アインズが空をふと見上げると、そろそろ夕方近くになっているようだ。太陽はだいぶ落ちてきて赤みを帯びつつあり、うっすらと浮かぶ雲はその光を受けてほのかな桜色に染まっている。そろそろ今日のデートの時間も終わりに近づいている。
イビルアイと過ごした午後は案外悪くなかったと思い、そんな風に感じる自分に少し驚く。
隣を歩いているイビルアイの表情は仮面に隠れて見えないが、何かを考えているのか、先程からずっと黙ったままアインズの歩調に合わせて歩いている。
アインズが向かったのは、いざという時の告白タイムにお勧めですよ、とパンドラズ・アクターに言われていたエ・ランテルの郊外にあるこじんまりとした公園だ。広く活気のある中央公園とは違い、訪れるものは少ないが木々や花が美しく植えられており、小さな噴水には水を飲みにやってくる小鳥もいる。ところどころにそっと置かれたベンチもあり、全体的に穏やかな優しい雰囲気を醸し出している。
この場所に来たアインズの意図はシモベたちには既に読まれていたらしく、恐らく何かをやったのだろう。今、公園内を歩いているのはアインズとイビルアイだけで、他に誰かがいる気配はない。
これなら、どんな修羅場になっても大丈夫ですよ、父上、と良い笑顔でいうパンドラズ・アクターが目に浮かぶが、思い切りその幻影を打ち払うと、大きな樹の脇にあるベンチにイビルアイを連れて行った。
「座るといい。なかなかいい場所だろう?」
「ああ、こんな綺麗な場所があるなんて知らなかった。さすがはモモン様だな……」
あの後ずっと固い雰囲気で、ここに来るまでの道中は黙り込んでいたイビルアイも、さすがに公園の心落ち着く風景に少し気が緩んだらしく言われるがままにベンチに腰を下ろすと、周囲を嬉しそうに眺めている。その様子に少しほっとして、アインズもイビルアイの隣に腰を下ろした。
座った瞬間に、イビルアイの身体がびくっとするのが感じられる。やっぱり、隣に座るのは距離感的に微妙だったか。俺もパンドラズ・アクターに隣に座られるのはあんまり好きじゃないし。でも、座ってしまったものは仕方がない。そっとイビルアイの様子を窺うと、なんとなく身体が少し震えているように思える。
「イビルアイ、寒いのか? そろそろ夕方だしな」
「いや、寒くなんて無い。むしろモモン様が隣にいてくれるから、とても暖かい気がする」
「そ、そうか。それならよかった」
何故そんな風に思うのかさっぱりわからないが、無難にアインズはそう応える。
「ところで、イビルアイ。先程していた話の続きなのだが……」
そう話しかけると、イビルアイの身体は緊張したかのように、更に身体を固くしたようだ。そんなイビルアイを見ながら、アインズは何をどう話したらいいのか少し考える。
イビルアイは先程、自分を愛しているといっていた。しかし、イビルアイが好きなのはアインズではなく、あくまでも、自分が作り出した『人類の英雄モモン』という虚像だ。だから、その仮面を被ったまま、英雄モモンとして相応しいことを伝えて無難に別れるということもできる。そして、それがナザリックの支配者としてアインズが取るべき一番正しいやり方だとも思える。
しかし、今日それなりの時間をイビルアイと共に過ごして、ふと自分の中に今までは感じたことのない、軽い苛立ちのようなものがあることに気がつく。
(なんなんだ、これは。なぜ俺はイビルアイにモモンとして好感情を向けられるのに抵抗を感じるんだ?)
そして、二日ほど前のパンドラズ・アクターの言葉をふと思い出す。いつもの道化がかった風が完全になりをひそめたあの時のパンドラズ・アクターは妙に真剣で、そのせいか、その言葉がアインズの心に深く刻み込まれていた。
『私は父上が例え愚かであっても、弱くても、醜くても、ナザリックの支配者ではなくても、我が至高の創造主でなかったとしても、変わりなく御身を愛するでしょう。私が愛してやまないのは、モモンガ様のその美しく輝ける気高い魂なのですから』
そうか……。
アインズは、急にいろんなことが腑に落ちた気がした。
俺は多分、イビルアイが俺が好きだといいつつも、俺自身ではないものに強い愛情を向けているのが不愉快だったのかもしれない。
英雄モモンは確かに俺自身だ。しかし、モモンは俺の一部ではあるかもしれないが、少なくとも本当の俺ではない。実際、今エ・ランテルで英雄モモンをやっているのはパンドラズ・アクターであって俺ではない。恐らく、イビルアイが好ましく思っているのはあくまでも虚像である『英雄モモン』であって、外見さえモモンであれば、中身はパンドラズ・アクターでも俺でもどちらでも気づくこともなければ、構いもしないだろう。
そのような、ただの虚構を愛しているイビルアイが、恐らく俺自身を真に愛することなどないはずだ。だとすれば、イビルアイの愛に何の意味がある?
例えば、俺がモモンとしてイビルアイに断りを告げたとしても、イビルアイは偽りの愛を諦めることは出来ないかもしれない。だが、
いっそ、そのほうがお互いのためなんじゃないか。偽りの愛など、誰にとっても何の意味も価値もないものなのだから……。
もっとも、真実を知ったイビルアイが俺を拒絶すれば、無事にエ・ランテルを出られることはないだろう。そのために、パンドラズ・アクターは既に十分な用意をしているはずだ。しかし真実を知る代償としては、それがむしろ正しい報酬なのかもしれない。
アインズは暗い気持ちでそう結論付けた。
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「……モモン様?」
話しかけたまま、しばらく黙り込んでいるアインズを不審に思ったのか、少し硬い調子でイビルアイが声をかけてくる。もしかしたら、アインズの不穏な様子に不安になったのかもしれない。
まぁ、結論を急ぐ必要はないだろう。イビルアイが、なるべく穏便なうちに納得してくれることを祈りつつ、アインズは口を開いた。
「……イビルアイ、私は先程もいったように疑問に思っていることがあるのだ」
「何を、でしょうか?」
「私は言葉を飾るのが苦手だ。だから、はっきりいおう。君は、本当の私自身を知っているわけではない。それなのに、私を心から愛しているというのはどういうことなのか? と」
「本当の、モモン様……?」
「そうだ。少なくとも、私は君が思っているような人間ではない。だから私としては、君のその気持ちに応えることはできないし、そのつもりもない」
アインズは冷たくイビルアイにそう告げる。
「!!!?」
イビルアイはショックが大きすぎたのか、言葉も出ないようだ。仮面に隠れて表情はわからないが、恐らく動揺しているのだろう。ひどく身体が震えている。
「君の気持ちは、嬉しかった。しかし、この件はここまでにしておくほうがお互いのためだろう。さぁ、もう日も暮れる。ここで別れるとしよう」
アインズは、これで納得すればいいが、と思いつつベンチから立ち上がろうとすると、先程までぴくりとも動かずにアインズの言葉を聞いていたイビルアイが、急にアインズの右手を掴んだ。
「ま、待ってください! そんな……、そのような言葉では、私は納得できません!」
やっぱりこれではダメだったか、とアインズは残念に思う。これで納得してくれれば、無事に帰してやることもできたかもしれなかったのだが。
「では、お前は、どうすれば納得できるんだ?」
「せ、せめて、もう少しだけ、詳しく聞かせてください。私は……、モモン様からみれば、取るに足りない存在かもしれない。でも、私のこの想いは……、この愛は、本物だと強く信じているんです!」
イビルアイは必死になって訴えかけてくる。
(本物の愛か……。そんなもの、実際にはどこにもないはずだろうに……)
多少憐憫のこもった目でイビルアイを見る。
どうやら、最後の札を切らないといけなくなりそうだと、アインズは覚悟を決める。
「そうか。では……、例えば、私は人間ではない、といってもその気持ちは変わらないのか?」
アインズは静かに問いかけた。
イビルアイは、さすがにそれは予想していたセリフではなかったようで、大きく息を呑むのが聞こえる。
しかし、少しの間顔を俯け何かを考えていたようだが、やがて顔を上げた。
「そ、それは、別に構いません。私が愛しているのは、多分、モモン様のお姿ではない、と思うのです」
「ほう? それがどこまで、本気なのかわからないが……。では、私の真の姿を見ても同じことが言えるのか、試させてもらおうか」
アインズは、あえて、より冷たい態度でイビルアイを見据えた。
「一応これだけは話しておこう。私は、基本的に警告は一度しかしない。何故なら、相手の選択を尊重すべきだと考えているからだ。もし、今、お前が先程の言葉を撤回し、何も知らずにいることを選択すれば、何事もなく無事に帰ることができるだろう。だが、この警告を無視して真実を知ることを選択した場合、最悪どうなるのかは、私には保証はできない。イビルアイよ、それでも本当にお前は真実を知りたいと願うのか?」
その言葉に、イビルアイが更に身を固くするのを感じる。まぁ、脅しているのだから当然か。やっぱりやめるというのが普通の反応だろうが……。
しかし、イビルアイは、アインズを真っ直ぐに見つめて答えた。
「私は、もう逃げないと決めた。だから、私は真実を知りたい。モモン様が本当はどういう方なのか、知らないでここで逃げ帰ることは私にはできない」
アインズは思いがけないイビルアイの返答に、一瞬沈黙する。しかし、出ないため息を一つつくと、ここまで来たらもう仕方ないと諦める。なにより、イビルアイ自身が知りたいと望んだのだから。それがどんな結果を生むことになるのかイビルアイは一切知らないとはいえ、その選択は尊重すべきだろう。
「わかった。お前の選択を受け入れよう。我が真実を見るがいい」
アインズはおもむろに、モモンとしての鎧姿を解除し、普段の魔法詠唱者の姿に戻る。幻術も付与していない骸骨のアンデッド、死の支配者の姿へと。
イビルアイはその姿を目にして完全に動揺している。それはそうだろう。人間がアンデッドに恋していたとか、ただのお笑い草だ。
「…………!!? モモン様!? その姿は、い、一体どういう……」
「この姿では、はじめまして、だな? イビルアイ。そんなに驚かないでくれ。正しく自己紹介するなら、私はアインズ・ウール・ゴウン魔導王であり漆黒の英雄モモンでもある。まぁ、要するに、これがお前が知るはずもなかった、英雄モモンの真実ということだ。別にそう難しいことではないだろう?」
アインズは肩を竦めた。
「!!! そ、そんな、そんなことが……、いや、一体どうやって!? 信じられない……」
イビルアイは驚愕のあまり震えている。
「この件に関して、細かい種明かしをするつもりはない。私はお前が選択したとおり、我が真実を見せただけだ。信じようと信じまいと、それはお前の自由だ」
アインズはそういうと、イビルアイの仮面に隠された奥にある瞳を冷酷な視線で真っ直ぐに見据えた。
「私は、お前の言葉に応えた。今度はお前の番だな。イビルアイ。先程の返答を聞かせてもらおうか? お前の本物の愛というのが一体どういうものなのか、私としても興味があるのでな」
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イビルアイは動けなかった。いくらなんでも、こんな可能性は全く考えていなかった。
初めて目前にする魔導王は、まさしく真の魔王ともいうべき姿だった。もちろん、この都市のあちこちに置いてある像で、既に何度も姿だけは見ていた。それに、噂でも様々な話を聞いていた。しかし直接見る迫力は全く違う。自分ではどうあがいても勝つことのできない、桁違いの力を持つ強大な魔法詠唱者。
イビルアイは急にこの場から逃げ出したくなった。自分はこんな恐ろしい化物に一体何をしようとしていたのだろう?
しかし――
イビルアイの心にひらめくものがあった。
本当だったら、魔導王は別にイビルアイに真実を話す必要なんてなかったはずだ。
適当に誤魔化して、追い返すことだって出来たはずだ。
そもそも、今日の『でーと』だって、彼にとってはする必要などなかっただろう。
それなのに、こうして時間を割いて共に過ごしてくれて、挙句の果てに自分の言い分を聞いて本当のことを教えてくれたのは……彼の、魔導王の優しさからだったのではないのか?
誠意を見せてくれた彼を受け入れることが出来ずに、拒否し立ち上がって逃げ出したとしたら、自分がこれまで抱いていたモモンに抱いていた、温かく幸福でそしてほんの少しほろ苦い気持ちはどこに行ってしまうのだろう?
自分は、正真正銘の卑怯者だな。イビルアイは、自分自身の愚かさに思わずつばを吐きかけたくなる気持ちに駆られる。
少なくともイビルアイには本物の愛などなかった。魔導王にそう見抜かれていたように。
恐らく自分が逃げたとしても、彼はイビルアイに失望などしないだろう。単にそれを当然の結果だと受け入れ、それで終わりになるだけなのに違いない。
だが、私は……本当にそれでいいのか……?
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自分はこれまでたくさんの人間たちに迫害され追われて来たのに、自分も今そんな奴らと全く同じことをしようとしている。これまで自分が言ってきたことはただの綺麗事で、本当はこんなに汚い心の持ち主だったのだ。
イビルアイは、急に思い切り笑いたくなった。自分は、あの軽蔑すべき奴らとどこも変わらない。全く、情けないじゃないか。これじゃ、モモン様、いや、魔導王に軽蔑され、嫌われても文句なんて言える立場じゃない。
自分は、ただの卑怯者で愚か者だ。おとなしく、それを認めれば全て丸く収まるのだ……。
その時、不意に昨夜、思い出の仲間たちが自分を叱咤してくれたことを思い出す。そして、あの時自分は何を考えた……?
『こんな私だって受け入れてくれた人達はいる。皆が皆、アンデッドだからといって拒否するわけじゃない。分の悪い賭けかもしれないけど、それしか方法がないならやってみるしかないんだ』
なのに、私は、今何をしようとしていた?
アンデッドだった自分を拒否してほしくないと強く願っていた自分自身が、強大なアンデッドであるからという理由だけで魔導王を拒否していいのか?
……いいわけないじゃないか。全く、私は大馬鹿者だよ、キーノ・ファスリス・インベルン!
落ち着け。落ち着つくんだ。
まだ、何も行動したわけじゃない。
まだ、間に合う。今なら、まだ間に合うんだ!
イビルアイは、必死に自分に言い聞かせる。
そして、イビルアイは目をつぶり、深く息を吸って心を落ち着けようとそのまましばらくじっとしていた。
だんだん冷たくなってくる風が仮面越しにイビルアイの頬をなでる。ほんの僅かに木々の葉がざわめく音がする。それを聴いているうちに、先程までの混乱が嘘のように引いていく。
ゆっくりと目を開いて、改めて、魔導王のその髑髏の顔を見つめた。
彼は、先ほどと全く変わった様子はなく、ただ静かにこちらを見ているようだ。恐らく、イビルアイがどのような行動を取るのか見極めるつもりなのだろう。その静かで揺るがないその視線に、自分の行動など全て見抜かれているかのように感じる。
恐らく、彼は、最初から自分が彼を受け入れることが出来ないことを知っていて、それでも静かに待っているのだろう。不意にイビルアイはそう思う。
イビルアイは、そっと息を吐き、再び、髑髏の顔を見つめる。なんとなく、ひたすら自分が彼を見つめていることで、微妙に居心地が悪く感じているように感じる。髑髏には表情がないはずなのに、なぜそんなことがわかるのだろう?
そして、もう一度、イビルアイは、髑髏の顔を見つめた。なぜか、一番初めに感じた恐怖がどこかに消えてしまっているのに気がつく。そうだ、彼のこの静けさは、敵に対峙している時のモモン様の背中に感じたものと同じものではなかったか?
その瞬間、自分が完全に見た目に囚われて、危うく道を間違えるところだったことに気がつく。
私が、モモン様に抱いていた愛は、そんな単純で生易しいものじゃなかったはずだろう!?
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イビルアイは、身体を震わせながら、しばらくアインズを見つめていた。
アインズは、その様子を眺めながら、これからイビルアイがどのような行動にでるのかを考えつつ、いずれにしても、彼女が自分を受け入れることはなさそうだと判断していた。周囲のシモベ達は、既に臨戦体勢に入っていることだろう。せめて、苦痛なく殺してやるのが慈悲というものだ。
やがて、イビルアイは軽く息を吐くと、何かが吹っ切れたのか急に雰囲気が変わった気がした。
それから、アインズの赤い灯火の瞳を力強く真っ直ぐに見つめ返すと、おもむろに被っていた仮面を外した。
その下から現れたのは、年齢相応の美少女といってもいい顔立ちだった。しかし、その瞳は赤く輝き口からは小さな牙が覗いている。その表情は緊張で硬くこわばりこれから起こるかもしれないことを恐れているようだった。それから、震える指でゆっくりと、右手に嵌めていた一つの指輪を外した。
今度は、アインズが驚愕する番だった。
「この気配は……。イビルアイ、お前はアンデッド……、吸血鬼だったのか? いや、私の知っている吸血鬼とは少し違う気もするが……」
「私は……、私の本当の名前はキーノ。キーノ・ファスリス・インベルン。吸血姫と呼ばれるアンデッドだ。普通の吸血鬼とは少し違う種族らしいが、詳しいことは私もよくわからない。外見は幼いがもう二百年以上生きている。モモン様、いや、陛下とお呼びするべきなのか?」
「……アインズで構わない」
「では、モ……、アインズ様……。私の方こそ、自分自身をずっと隠してきました。そして、愛しているといいながらも、真の姿を見せようともせずに、愛を告白しようとした愚かな私をお許し下さい」
イビルアイは、深々と頭を下げた。
「いや、構わないさ。この世界でアンデッドであることがどういうことなのか、私だってわかっているつもりだ。さすがにお前がそのような身体であることまでは予測していなかったがな」
アインズは苦笑した。
アインズの反応に少し安心したのか、イビルアイもようやく、少し固い表情が緩み、喜んでいいのか悲しんでいいのかよくわからない、といった感じの微妙な微笑みを見せた。
それから、改めて、イビルアイはアインズの髑髏の顔をじっと見つめてくる。これまで見たことがなかった、仮面を外したイビルアイが見せるその真剣な表情に、アインズは少し気後れを感じた。
イビルアイはしばらく、アインズの顔を眺めた後、少し息を吐き、それから少しずつ視線を下に移し、ローブの合わせ目から覗くアインズの骨しかない胸をみつめ、更に、豪奢なローブの先から覗く骨の指をじっと見つめる。
さすがに、美少女といってもいい相手にゆっくり身体中を眺め回されることに、なんともいえない気恥ずかしさをアインズは感じる。
やがて、ひとしきりアインズの姿を確認したイビルアイは、アインズの顔に視線を戻すと、少し安心したような風に軽く息を吐くと、今まで見たこともないようなスッキリとした綺麗な笑顔でこういった。
「大丈夫です。アインズ様のそのお姿を見ても、私の気持ちは変わりませんでした」
その言葉は、アインズにとっては一番ありえないと思っていたものだっただけに、一瞬激しく動揺し、すぐさま沈静化された。しかし、その後感じたのは、自分を受け入れてもらえたことに対する素直な歓喜だった。
「そうか……。イビルアイ。いや、キーノだったか? だとすると、お前の本当の愛とやらは、どうやら信じてもいいもののようだな……」
アインズのその言葉を聞き、イビルアイは急に頬を真っ赤に染めた。そのイビルアイの様子を見て、アインズも嬉しいような、恥ずかしいような、照れくさい気持ちで一杯になる。
(あれ、なんだろう? この気持ち。まさか、これが女性相手に好意を持つってことなのか?)
少なくとも、これまで感じたことのない不思議な感情は、アインズにとってもそう気分の悪いものではなかった。
Sheeena 様、yuki14様、スペッキオ様、薫竜様、kuzuchi様、誤字報告ありがとうございました。