ドラウディロンの見送りはセバスに任せ、アインズは二人の守護者と執務室で向かい合った。
「さてと……。これで竜王国との属国に関することもほぼ全て片付いたと言えるだろう。二人の尽力に感謝する」
聖王国の時のような騒ぎにならない程度に、アインズは二人に軽く頭を下げる。
「感謝などとんでもございません。我々は当然のことをしたまでのこと。それに、なによりアインズ様が彼らに深く打ち込まれた
(楔? 俺は特に竜王国に何かをした覚えはないんだが……。また変に勘ぐっているのか、こいつらは)
アインズはアルベドとデミウルゴスの表情をうかがうが、二人ともいつもと変わったところはなく、満足そうな笑みを浮かべている。
(はぁ。いつかは NPC 達とわかり合える関係になりたいと思ってきたけど、何年たっても理解しきれない……。もっとも、この二人は俺なんかより遥かに頭が良いんだから。そんなことが出来るなら苦労はしないよな)
何年にも渡る〈
軽く頭を振って気持ちを切り替えると、アインズは現状の問題に向き直った。
「さて、先程のドラウディロン女王との会談には二人にも同席してもらったが、ナザリックにとっても重要な情報も多く、非常に有益だったと思う。今回の件についてどのように対処すべきか。私自身にも、ある程度考えていることがないわけではない。しかしそれを語る前に、私が最も信頼するお前たちの意見を聞いておきたいのだ。これを見るがいい」
アインズはおもむろに、右手にはめている、残り二回の効力しかない指輪を二人に見えるようにした。
「私は必要であれば、ドラウディロン女王の能力を我が物にすることも考えていた。この世界独自のタレントであるとか種族能力といったものを、我々が習得することが果たして可能なのかという実験も兼ねたものだ。ただ、これは無制限に出来ることではない。以前アルベドには説明したことがあるが、実験にはこの『流れ星の指輪』を使用するつもりだ。これは使用者の願いを叶える効果のある超位魔法〈
デミウルゴスから「ほぅ……」という小さなため息が漏れる。食い入るように指輪を見ているようだ。アインズは軽く頷いて話を続けた。
「この指輪は本来三回まで使用可能だ。しかし見ての通り、今は二つの輝きしか残っていない。シャルティアの洗脳効果を解除しようとして一度使用したためだ。ただあの時は、洗脳自体がワールドアイテムで行われたものだったために、効果が発揮されることはなく、指輪の力は無駄になってしまったわけだがな」
「畏れながら、アインズ様。その指輪はどんな対象に対しても効果が発揮されるのでしょうか?」
「基本的にはそうだ。デミウルゴス。ただし、シャルティアの件でわかるように、必ずしも願った効果が発動するとは限らない。あくまでも、魔法が実現可能な範囲に限るということだな。そういう意味では、ドラウディロン女王の能力を身につけられるかどうかも、実際に試してみなければわからないだろう。例えば、我々の持つ何らかの制限に引っかかってしまった場合、以前と同様ただの無駄打ちになってしまう可能性もある。なにより、残り回数はあと二回のみ。これを使い切った後は……、まあ、この超位魔法は実質使えなくなると思ってくれ。なにしろ〈星に願いを〉は経験値消費型の超位魔法。使って使えないことはないが、当然のことながらその分私のレベルが下がってしまう。だから、余程のことがない限り、この魔法の発動は出来ないと思っておいてほしい」
「なるほど。承知いたしました。その指輪も同等の効果を持つ超位魔法も、ナザリックにとっての最大の切り札というわけですね」
「最大の切り札とまではいかないが、そう思ってくれていい。だからこそ、この指輪の使い道はナザリックにとって最も良い方法を考える必要があるというわけだ」
アインズは、シャルティアの時にはどうしても使うことの出来なかったアインズ・ウール・ゴウン最大の秘宝について想いを馳せる。あれを持ち出すのは……本当に、最後の最後。使用しなければナザリックが滅びるような、そんな事態まで手を触れることがあってはならない。もしくは、この世界で再入手する方法が明らかになるまでは。
憂いを帯びた視線で指輪を見つめていたアルベドが顔を上げた。
「……アインズ様、私から意見を申し上げても宜しいでしょうか?」
「もちろんだ、アルベド。断る必要などない。この場はお前たち二人の忌憚ない意見を聞くためにあるのだから」
「ありがとうございます。様々なことを鑑みますと『始原の魔法』に関しては今しばらく情報収集すべきかと。この世界独自の魔法ということは、うまくいけばナザリックの戦力増強につながる可能性は高いとは思われます。しかし、今回の話だけで判断するのも少々心もとなく感じます」
「畏れながら、私もそのように思いました。何よりアインズ様の希少なアイテムの力と引き換えにしてまで、手にする必要が今の所感じられません。それに、アインズ様御自ら身につけられずとも、術者であるドラウディロン女王さえナザリックに取り込めばそれで済むことでございます。ただ、それとは別に他の『真なる竜王』がどのような力を持つのかは早急に調べるべきかと愚考します」
アインズは満足げに頷いた。
「そうだな。私も二人の意見と同じような考えだった。であれば、始原の魔法については、より詳しい情報が入手出来るまで、しばらく取り扱いは保留ということにする。竜王たちの力についての調査は別途進めることにしよう」
「承知いたしました。既にナザリックの配下となっているフロストドラゴン達が簡単な位階魔法しか使えないことを考えますと、評議国の竜王は、彼らとは別格の力を持つ可能性が高いでしょう。場合によっては、ナザリックにとっても大きな脅威になりかねません。ただ脅威としては、女王のお話に出ていたプレイヤーをも殺せる可能性のある神人や大罪人についても注意すべきではないでしょうか。現在も神人が法国に存在しているのかどうか。この点についても調べを進めるべきかと存じます」
「ああ、その通りだな。まず、評議国とは近いうちに何らかの形で接触した方がいいだろう。彼ら自身の力を探る意味でも、共存が可能な相手かどうかを調べる意味でもな。法国に関してだが……、アルベド、お前には法国の調査を頼んでいたが、そちらはどのように進んでいる?」
「現在、隠密能力の高いシモベによる調査を進めておりまして、周辺地域の探索はほぼ終えてはおります。法国はかなり独自の政治システムを導入しており、秘密部隊による警戒もなかなか厳しいため、首都近郊に関してはまだこれからというところです。ただ、法国は現在エルフの国との戦争が激化しているようで、そちらに戦力の大半を割かれている様子。ですので、エルフの国を利用して法国に侵入することも検討しております」
「神人だとか、そのような強者の存在は確認しているか?」
「申し訳ございません。今のところはまだそれらしい者は確認できておりません」
アルベドは申し訳なさそうに深々と頭を下げる。アインズはそれに対して頭を上げるよう軽く手を振った。
「よい。アルベド、お前のせいではない。女王の話から察するに、法国に万一そのような者がいるとしても、存在が知れると評議国との戦争になりかねないわけだろう。だとすれば、簡単に存在がわからないようにしていると考えるのが自然だ。アルベド、そのまま焦らず慎重にことを進めよ。もし、神人とやらが実在して、ナザリックにとっても大きな脅威であることと判断した場合は、お前の奥の手を投入することも検討したほうがいいかもしれないな」
アインズのその言葉で、アルベドは会心の笑みを浮かべ頷いた。しかし、デミウルゴスは怪訝そうに眉をひそめた。
「アルベド、あなたの奥の手とは一体? 初耳なのですが……」
それを聞いて、この件はデミウルゴスにとっては非常に微妙な話であることをアインズは思い出した。
そもそもアルベドのドリームチームは、他のギルドメンバーを探す目的として結成されたものだ。デミウルゴスがいかに忠義に厚いといっても、それを聞けば心穏やかではいられないに違いない。
ただ、イビルアイの話からすれば、少なくとも今はギルドメンバーはこの世界にいない可能性の方が高い。となると、既に捜索隊としての目的は実質的に失われているようなものだ。むしろ、今後はもう一つの目的である、この世界の強者にも対応できるアルベド直下の遊撃部隊というのが主要な役割になるだろう。
だとすれば、ナザリックの防衛指揮官であるデミウルゴスに、その存在を秘しておくのも問題だ。
仲間に作戦を隠すのも一種の作戦ではあるが、それが元でナザリックが割れる原因になるのはアインズとしては好ましいことではなかった。
「ああ、お前にはまだ話してはいなかったか、デミウルゴス。実はアルベドにも多少個人戦力を持たせて、いざという時の遊撃などに使えるようにしておいたほうがいいかと思ってな。高レベルのシモベなどで組織したチームをだいぶ前に与えたのだ。副官にはパンドラズ・アクター。そして、ルベドもチームの一員だ」
「……高レベルのシモベはともかくとして、パンドラズ・アクターにルベドですか? 少々過剰戦力のようにも思われますが」
「デミウルゴス。この件は、アインズ様が直々にご許可をくださったのよ? あなた、それに口を出すつもりなの?」
アルベドは穏やかに微笑みながらも、若干冷たい視線でデミウルゴスを見る。
「いえ、誓ってそのような意味ではありません。アインズ様がお許しになられたのでしたら、私が口を挟むことではありませんでした。お許しください」
「いや、構わないとも、デミウルゴス。むしろ、お前にも、もっと早く話を通しておくべきだった。そもそも、ナザリック防衛時の指揮官はお前なのだからな。法国に我々にも対抗しうる戦力が判明した場合や、評議国との交渉が決裂した場合などは、かなりの強者が相手でも対応しうるアルベドのチームに活躍してもらうことになるだろう。その時は、アルベド、よろしく頼むぞ」
「承知いたしました。アインズ様のご期待に必ずや応えてお見せします」
アルベドは優雅に一礼し、デミウルゴスは多少思うところはあるようだったが、すぐに頭を下げた。
「ところで、アインズ様。ドラウディロン女王は既にナザリック……いえ、魔導国に従属を誓ってはおりますが。今後竜王国は、女王を形だけでもアインズ様の妃の一人にしたいとより強く主張してくるかと思われます。こちらは、いかがいたしましょうか?」
アルベドの声はあくまでも有能な守護者統括に相応しい冷静なものではあったが、アインズに投げかけてくる目つきには何かどす黒いものを感じる。なるべく考えないようにしていたことをつかれて、アインズは黙り込んだ。
本来アインズはただの一般市民でしかない。結婚とは、やはり愛情とかそういうものの上に成り立つものではないだろうか。それを利用するような考え方は、どうにも肌に合わなかった。何より相手にも失礼なんじゃないかという気持ちが拭えない。
ナザリックの利益になることなら、アインズだって何でもするつもりはある。しかし、この件に関してだけは、なんとかごまかして逃げたい気持ちでいっぱいだった。
「あー、その件だがな。確かにいずれは考慮すべきだろう。ただ、今のところ、私はまだ誰と結婚するとは決めていな……」
そこまで口に出して、部屋の中の空気が妙に冷え込んだような気がした。
どす黒いオーラを漂わせたアルベドからの視線は、返答次第ではアインズを丸ごと飲み込みかねない雰囲気を漂わせている。おまけに、この件を安易に否定することは、デミウルゴスとの約束を破ることでもある。アインズは慌てて咳払いをしてごまかした。
「んん。いや、我が妃については、私も前向きに考えているところだ。しかし、重要な問題だからこそ拙速は避けねばならない。様々なことを考慮したうえで、まずは正妃を正式に決定するつもりだ。だから、その間は竜王国のみならず、誰に対しても具体的な返答をすることは避けるようにしてくれ」
「確かに、まずはアインズ様の隣の席に座る方を決めるほうが優先順位が高いと思われます。では、竜王国から問い合わせを受けた場合、当分の間、魔導国からは現在検討中の旨を伝えるに留めておくということで宜しいでしょうか?」
「そうだな。そのように対応してくれ。頼んだぞ、デミウルゴス」
「承知いたしました」
デミウルゴスが恭しく頭を下げるのを見ながら、アインズは先程の話を思い返していた。
(竜と人とは交われない……か。しかし、それを言ったら、アンデッドの俺なんてやはり子孫を残すなんてありえないんじゃないだろうか? いざとなったら流れ星の指輪を使うことも考えてはいたが、最低でもアンデッド以外の種族にならないと無理だろう。この二人はその辺りをどう考えているんだろうか? それに、これは恐らく俺だけの問題じゃない。アンデッドは全員生殖能力なんてないはずだ。だから、シャルティアやイビルアイも生殖行為……とか出来ないんだよな? シャルティアを見ているとやるだけは出来なくはない気もするが……。種族的には無理だと考えていいはずだ。多分)
本当はアルベドやアウラだって、自分に好意を向けるよりも普通にそういうことが出来る相手を選べばいいのに、とアインズは思う。その方が彼女たちにとっては余程幸せに違いないのに。まあ、アルベドは自分がやってしまったことの結果だから仕方ないのだが……。
「ところで、アルベドにデミウルゴス。女王のもう一つの能力についてはどう考える? 聞いた限りではデミウルゴスの持つシェイプシフターに近い能力のようだったが」
「そうですね。話の内容から判断すると、ほぼ同等の能力かと思われます。ただ女王の能力は、種族やクラスで身につけるものとは異なり、むしろ竜種族独自のタレントなのかもしれません。他の竜でも同様の能力を持つものはほぼいないそうですし。個人的には、かなり興味深い能力に思われました」
「私もなかなか興味深いと思いましたわ。アインズ様があの能力を得られれば、人間のみならず、他のお姿を取ることも自由自在になるかもしれませんし。私としましては、例え一時的とはいえ、アインズ様の麗しいお姿がお変わりになるのは多少不満に思いますが……。でも、どのようなお姿でも、アインズ様をお慕い申し上げることに変わりはございません」
むしろ二倍、いや、三倍美味しいかも、くっふぅ……という謎のつぶやきが聞こえた気がしたが、アインズは聞こえなかったふりをした。
「なるほど。二人はあの変身能力に興味を持っているのだな」
「畏れながら、その通りでございます。始原の魔法は使用するのにかなりのリスクが予想されます。しかし、女王の変身能力であれば、アンデッドであるアインズ様のお世継ぎを得られる可能性も高いかと。それはナザリックにとって非常に大きい利益といえます。何より、アインズ様のお世継ぎは、我々ナザリックのシモベ全てが待ち望んでいること。アインズ様に願うのは不敬とは存じますが、なにとぞご考慮いただきたく思います」
「私もアルベドと同意見です。私もこれまで様々な手法で異種族交配について調べてまいりましたが、これまでのところ、私の検証結果と女王の見解とはほぼ一致しております。比較的種族が近い人間種と亜人種ですら簡単には参りません。種族特性や形態が大きく異なるものほど、やはり交配は難しいという結果になっております。一応人間形態であるセバスとツアレですら、いまだ子どもが出来る気配はないようですし。我々守護者が子孫を残せるのかは、今後のナザリックの戦力強化の意味合いとしても無視できない問題でもあります。アインズ様の希少なアイテムをお使いいただくことにはなりますが、この実験自体は、決してナザリックの不利益にはならないと思われます」
(あ、やっぱり、あの二人そうなんだ……。それに、デミウルゴス、一体いつの間にそこまで詳細に調べてたんだ?)
聖王国で見かけた惨状を思い返して、若干遠い目をしたくなる。しかし、交配実験自体は様々な種族の寄り集まりであるナザリックにとって重要な案件ではあるし、全ての種族の共存を謳う魔導国にとってもいずれ問題になるだろう。だから、アインズとしても交配実験自体に反対するつもりは全くない。
だが、デミウルゴスの力の入れようは、むしろアインズになんとしてでも子どもを作らせようという強固な意志のせいとしか思えなかった。
アインズは忠臣の真面目な顔つきを眺めながら、密かに出ないため息をついた。
ドラウディロン女王は、当初の約束でもあるし、国が守れるのなら両方の能力を捧げてもいいといっていた。どちらの能力もレアとして興味深いものだ。しかし、それ以上のものではないような気もする。今後もっと有用な力を得る機会があるかもしれないし、その時に流れ星の指輪が使えないのも困る。
(使うに使えないなら、持っていても意味がないか。ドラウディロン女王の言う通りかもしれないな)
アルベド、シャルティア、アウラ、ドラウディロン女王。それから……イビルアイ。
目の前にいる二人が、自分の結婚相手の候補としてカウントしているのはこのくらいだろうか。もしかしたら、プレイアデスも含めている可能性もあるから、そうなると、少なくとも十人以上は候補がいることになる。
もしかしたら、その他にもいるのかもしれないが、これ以上はアインズは考えに入れたくもなかった。
なんで、リアルでは恋人らしい相手など全くいなかった自分が、こういう骨しかない身体になった後に、こんなことで悩まなくてはならないんだろう。しかも、相手を一人に絞ってその相手とだけというならまだいい。同時に複数と関係を持つなど、正直アインズには理解の範疇外だった。
(ペロロンチーノさんだったら、喜ぶんだろうが……)
アインズは、流星の指輪をじっと見た。残り二つ。何を願うのかは非常に重要な選択だ。
そして、アインズは今の段階で指輪をすべて使い切る決心はつかなかった。
別にこれを入手するのに費やしたボーナスが惜しいとか、そういう訳ではない。むしろ、今後ナザリックを襲うかもしれない危難への切り札として、多少は残しておかないと安心できないという貧乏性の方だ。
宝物殿にはやまいこの残したもう一つの指輪が残されている。やまいこには好きに使って欲しいとも言われた。しかし、アインズには友人たちが残した数々の希少アイテムや装備に手をつける勇気はなかった。
――なんでなんだろうな……。多分、俺は、皆がもう戻ってこないと認めるのが怖いのかもしれない……。
『わたしでは駄目か?』
アインズがショックで動けなくなっていた時に、イビルアイがそう必死に訴えていたことを思い出し、アインズの心のどこかに鋭い痛みと、それ以上に暖かい何かを同時に感じた。
(俺は……ギルメンを……大切な友人たちを諦められるのか……? それとも、これからもどうしようもない感情を抱えたままひたすら待ち続けるのだろうか……。それこそ、何百年も……下手すると何千年も?)
その年月は、いくらアンデッドになってしまったアインズにとっても途方もない年月のように思われた。
そして、その間、ずっと自分は一人で孤独に行きていくのか、それとも、誰かと一緒に……。
いくら考えても答えは出ない。少なくとも、今はまだ決心などつかない。
アインズは、目の前にいる二人を見つめた。NPC達は自分のために尽くしてくれている。自分が今こうしていられるのも、全て彼らのおかげだといっていい。だとしたら、彼らの望みは可能な限り叶えてやりたいと思うのは当たり前だ。
少なくとも何らかの変身能力のようなものがあれば、デミウルゴスとの約束だけは果たせるかもしれない。それに、変身能力を容易く身につける方法を編み出すことができれば、デミウルゴスが主張するように、ナザリックの愛し子たちが子孫を残せる可能性も出てくるかもしれない。むしろ、そちらの方が大事なことだろう。問題は、いかに容易くそれを可能にするかだが。
(どうせ、こいつらは、俺の方が優先だって言うんだろうしな……)
しばし考えを巡らせたが、結局どうすればいいのか全く思いつかない。アインズはようやく重い口を開いた。
「そうだな。お前たち二人の意見はよくわかった。この件については、もうしばらく、じっくり考えさせてくれ。どのみち急ぐことではあるまい。それと評議国との接触方法や、交渉についての案を検討してくれ。彼らとは可能なら穏便にことを進めたい。それを前提とした草案を作成して欲しい」
「畏まりました。アインズ様の御心のままに」
アルベドとデミウルゴスは、アインズの返答に口を挟むことはなく、そのまま恭しく一礼した。
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二人が出ていった後も、アインズは人払いをした執務室にこもって、しばらく頭を悩ませていた。
アルベドもデミウルゴスも、何があっても自分に誰かと結婚させたいし、どんな手段をとっても、世継ぎを得ようとしているらしい。もちろん、アルベドは、当然その相手というのは自分だと思っているに違いない。
アインズは既に無い胃が痛むような気がする。アルベドに対してやってしまったことへの罪の意識から。これまでずっと、アルベドときちんと向かい合おうとしてこなかった罰なのかもしれない。
もちろん、アインズだって、アルベドのことが嫌いなわけではない。
新米支配者の頃から、有能な補佐として、アインズのために必死に働いてきてくれた。多少暴走することはあったとしても。おかげで、アインズはナザリックのことはある程度アルベドに任せ、ナザリック外で冒険者として活動することもできた。
なにより、あの容姿は鈴木悟の男としてまだ多少残っている性欲を微妙に刺激されるものでもある。もっとも、いつも、アルベドに強引に迫られてそんな気分も霧散してしまうのだが……。
いっそ誰かに相談したいところだが、国一番の美女に迫られて困っていますとか、結婚相手がたくさんいて困ってますとか、そんな話を一体誰がまともに聞いてくれるだろう。それにそもそも、アインズの相談相手になってくれそうな人物すら思いつかない。
(いっそ、あいつに相談するか……。少なくとも、他のシモベよりは俺に忌憚のない意見をいってくれそうだしな)
苦渋の決断をしたアインズは、自らの黒歴史に会うべく、エ・ランテルの元都市長の館の別館へとフォアイルを連れて出かけた。