魔法少女まどか☆マギカ異編 <proof of humanity>   作:石清水テラ

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大変長らくお待たせしました。
定期テストやら修学旅行やらグリッドマンやらてんやわんやで更新休み過ぎてしまった申し訳ない…。

とか何とか言ってる間にいつの間にか評価バーが真っ赤に染まっていてビックリドッキリ。
いやぁ、こんなに評価していただけるとは感激の極みです。
なっがい休息期間でしたが、ここからはまた以前のように更新ペースを上げて、見果てぬ完走に向けて精進していこうと思います。
これからも、何卒よろしくお願いいたします。

うん、前書き長え。








第14話 「記憶には自信が無いんだ」

 

 

 

 

 

(つーかさ、あんた、のこのこ学校までついて来ちゃって良かったの?)

 

クラスの教室にたどり着き、机の上でHRの開始を待つばかりといった頃、思い出したようにさやかが言った。

 

 (どうして?)

 

突然質問を振られ不思議そうに(表情は変わらず)首を傾げるキュウべえ。

 

(言ったでしょ?昨日のあいつ、このクラスの転校生だって) 

(そういやお前タマ狙われてたんだっけ)

 

確かに明確にこいつと敵対する存在がいるというのに、わざわざそこに現れるこいつは、相手にとっていい鴨かもしれない。

それに暁美ほむらはこの教室のクラブメイトでもあるのだ。

目と鼻の先に天敵がいるこの状況、もしかしてかなり危ないのでは?

 

(むしろ、学校の方が安全だと思うな。マミもいるし)

 

が、当の本人はあっけらかんとそんな事を言ってのけた。

 

言われてみれば、人が多く味方も近くにいる学校の方が安全といえばそうだろう。

そういえばマミさんって見滝原中の先輩だったのか。

 って事はこの校舎に居るって事なんだよな。後でまた挨拶にでもいくべきか。

 

(マミさんは3年生だから、クラスちょっと遠いよ?) 

(ご心配なく。話はちゃんと聞こえているわ) 

 

(うわお、天使の囁き!?)

 

テレパス会話にいきなり割り込んできた新たな声に思わず驚きの叫びを上げる。

脳内でだが。

 

いやそんな事より今の声って…。

 

(ふふっ、お世辞は結構)

(この程度の距離なら、テレパシーの圏内だよ)

 

(マミさん、今までの会話全部聞いてたんですか!?)

 

俺の驚いた声に、巴マミさんが昨日聞いたのと寸分違わぬ穏やかな笑いで答える。

 

(盗み聞きのつもりは無かったんだけど…それとも、何か聞かれたらマズイ事でも言おうとしてたの?)

(いえいえ、滅相もございません)

 

相手には見えていないのも気にせず首を振って否定する。

 

いかんいかん。

周囲の人には声が聞こえないからって、調子乗って大声で放送禁止用語叫んだりしてたら危ない所だった。

 

(あ、えっと…おはようございます) 

(はい。ちゃんと見守ってるから安心して) 

 

慣れない念話でぎこちなく挨拶するまどかを、マミさんは優しく気遣ってくれる。

その一言だけで、彼女がちゃんと自分達の安全を守ってくれているだろうという安心感を得た。

 

(それにあの子だって、人前で襲ってくるようなマネはしないはずよ)

(なら良いんだけど…)

 

まだ少し不安そうな様子ながらさやかも納得した。

 

まあ確かに、これ程人に目立つ場所であんな奇抜な格好をする度胸は奴にもあるまい。

あったらあったで即通報されるしマミさんが飛んでくるしで録なことにならないのは確かだ。

むしろキュウべえにとってここ程安全な場所は無いだろう。

 

 

…いや、そもそもこいつって殺せるんだろうか?

 

 

頭をよぎるのは昨日の記憶。

デパ地下に無造作に転がされていた、死骸の山。

 

「……」

 

あの死体、大きく損傷したものばかりで正確な形状は分からなかったが、あの白い身体と小動物的なフォルムは余りにもこいつと似通い過ぎている。

 

それにあれがキュウべえだったになら、丁度暁美ほむらがこいつの命を狙っていた事実にも一致する。

辻褄があってしまうのだ。

 

だからこそ、より解せなくなる。

 

あれがキュウべえの死体だったなら、今ここにいるコイツは何だというのだ。

 

 

(キューブリック、お前さ)

 

それとなく、キュウべえに念話を送ってみる。

自分でどれくらいまでテレパスを操れるのかは定かでないが、出来るだけまどかとさやかには気取られないよう慎重に念じた。

 

(僕の名前はキュウべえなんだけど)

(それは別にどーでもいい)

(君たちにとって名前は重要な記号だと思っていたんだけど…)

 

グチグチ細かい事を気にする魔法生物の言を無視し、単刀直入に切り出す事にした。

 

(お前って兄弟とかいるの?)

 

その言葉を放ってからしばらく、キュウべえは何も言わずに黙っていた。

俺の言葉に思い当たる節があるのか、はたまた思い当たる節が全くなくて意味を図りかねているのか、ただ沈黙を守っている。

 

そろそろ何かもどかしくなってきた頃になって、思い出したように頭の中へ返答が届いた。

 

(君たちの使う意味での兄弟はいないと言えるんじゃないかな)

 

(…なんだそれ)

 

よく分からない台詞だった。

なんかはぐらかされている様な気がして少し腹が立った。

やっぱりこいつ、何だか苦手だ。

 

 

「あっ」

 

そんなやり取りをしていると、横からまどかのビクッとした声が聞こえてきた。

 

何だ、と思って彼女の方を見ると、その視線は教室の扉の方に向けられているのに気づく。

そこは丁度ある人物が入ってっきたばかりの所だった。

 

「…」

 

大きく目を引く黒髪に、スラッとした立ち姿。

 

暁美ほむらが、誰に挨拶するでもなくただ教室の扉の前で案山子みたいに突っ立っていた。

 

(げ、噂をすれば影)

「ご本人登場ってやつさね」 

 

俺の呟きが聞こえたのか只の偶然か、教室を見回していた暁美の視線が俺達の方を向いて止まる。

 

「んぅ…」

 

正確には、まどかの方と言うべきか。

 

昨日と同じように彼女の視線に晒されたまどかが、居心地悪そうに首をすくめる。

 

だが昨日と違って、暁美はまどかだけに注目してはいなかった。

視線が少しずれ、まどかの隣に立つ俺の顔に直撃する。

そのまま彼女の瞳の位置が、俺に固定された。

 

「……」

「よっ」

 

取り敢えず手を上げて軽く挨拶してみる。

案の定彼女からのリアクションは無い。

 

気のせいか、眉が不機嫌そうにピクリと動いたようにも見える。

ただ、暁美が何を言いたいのかは何となく分かった。

 

 

多分、何でまだまどかの隣にいるのか、と言いたいのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あの転校生も、えっとその…魔法少女なの?マミさんと同じ」 

「そうね。間違いないわ。かなり強い力を持ってるみたい」

 

昨日一通り魔女退治に関する説明が終わり、そろそろ大分日も落ちてきていた頃、さやかとマミさんがそんな話を始めた。

 

暁美が魔法少女である事自体にさほど驚きは感じなかった。

まあそうでなければ、あの時常人離れした身体能力で魔女の手下を殲滅できたことに説明がつかないだろうし、当たり前っちゃ当たり前だ。

 

…というか魔法少女でも何でもないのに、あんな格好で白昼堂々歩いていたならむしろそっちの方が怖い。

 

しかしマミさん直々に強い力を持っていると言われるとは、意外と大した奴だったのだな、暁美ほむらというのは。

 

「あの、何か念力みたいなのそんな凄いものなのか」 

 

俺の呟きを聞いたまどかが、興味を持ったのか俺に小声で言ってくる。

 

「念力って?」

「いや、なんか敵の動きを止めたり手を使わずに粉砕とかしてたからさ」

「へぇ」

 

しかし実際彼女の言う強い魔法というのは何なのだろう。

説明しながら自分でも少し疑問を抱く。

俺の主観から勝手にテレキネシス扱いしてるが、事が魔法なだけにそんな単純な能力では無いのかもしれない。

 

マミさんの魔法がどういうものか俺は見たことが無いから分からないが、彼女が認めるだけの強さを誇る魔法とは一体…?

 

「でもそれなら、魔女をやっつける正義の味方なんだよね?それがなんで、急にまどかを襲ったりしたわけ?」 

 

さやかがマミさんに質問を続けている。

それはこの場に来た3人共通の疑問でもあった。

 

マミさんの語る魔法少女のイメージと、ついさっき俺達の前に現れた暁美ほむらの姿がしっくり合わないのだ。

 

「彼女が狙ってたのは僕だよ。新しい魔法少女が産まれることを、阻止しようとしてたんだろうね」 

「え?」 

 

口を挟んできたキュウべえの言に、思わずまどかが唖然とした声を上げた。

さやかも同じように、言ってる意味が分からない、といった様子で口を開けている。

 

「何で?同じ敵と戦っているなら、仲間は多い方がいいんじゃないの?」 

 

さやかの当然の疑問に、少し痛ましそうな顔をしたマミさんが答える。

 

「それが、そうでもないの。むしろ競争になることの方が多いのよね」 

 

競争。

彼女の口から放たれたその言葉は、正義の味方には余りにも似つかわしくない響きがした。

 

「そんな…どうして」 

 

ショックを受けたような顔で呆然と呟くまどかに、マミさんも苦しそうな声で一言一言説明を伝えていく。

 

「魔女を倒せば、それなりの見返りがあるの」 

 

見返り。報酬。景品。

つまり魔女を倒す事は魔法少女にとって何かメリットのある行為であるということか。

 

「だから、時と場合によっては手柄の取り合いになって、ぶつかることもあるのよね」

 

静かに語られたその言葉には、どんな理路整然とした説明も越える重みが感じられた。

彼女には、そういう経験があったってことなのか。

そう考えると、何となく声が掛け辛くなった。

 

「まあ確かに見返りがなきゃ割に合わなさそうですしね」

 

誤魔化すように一応笑って見せるが、それでもあまり場の空気が変わったようには思えなかった。

 

「って事はアイツは、キュウべえがまどかに声掛けるって最初から目星を付けてて、それで朝からあんなに絡んできたってわけ?」 

「たぶん、そういうことでしょうね」

 

「むぅん…」

 

さやかの言が正しいとするなら、確かに暁美ほむらが今朝からまどかに執着していた理由も納得がいく。

モール地下の時もまどかの行動を監視し、彼女がキュウべえと接触するところを先回りしてその命を奪うつもりだったのだろう。

 

全てはまどかが契約するのを阻止し、新たな魔法少女の出現を防ぐため。

 

疑いを挟む余地のない真っ当な理屈だ。

 

だが、しかし…。

 

「本当にそうなのかな…」

 

まどかが、どこか引っ掛かかるような様子でそう呟く。

 

小声で俯きがちに呟いたので、さやかやマミさんには聞こえていなかったが、すぐ傍らにいた俺には何とか聞き取る事が出来た。

 

 

「……」

 

 

確かに暁美ほむらを手柄欲しさにキュウべえを襲った悪女と断ずるのは容易い。

もちろんマミさんの話を疑うつもりはないし、彼女の考えがそれほど的外れな理屈だとも思わない。

 

だが何故か、心の中に何か引っ掛かるものを感じる。

 

何だというんだ?それは。

 

さやかは、暁美ほむらがまどかが魔法少女になり得る事を予め察知して狙ったと言った。

 

なら、それを知ったのはいつの話だ?

 

まどかは暁美と会ったことが一度も無いという。

実際彼女は転校生で、この街に来てから日が浅い。

それなのに以前からまどかの資質を知っているのはどういう訳か。

 

引っ越ししてから転校までの間にはいくらか時間があるだろうし、その間に暁美がまどかの事を一方的に見けていた、といえば理屈は一応付けることができる。

 

何なら、彼女自身に魔法少女の資質を測る能力があれば、今朝がたまどかを発見し、そのターゲットを定めたという線だってある。

しかしこれだけの強い理屈を付けながら、尚違和感が拭えない。

 

 

何故彼女はあれほどまどかに執着しているのだろう。

 

本当に、ただ邪魔だという理由だけで、あれほど個人に執着するものだろうか。

 

いや、待て。

個人?

 

そうだ、そもそも…。

 

 

「何で、まどかなんだ…?」

 

 

口呟かれた小さな疑問は、誰の耳にも届かず口の中で消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(気にすんなまどか。アイツが何かちょっかい出してきたら、私がぶっ飛ばしてやるからさ!マミさんだってついてるんだし) 

「う、うん…」

 

頭に鳴り響く騒がしい声に意識を引き戻されて気付くと、やや怯えた様子のまどかを、さやかがビシッとした台詞で勇気付けていた。

 

(そうよ、美樹さんはともかくとして、私が付いているんだから大丈夫。安心して?) 

 

姿は見えないながら、マミさんもテレパシーでまどかに優しく呼び掛けてくれている。

マミさんはああ言いこそしたが、暁美との間を壁のようになって隔てるさやかも、まどかにとっては頼れる味方だ。

ちゃんと彼女達は、まどかの親友として、先輩として、まどかの事を守ろうとしている事が分かる。

 

だから、俺も出来る事をしなければ。

 

(ともかくってゆーな!…ってテツヤ!?)

 

まどか達の席から離れ、スタスタとどこかへ歩き去る俺の姿に、さやかが驚きの声を上げる。

 

「あんた、ちょっと何する気よ!?」

「んー、いや」

 

恐々としている後ろの二人を尻目に、俺が足を向けるのは、丁度まどかの席の斜め上方向。今しがた教室の扉を開けた人が、その尻を埋めた場所だ。

 

「なんつーか友達作り?」

 

つまるところ、暁美ほむらの席である。

 

背中に困惑と不安の入り交じった二人の視線を感じながら、暁美の席までたどり着くと、こちらの接近に気付いた暁美が、機械的な動作でその視線を瞬時に俺の方へと寄越した。

 

「へいよーぐっつすっす。ゴキゲンな朝だなベイビー」

「…私に何か用でもあるのかしら?」

 

俺のおちゃらけた挨拶に、彼女は何の感情も見せず素っ気ない返答を送ってくる。

心持ち不機嫌そうな様子に見えたが、よくよく考えればこいつの機嫌の良いところを見たことが無いので、判断の付けようがない事に気づいてしまった。

 

「別に、ちょっち世間話をしに来ただけだよ」

 

暁美の周囲には、昨日よりは少ないながらも彼女を面白がって集まった他のクラスメイト達がひしめき合い、俺達二人の話す内容について何やら噂をし始めていた。

別に学校の噂になるのは吝かでは無いが、彼ら彼女らにこの会話の内容を聞かれるのは不味い。

 

だから、他のみんなに聞こえないような方法で囁いた。

 

(なあ?マホーショージョさん)

 

「…っ」

 

念話として届けられたその言葉が伝わったせいか、暁美の視線がやや鋭くなる。

瞳の奥ががやや揺れるているように見えるのは、彼女の動揺によるものか、それとも単なる俺の勘違いか。

 

しばらして彼女はスッと表情を消すと、誰にも聞こえないくらい低く小さな声を出す。

 

「やはり、あなたは只の例外って訳じゃないらしいわね」

「…只の例外だかどうだか知らんけれど俺は変らしいな」

 

本来魔法少女の資質が無ければ出来ないテレパシーによる会話。

それを俺が操れるという事実に驚きながらも、彼女にとってそれはさほど想定外の事では無かった様子だった。

 

只の、という響きに若干の引っ掛かりを覚えながら、無視して彼女との対話を続行する。

 

「昨日あんたが言ってた事、こういう意味だったのか」

 

あなたは一体何者か。

あなたは一体何なのか。

 

彼女から浴びせられた、要領を得ない不可解な質問の数々。

それは彼女が最初から俺の異常性に気づいていたせいだったという訳だったのだろう。

 

その真意を問い質そうと詰め寄ってくる俺に、彼女は臆した素振りも見せずただ険の籠った視線を返してきた。

 

「そう。昨日の言葉を覚えているのなら、私があなたにした警告も覚えてるわよね」

「んにゃ、悪いが記憶には自信が無いんだ」

「私達に関わるな、と言ったのよ」

 

勿論、昨日受けた彼女からの警告はしっかりと覚えていた。

 

まどかに関わると後悔する。

 

そんな意味不明で何の根拠もない妄言のような一言。

だが、それほどまでに自分とまどかの接触を嫌う理由が分からないのが気になっていた。

 

「残念ながら、俺はもう十分過ぎるくらい深く関わっちまってると思うんだがね」

 

生憎彼女の言う事に従う気はない。

日常の裏に隠されていたこの世界の真実に、そして自分自身の謎に気づいてしまった以上、黙って魔法少女の存在を見て見ぬ振りは出来ないと思う。

それに何より、他人の指図でまどか達との繋がりを失いたくは無かった。

 

「あなたは…何が目的なの?」

「そりゃあこっちの台詞だろう、お前こそ何の目的でキュウタロスだかを狙う」

 

互いに問い詰め合う二人。

これではどちらが質問者か分からなくなってしまう。

 

「あなたが知る必要はないわ」

「お前…!」

 

頑なに返答を拒む暁美の態度にややじれったくなり、少々語気を強めて彼女に迫る。

だが暁美は表情を一片も崩さず、無言と言う名の防壁で俺からの詰問を弾き返していた。

 

「………」

 

互いに何も言えなくなり、しばし無言の時が流れる。

どちらも引く様子を見せず、沈黙が苦痛となってきたその時、終わりは唐突に訪れた。

 

 

 

「えーっと、二人とも?そろそろHRを始めますので自分達の席に…」

 

 

教卓から聞こえてきたその呼び声に顔を向けると、いつの間にか教室に入っていた早乙女先生が、無言で見つめ合う俺達の姿を困り果てた顔で眺めていたのに気付く。

頭上では始業を告げるチャイムが鳴り響き、着席しない無法者達へ警鐘の音を鳴らしていた。

 

流石にこれ以上話し込むのは不味そうだと判断し、ここは一旦引くことにした。

 

知らぬ間に剣呑としていた表情を即座に切り替え、元通りの明るい調子で暁美の席を後にする。

 

「んじゃまたな、ほむさんや」

「気安く呼ばないでくれるかしら」

「ハッハ、冷たいねえ」

 

素っ気ない返答をする彼女に、キツイなあと思うと同時に律儀だなあとも思った。

 

自分の席に向かう途中、さっきからソワソワとこちらを見守っていたまどか達の席の前を通る。

ずっと心配して待っていたらしいまどかは、戻ってきた俺に対して安堵半分困惑半分といった様子で、

 

「テツヤくん、さっきは何のお話してたの…?」

 

と聞いてきた。

 

「悪い、何も分かんなかった」

 

そう一言だけ彼女に告げ、自分の席へと戻っていく。

結局、体当たりしたは良いものの何の成果も得られず終わってしまった訳だ。情けない。

 

「暁美ほむら…」

 

そんな呟きを漏らしながら、素知らぬ顔で席に着き、待機状態を装う。

 

今日の早乙女先生は、また昨日のように愚痴を言うのかそれとも、新たな恋の話でも始めるのか。

何にせよ、今日の学校が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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