魔法少女まどか☆マギカ異編 <proof of humanity>   作:石清水テラ

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週一投稿って結構難しい。
何とかペースを戻したいこの頃だけれど、そろそろ忙しくなりそうなんですよね、やれやれ。
取り敢えず本編どうぞ。






第13話 「それは、禁断の恋のかたち」

 

 

 

 

 

「君は、一体何者なんだい?」

 

キュウべえの平坦な声がマミさんの部屋に響く。

 

何度目になるか分からないような、質問だった。

前にも暁美ほむらから似たような事を聞かれていたな、というのを思い出す。

ああ、あれはこういう意味だったのかと今更ながら合点する。

 

だが悲しいかな。

 

「…俺は」

 

それに対する答えもまた、変わる事はない。

これまでも、これからも、おそらく。

自分は答えを持ち得ていないのだから。

 

「俺は、そんなこと知らない」

 

絞り出した答えが、部屋に虚しく漂う。

しばしの間、なんとも言えない沈黙がその場に流れた。

 

「…それは、心当たりが無いって意味かしら?」

 

マミさんの声が沈黙を破る。

 

「まあ、そういう事です」

 

「俺には自分が誰かなんて事、分かんないです」

 

俺の答えをどう受け取ったのか、マミさんは俯いて何かを思案するかのように黙っている。

キュウべえの方は、相変わらず何の感情も読み取れない無表情のままだ。

 

「…そう。何か理由とか手がかりのようなものでもないかなって思ったんだけど」

 

しばらくして口を開いたマミさんは、少し落胆したような、不思議そうな声でそう言った。

 

「そういう事があった記憶は、微塵も無いので」

「なら、仕方ないわね」

 

俺が何の情報も持たない一般人である事を悟ったのだろう。

追及を諦めた彼女は張り詰めていた表情を弛ませ、安心させるように笑いかけてくれた。

 

「あのー、マミさん?さっきから何の話をしてるのか分かんないんですけど…」

「テツヤくんが本来ならキュウべえは見えない筈だって、どういう事なんですか?」

 

一方、さっきから会話で置いてきぼりを食らっていたまどさやコンビは、理解が追い付かない、といった様子でたちどころに疑問んを投げ掛けてくる。

 

「えっと、ちょっと待ってくださいよ?」

 

やや混乱ぎみのさやか氏は、一旦頭を振って心を落ち着けると、状況を整理するようにこれまでの俺達の会話をまとめ始めた。

 

「そのキュウべえってのが見えるのは魔法少女の素質がある奴だけで、テツヤが何故かキュウべえを見れるって事は…」

 

ゆっくりと、噛みしめるようにこれまでの会話の流れを汲み取り、思案するさやか。

そして、

 

 

「もしかして、こいつも魔法少女になれちゃったり…?」

 

 

その結果とんでもない爆弾を口から放ちおった。

 

「え、えぇ…」

「ちょ、待てまどか、引かないでくれ!?」

 

何を想像したのか、完全に引きぎみの表情で後ずさるまどか。

その青い顔に手を伸ばし、すがり付くも、完全にドン引かれてしまっている。

ちきしょう、何て気色悪い発言をしてくれるんださやかちゃんめ。

 

「きゅ、キュウべえ?そこの所はどうなのかしら…?」

 

マミさんが若干震えた声でキュウべえに訊ねる。

自分から俺の資質がどうのとか言っておいて酷い扱いだ。

 

…いや、でももしマジでなれちゃったらどうしよう。

TSの扉が開くのか、それとも女装癖に覚醒してしまうのか、どちらも願い下げだが少しの興味も無いと言われればそうでもなく…

 

「いや、それは不可能だろうね」

 

あっさり否定された。

 

「魔法少女との契約は、文字通り魔法少女の為に作られたシステムだ。男性では契約の対象になり得ない」

 

「ホッ…」

 

魔法生物からのお墨付きを貰って一安心し息を吐く。

他の面々もそれを聞いて安心したのか、マミさんの固まっていた表情筋が元に戻り、青ざめていたまどかの顔色が回復した。

 

やれやれ、ヒヤッとさせるような事言いやがって。

 

…別に少し残念だなとか思ったりはしていない。

 

「それに例え彼が女性であったとしても、契約は不可能だろうね」

 

そんな俺達に対して、キュウべえはまだ言いたい事があるのか言葉を続ける。

 

「え、何で…?」

「彼にはそもそも素質が無いんだ。魔法少女になれるだけの力は全くといって良いほど存在しない」

 

疑問の声を挙げるさやかに、テキパキと説明をつけていくキュウべえ。

その有無を言わせぬ物言いは、本当に俺が何の才能も資質も持たない事を証明するようだ。

 

「彼が魔法少女になる事は万が一にもあり得ないよ」

 

そう、奴はきっぱりと言い切った。

 

 

「……」

「……」

 

しばし、何を言っていいか分からなくなったみんなの沈黙が室内に重くのし掛かる。

喜べばいいのか、悲しめばいいのか、笑うべきか、悩むべきか。

いまいち反応に困ってしまった。

 

「えーっと、その、残念…だった…ね?テツヤくん」

「いや、なれても困るわこんなん」

 

気遣わしげに話し掛けてくれたまどかには悪いが、そこまで残念には思わなかった。

 

むさ苦しい男子中学生が魔法少女とかぶっちゃけあり得ないし、進んでやりたいとも思わない。

ただ、こうもきっぱり資質無しと言われると、無能の烙印を押されてるみたいで若干凹む。

 

「でも、それだとますます不思議な話ね」

 

マミさんが困ったような顔で腕を組み悩んでいる。

俺魔法少女説は取り下げられたものの、謎はまだ放置されたままであるからだ。

 

「何の力もないのに、キュウべえを見ることだけは出来るなんて」

 

納得の行かない表情で首を傾げるマミさん。

その疑問はもっともらしいが、いかんせん魔女も魔法少女もよく知らない自分からは何を言ってやる事も出来そうにない。

 

「偶発的な特異体質って事かしら、聞いた事もないけど…」

 

なにやらそれっぽい理由付けをしながらもどこか腑に落ちない様子の彼女は、自分以外の人間、…いや人外だが、に意見を求める。

 

「キュウべえ、あなたはどう思う?」

「彼のような存在は全く前例が無いからね。調べてみる価値はありそうだ」

 

どうやら不思議生物でもこの特異体質とやらの正体は図りかねているらしく、何となく興味深そうな声色で調べる価値がどうだのと…っておいちょっと。

 

「は?調べるってお前何言って…」

 

何やら怪しくなってきた雲行きを感じ、キュウべえを問い質そうとする。

と、それをマミさんが一瞥し、無言で諌めてきた。

 

しぶしぶ俺が口を閉じるのを確認すると、彼女は一つ間を置いてからみんなに向き直り口を開いた。

 

「そうね。この事も踏まえて私から提案があるんだけど、いいかしら?」

 

「提案…って何ですか?」

 

恐る恐る聞いてくるまどかにマミさんが目を合わせる。

そして俺、さやかの順に目線を移すと、意を決してその言葉を放った。

 

「三人とも、これからしばらく私の魔女退治に付き合ってみない?」

 

 

「えぇ!?」 

「えっ?」 

 

予想外の提案に唖然とする二人。

 

「魔女退治…ですか?」

 

俺も思わず聞き返す。

するとマミさんも俺達の戸惑いを予期していたのか、順を追って説明を始めた。

 

「さっきも言ったけど、魔法少女になるっていうのはそれ相応のリスクが伴うものなの。生半可な気持ちで決めていい事じゃない」

 

静かに紡がれる彼女の言葉は、魔法少女である本人の言というのもあって、実感の伴う重みを持っている。

マミさんがいかにまどか達の身を案じ、その選択を心配しているか、その言葉だけで理解することができた。

 

「だからそこで魔女との戦いがどういうものか、その目で確かめてみるといいわ。そのうえで、危険を冒してまで叶えたい願いがあるのかどうかじっくり考えてみるべきだと思うの」

 

彼女の語った提案。

それはつまり、魔法少女という存在を間近で観察し、その戦いを擬似的に体験するというものだ。

 

魔法少女体験学習コース、とでも言ってしまえるか。

命懸けだったりする危険こそ伴うものの、マミさんの提案は悪くない、むしろ有難い事柄ですらある。

 

「……」

「……」

 

隣を見れば二人とも彼女の提案に驚きつつも、いくらかの不安とより多くの期待が入り交じったような様子で顔を見合わせている。

彼女達にとっては、契約を自分でする前に他人の様子からそれを体験できるというのは願ってもないチャンスであるのだ。

多少の危険こそあれ、マミさんという頼もしい味方がついている以上、断る理由も少ない。

 

ただ、問題があるとすれば。

 

 

「えっと、それ、俺もですか?」

 

この自分の存在だ。

 

彼女達二人と共にあって、俺だけが魔法少女になる資質を持ち得ていない。

同行する理由が無いのだ。

 

ただでさえ一般人二人を戦場に連れていくという結構な難条件に加えて、明確に戦う能力のない3人目を連れていくというのはあまりにも負荷の大きすぎる話でもある。

 

そうまでして俺を巻き込む理由がどこにあるというのか。

 

「君はとても貴重なサンプルだからね。僕としては君と魔法少女の間にある因果関係をもっとよく観察してみたいんだよ」

 

その理由はキュウべえの口から簡潔に語られた。

 

「何だ、その雑な扱いは…」

 

もっともらしい言い分になるほど、となると同時に、なんかモルモットのような目線で見られているようなのが少し引っ掛かる。

この魔法生物の少々淡白にすら思える実直さは、なんだか気に入らない。

 

「もちろん無理強いはしないわ。本来あなたは私達に関わる理由なんてないし、魔女と接触するのは危険な事だから」

 

マミさんが一応のフォローを入れてくれる。

彼女にも自分の提案が危険と分かっているのだろう、必要以上に強いる事はせず、ただ俺に判断を委ねるつもりのようだ。

 

彼女にとって重要なのは俺やまどか達がどうしたいのか。

自分が俺達を抱えて守らねばならない事の迷惑や苦労はまるで気にも留めていないらしい。

本人が意識しているのかは知らないが、立派な心掛けだと思う。

 

「それでももし、あなたが…」

 

だから、その温情に預かる事にした。

 

 

「行かせてください」

 

迷いなく言い放たれたその言葉に、マミさんが少し驚いたような顔をする。

隣にいる二人も驚いたような気配がしたが、生憎真っ正面を向いているためそれを確認はできなかった。

 

「…お願いします」

 

そのままさらに言葉を重ね、頭を下げる。

 

この答えは、実は最初の内から既に決めていた。

まどか達が魔法少女の戦いとやらに巻き込まれるなら、俺も同行したい、と。

 

正直な所、自分が誰かとか、なんでこんな力があるかなんていうのは別にどうでもいい。

自分はただ誰かにとっての誰かであればそれでいいのだ。

 

だから今は、まどかの友人として。

魔女とかいう恐ろしいものと相対しようとする彼女と共にあって、何かの助けになれればと思っていた。

どれだけ自分がただの人間であったとしても、異常な世界に足を踏み入れようとする友達を見てみぬ振りはできない、そう思ったのだ。

 

「…わかったわ」

 

ただ二言、されど心からの思いの乗った二言だ。

その重みが伝わったのだろう。

マミさんはあっさりと頷いて、俺の意思を尊重してくれた。

 

やがて彼女はどこか先程までより明るみの増したような顔で微笑み、穏やかな声で呟いた。

 

「それじゃあ、これからよろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはよう~!」 

 

そんな記憶を思い出していた所に、後ろから見知った人の声が聞こえて、瞬時に思考を現実に引き戻す。

振り向けばそこには今自分が一番会いたかった人の顔があった。

 

我がファーストフレンドこと鹿目まどかのご登場だ。

 

「おはようございます」

「おっ、来たなまどっち」

 

仁美さんの礼儀正しい挨拶と合わせて、気さくさを心掛けて呼び掛ける。

 

嬉しそうに駆け寄ってくるまどかの愛らしい姿。

 

だが、それに大手を振って迎え入れようとしたその時、ふとその肩部にある違和感を発見し笑顔が凍りついた。

 

「あんたまどかにも変な呼び名付け……うぇっ!?」 

 

俺の渾名にまたツッコミを入れようとしたさやかもまた、その様子に気付いてか、虫の潰されたような寄声を上げた。

 

 

「おはよう、さやか」 

 

 

その違和感の根源たる謎生命体、キュウべえは、当たり前のようにまどかの肩の上でさやかに挨拶していた。

 

「えっ…あっ、ぐぁ…」

 「どうかしましたか?さやかさん」

 

白昼堂々とその姿を晒すキュウべえの異様な光景に絶句するさやかを、不思議そうな目で見つめる仁美さん。

その目はキュウべえの姿を全くといって良いほど捉えておらず、ただ挙動不審なさやかにだけその関心を向けていた。

 

(本当に、普通の人には見えてないって事なんだな)

 

話には聞かされていても、いざ目の前にその証明を見せつけられると、キュウべえという存在がいかに不条理の存在であるかを実感させられる。

 

同時に、自分が今はっきりとその姿を見ているという状況が、こいつの語った俺の特異体質というものの実在を言い逃れのしようがないほどに示していた。

 

「…やっぱそいつ、私達にしか見えないんだ」 

 

そそくさとまどかの方にすり寄ってきたさやかが、こっそりとまどかに耳打ちする。

 

「…そうみたい」

 

その明らかに不審な様子を、仁美さんが不可解そうにに見つめている。

 

「あの…?」

「ああ、いや、何でもないから!いこ、いこ!」 

 

誤魔化すように手をぶんぶん振って早歩きで駆け出すさやかの背中を見ながら、仁美さんは首を捻っていた。

 

そうして彼女の視線が前に言っている内に、こっそりとまどかの隣に並んで歩く。

横目でキュウべえの姿をチラリと見ると、そいつは何事も無かったかのようにまどかの肩の上で愛想を振り撒いていた。

 

「お前、人に寝起きドッキリ仕掛けておいてすぐいなくなったと思ったらまどかのとこにいたのか」

 

仁美さんに気取られないよう、小声で独り言のように前を見ながら話し掛ける。

視界の端でキュウべえがむくりと丸い顔を上げて、俺に視線を寄越したのが見えた。

 

「僕の仕事はあくまでも魔法少女との契約だからね。一応君の現在の生活環境は把握しておきたかったんだけど、それ以上にまどかとの接触を優先したのさ」

 

相変わらずの口を動かさないノーモーション発声で答えるその姿を見て、やっぱりこいつは何か不気味だなと思う。

何故だろう、こんなに可愛らしい見た目をしているにも関わらず、自分はキュウべえの姿に不信感を覚えてならない。

 

いつだったか見た、無数の死体のせいかもしれない。

 

結局、あれは何だったのか分からないままだ。

 

「まあ付き纏われても困るけどさ、顔ちょっと怖いし」

「珍しいね、僕の容姿をそんな風に表したのは君が始めてだよ」

「いや可愛い顔だとは思うんだが、早朝の薄暗い自室に立ってるのすげえ不気味だから二度としないで欲しい」

 

 

(そうだよね、私も朝起きた時凄いビックリしちゃった)

 

 

そんな会話の中、唐突に脳内に響いたまどかの声に、思わず肩がビクッとなった。

 

「いっ…!?」

 

まどかの方に全速力で顔を向けると、彼女はいたずらっ子みたいに顔を綻ばせながら訳知り顔でこちらを覗いていた。

どうやら俺の幻聴、ということでは無いらしい。

 

「うごぉわっ!?」

「さやかさん、いきなりどうしましたの?肉離れですか?」

 

前方ではさやかもまた大袈裟に飛び上がり、仁美さんから見当違いの心配をされている。

 

さっきの声が聞こえたのは俺だけではなくさやかもそうであるようだ。

しかし仁美さんが何の反応もしていないのは一体どういう訳か。

 

(えっとね、なんだか頭で考えるだけで、会話とかできるみたいだよ?) 

 

(うぉう、マジで脳内に直接来たぞすっげえな)

 

さらっとまどかさんが説明しなさったが、これってつまりテレパシーというものになるのではなかろうか。

 

ふんわりした言葉で流されたものの、古今東西のSFやオカルトもので見かけた現象が今目の前で現実のものとして発生していると思うと中々のサプライズだ。

 

(えぇ!?私達、もう既にそんなマジカルな力がっ!?) 

(いやいや、今はまだ僕が間で中継しているだけ。でも内緒話には便利でしょう?) 

 

なるほど、道理で仁美さんが反応しないわけだ。

これもキュウべえ主体の能力ならば、適正のあるまどかとさやか、例外の俺にしか声が届いていないのも頷ける。

 

(何か、変な感じ) 

(てかこれ、端から見たらお前ら無言でメンチ切りあってるように見えてるんじゃねーの?)

(げ、待ってそれマジで?)

 

「お二人とも、さっきからどうしたんです?しきりに目配せしてますけど…」 

 

予感的中。

案の定、二人の様子を不審に思った仁美さんが滅茶苦茶怪しんできている。

 

「え?いや、これは…あの…その…」 

 

何とも説明し難い状況に置かれてキョドりまくるさやかの顔を、仁美さんが推し測るようにジッと見つめている。

 

うーん、こりゃ不味いだろうか?

仁美さんにはどうしてもキュウべえの見ようが無いのだから、俺達の秘密がバレる事は無いだろうが、それでも何か隠していると思われたら厄介だ。

 

そんな事を悩んでいる内に、仁美さんが何かに気付いたかのようにパッと目を見開く。

 

いかん、どうにかこの場を誤魔化して…。

 

 

「まさか二人とも、既に目と目でわかり合う間柄ですの?まあ!たった一日でそこまで急接近だなんて…!昨日は、あの後、一体何が!?」 

 

 

…予想を斜め上方向に突き抜けた解釈が飛び出した。

 

「えっあの…、ちょっと何言ってんの?」

 

見れば仁美さんは顔を真っ赤にして口元に手を当ててオロオロしている。

完全に色々と誤解している顔だった。

いや、確かに見ようによってはそういう風に見えなくもない様子ではあるけれど…あるけ…、…あるか?

 

「いや、ないない」

 

「…ぅいや、そりゃねーわ。さすがに」 

「確かにいろいろ…あったんだけどさ」

 

二人もこぞって否定しているが、イマイチ語気が弱いのは当人に心当たりがあるから…ではなく単純に引いてるのだろう。

 

「テツヤさん!昨日二人の間に何が起こったというんですの!?」

「うわ、こっちに飛び火してきた」

 

というかすっげえ目を輝かせてるの何なんだこの人。

 

まあいい、取り敢えずここは質問に答えるのが先だ。

友として、フレンズとして、アミーゴとして、なんとか自分が二人の風評被害を訂正しなければならん。

 

「えーっと、確か、二人揃って自宅に行って、色んな秘密について語り合ったりしてたな」 

 

「ちょっ、おい、テツヤぁ!?」

「あ、やべ」

 

動揺してマミさんのって付けるのを忘れた。

 

しかし時既に遅し。

覆水盆に帰らずとも言うか、今の発言を聞いた仁美さんは今、顔を深紅に染め上げ全身をワナワナと震わせている。

 

「まぁ、いけませんわ…お二方…!女の子同士で…」

 

見るからに手遅れというか、こう完全にキマってしまった。

色んな意味で。

 

 

「それは、禁断の、…恋の形ですのよ~っ!!」 

 

 

そう叫ぶと彼女は全力で顔を背け、一目散に駆け出し地平線の果てまで走り去ってしまった。

 

嘘だ。まだ遠くの方に背中が見える。

だが暁美ほむらにも劣らぬ恐ろしい走力であった。

 

「あぁ…」 

「バッグ忘れてるよー!」 

 

もはや撤回不可能となってしまった風評被害に嘆くさやか。

そんな事より置かれた鞄を心配するまどかは、器が広いのか危機感が無いのか。

 

「ひとみん…まさかあんな愉快な子だったとは」

 

ともあれ最後の一押しをしてしまったのは自分なので、静かに心の中で反省する。南無。

 

「うん…。今日の仁美ちゃん、何だかさやかちゃんみたいだよ」 

「どーゆー意味だよ、それは」

 

隣で遠回しにさやかを愉快な子呼ばわりしているまどかは確かに恐ろしい子であったが、正直仰る通りだと思った。

彼女の場合さやかのようなおフザケではなく、ガチで百合を思い描いていそうなのが質悪いが。

 

「もしや彼女のお嬢様言葉はキマシお姉さまの資質を持ち合わせていたが故に!?」

「テツヤくんは昨日から変わらず何言ってるか分からないね…」

 

そしてこういう発言をして苦笑いされる辺り、自分も同じ穴の狢なのだと思って若干悲しくなった。

 

 

「てかなんであんたは仁美に怪しまれてないのよ?」

「彼は全く目を合わせずに自然体で会話していたからね。驚くべき適応力だよ」

「フッ、見たか俺のアメイジング不動心」

「…要はただぼんやりしてるってだけじゃね、それ?」

 

 

そんな事を話している内に、学校の鐘の音が遠くから聞こえ始める。

そろそろ集合時刻というわけだ。

時間を察してまどかとさやかが仁美さんを追って駆け出した。

 

何だかんだ色々な事にまきこまれながらも、転校初日は既に終わりを迎え、怒濤の二日目が始まろうとしている。

 

そろそろ昨日の夢から覚めるのにはいい頃合いだろう。

二人に続いて自分も地を蹴り走り出す。

 

新たな1日が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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