そういうことじゃなくて……。やっぱり、これまで同格以上の強さを持つ男性って、アズス叔父様とか、いいところ亡くなられた戦士長様くらいしかいなかったから。そ、それだけよ!」
「はは! いまさら隠さなくてもいいだろうよ、ラキュース。俺だってモモンはいい男だと思うぞ? まぁ、ちょっとばかり、気障ったらしい振る舞いは目につくけどなぁ」
「そんなことないわよ! かっこいいじゃない! あのマントをバサッとはためかせたりするところとか……」
「ほう、ラキュース。あれが気に入っていてくれたのか。実は自分でもなかなかいいと思っているんだ。奇遇だな」
三人が賑やかに話をしているところに、突然上から聞き覚えのある声が降ってきた。ゆっくりと〈飛行〉で降りてくる四人を見て、ラキュースとイビルアイは慌てて口をつぐみ、ガガーランは更に楽しそうに笑い声をあげた。
「さすが、漆黒のモモンとナーベだな! 無事にポイニクス・ロードを討ち取ったのか?」
「いや、討ち取ってはいない。魔導王陛下からも、あれはなるべく討伐はしないように言われていたからな。とりあえず、追い払ってはおいたから、今日のところは大丈夫だろう」
「討伐しないようにって、もしかして、魔導王陛下はポイニクス・ロードも配下にされるおつもりなの?」
「さぁな。俺はそこまではわからん。しかし、そういう可能性もあるだろう。陛下はレア物がお好きだから」
「あれだけの強敵を相手に、殺さねぇように手加減するなんて難しいぜ? まったくたいした奴らだよ。敵わねぇな」
「しばらく見てたけど、凄かった」
「ポイニクス・ロードのブレスも、羽が鋭く硬化してナイフみたいに飛んでくるのも、剣だけでかわしてた」
「へぇ、そりゃ俺も見たかったな。まあ、ポカやっちまってこんなところまで落ちちまったんだが」
「ガガーランの怪我は大丈夫なのか?」
「右手を折っていましたが、治療はしたから大丈夫です。モモン様、ご心配をおかけいたしました。ほんと、一時はどうなることかと思いました。魔導王陛下のネックレスがなければどうなっていたことか……」
話をしているうちに、先程まで明るかった空も大分日が落ちてきたように感じる。そろそろ、今日の野営場所を探さないといけない刻限であることに一行は気がついた。
「この森の中では、グリーンシークレットハウスを展開するのには少し手狭だな。出来れば、もう少しひらけたところを探したい」
モモンの言葉で、ティアとティナは頷き、素早く周囲の偵察に出る。残りの面々も、モンスターを警戒しつつ、適当な場所を探しつつ森の中を進んでいると、しばらくして、ティナが一人で戻ってきた。
「おかえりなさい。どう? いい場所あった?」
「……洞窟の入り口のようなものを見つけた。今、入り口付近をティアに調べさせてる」
それを聞いて、ラキュースは眉をひそめた。
「洞窟ですって? 気配は? 何かいそう?」
「入り口が植物とかで隠れてる。多分、意図的。何かが住んでいるのかもしれない」
「ラッパスレア山の山頂付近の洞窟にか? あまり良い感じはしねえな。化物の巣かねぇ」
「モモン様はどう思われますか? 最悪、この山にいるというエンシェント・フレイム・ドラゴンの巣かもしれないですが」
モモンはひとしきり考えた後、重々しく口を開いた。
「とりあえず、その場所に行ってみないか? ティアが一人で調べているというのなら少し危険すぎる。それに、上手く行けば今夜泊まれる場所を確保出来るかもしれない。危ないようならすぐに撤退すればいいだろう」
「確かに、ティアを一人にしておくのは不味いわね。皆、行きましょう。ティナ、案内よろしく」
ティナは頷くと、森の中を先に立って歩き始めた。
瀕死寸前のカブトムシ様、藤丸ぐだ男様、誤字報告ありがとうございました。