イビルアイが仮面を外すとき   作:朔乱

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時系列的には、三章の一年後くらい、幕間からは半年後くらいの話です。



第四章 傾城傾国
1: 本当の願い


 イビルアイはラキュースの部屋の扉を軽く叩いた。

 しかし、予想通り、中からは何の返事も返ってこない。

 

 何しろ、ここ数日、ラキュースが部屋から出てくることは殆どなかった。

 食事もティアやティナが屋台から買ってきたものを適当に食べて誤魔化しているらしいし、夜もあまり寝ていないらしい。

 

 アンデッドである自分ならともかく、人間のラキュースがそういう生活を続けるのは問題だろう。それに、ともかく、今はなんとしてもラキュースと話をしなければならないのだ。

 

 既に時刻は昼近くになっており、窓の外からは賑やかな街の喧騒が聞こえてくる。

 今、蒼の薔薇にあてがわれた屋敷の中にいるのは、自分とラキュース、それからもう一人だけ。

 ガガーラン達はとっくの昔に冒険者組合に向かった。自分だってもうじき出かけなければならない。それに、約束の期限をラキュースがとうの昔に破っているのは明らかなのだから。

 

 イビルアイは、もう一度、今度はかなり強めにノックをするが、やはり反応はない。

 呆れたようにため息をつくと、無造作にラキュースの部屋の扉をバタンと開けた。

 

「おい、ラキュース。モモン様がずっとお待ちになられているのだが。原稿はまだ出来上がらないのか?」

 

 部屋の主は大量の紙の山に埋もれながらペンを走らせ、机に向かっていた。徹夜でもしたのか、目は真っ赤に充血しており、自慢の金髪巻毛もボサボサだ。疲労のせいか、かなり朦朧としているようだったが、イビルアイの言葉ではっとしたように振り向いた。

 

「え!? モモン様がいらしているの!!?」

 

 あまりにも鬼気迫る様子に、イビルアイですら気圧されそうになったが、なるべく努めて冷静に答えた。

 

「ああ、そうだ。さすがにこれ以上遅れると『げんこうがおちる』とかで、非常にお困りになっている。『いんさつじょ』とかいうのの期限に間に合わないと仰ってな。再三送った使者では埒が明かないようだからと、朝から下の居間でお待ちになられていたんだぞ?」

 

「朝からですって!? ど、どうしよう、イビルアイ。あとほんの少しで終わると思うんだけど……」

「それを私に言われても困るんだが」

 

 イビルアイは苦笑した。

 

「あと、どのくらいかかりそうなんだ? 何なら一度お帰りいただくようお願いしてもいいぞ? あまり長時間モモン様をお待たせするのも失礼だしな」

「ちょっと待って! そんなの嫌……じゃなくて、せっかくいらしているのにお帰りいただくなんて、とんでもないわ!」

 

 ラキュースはあたりに散らばっている原稿を集めると、必死でパラパラとめくり、指折り数えた。

 

「……あと一時間! 一時間あれば完成しますと……」

「そうか、なるほど。では、あと一時間あれば書き上がるんだな?」

 

 イビルアイの後ろから落ち着いた男性の声がして、ラキュースの顔がとたんに真っ赤に染まる。

 

「も、もも、モモン様!? 何故、ここに……? というか、私こんな格好で……。ちょっと、イビルアイ。騙したわね!?」

「私は騙してなんかいない。最初からモモン様は一緒にいらしていたんだ」

 

 やれやれとばかりにイビルアイは肩をすくめ、ラキュースは慌てて服や髪の毛を手で撫で付けると、イビルアイを睨んだ。

 

 イビルアイが軽く寄りかかっている戸口に半分隠れるようにして、腕組みをしたモモンが立っている。イビルアイはさり気なく少し横に移動して、モモンに場所を譲った。モモンは軽くイビルアイに礼を言うと、マントを軽くはためかせ、オーバーな身振りで会釈をした。

 

「突然、驚かせてしまってすまなかった、ラキュース。うら若い淑女の部屋に押しかけるのは失礼だとは思ったのだが、こちらもいろいろと切羽詰まっていてな。何しろ、俺も早く原稿を回収してくるようにせっつかれているんだ」

「そのぅ、モモン様、申し訳ありません。すっかり遅くなってしまいまして。少しでもいいものをと思ったものですから……」

 

 珍しくしおらしい雰囲気になったラキュースに、モモンはキザったらしく軽く手を振った。

 

「まぁ、作品にこだわる気持ちはわかるが、締切は守ってもらわないとな。それでは、申し訳ないが、一時間ほどこの部屋で待たせてもらおう。ラキュースの仕事ぶりを疑っているわけではないが、こちらとしても、これ以上遅くなるといろいろ差し支えるのでね」

「え、あの、こ、ここでですか!? えと、じゃあ、そちらの椅子に、その、おかけになってお待ちいただければ……」

 

 ラキュースの声が一オクターブくらい跳ね上がる。モモンは気にせず、大股にラキュースに指し示された椅子へと向かった。

 

「俺としては別に立ったままでも構わないんだが、せっかくだから、座らせてもらうとしよう。ラキュース、あまり時間がない。気にせず、仕事に集中してくれ」

「わかりました! 私、頑張ります!!」

 

 必死の面持ちで頷くラキュースを見て、イビルアイはくすりと笑う。

 

 先程までよりも更に頬を赤く染めながら、再び机にかじりついているラキュースと、優雅に椅子に腰をおろして足を組んだモモンを尻目に、イビルアイはそっと扉を閉めて部屋から出た。

 

(あの生真面目なラキュースも、モモン様の前ではかたなしだな)

 

 心のなかで大切な友人の恋路を応援しつつ、イビルアイは自室に戻って出かける支度をした。この時間なら、アインズ様もまだ執務室にいらっしゃるかもしれない。そう思うと、ラキュースに負けず劣らず胸がときめくのを感じる。

 

 半年くらい前から魔導国では、これまでのような魔法で作成されたものではない紙が廉価で出回るようになった。魔術師組合と冒険者組合の要請によって、エ・ランテルで試験的に設置された学校では、その紙を使って作られた教科書が無料で配布されている。

 

 イビルアイは全く知らなかったが、その執筆をどういうわけかラキュースがモモンから依頼されていたようなのだ。

 

 当初は一部の物好きや、商売柄、文字を読む必要に迫られたものが半信半疑で通うだけだったが、口コミで評判が広まり、今では読み書きを教わるために学校に通うものもだいぶ増えた。結果的に、教科書に掲載されたラキュースの小説はエ・ランテルの市民なら誰でも知っていると言っていいほど広く読まれることになり、そして、それが非常に好評だったのだ。

 

 書物というものは、これまでは金持ちや一部の研究者にしか縁がない高級品の類だった。しかし、安価な紙と、魔導国が新たに編み出した『いんさつ』と呼ばれる本の複製方式のおかげで、一般にも廉価に出回るようになったおかげで、これまではちょっとした噂話や吟遊詩人の唄程度でしか知られていなかった、漆黒の英雄の冒険譚や十三英雄の伝説といった本が次々と刊行され、誰もが手軽に読めるようになった。

 

 また、これまでは一部の好事家の趣味とされていた作家という職業が憧れの対象となり、面白い物語を執筆出来る者は有名人としてもてはやされるようになった。

 

 中でも、ラキュースの描く英雄モモンの冒険や卓越した魔法詠唱者でもあるアインズ・ウール・ゴウン魔導王の逸話は、どれもこれまでにないほどの興奮と感動を与え、人々はこぞってラキュースの執筆した本を買い求めた。

 

 おかげで、現在、エ・ランテルの子どもたちに流行っている遊びは、ラキュースの小説に描かれている漆黒の英雄モモンとお供の美姫、そしてモモンが窮地に陥るとさっそうと現れる謎の女騎士ごっこだ。

 

 ただえさえ、蒼の薔薇のリーダーとして知名度の高かったラキュースは注目の的となり、その結果、当初請けていた教科書だけではなく、様々な執筆の依頼がラキュースに舞い込むことになった。

 

 今ではラキュースは、エ・ランテルでも名だたる人気作家といっても過言ではない。

 

 だから、ラキュースが蒼の薔薇としての活動よりも執筆活動の方に時間を取られてしまっているのは、ある意味仕方のないことだろう。

 

 イビルアイはゆっくりと階段を降りながら考える。

 

 自分も今は、アウラとともに故郷の復興に力を注ぐ時間が多いし、ティアとティナは様々な冒険者が持ってくる情報から、精密な地図を作る依頼をされている。ガガーランはようやく完成した闘技場で、若い冒険者の指導をするのに忙しいようだ。

 

(それぞれの……新しい道か……。蒼の薔薇も、直にそれぞれの道を行くようになるのだろうか……)

 

 そうすれば、自分も心置きなくナザリックに……、アインズの下に向かうことができる。

 もちろん、何年もの間苦楽を共にした仲間たちと別れることは寂しい。でも、それ以上にアインズの傍らにいたいという気持ちが、抑えきれないほど大きくなっていることをイビルアイは改めて自覚した。

 

(一番じゃなくてもいい。ただ側にいさせてもらえれば……)

 

 あの時、あの荒れ果てた故郷の地で、アインズが不器用なキスをしてくれた時、何があってもこの方の側に一生寄り添おうと決めたのだ。

 

 自分はそれで満足だ。

 

 イビルアイは左手の薬指に嵌めた指輪を見つめ、優しく口づけをする。

 自分にはアインズ様に差し上げられるものなど何もない。アンデッドの身体では子どもさえ作ることができないのだから。

 そう何度も心に言い聞かせる。しかし……。

 

 心のなかで嘲笑う何者かがいる。

 

 本当に、私はそれで……満足なのか?

 

 

----

 

 

 エ・ランテルで午前中の執務を終えたアインズは、執務室にある窓辺からぼんやりと外の光景を眺めていた。

 部屋の中には、今日のアインズ当番であるフォスと護衛の八肢刀の暗殺蟲しかいない。

 

 アルベドは、アインズよりも優れた行政能力を身につけたエルダーリッチたちと下がっていったし、セバスもアルベドが席を外したすきに用事を片付けるべく退室していった。

 

 午後の予定までは、まだしばらく時間もある。一旦ナザリックに戻ることも考えたが、もしかして、ここで待っていれば、イビルアイがやってくるかもしれないと思い直した。

 

 イビルアイがひょっこりと扉から頭を出す姿を想像すると、なんとなく、存在しない筈の心臓が激しく鼓動を打つような気がする。

 

 最近のイビルアイは、なんというか、自分の心の中まで見通すようなまっすぐな視線を向けてくるようになったと思う。少し前までは、どこか遠慮しているようなよそよそしい感じがしたのに。

 

(もしかしたら、俺のこと情けないやつだと思ってるかもなぁ。こないだは思いっきり怒鳴られたし……)

 

 アインズは黒い革製の椅子により掛かると、出ないため息をついた。

 

 自分よりも遥かに年下に見える少女にあれこれ言われるなんて、おっさんといってもいい年齢の男としては、少しばかり恥ずかしく感じる。

 

 でも、そんな気分も何故かそれほど悪いものではないように思う。考えてみれば、ああいう風に率直に自分に接してくれるのは、いいところアインザックとイビルアイくらいなものだ。

 

 本当は他の者たちとも、とりわけ、自分の子ども同然であるNPCたちともそういう関係になれたら、必死で支配者ロールなんてやらずにすむし、もっと自分も楽に生きていけるような気がする。

 

 アンデッドである自分やNPCの大半にとっては特に寿命らしいものはない。

 

 このままでは、下手をすると何百年、何千年という気が遠くなりそうな時間を、部下の過大な期待に応え続け、叡智あふれる支配者としてアインズ・ウール・ゴウンを演じ続けていくことになるのは間違いない。

 

(無理! 絶対に無理!!)

 

 アインズは心の中で絶叫した。どこかで絶対にボロが出る。そんな確信だけはあった。

 

(どうせいつかバレるのなら、むしろ早いほうがお互いのためなんじゃないか? それで呆れられたとしても、仕方ないよなぁ)

 

 半ばヤケになったアインズは、その時のことを頭の中でシミュレートした。

 

『こんなこともおわかりにならないとは……。見損ないましたわ。アインズ様』

 アルベドがアインズを鼻で笑う。

 

『我々が仕える主として、失格ですね』

 デミウルゴスは冷たい視線で肩をすくめ、セバスは何も言わずに自分に背中を向けて去っていく。

 

 NPCたちの反応をあれこれ想像してみるが、どうあがいても、必ず最後には彼らは自分に背を向けた。

 万が一にも彼らに去られるかもしれないとを考えると、アインズの胸の奥に鋭い痛みが走る。

 どうしても、彼らの後ろ姿に、既に去った仲間たちの後ろ姿が重なってしまうのだ。

 

『モモンガさん、それじゃまた、どこかでお会いしましょう』

 

 皆、一様に、そう言って大切な装備を自分に預けて去っていった。

 笑顔のアイコンを出してはいたが、アバターの下に隠された顔は本当に笑顔だったのだろうか。

 

(NPCたちの忠義を疑っているわけじゃない。それに、俺にある程度は好意を抱いていてくれていることもわかっている)

 

 それでも、再び彼らに別れを告げられるかもしれないと思っただけで、アインズの中に怒りや憎しみに近い、醜い感情が生まれてくるのだ。

 

『父上はどうしたいのですか?』

 

 パンドラズ・アクターの言葉が自分に問いかけてくる。

 

(俺は、本当はどうしたいのだろう?)

 

 アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説にし、ギルメンと再びまみえ、この世界でユグドラシルと同じように共に冒険すること……。

 

 魔導国を建国し、世界に名前を轟かせればいつかそれが叶う。そう信じていた。いや、信じようとしていただけだったかもしれないが。

 

 しかし少なくとも現在得ている情報からは、この世界にいるユグドラシル・プレイヤーはアインズだけである可能性は高い。もしかしたら、イビルアイが教えてくれたように、百年すれば誰かやって来るかもしれない。でも、それがギルメンである保証もない。

 

 それどころか――。

 

(今、誰もいないということは、何年、いや何百年待っても来ない可能性だってあるんだよな……)

 

 アンデッドになってしまった今にしてみれば、それは恐らくほんの短い年月かもしれない。今の自分の時間の感覚が人間とは大きく異なっていることは何となく感じていた。

 

 しかし、アインズはたった一人でナザリックを維持していた暗い日々を忘れることができなかった。毎日、誰かインしてくれるかもしれない、そう思いながら、結局最後まで裏切られ続けたのだから。

 

「プレイヤー、か……」

 

 小さく口に出して、不意にアインズはとあることに気が付いた。

 

(この世界では、異世界人は『プレイヤー』と呼ばれているが、ギルメンはもうユグドラシルは辞めてしまっている。つまり、彼らはもう『プレイヤー』ではない……?)

 

 しかし、考えれば考えるほど、それは確かなことに思える。

 

 ギルドにまだ在籍している三人にはその資格はまだあるかもしれない。しかし、彼らだって、ユグドラシルやナザリックの最後を見届けることもなく、笑顔でログアウトしていった。

 

 あの時、彼らはユグドラシル・プレイヤーであること自体を辞めたのではないだろうか。

 

 少なくとも、今リアルで生きているはずのギルメンたちは、もう一度ユグドラシルをプレイする可能性も、アインズ・ウール・ゴウンの一員として行動することも、仲間たちとの記憶の数々を思い出すことすらしないに違いない。

 

 急に乾いた笑いがとめどもなく溢れ出してくる。

 自分自身が、ただの一人芝居をしていたかのように思えて。

 

「アインズ様!? どうかなさいましたか?」

「――大丈夫だ。なんでもない。少し思い出し笑いをしていただけだ」

 

 驚いたフォスが走り寄ってこようとするが、アインズはそれを手振りで止め、ことさらに何事もない素振りをした。フォスは了解したかのように黙って頭を下げ、再び扉の前の定位置に戻った。

 

 アインズ・ウール・ゴウンは永遠に続くはずだと思っていたのに、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーといえるのは、本当にギルマスである自分一人しかいないのだ。あの栄光ある日々も、楽しかった時間も、もはや戻ってくることはない。

 

 しかし、その実感は思いの外、アインズにとって納得できるものでもあった。

 

 もしかしたら、自分はそれをわかっていながら、どうしても認めたくなくて、見ないふりをしていただけなのかもしれない。

 

『父上はどうしたいのですか?』

 

 パンドラズ・アクターの言葉が再び自分に問いかけてくる。

 

 あんな埴輪みたいな顔で妙に格好つけた振る舞いをしているくせに、肝心な時には頼りになる自分の息子でもある黒歴史。

 

(なんだかんだいって、あいつの言うことはいつも正しいからなぁ)

 

 アインズは苦笑しつつ、しばらく考え込んだ。

 

 イビルアイの真っ直ぐな瞳が自分に笑いかけてくれるのが思い浮かぶ。

 ギルメンと同じ……、いや、それとも少し違う視線で。

 

 彼女がずっと側にいてくれると約束してくれた声が、まだ耳に残っている。

 

(そうだ。俺が欲しいのは、対等な立場で付き合える相手だ。一方的に忠誠や敬意を払われたりするのではなく。しかし、王ならまだしも、神に祭り上げられてしまえば、そういう関係を作るのは不可能だろう。実際、皇帝であるはずのジルクニフですら、俺に対して妙に壁を作っているんだから。それに、NPCだってNPCとしての有り様に固く縛られている。根本にある楔のようなものを変えることができれば解決するのかもしれないが、最悪彼らを失うことにもなりかねない。彼らをナザリックと俺につなぎとめているのだって、その楔があるせいなんだろう。あのパンドラズ・アクターだって、恐らく例外ではないはずだ)

 

 NPCたちに去られてしまえば、アインズ一人で魔導国を運営していくことは実質的に不可能だ。いくらエルダーリッチたちが頑張ったとしても、少なくとも、アルベドとデミウルゴスを失ったら、国がたち行かなくなるのは間違いない。

 

 その場合は、誰か信頼出来るもの、……恐らくジルクニフかラナーあたりに魔導国を託して、アインズ自身は辞任という形になるのだろう。いや、王だから退位になるのか。

 

 ともかく、その後一人きりでナザリックに引きこもるにしても、別の道を進むことにしても、栄光あるギルド・アインズ・ウール・ゴウンは真の終焉を迎えることになるに違いない。

 

 その事実に自分自身が耐えられるのか、アインズにはいまいち自信がなかった。

 

(まぁ、魔導国がないなら、ただのモモンガに戻って気ままな旅路に出るのもありかもな。そもそも世界征服だって、俺がやりたかったわけじゃないし)

 

 余計なことにとらわれずに、自由に旅をするのは、それはそれで楽しいだろう。

 そう考えつつも、アインズの胸の奥には、ひどく冷たい棘のようなものが突き刺さったままだった。

 

 ふと窓辺にあるヌルヌルくんの篭が目につき軽くつついてみる。口唇蟲はのっそりと居場所から頭を出して、少し唇のような形状のものを震わせると、ふたたびゆっくり頭を引っ込めた。

 

 その愛嬌ある動きで、アインズはなんとなく慰められた気分になった。

 

 例え一人きりになるとしても、ヌルヌルくんのような自分が召喚した傭兵モンスターや創造したアンデッドは自分に従ってくれるだろうし、魔導国の住人たちだって、すぐさま自分に背を向けるとは限らない。

 

 それに……、イビルアイはずっと側にいてくれると約束してくれたじゃないか。

 そう考えれば、別にそれほど最悪の事態に陥るというわけじゃないはずだ。しかし――

 

――ほんとに俺も情けないな。NPCに背を向けられるかもしれないと考えただけで、こんなに怖くて仕方がないなんて。

 

(イビルアイに話したらまた叱られるのかなぁ?)

 

 アインズは苦笑した。

 

 




佐藤東沙様、誤字報告ありがとうございました。

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大変長らくお待たせいたしました。
今度こそ本当に最後になる第四章となります。

1年近く更新していなかったにも関わらず、
その間も暖かい感想をくださったり、待っていてくださった皆様、本当にありがとうございました。
なんとか書き続けることができたのは皆様のおかげです。

とはいっても、まだまだ忙しい状況が続いていて、実はまだ四章書き終わっていないのです。
なんとか14巻発売前に完結させたいとは思っていますので、当座は週一更新を目標に、
初稿が最後までたどり着いたら、更新間隔を短めに再設定してなんとか更新していこうと思います。

また、話をまとめる都合上、カットしたエピソードも多いので、
その部分に関しては、完結後に番外編という形の短編で補足出来たらと思っています。

次回は来週更新予定です。
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