魔法少女まどか☆マギカ異編 <proof of humanity>   作:石清水テラ

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第19話 「大丈夫。負けるもんですか」

 

 

 

 

 

 

「頑張って。もうすぐ結界の最深部だ」

 

キュウべぇの声が、冒険の終わりを告げる。 

 

結界の奥は、細長い通路のようになっていた。

使い魔が襲ってくる様子もなく、ただどこへ続くとも分からない狭い道で前へ進むだけ。

マミさんの探知が間違っていないならば、この近くに魔女の結界の最深部であるという。

ならばこの道こそが、その最深部へと続く通路なのか。

 

「何も来ないってのは、それはそれで不気味だな…」

 

おぞましい壁や天井の模様を眺めながら、つい口からそんな言葉が出た。

何もない道ながらも、変わらず辺り一面には草花等の雑多なモチーフがコラージュのように貼り付いている。

 

さっきから思ってるのだが、これだけ人間離れした異形の存在でありながら、魔女の結界に髭とか薔薇とかハサミ等々の人間的なモチーフが多いのはどういう訳だろう。

魔女は人間の呪いから生まれる、みたいなことを前に聞いたけど、その辺が関係してるのかもしれない。

 

「──!─!!」

 

前方に敵の気配アリ。

通路の先、行き止まりとなっている壁に数体の使い魔が密集しているのが見える。

タイプは飛行型でドロドロのあいつだ。

 

マミさんが即座に足を止め、後ろの俺達を制止する。

そして瞬時にマスケット銃を複数生成、使い魔に向けて連射。

 

閃光が瞬き通路を赤く照らすと、前にいた使い魔達は抵抗する間もなく全て一撃で貫かれ破裂した。

 

「行き止まり?……いや、これは─」

 

この道の先が結界の最深部だというなら。

今撃ち落としたのはただの野良使い魔なんかではない筈だ。

 

 

そう思った瞬間、その扉は解放された。

 

 

弾け飛ぶ使い魔と合わせたように、行き止まりの壁が蝶番で勢いよく開け放たれる。

さらにその奥の扉、そのまた奥の扉も連続して開放され、めぐるましく変わる空間の奥へと押し出されていく。

 

吸い込まれるようにその扉の先へと前進、…それとも逆に扉の方が迫っているのか。どちらであれ何かに迎え入れられるような奇妙な感覚の中で、いつしか自分たちは狭苦しい通路とはうって変わって広大な空間へと放り出されていた。

 

 

 

 

 

 

「─ッ」

 

周辺空間の唐突な変化に酔いかけながら、辺りを見回して状況を確認する。

 

だだっ広い円形の大地に、ドーム状になった壁と天井。

眼下にはこれまで目にしてきたのと同じ、薔薇のような草花が見渡す限りの大地を埋め尽くしているのが見えた。

 

後ろを振り返れば、そこはさっきまでと同じ細長い通路。

どうやら自分たちは、丁度この半球形の空間に繋がった道の出入り口に立っているらしい。

ここは地面より少し高い位置にあるらしく、目の前に広がるその広大な庭を余すとこなく俯瞰する事が出来た。

 

「……これが、結界の最深部」

 

改めて、その景色を精査する。

 

そこは見渡す限りに咲き誇る薔薇の園。

 

豪奢なテーブルや椅子が花に囲まれ佇むが、人間が使うとは思えないサイズなのが強烈な違和感を与える。

 

光射す天井の近くを蝶飛び交い、使い魔達が小間使いのように走り回る様子は、この世のものとは思えないほど幻想的で、同時にグロテスクでもあり、猟奇的とすら言えた。

 

 

その薔薇園の中心に、ソイツはいた。

 

 

「見て。あれが魔女よ」

 

マミさんが、結界の中心に居座るソイツを指して言う。

 

「─!?」

 

その異形の存在を視界に捉えた瞬間、思わず息を呑んだ。

 

それは、他の使い魔や蝶とは一線を画す異様な物体だった。

 

人間の数十倍はあろうという巨体を誇りながら、重量感を感じさせぬ油絵の落書きみたいな、視覚に混乱をもたらす奇形の容姿。

 

地上に生えているのと同じ薔薇が生えた、ドロドロの髪みたいな緑色の頭頂部が、濁った赤色をした無機質な胴体にぶら下がり、触手や植物の根にも似た黒色の脚が、そこから無数に伸びちらかっている。

 

背中に生えた毒々しい色合いをした蝶の翅が、ソイツがこの結界に蔓延る者共の根源である事を暗に物語っていた。

 

これが、魔女。

 

呪いから生まれ、絶望をもたらす異形の存在。

憎むべき人類の敵であり、魔法少女が戦う宿命を背負ったもの。

 

魔法少女の敵。

ひいてはマミさんの敵。

 

そしておそらく、暁美ほむらの敵でもある。

 

 

“─…ゲ…トル…ト…─”

 

 

「…ッ!!」

 

胸の中で、再び何かが跳ね上がるのを感じた。

結界を探知した時と同じ、濃密な怨嗟の気配が胸を貫く。

やはり反応しているのか。目の前にいるあの魔女に。

 

薔薇園に佇む魔女…。

 

言うなれば、“薔薇園の魔女”か。

 

「うっ、グロい…」

 

 さやかが魔女の異様な姿に思わず顔をしかめる。

その感想には、おそらく常人であるならば誰もが同意を禁じ得ないだろう。

 

人間的な形状が排されたあの名状し難い怪物体を前にして、生理的嫌悪感を抱かない人間はほとんどおるまい。

 

「魔女……って言うような見た目じゃないでしょアレ…」

 

小刻みに揺れ動く魔女の異形は、まじまじと見れば見るほど頭を混乱させていく。

それぐらい、ソイツは一般的に人が描く魔女というイメージとはかけ離れていた。

 

本当に何がどうなれば、あんな色覚への暴力みたいな容姿に生まれてくるのだろう。

自分が前に目にしたやつの方が、まだ女性的で人間らしいビジュアルをしていたと思う。

 

(…ん?)

 

あれ、俺、今、何かおかしな事を言ったような…。

 

「あんなのと…戦うんですか…?」 

 

まどかが肩をすぼめ、不安げにマミさんを見やる。

 

確かに、あの魔女はさっきまでの使い魔とはまるで違う。

せいぜいマミさんの頭一つ分あるかないかといった大きさの使い魔達に対して、薔薇園の魔女の体格は、マミさんの数十倍にも迫るサイズだ。

いかに常人離れした魔法少女といえど、あの巨体と渡り合えるものだろうか。

 

「大丈夫。負けるもんですか」

 

そんな俺達の不安を吹き飛ばすような、自信に満ちた笑みでマミさんは堂々とそう言い放った。

 

そしてさやかから強化バットを借り受けると、結界の地面へと勢いよく突き立てる。

地面にバットが触れた瞬間、その表面を加工していた魔法のリボンが解放され、通路の壁や床中にキーアウトテープの如く何十にも張り巡らされた。

 

「下がってて」

 

一言、そう言い残すと、マミさんは一人出入り口から飛び降り、結界の最深部へと単身乗り込んでいく。

 

出入り口は魔法のリボンによって完全に封鎖され、残された自分たちはリボンの結界の中でその背中を眺める。

 

ここで見ていろ、という事らしい。

魔法少女と魔女の戦いというものを。

 

「マミさん…」

 

隣にいるまどかは、手を固く握りしめて立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

「─フッ」

 

最深部に飛び込んだマミさんは、音も立たないほど軽やかに庭へと降り立つと、足元にいる小さな使い魔を無造作に踏み潰して、敢然と薔薇園の魔女を見据えた。

 

「─!!!」

 

そのマミさんの姿を目に止めた瞬間、薔薇園の魔女は激しい反応を示した。

近くにある巨大な椅子をその触手で弾き飛ばし、一瞬で天井まで舞い上がる。

 

吹き飛ばされた巨大な椅子はマミさん目掛けて落下する。

当然そんなものを見切っていた彼女は、後方へ飛び退き、余裕でそれを回避した。

 

そして着地した彼女は、まるで魔女に一礼するかのようにスカートの裾を摘まむと、そこから大量のマスケット銃が飛び出し、大地に突き刺さる。

さらにベレー帽を手に取って目の前でそれを横に凪ぐと、帽子の中から銃がもう数十丁ほど生成される。

 

やがて生成された全ての銃が地面に刺さった頃には、マミさんの周囲の銃器はゆうに十を越す数に増え、そに一帯は銃器の剣山と化していた。

 

マミさんは一番近くにある一丁を手でひっ掴むと、躊躇なく魔女に銃口を向けて引き金を引いた。

 

開戦の狼煙が上がり、激しい銃撃音とともに放たれた銃弾が魔女の元へと音速で迫る。

 

「─!───!!!」

 

だが、薔薇園の魔女はその巨体に見合わぬ軽やかな挙動で宙を舞い、その銃撃を回避した。

 

初撃は不発。

どうやらあんな紙細工みたいな翅でも、お飾り以上の能力は持っているらしい。

 

けれど、マミさんだってそれぐらいの事は想定済みだ。

すかさず撃ち終えたマスケットを放り捨て、周囲に突き立つ無数の銃から一丁を選び取り、上空の魔女へと追撃を掛ける。

 

「──ッ!──ッ!」

 

弾けるような銃声が、連続して耳朶を打つ。

撃っては捨て。撃っては捨て。

単発式の銃を大量生成する事により可能とされた、マスケットの連射攻撃。

その絶え間ない砲火が魔女に襲いかかり、結界内を赤い火花で照らし出す。

 

しかし、薔薇園の魔女もさるもの。

使い魔達の何倍もの的の大きさでありながら、見かけによらぬ高い機動力でマミさんの銃撃を的確に回避していく。

 

「すごい戦いだな…」

 

マミさんの銃は未だ薔薇園の魔女を捉えられていないが、魔女の方も彼女の銃の威力を警戒しているのか、回避に徹し続けている。

双方決定打は与えられないまま、両者の戦いは拮抗しているように見えた。

 

そう思った瞬間に、戦況が変化する。

 

「…あっ!?」

 

驚愕の声。

それを上げたのはマミさんだった。

 

知らぬ間に、さっき踏み潰したのと同じ小型の使い魔がマミさんの足元に密集して群がっているのが見えた。

 

「あんなの、いつの間に…!」

 

おそらくは、さっきの銃撃戦の最中、足元への注意が疎かになった時だろう。

 

無抵抗に見える魔女が、あらかじめこのつもりで使い魔を待機させたのか。それとも防戦一方の主を救うために使い魔が駆け付けたとでもいうのか。

 

どちらであれ、足元から列を為して這い上がってくる使い魔の群れに、マミさんの銃撃が妨害され、動きが止まる。

 

「…っ!」

 

すぐさま振り払おうとするマミさんだったが、瞬間、使い魔の列がその形状を変化し、鋭い刺の生えた蔓へと姿を変えた。

凶悪な拘束具と化した使い魔は、そのままマミさんをキツく縛り、その身の自由を完全に奪った。

 

「あぁっっ…!!」

 

蔓に捕まったマミさんの身体が、大きな力で引き寄せられ、宙へと浮かぶ。

 

使い魔の変化した蔓は、そのまま魔女の身体と繋がっていた。

魔女にその身を捕らえられたマミさんは、その蔓によって、思うがままに振り回されてしまう。

 

「くっ…!ぅ…ぇぁあ…っ!!」

 

なんとか脱出しようともがくマミさんは、自由な腕を使ってマスケット銃をがむしゃらに乱射するが、どれも魔女にはヒットせず、結界に弾痕をまばらに穿つのみだ。

 

その抵抗を煩わしく思ったかのように、魔女は振り回していたマミさんの身体を、思い切り結界の壁へと叩き付ける。

 

「うぅ…あっあぁぁっっ!!」

 

蔓が唸り、轟音が響き、土煙が舞うと、結界の壁が大きく陥没し、マミさんの身体がそこへめり込んだ。

 

「なっ…!?死ん…ッ!?」

 

─だ、とまで言いかけた所で口をつぐむ。

 

モクモクと立ち昇る土煙が薄らぎ、その向こうにぼんやりと彼女の姿が確認できたからだ。

マミさんは、あの痛烈な一撃を受け、苦悶の表情を浮かべながらも尚、五体満足のままそこにあった。

 

マミさんの…いや、魔法少女の肉体は、あれだけの攻撃に素で耐えきれたというのか。

一体どういった変身を遂げれば、人間の身体があれだけの耐久性を持つのだろう。

 

だが、いかに身体が無事でも、その身体は未だ動きを封じられたままでいる。

薔薇園の魔女は、内壁からマミさんを引き剥がすと、蔓を使ってこれ見よがしに身体を宙高く持ち上げ始めた。

 

「あぁっ…!」

 

さやかが堪らず声を漏らす。 

 

脚部を拘束されているマミさんは、魔女の蔓によって、丁度逆さ吊りにされる形となってしまった。

 

「─ッ」 

 

これは、もしかしてヤバいのか。

マミさんが魔女に追い詰められる姿を目の当たりにしながら、一人ただ歯噛みする。

 

これが、命を賭けた魔法少女の戦い。

自分のような矮小な1個体が介入する隙間もない超常の争い。

それを目の前にして、何をする事も出来ない我が身が、ただただ恨めしい。

 

「マミさあああああーんっ!!」

 

耐えきれなくなったまどかの、悲痛な叫び声が響く。

 

 

その時だった。

 

さっきまで魔女にされるがままにされていたマミさんが、変わらぬ余裕の微笑みでこちらを見たのは。

 

そして、まどかの声が聞こえていたかのように、一言。

 

「大丈夫。未来の後輩に、あんまり格好悪いところ見せられないものね」

 

とだけ呟いた。

 

 

そして、それは起こった。

 

「───!!!」

 

薔薇園の魔女が、何かに対して急に激しい反応を示す。

 

魔女はマミさんを放置したまま、結界のある一点にその関心を集中させていた。

 

それは、結界を彩る薔薇たちの庭だった場所だ。

しかし今、その大半がいつの間にか散りゆき、跡にはおびただしい弾痕が残されている。

 

おそらく原因は、さっき拘束されたマミさんが振り回されながら乱射していた銃弾だろう。

がむしゃらに放たれた弾丸は、結界の至るところに弾痕を残し、咲き誇る薔薇達を荒らしまくっていた。

 

だがその効果は、ただ魔女を怒らせただけでは無かった。

 

「─────!?!??」

 

結界に残された弾痕から、何か黄金色の光のようなものが立ち昇る。

 

それも一本や二本ではない。

残された弾痕の全てから、何十本という光の線が伸びて、結界の中を蠢き始めていた。

 

その形状に、見覚えがあった。

 

「あれ、マミさんのリボン…!?」

 

結界に侵入する前、民間人の救出や武器の強化に使われていた、魔法のリボン。

それと同じものが、どうしてかマスケット銃の弾痕から出現している。

 

これを見越して、仕込んだっていうのか…!?

 

「──!!─!!!!」

 

結界を荒らされて怒り狂ったかのような、激しい唸り声が薔薇園の魔女から上がる。

その攻撃意思の発現が如く、身体中から使い魔と同じ連結鋏が無数に生え出し、不快な音を掻き鳴らす。

 

だが、その刃をマミさんに向けるより先に、魔法のリボンが一斉に伸縮し、薔薇園の魔女へと絡み付き始めた。

 

激しくもがき、鋏で拘束を裁ち切ろうとするも、束になって襲いくるリボンの群れに、為すすべもなく身体の自由を奪われていく。

やがて数秒とかからぬ内に、今度は魔女の方がその身を完全に拘束され、動きを封じられていた。

 

「惜しかったわね」

 

さっきまでの苦悶の表情はどこへやら。

完全に余裕を取り戻したマミさんは、胸元のリボンを引き抜くと、それで纏わりついた蔓を無造作に切断して拘束から抜け出してしまう。

 

もはや数秒前とは完全に優位が逆転していた。

 

身動きの全く取れない魔女に対して、身体の自由を取り戻したマミさんは、自由落下しながら逆さ吊りの体勢を戻し、真っ直ぐ標的を見据える。

そして手にしたリボンを構え、巨大な必殺の武器へとその形状を変化させていく。

 

現れたのは、身の丈以上もある巨大な一丁の銃だった。

 

形状や構造自体はこれまでのマスケット銃と変わらない。

だが銃身が以上なまでに肥大化しており、その口径は戦艦の主砲にも匹敵するサイズにまでなっている。

 

その巨大必殺兵器を両手で構え、マミさんは空中で魔女に狙いを定めた。

 

 そして叫ばれる、必殺の名。

 

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

 

叫びとともに巨大な撃鉄が下がり、鮮やかな火花を宙へと散らす。

同時にその巨大な銃口から、それに見合う超弩級の銃弾が烈火の勢いで噴き出し、結界中を閃光で染め上げた。

 

 

「!──!!─!───!!!───!!!!─!!───!」

 

 

放たれた深紅の火線は、狙い違わず魔女の頭部を直撃し、その肉体を塵すら残さぬまで完全に焼き尽くしていく。

肉体の大部分を欠損した薔薇園の魔女は、そのままその身を光に変え、完全消滅した。

 

必殺の一撃を放ち終えたマミさんは、巨大な銃を霧散させると、軽やかに地上へと降り立つ。

 

 

「あ……勝っ、た…?」

 

1分にも満たない、怒涛の逆転劇。

途中の苦戦が何かの茶番にすら思える程、あっさりと魔女の脅威はマミさんの前に敗れていった。

 

 

「…フフッ」

 

戦いを終えたマミさんが、いつも通りの上品な笑顔で俺達を見つめ返していた。

 

 

 

 

 

 









な、何とか3月中に更新出来た…。
しかし、魔女戦って思った以上に書きにくいっていうか、魔女そのものを形容するのが難し過ぎますねこりゃ。

これからまた忙しくなっていくのだし、来年もちゃんと更新し続けられたらいいなぁ、と。
次回も楽しみにお待ち下さい。

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