ウィズブラッド   作:O.K.O

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こんにちは、O.K.Oです。
第2話張り切っていきましょう。


第2話 魔力のない子供

「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」

 

微かな風に森林がさざめきあい、暖かい日の光が眩い朝、新緑の木々の中に佇む一軒の邸宅に大きな産声が響き渡った。

 

「っ!!ヘレナ、でかした!男の子だ!!」

 

「もう、アルったら……年甲斐もなくはしゃいで」

 

あると呼ばれる男、アルマート=サングイスが生まれたての赤ん坊を抱き上げる姿に、ヘレナと呼ばれる女性は微笑ましそうにその光景を眺めている。

そこに小さな女の子が、横たわっているヘレナの服の裾をちょいちょいと摘んだ。

 

「ん?どうしたのルーナ?」

 

「母様、もう痛くないですか……?」

 

「あぁ、わざわざ気遣ってくれているのね。ありがとうルーナ。でも、もう治癒魔法のおかげで大丈夫よ」

 

「やった、痛いの治った!よかったぁ」

 

「ふふふ、ルーナは優しいのね、よしよし」

 

小さな娘の気遣いに、ヘレナは和やかな気持ちになる。

ヘレナがルーナの小さな頭を優しく撫でると、ルーナは嬉しそうに目を細める。

 

「さて、じゃあ恒例の魔力鑑定をしないとな!」

 

そう言うと、アルマートは抱き抱えていた赤ん坊をベッドに寝かせ、あらかじめ脇に置いてあった腕輪らしきものを手に取った。

 

「父様、それはなんですか?」

 

「これはなぁ、魔力探知ができる腕輪なんだ。生まれた子供に、これを付けることで、その子の魔力量と属性を調べられる道具なんだ」

 

「お父さんもお母さんも、この道具で魔力を調べてもらったのよー。もちろん、ルーナもね」

 

「へー」

 

そうして男が赤ん坊の小さな右腕に腕輪をはめる。

すると次の瞬間、父親と母親は驚愕の表情を浮かべた。

 

「お、おい……」

 

「アル……」

 

「父様、母様……?大丈夫ですか?」

 

突然の両親の驚嘆に、ルーナは困惑する。

 

「ヘレナ、この腕輪が壊れているということはないよな?」

 

「え、えぇ……。正常に作動していたわ……」

 

「……さすがに、この展開は予想外だったな」

 

「??」

 

1人状況が飲み込めていないルーナに、ヘレナが優しくその頭を撫でる。

 

「本来、この腕輪は魔力を持つものに付けると、その魔力量と属性に応じて発光する仕組みになっている。しかし、それが発光もせず、何も反応が無いということは……」

 

「この子は魔力を持っていない、ということ……」

 

「やっぱり、そうなるよな……」

 

「えぇ……」

 

2人は腕輪が何の反応も見せないという事実を、中々に受け入れられないでいた。

それもそのはず、アルマートとヘレナは2人とも多量の魔力を有する魔法士である。

--魔法士、それは自らが持つ魔力で生み出した魔法を使い、人間の生活を脅かす強力な魔獣、魔物等と対峙する職業である。そのため魔法使は常に死と隣り合わせの職業であり、危険極まりないものなのだ。しかし、魔法士として功績を上げれば多くの人々の賞賛の的となり、それ故に魔法士に憧れを持つ者も多い。現に魔法使という職業は誰もが一度は目指そうとする道であった。

そして、サングイス家は代々多くの優秀な魔法士を輩出してきた貴族の家柄である。魔力を持つ両親から魔力を持たない子供が生まれること事例はごく稀にあったが、サングイス家の子供は皆、例外なく遺伝的に魔力を受け継いでいた。そのためこのような事態はイレギュラー中のイレギュラーで、アルマートとヘレナにとっては想定外以外の何者でもなかったのだ。

魔法士の家から魔力を持たない子供が生まれた、魔法に携わる厳格な家柄であれば、この時点でその子供は迫害の対象となったかもしれない。

しかし、アルマートとヘレナはお互いの顔を見て、深く頷いた。

 

「たとえ魔力無しでも、この子は俺とヘレナの子だ」

 

「えぇ、そうよ。この子に何の罪もないもの、大切に育てましょ」

 

そうして生まれた子供にはライト、と名付け異例の事態は幕を閉じた。

 

-----------------------

 

「父様、僕を魔法学校に通わせてください!」

 

「っ!おいおい……急にどうしたんだライト……」

 

いつもと変わらない何気ない朝、突然の息子の要求に、思わずアルマートは口に含んでいたホットミルクを吹き出しそうになる。

まだ幼さが残るライトは、父の反応に頭を傾げつつも、年相応の無邪気さから父の空いていた懐に飛び込んだ。

アルマートは右手に持っていたホットミルクのカップを零さないよう、気を配りながら胸に飛び込んできたライトを優しく受け止めた。

 

「僕は今日で7歳になります!この歳くらいから、世間の人々は魔法学校や剣術学校に通い始めるとルーナが言っていました!なので僕も、魔法学校に通いたいのです!」

 

「ら、ライト……魔法学校に行きたいの……?」

 

二人の会話が偶然聞こえたヘレナも会話に参加する。

アルマートとヘレナは表面上は笑顔を取り繕いつつも、内心は冷や汗ダラダラの状態であった。

 

サングイス家の長男、ライト=サングイスが生まれて7年の月日が経った。それまでの時間はサングイス家にとって、幸福に満ちた生活であった。やんちゃにすくすく育つライトと、わがままばかりであったがライトが生まれたことでお姉さん基質になるルーナ、2人の成長を見守るアルマートとヘレナはこの上ない幸福を感じていた。

しかし、アルマートとヘレナの中で一つだけ、懸念事項があった。

 

--ライトが魔力無しであること

 

代々魔法士を排出するサングイス家に、魔力を持たない子供が生まれることは想定外であった。

そして、この事実を本人に伝えるタイミングを2人は計り損ね、今の今まで本人に伝えずにいたのだ。

 

「はい!剣術も魅力的ではありますが……」

 

「お、おぉ!なら剣術学校に行くのはどうだ?!」

 

「そ、そうよね!あれだけ練習してたんだし、私は剣術学校の方に賛成よ?」

 

渋るライトにアルマートとヘレナは全力で剣術を勧める。

魔力を持たないライトに対して2人が考えた代行策は、魔法以外のものに興味を持ってもらうことであった。

それが、魔法と同等に発展している剣術である。

しかし、代々魔法士の家系であるサングイス家にとって、剣術の素人が剣術を教え込むのは相当骨のかかる事案であった。

とはいえ、アルマートは現役の魔法士であり、剣術を用いる人間とパーティーを組んだことがあったため、多少なりとも剣術の知識を持ってはいたことから、なんとかライトには正しい剣術の型を教えることは出来ていたのだが。

そうして毎朝、父に教えられた内容を思い返しながら家の庭で剣を振るライトに、2人は当然剣術の道に進むものだと思っていた。

そのこともあって、今回のライトの魔法学校に通いたいという要望は予想外であったのだ。

 

「確かに、最近までは剣術の道にも進みたいと思っていました……」

 

「では何故、魔法を学びたいと思うようになったの?」

 

少し落ち着きを取り戻したのか、ヘレナは優しくライトに問いかける。

 

「実は先日、久々に帰ってきたルーナに魔法を見せてもらったのですが、それがかっこよくて……。そこでどうしたら魔法を使えるようになるのかルーナに尋ねたのですが、魔法学校で教えてもらえと……」

 

「!!しまった……」

 

ルーナは現在、マジル王国のマジル魔法学校に通う12歳の学生である。

--マジル王国は魔法が非常に発展した国で、魔法士の教育を目的とした設備や施設が整っている国として評価が高い国である。魔法使になるならマジルの学校に通え、そんな言葉があるほどだ。

そして、ルーナも魔法使を目指し、マジル魔法学校の寮に滞在している。寮生活なのは、サングイスの家からマジル魔法学校までは距離があるためだ。

そして、つい先日まで学校が長期休暇であったためルーナが家に帰ってきていたのだが、そこでルーナがライトに魔法について話したようだ。

実際には、学校の課題の魔法を練習するルーナに、ライトがちょっかいをかけたことが発端なのだが。

今の今までルーナとライトが魔法の話をしていたことが無かったので、アルマートはルーナに釘を刺すのを忘れていた。

ヘレナがアルマートに向かって微笑むが、内心は全く笑ってはいなかった。

 

(アル……、ルーナには言ってなかったの……?)

 

(ちょっ……!違うんだヘレナ!てっきりルーナも分かっていたものかと……)

 

(後でお話ね)

 

(ぐっ……ルーナのやつ……)

 

アルマートはヘレナの精神的なボディブローにより項垂れる。

アルマートは寮に戻り、今は家にいないルーナを恨むが、それはお門違いである。

そんなアルマートの様子を尻目に、ヘレナは少し考え込むような仕草をして、口を開いた。

 

「そっか……ライトは魔法学校に通いたいのね……」

 

「はい!ダメ、でしょうか……」

 

落ち込むような仕草を見せるライトに、ヘレナはどうしたものかと悩む。

 

「あのねライト、大事な話があるの」

 

「??何でしょうか……?」

 

「いつかは話さないといけないとは思っていたけど、中々言い出せなかった私とアルを許してね……。実は……」

 

ヘレナがライトに、魔力を持っていない事実を伝える。

自分が魔法を使えない、その事実を知ったライトは目に見えて落ち込んでしまう。

 

「そんな……。じゃあ僕は、魔法を……」

 

「ずっと黙っていて、すまなかった」

 

そうしてアルマートがライトに謝罪を述べる。

しかし、そんなアルマートの様子を見て、ライトのショックで落ち込んだ感情が、怒りの感情に変わっていった。

 

「っ!なぜ父様と母様は、ずっと言ってくれなかったんですか……っ!」

 

「ら、ライト……」

 

「なぜみんなが出来ることを、僕だけできないんですか!ルーナが言っていました、父様と母様は優秀な魔法士で、私も魔法士になりたいと!僕も魔法士になりたかった!魔法を使いたかった!」

 

「おい、ライト!」

 

ライトが魔法を使えないことに、誰に罪があるわけでもない。しかし、ライトはまだ7歳、幼さの残る彼にこの理不尽を受け入れろというにも無理があるだろう。

アルマートがライトを落ち着かせるため呼びかけるが、ライトの激情は止まらない。

 

「ライト、落ち着け!」

 

「……だ」

 

「ライト……?」

 

「父様と母様なんて、大っ嫌いだっ!!」

 

「あっ……!ライト!」

 

ライトはその言葉を発すると、家の扉を大きな音を鳴らしながら開け、外に走り去っていった。

ヘレナはすぐさまライトを追いかけようとするが、アルマートに止められる。

 

「今行っても何の意味もないだろう」

 

「……そうね。ライトには申し訳ないことをしたわ……」

 

「俺が探知魔法でライトの位置を把握しているから、少ししてから迎えに行こう」

 

「えぇ……いずれこうなることは分かっていたけれど、辛いわ……」

 

「あの子は賢い子だ、分かってくれる」

 

サングイス家にはどんよりとした重い雰囲気が漂っていた。

 

-----------------------

 

騒動から少しして、ライトは現在森の中で1人泣いていた。

 

「うっ……ひぐっ……。魔法が使えないなんて……」

 

しかし、しばらくすると落ち着いてきたのか、思考が徐々に、悪い方向から良き方向へと変わり始めた。

 

「でも……父様と母様は、その代わりに僕に剣術を教えてくれた……。魔法を使えないのは悲しいけど……。それに、父様と母様も僕に魔法を学ばせたくないとは思っていないよね……」

 

ライトは7歳にして、聡い子に育っていた。これはアルマートとヘレナの努力の賜物でもあろう。

 

「帰らないと……それから、ちゃんと謝ろう」

 

その時である。

家の方角から、大きな爆発音がライトの耳に飛び込んできた。

 

「えっ!何、今の音?!」

 

ライトは子供ながら、背筋が凍るような悪寒がした。

 

「父様、母様……!」

 

そうしてライトは全速力で、家の方向に向かうのであった。

 

 

 

 

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