イビルアイが仮面を外すとき   作:朔乱

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10: 傾国の美女

 誰も守るもののない、スレイン法国の宝物庫では、目ぼしいアイテムは奪われ尽くそうとしていた。

 

 パンドラズ・アクターは、宝物殿領域守護者としての本領を発揮して、忙しく立ち働いている。多少なりとも利用価値がありそうな品は、パンドラズ・アクターの指示で、シモベ達が全てナザリックへと運んでいる。

 あの生意気なエルフの小娘も、今頃は氷結牢獄に放り込まれ、ニューロニストと微笑ましい会話をしているに違いない。

 

 ルベドは相変わらず無表情だったが、どこからか拾ってきたらしく、妙に古びた槍を手に持ってもてあそんでいるのが見えた。

 

「ルベド、それが気に入ったの?」

 

 ひどく古びた、つまらない武器が、どうして宝物庫に置かれているだろう。

 少しばかり気にはなったが、アルベドは穏やかに尋ねた。ルベドは首を傾げると、そのままコクリと頷く。

 

「あまり良いものには思えないけれど……。気に入ったのなら、持っていっても別に構わないでしょう。きちんとしまっておくのよ?」

 

 ルベドが再び頷いて、槍を空間にしまう様子を眺めながら、アルベドは宝物庫の奥に並んでいる像に歩み寄った。

 

 像が身につけているのは、それなりに見事な武具だったが、ナザリックの宝物殿に収められている品々と比べると、若干劣る品のように思われる。いいところ、伝説級程度の品だろう。

 

 そして、その中で妙に目を引くのが、白銀に淡く輝く上質な生地に、天に昇る龍が金糸で刺繍された珍しい形状の女物のドレスだった。

 

 うっとりとした表情で、アルベドが手を伸ばすと、パンドラズ・アクターが急にくるりと振り返った。

 

「統括殿、まだアイテムの鑑定は終わっておりませんので、あまり勝手に触れないようお願いいたします。ナザリックの宝物殿と同様、何らかの罠が仕掛けられている可能性もありますし」

 

「わかっているわよ。でも、こんな綺麗なドレスですもの。少しだけ、女心をくすぐられたの。……武具というわけではなさそうだけど、雰囲気的にかなり希少なマジックアイテムじゃないかしら? 作業の邪魔をして悪いけど、先に鑑定してみてくれない?」

 

「畏まりました。確かに麗しい統括殿に大変似合いそうなアイテムですね。他の武具はたいしたものではなさそうですが、これはなかなかの逸品に思われます。〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉!」

 

 おもむろに魔法を唱えたパンドラズ・アクターは、その知識が頭の中に流れ込むにつれ極度の興奮に襲われた。

 

「こ、これはっ……!? なんということでしょう! これこそが、恐らくこの国が持つ最も至高かつ強力なマジックアイテム!!」

 

 パンドラズ・アクターの表情は全く変わらないが、明らかに激しく興奮している。アルベドは息を呑んだ。

 

「まさか、と思うけれど、ワールドアイテム……なの?」

 

「そのまさかでございます! アイテム名は『傾城傾国』。これを装備したものは、精神支配無効の者でも、完全に精神支配することが可能になります。――このアイテムを装備可能なのは女性のみ。使用すれば確実に相手を魅了できるが、魅了中は他のものを新たに対象にすることはできない――。ずいぶんと不可思議な制限がついていますが、それは、このアイテム名の元になった傾城傾国という故事に由来するものとか」

 

「そう。つまり、これが、シャルティアを洗脳した世界級アイテムというわけね……」

 

 アルベドはゆっくりと、傾城傾国をまとった女性の像に近づいた。

 

「まさしく、統括殿の仰るとおりかと! これでまた一つ、ナザリックの宝物殿に世界の力を持つ宝が増えるというのは感無量ですね。もっとも、これがこの場所で見つかったということはシャルティアの件での下手人も割れたということ。アインズ様は、スレイン法国を決してお許しになることはないでしょう」

 

 熱弁をふるっているパンドラズ・アクターをちらりと見て、アルベドは妖艶な笑みを浮かべた。

 

「それは仕方がないわ。アインズ様に歯向かう国がどうなるのか、実例も一つは必要よ。私だって、法国を擁護するつもりなんてないもの。あなただってそうでしょう?」

 

 ゆっくりとした手付きで傾城傾国の肌触りを確かめるように触れると、アルベドは丁寧に像からそれを脱がせた。

 

 そして、鎧姿を解除すると、素早くそれを身にまとった。

 ドレスはすぐにアルベドの身体にちょうどいいサイズに変わり、アルベドの豊満な胸元や、形のいい手足がむき出しになった。

 

「ふふ、どう? これなら、アインズ様も、私に見惚れてくださると思わない?」

 

「統括殿、それは……」

 

 パンドラズ・アクターは若干警戒するような声を上げた。

 

「あら、別に少しくらい着てみても構わないでしょう? こんなに美しいドレスなんですもの。それに、この薄く輝く白銀色。まるで、私のためにあつらえたみたいじゃない?」

 

 実際、白銀のチャイナドレスを身に着けたアルベドは美しかった。長い黒髪と蜘蛛の巣のような金のネックレスが、金糸の刺繍を更に引き立てている。

 

 どんなに色恋沙汰に鈍感な男でも、その美に魅了されてもおかしくない、この世に二人といない美女であるかのように。

 

「……非常にお似合いだと思います。世界広しといえども、この風変わりな衣装を、これほど完璧に着こなせる方は他にはいないかもしれません」

「くふふ、ありがとう、パンドラズ・アクター」

 

 何を頭に思い巡らせたのか、アルベドはしばらく残念な美女の表情をしていた。

 おかしな含み笑いも聞こえなくはなかったが、パンドラズ・アクターは、あえて口を挟まなかった。

 しばらく自分の中の妄想にふけっていたが、物いいたげにじっと見ているパンドラズ・アクターに気が付き、アルベドは我にかえった。

 

「あ、あぁ、まだ話の途中だったわね、ごめんなさい。さっき、このアイテムは故事に由来するって言っていたけど、どんな話なの?」

 

「――昔、非常に美しい女性がいて、王は完全にその女性の魅力に取り憑かれてしまった。その結果、王は美女にそそのかされて悪政を行い、国は荒れ、ついには滅んでしまった。そのことから、城を傾け、国を傾けるほどの魅力がある美女のことを『傾城傾国』と言うのだそうです」

 

「…………」

「今の統括殿は、それだけの魅力あふれる美女と申せましょう!」

 

 オーバーアクションで力説するパンドラズ・アクターに、アルベドは微妙な表情を浮かべた。

 心の奥底に小さな棘が刺さったような。

 しかし、それはただの思いすごしだろうと考え直す。パンドラズ・アクターは他意なくそういう故事の美女に例えただけなのだろうから。

 

「どうかしらね。単なる美しさが、叡智あふれるアインズ様に通用するとは思えないけれど。恐らく、その王はただの愚か者だったに違いないわ。そうは思わない?」

「そうかもしれませんね。アインズ様は見た目の美醜には、あまりご興味はおありではないかと」

 

「こんな装い程度で、簡単に籠絡されるような方だったら楽でしょうけど、それはそれでつまらない。堅固な砦だからこそ、落としがいがあるというものだわ。あぁ、本当につれない御方……。でも、だからこそ、よりいっそう、私はアインズ様に恋い焦がれてしまうのかもしれない。――ねぇ、パンドラズ・アクター。少し話があるのだけれど」

 

 アルベドの口調が急にガラリと変わった。

 これまでにないくらいの真剣な様子に、パンドラズ・アクターも少し態度をあらためた。

 

「どうかなさいましたか? 統括殿」

「私は前からずっと考えていたの。――ナザリックは、確かに至高の四十一人によって創り上げられたわ。神々の住まう地であるナザリック地下大墳墓も、私達シモベも全て」

「――仰るとおりだと思いますが?」

「でも、慈悲深いアインズ様お一人を残して、あれらはナザリックから去り、りあるへと向かったきり帰ってこない。……いいえ、違うわね。あいつらは捨てていったのよ。まるで飽きた玩具を放り捨てるように。私達やナザリックだけじゃない。あのお優しいアインズ様まで……!」

 

 アルベドの目は明らかに憤怒の炎が燃え、その両手は震えていた。

 パンドラズ・アクターですら怯むほどの大きな怒り。

 これほどまでの激情を、アルベドが見せたことはこれまでなかった。

 

「私は許せないわ。あの連中を! アインズ様に孤独と絶望を味わわせたあいつらを! アインズ様の被造物であるあなたなら、この気持はわかってくれるでしょう?」

「もちろんです。私は、ずっと見てきましたから。アインズ様が霊廟でどのようなご様子でアヴァターラをお造りになっていたのかも」

 

 それは、パンドラズ・アクターにとっても、思い出すだけで腸が煮えくり返るような光景だった。

 もちろん、それ以外にも宝物殿で見聞きした事柄もあるが、それをアルベドに話すのはさすがにはばかられたので教えてはいない。

 もし、知ったら、アルベドの怒りはこんなものでは済まないだろうから。

 それが原因でナザリックが崩壊でもしたら、アインズはより大きなショックを受けることになるだろう。それだけは避けなければいけない。

 

 自らの創造主の平穏と幸福を守ることこそが自分の存在意義だと、パンドラズ・アクターは固く心に誓っていた。

 

 その静かな声で、アルベドは少し落ち着きを取り戻したようだったが、それでも怒り冷めやらぬ様子だった。

 

「私は許せない。万が一にでも、あの連中が戻ってきて、ナザリック地下大墳墓の支配者のように振る舞うのが。例え、今はこの世界にいないとしても、いずれ姿を現さないとは限らない。ナザリックはアインズ様だけのもの。そして、ナザリックの支配者として君臨していいのはアインズ様だけ。あなただってそう思うでしょう?」

 

「もちろんですよ、アルベド。だからこそ、こうして貴女に協力しているではありませんか」

 

「そうよね。他のものを信用することは出来ない。あのデミウルゴスだってそうよ。アインズ様に対する彼の忠義を疑っているわけじゃないけれど、もし、ウルベルト・アレイン・オードルが帰還すれば、間違いなくアインズ様よりもウルベルトを選ぶことでしょう。でも、私は違う。アインズ様、いえ、モモンガ様の御為なら、創造主タブラ・スマラグディナを弑することすらためらわない。必ず、私のこの手で誅殺してくれるわ!」

 

 怒りに燃えて目を金色に輝かせるアルベドは、まとっている純白の強力な魔法の力が込められたドレスも相まって、異様なまでの美しさだった。

 パンドラズ・アクターですら、一瞬、くらりとその美貌に酔うのを感じるほどに。

 

「パンドラズ・アクター。私は許せないの。あの連中は、こともあろうにモモンガ様から、あの麗しい御名まで奪ったわ」

「アルベド、それは……」

 

「そうよ。アインズ・ウール・ゴウンなど滅びてしまえばいい! そうすれば、モモンガ様がアインズ・ウール・ゴウンを名乗る必要はなくなり、本来のモモンガ様に戻られるはずよ」

「……それは、確かにそうかもしれません。しかし、一体どうやってそれを成し遂げるつもりなのですか?」

 

「モモンガ様は、あんな連中にも等しく心をかけていらっしゃる。簡単にはいかないでしょう。でも、あの連中がモモンガ様を裏切ったとすれば? 流石のモモンガ様も、彼らに愛想を尽かすのではないかしら?」

「アルベド、……貴女は一体何をするつもりなのですか?」

 

 アルベドは一歩パンドラズ・アクターに歩み寄る。それに気圧されるように、パンドラズ・アクターは一歩下がった。

 

「あなたの協力が必要なの。パンドラズ・アクター。あなたがモモンガ様から与えられたその能力が……」

 

 次の瞬間、ドレスに縫い込まれている黄金の龍が命を得たかのように輝いた。

 

 その龍はパンドラズ・アクターの方に迫ると、雷光のようにパンドラズ・アクターの全身を覆い尽くした。パンドラズ・アクターは必死にもがくように身悶えし、抵抗するような叫びを上げた。

 

「……アル……ベド! まさか……!?」

 

 必死に絞り出した言葉はそこで絶えた。

 とっさに何か魔法を発動しようとしたようだったが、それも間に合わない。

 

 体中を取り巻いていた光が消え失せると、パンドラズ・アクターはその場に木偶のように立ち尽くしていた。その姿は、いつかのシャルティアの姿を彷彿とさせる。

 

 アルベドは大きく安堵のため息をもらした。

 

 同レベルの智者であり、モモンガの被造物でもあるパンドラズ・アクターを陥れるのは、流石に油断ならなかったし、モモンガに対する罪悪感も感じる。説得すれば、自ら協力してくれた可能性もあったが、万が一のことを考えるとそのようなリスクを冒すことはできなかった。

 

「――さぁ、これでいいわ。全て準備は整ったわね」

 

 凍りついたように動かないパンドラズ・アクターに、ゆっくりと近づき、アルベドは静かな声で命じた。

 

「パンドラズ・アクター。これより、あなたの主人は、この私、アルベド。私の命令は全てに優先するわ。いいわね?」

「……畏まりました。我が仕えるべき主人は、他の何者よりも至高であり、その命令は、何よりも優先すべきものであります!」

 

 パンドラズ・アクターは仰々しい一礼をした。

 その様子は、完全にアルベドに従属したもののように見える。

 

(このアイテムの効果がどの程度のものなのか、これまではよくわからなかったけれど。確かにこれは、使いようによっては非常に恐ろしい品ね。モモンガ様があれだけ警戒していたのも頷けるわ)

 

 ニグレドには、エルフの王国とスレイン法国との戦いを監視するように命じてある。

 彼女の注意を自分からそらしている間に、なるべく迅速にことを終わらせるのだ。

 

 他の全てのシモベは、既にナザリックに撤収している。

 ここにいるのは、ルベドとパンドラズ・アクターだけ。

 

 ルベドは何も言わずに、じっと自分を見つめている。

 そんなルベドにアルベドは囁いた。

 

「私が頼りにできるのはあなただけよ、ルベド。これから私がしようとしていることはとても危険なこと。でも、誰よりも大切な方の御為に、どうしても必要なことなの。だから、お願い。私を……、何があっても守って」

 

 しばらく身じろぎもせずにアルベドを見ていたルベドは、やがて小さく頷いた。

 ルベドの体は、いつの間にか、僅かに赤い光を発している。

 姉はスピネルと呼んだけれど、アルベドには、ルベドが真のルビーのように感じた。

 

「綺麗な光ね、ルベド。まるで、私を応援してくれているみたいだわ」

 

 そして、アルベドは、自らを奮い立たせるように宣言した。

 

「では、これより、作戦『ニグレド』を開始します。全ては、愛する……モモンガ様の御為に!」

 

 

----

 

 

 法国にある大神殿の一室では、沈痛な面持ちをした法国の最高執行機関のメンバーが集っている。

 しかし、皆、青ざめた顔をしたまま、一向に口を開こうとはしない。

 

 何しろ、誰も立ち入ることができようはずもない大神殿内に賊が侵入し、最も厳重に守られた地に収められていた法国の神々の遺産のほぼ全てが、何の痕跡もなく、一夜にして失われてしまったのだ。

 

 もちろん、いつもどおり、十分な警備体制は敷いていた。

 

 おまけに、宝物庫を守護していたのは、法国の最大の切り札である神人。

 少なくとも、法国はおろか、この世界中でも、あの娘に勝てるものなど、そうはいないはずだ。

 それに彼女は、何よりも貴重な六大神の血を引く希少な存在。

 スレイン法国にとっては、神の遺した生きた至宝に等しい。

 

 それなのに、賊は、その番外席次をも連れ去ったのだ。

 争った形跡すらほとんどない。

 一体、昨夜何が行われたのか、理解できるものはいなかった。

 

「見張りの警吏は一体何をしていた!? 誰も気づかぬなどありえないだろう」

「はっきりとしたことはわかっておりませんが、賊はマジックアイテム、もしくは魔法的な手段を用いて防音の結界を張ったのではないかと」

「この大神殿の心臓部でか? そんなことが可能だとしたら……」

 

 再び、部屋の中に沈黙が訪れる。

 

 そんなことが可能なものたちの心当たりなど、たった一つしかない。

 スレイン法国としては、なるべくなら敵対したくない。しかし、いずれは敵対せざるを得なくなるだろう国。

 

「……それで、昨夜の一件について、御方は何と仰せられているのだ?」

「おそらく、自分と同様の存在が現れたのだろうとのことです」

 

「ということは、侵入者たちは従属神だということか? つまるところ、侵入者たちが仕えているアインズ・ウール・ゴウン魔導王は、我らが神々と同等の存在だと」

「それ以上のことは何も仰いませんでしたが、要するに、そういうことなのでしょう」

 

 神官長たちは、難しい顔をして互いの様子を伺った。

 

「……聞くだけ無駄かもしらんが、『占星千里』はどうした?」

「あれは部屋に引きこもっております。どうにか、占いの結果だけは、このとおり用意させましたが」

 

 薄っすらと笑うと闇の神官長は文書を皆に回す。

 手から手へとその紙が渡っていく。

 そこにはただ一言しか書かれていなかった。『神罰が下る』と。

 

 黙りこくるもの。絶望の表情を浮かべるもの。

 その中にあって、最高神官長は皮肉げに口を開いた。

 

「別に驚くことはなかろう。魔導王がこれまで行ってきたことからすれば、その推測は容易いこと。我々だって薄々は感づいていたではないか」

「しかし……」

 

「我々の計画は失敗した。おまけに、我々の切り札である神器も、番外席次も奪われた。運良く彼がエルフとの戦いに向かっていて、無事だったのは幸いだが、彼一人ではどうしようもなかろう。もはや、我々には打つ手などない」

「どこかに救援要請を出しては?」

 

「笑止。一体どこの国が魔導国に敵対すると? しかも、負け戦とわかっていて?」

 

「まさしく神官長様の仰るとおりですな。周辺の人間の国々は、既に大半が魔導国に膝を屈しておる。いまだ、魔導国の毒牙がかかっていない――もっとも今となってはそれさえ定かではないが――カルサナス都市国家連合とて、恐らく、いかに平和裏に魔導国と手を結ぶかを考えておることでしょう。あの小都市群がこれまで独立を保ってこられたのは、カベリア都市長の優れた判断力の賜物ですからな」

 

「では、この際、古の世界盟約を発動し、協力を要請してはどうか? いかな竜王たちとしても、魔導王は見過ごせない存在のはずだ」

「確かに、魔導王もしくは、その側近たちがぷれいやーであることの可能性を申し立てれば、彼らも世界盟約に則って動く可能性はある。しかし、我らが秘していた番外席次の件が表沙汰になれば、我らに対しても、その爪先を向けるのをためらわないだろうよ」

 

「……なんということだ」

 

 六大神の彫像が並ぶ部屋の中は、沈黙が支配した。

 

「我々、人間種は滅びてしまうのか……?」

「魔導王は生あるものを憎むアンデッド。今は懐柔しようとしているようだが、いずれ、人間種どころか、亜人種や異形種にも地獄が訪れることだろう」

 

「この弱肉強食の世界で、か弱き我々をお救い給うた神々に、まさか、このような結末をお見せすることになろうとは……」

 

「皆、うろたえるな。そもそも、魔導国に計画が知られた時点で、我々は後戻りできなくなったのだ。それに、六百年もの長い間、人間の守護神として働いてきたスレイン法国としての矜持もある。かくなる上は、せめて、我らが神々に恥じぬよう、魔導王に精一杯あらがってみせようではないか?」

 

 青い顔をして並んでいた法国の高官たちは、その言葉にはっとして、深く頷く。

 

 室内には、いつもと変わらぬ神々しい姿で六大神の像が立っている。

 

 一人、また一人と席を立つと、その像の前に跪く。

 そして、一斉に彼らの心の拠り所である神に深い祈りを捧げた。

 

 




zzzz様、誤字報告ありがとうございました。

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