魔法少女まどか☆マギカ異編 <proof of humanity>   作:石清水テラ

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第2話 「あなたは一体何者なの」

見滝原中学校への転校初日。

 

俺はクラスでの自己紹介を終え、晴れて見滝原中学生の仲間入りを果たした。

 

初めて目にする様々な光景を前に戸惑うばかりだが、そんな時は心優しいクラスメイト達が自分を助けてくた。

 

そうして、信頼出来る仲間達との輝かしい青春の1ページが今…!

 

 

「開かれねえなぁ…」

 

 

自分に与えられた教室の一番隅の席で一人溜息をついた。

 

一限目が終了し、現在は放課の時間。

その間に生徒達はそれぞれ移動し、自分達の好きなように時間を潰している。

その結果、今の教室は5つのグループに分かれていた。

 

一つ、そそくさと席を立ち友人達となにやらくっちゃべっているものたち。

 

二つ、何に関心を寄せることなく次の授業の準備を始めるものたち。

 

三つ、遠巻きに転校生達を眺めながらヒソヒソ話をするものたち。

 

 

そして四つ目は…

 

「暁美さんって、前はどこの学校だったの?」

「東京の、ミッション系の学校よ」

 

「前は、部活とかやってた?運動系?文化系?」

「やって無かったわ」

 

話題の美少女転校生、暁美ほむらさんとやらを囲んで質問責めにしているものたちだ。

 

黒髪をたなびかせ颯爽と現れた彼女の存在は、瞬く間にクラス中の興味を掻っ攫ってしまった。

 

今やクラスの女子の大半が彼女の周りに詰めかけ、それ以外の生徒達も遠巻きにその様を覗き見しつつ、各々の噂話に花を咲かせているらしい。

 

なんか、動物園の新入り動物みたいな扱いだった。

 

(お陰様で、こっちは静かすぎるくらいなんだけどな…)

 

そう、最後の五つ目。

 

それは誰にも話し掛けられず、注目される事もなく、ただ暇を持て余しているもの。

つまりは、俺の事である。

 

クラスの注目が転校生の内の一人、暁美ほむらに集中した結果、自分の存在は完全に忘れ去られてしまっていた。

 

「転校生ってもっとこう、チヤホヤされるものじゃ無かったっけ?」

 

その問いに答えてくれるものは何処にもいない。

当然だ。暁美ほむらと違って自分の席の周りには誰一人来ていないのだから。

 

「一体何がいけなかったんでしょうかねぇ…?」

 

そりゃ自分が転校初日に話題を一人占めできる程のカリスマを持った美少年だ思えるほど自惚れちゃいない。

が、それでも人生で一度出会うか出会わないかって感じのダブル転校生の片割れだろうに。

何故こうも注目されていないのだ。

やっぱあれか。美少年じゃなきゃダメなのか。

 

「世間はよぅ…冷てえよなぁ…」

 

クッソウ、結局皆顔なのかよ、と胸の中で毒づく。

声には出さない。

いい加減独り言を言い続けるのも辛くなってきたからだ。

 

(いいや、暇だし俺も混じろう)

 

そんな訳で結局自分も美少女転校生を遠巻き眺めてみる事にした。

 

こうやって自分から動こうとしないので、人から話かけられないのかもしれない。

 

 

「すっごいきれいな髪だよね。シャンプーは何使ってるの?」

 

視線を暁美ほむらに戻すと、彼女への質問責めはまだ続いていた。

彼女はそれらに対して何ら動じることなく淡泊な答えを返し続けている。

 

(暁美ほむら、ね…)

 

言うなればクールビューティの権化。

少し悪い言い方をすればどうしようもない鉄面皮といったところか。

 

それが、教室に入る前、職員室で会ったときから変わらない、彼女への第一印象だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あなたが、暦海テツヤ…くん…よね?」

 

「はい、そうですけども…」

 

少し、時間を前に戻そう。

これは、今朝学校に着いてから教室に行くまでの間のこと。

 

転校生である俺はまず職員室へ赴く必要があった。

そこでまず担任の先生と顔合わせをして、ある程度転校にあたる説明を受けてから教室へ、という手筈だ。

 

そういう訳で現在、自分の担任であるらしい眼鏡を掛けた温和そうな女性と顔を合わせている訳なのだが…

 

「……」

 

何故だか先生はこちらの顔をまじまじと見つめて黙りこくっている。

 

「あの…先生?」

「…え!?あっ、何でしょう?」

 

とりあえず呼びかけてみると、先生はハッと我に帰ったようだった。

 

「俺の顔、なんか付いてました?」

「あっ、いえ…そういう訳じゃないですけれど…」

 

先生は何か言いたそうな、でも言いたくなさそうな、微妙な表情でこちらに返事を返す。

言いにくいことでもあるのだろうか。

 

「…変わってない…」

 

先生が、ポツリと何事か呟いた。

 

「?」

 

うまく聞き取れなかった。

その時の自分では、聞き取れていてもどういう意味か分からなかったのだろうけど。

 

「えっと、私があなたのクラスの担任をしている早乙女和子先生です。これからよろしくお願いしますね」

「はぁ…あ、はい。こちらこそ」

 

気を取り直したのか、先生は改まって自分の名前を述べ、挨拶を交わしてくれた。

その暖かな笑顔からは、さっきまでの挙動不振さは微塵も感じられない。

 

結局、あれがどういう意味だったのかは分からず仕舞いだった。

 

「ハイ、それじゃあ早速教室へ…と、いきたい所なんですけれど…」

「なんですけれど?」

 

先生がまたもや言いにくそうな顔をしている。

一体何の用事があるのだろう、と逆に興味が湧く。

 

「実は、もう一人転校生が来る予定でして…」

 

「え」

 

その言葉に、ちょっとばかり驚いて硬直した。

 

「…同じクラスに?」

「はい」

 

「…転校生が二人同時に?」

「はい。そうなりますね」

 

「ワオ」

 

これは全くの予想外だ。

クラス人数が少なかったのかなんだか知らないが、こういう事ってあるものなのか、と無駄に感心してしまう。

 

(もう一人の転校生…)

 

一体どんな奴だろうか。

男子か、あるいは女子か。

かわいこちゃんか、格好良い野郎か、それともお嬢様タイプだったり。

病弱気弱な眼鏡っ子とかだったら、転校生のよしみで仲良くなれたりとかするかもしれない。ぐへへ。

 

そんな、妄想に片足突っ込んだ期待に胸を膨らませまくっていたその時。

後ろから、職員室のドアの開く音が聞こえた。

 

「失礼します」

 

女子生徒の声だった。

抑揚のない落ち着いた声。

 

今のが転校生…?

 

振り返るとそこには、腰まで届く程長い黒髪の少女が、悠然とこちらに向かって歩いて来ていた。

 

(…ぁ)

 

不覚にも、見ず知らずの女子に見惚れてしまう。

職員達が行き交う部屋の中、その歩みをまったく変えずに進み続けるその姿は妙な威厳があった。

彼女の動きと共になびく黒髪が、そこに幾分かミステリアス分をプラスしているようだ。

 

ん…?

 

突然、謎の既視感に襲われる。

 

黒い少女?

 

(こいつ、どっかで…)

 

その時感じた、妙な引っ掛かり。

それに答えを出すよりも、彼女が早乙女先生の席に辿り着くのが早かった。

 

「ああ。貴方が、暁美ほむらさんですね」

 

先生が彼女の名を呼ぶ。

 

暁美ほむら、と呼ばれたその生徒は先生に軽く一礼すると、こちらを一瞥してきた。

 

「…」

 

なんだか不可解なものを見るような目だ。

しばし民間人の目に触れたUMAの気分を味わう。

 

自分はUMAみたいな珍しいものじゃないはずだが、彼女は一体どういう意図でこちらを見ているのだろうか。

 

「私があなたのクラスの担任をしている早乙女和子先生です。それでですけど…」

「はい。なんでしょう」

 

先生はそんな彼女の様子を知ってか知らずか、彼女にもさっきしていたのと同じ挨拶をする。

そして会話の流れるまま、俺の紹介となった。

 

「紹介しますね。彼が、あなたと同じクラスに転校してきた、暦海テツヤくんです」

「あぁ、へい。どうも暁美さん…」

 

先生による紹介にあやかり、彼女に一礼する。

適当感溢れるこの挨拶を聞いて、彼女は…

 

「…っ!?」

 

目を見開いて、絶句していた。

 

ちょっと尋常じゃない驚きようだ。

確かに同時期に二人の転校生が同じクラスに、というのは驚嘆に値する事象だとは思う。

が、それにしたってこんな雷に打たれたみたいな衝撃を受ける程ではないのじゃないだろうか。

 

彼女のリアクションは静かでこそあったが、その表情は余りにも大仰だ。

具体的に言うと、亡霊が化けて出てきたのを至近距離で目にした人間の顔付きをしている。

 

この子は一体、何に驚いているというのだ…?

 

「あのぅ…暁美さん?」

 

先生もその様子を不思議に思ったらしく、暁美さんに再度呼びかける。

すると彼女は瞬時に表情を消し、来たときと同じ無表情で先生に向き直る。

 

「すみません。珍しいことですから少し驚いていました」

 

絶対嘘だな、と思った。

あれが彼女にとっての少しだというのなら、本気で驚いた時はそれこそ叫び出すしかなくなる。

 

「そう…ですか?」

「はい」

「それならいいですけど…」

 

先生は納得いかなげな顔をしながらもそれ以上の追及はしなかった。

 

そうして転校に関する説明が再開した。

 

暁美ほむらは顔色一つ変えず先生の話を聞いている。

その表情に、さっきまでの驚愕の色は見えない。

 

「むぅ…」

 

何だったんだろうか。あれは。

しばし首を捻った。

 

 

「それじゃ、そろそろ教室へ移動しましょう。二人とも準備はいいですか?」

 

先生の説明が終わり、ホームルームの時間が近付いてきたようだ。

 

「問題ありません」

「モーマンタイっす」

 

「それじゃあ暁美さん、暦海くん。先生について来てくださいね」

 

二人分の了解の返事を聞くと、早速先生は職員室の出口へ向かっていく。

そうなると、必然的に自分と暁美さんの二人がその場に残される形になった。

 

「…」

「…」

 

気まずい静寂がその場に流れる。

暁美ほむらが、ジッとこちらを見つめていた。

 

「あーっと…暁美さんとやら?」

 

静寂に耐え切れず、とりあえず彼女に声をかけてみる。

ぎこちなさを感じさせぬよう、ごく自然に。

親しみ易さを心がけた。

 

「…」

 

全くの無反応。

いや、心持ち目付きが鋭くなった気がする。

ちょっと傷付く反応だ。

 

「ないすつみーちゅー…とりあえず教室行こうぜ?」

 

それでも折れずに会話を続けようと努力してみる。

と、彼女の顔が少し動いた。

やがてその口が開かれ、そこから…

 

 

「あなたは、一体何者なの?」

 

 

予想外を超え意味不明とすら言える台詞が飛び出した。

 

「は?」

 

全く意味が分からず、ポカンと口を開けてしまう。

何か、聞き間違えたろうか?

 

「あなたは何者なのか、と聞いたのよ」

 

彼女は再度、その台詞を繰り返した。

どうやら聞き間違いでは無かったようだ。

 

それはそれでなおのこと理解に苦しむ。

この質問に一体どんな意味があるというのか。

 

自分が何者か、だと?

 

 

…俺は。

 

 

「いや、そんなこと俺は知らんよ」

 

ありのまま、思ったままの答えを口にする。

 

が、彼女はどうもこの返答が気に要らなかったらしく、少し眉を潜めて口を開く。

 

「…もしかしてふざけているの?」

 

何だかよくわからんが、彼女が怒っているのだけは分かった。

 

「これでも、大分真面目に考えた答えなんだがね」

「…そう」

 

その返答にますます彼女は目付きを険しくする。

 

顔はあくまで仏頂面だというのに、その目だけが尋常じゃなく鋭い。

視線に熱量があったら間違いなく俺の顔面は焼け爛れていただろうに。

 

「そうなのね。分かったわ」

 

しばらくすると、なんか勝手に納得された。

何かしらの疑問が解けたらしいのは何よりだが、こっちは完全置いてきぼりだ。

 

「いや…俺は何も分かんないんですけど」

「分からなくていいことよ」

「えぇ…」

 

彼女は何も答えてくれない。

その態度が何だか理不尽に感じた。

納得いったなら、せめて視線を緩めて欲しいものだ。

 

「二人とも、何か忘れ物ですかー?」

 

いつまでもついて来ない俺達を心配して、先生が呼びかけてくる。

 

「いえ、今行きます」

 

暁美がこちらに背を向け、さっさと職員室から出て行こうとした。

 

「あっ、おいちょっと!」

 

その背中を呼び止める。

それを聞くと彼女は首だけで振り返り、こちらに視線をよこす。

 

「…何かしら?」

 

それは、質問を受け付ける意味の言葉。

だがその実、彼女の目は言外に拒絶の意思を表している。

 

(下手な質問は、無視されるな…)

 

聞きたい事は腐る程ある。

だが恐らく聞き出せるのは一個だけだ。

 

「えっと…あのさ」

 

だから、彼女を初めて目にした時に抱いた疑問を。

兼ねてから覚えていた違和感を、口にする。

 

「俺達、前にどっかで会ったことないか?」

 

そう。

俺は確かに、彼女へ見覚えを…。

 

「無いわ」

 

「え、即答っすか…」

 

見事なまでに完全否定された。

もう少し思い悩む素振りぐらいしても良いと思うのだけれど、冷た過ぎやしないか。

 

「あなたとは、全くの初対面よ」

 

畳みかけるように、暁美が続ける。

 

「私のこれまでの記憶の中で、あなたという存在は一度たりとも現れていない」

 

彼女は言い切った。

俺のことなど知らない、見たことがないと、断言した。

とても頑なに。

むしろ頑な過ぎる程に、だ。

 

「なんか随分とハッキリ言うんだな、あんた」

 

その強すぎる否定の意思が、少し引っ掛かる。

 

「…それが、まごうことなき事実だからよ」

 

暁美は、微塵も臆せずにこちらへ言い放つ。

そして、話は終わりだと言わんばかりにくるりと背を向け、職員室の出口へと歩いていった。

 

「…あれがミステリアス、ってやつなのかね…?」

 

その背中を見つめながら、再度首を捻る。

ひとまず、転校生同士仲良くって事にはなれなさそうだ。

 

(転校生相手にこのザマで、クラスの生徒と話す時大丈夫なんかな、俺…)

 

まだ始まってもいない学校生活に暗雲が立ち込める気配を感じつつ、彼女の背中を追って職員室を後にした。

 

 

 

 

 

 

  

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と、いった朝の一幕を経て、今に至る訳なのだが。

 

実際不安は的中し、転校初日からまるで注目されないという、未曾有の危機に晒されてしまう形になった。

 

改めて思い返してみると、何故フランクさに溢れた自分が無視され、常時仏頂面の暁美が人気なのか、とても解せない。

 

やはり転校生はインパクトが命だったというのか。

一発GAGとか、練っときゃ良かったかな?

いや、あの空気じゃ爆死して終わりか…。

 

「不思議な雰囲気の人ですよね、暁美さん」

 

そうやって一人で悶々としていた俺の耳に、近くの席で話している女子生徒達の声が流れ込んできた。

 

そちらに視線を寄越してみると、女子が三人寄り集まって何か話していた。

所謂、仲良し三人組というやつだろうか。

 

その内の一人、ショートカットの女の子が小柄なツーテールの子に疑問を投げかける。

 

「ねえ、まどか。あの子知り合い?何かさっき思いっきりガン飛ばされてなかった?」

 

少し、気になる発言だった。

あいつが、ガンを飛ばしていた?

そういえば自己紹介の時、何故か黙々と一点を見つめていたように見えたが…。

 

「いや、えっと…」

 

話題を降られた小柄な女子は、何やら良い淀んでいる。

心当たりでも、あるのだろうか。

 

(あれ…?)

 

その小柄っ子…まどかとかいったか。

その子を見ていると、ふと謎の違和感に襲われた。

 

そういえば、教室に入った直後にも彼女と目が合う時があった。

その時にも、ぼんやりと見覚えのようなものを感じてはいたのだが、まさか…。

 

(あの子とも、どっかで会ってる…?)

 

学校に来たときから、絶え間無く訪れる謎の既視感。

ただの偶然や気のせいにするには、余りにも強烈な感覚だ。

 

だが、それでも感覚は感覚でしかなく、明確な理由の付けられぬ曖昧な疑問に過ぎない。

そしてその疑問を解消する手立ても、今の自分には無い。

 

「どうにもならんな…」

 

分からない事は後回しだ。

 

だから今は、目の前の転校生の観察に没頭する。

それだけが、クラスから放置された自分にできる唯一の暇潰しであるのだから。

 

「お」

 

対象に動きあり。

 

それまで無造作に受け答えを続けていた暁美だったが、どういう訳だかいきなり席を立つのが見えた。

 

「ごめんなさい。何だか緊張しすぎたみたいで、ちょっと、気分が。保健室に行かせて貰えるかしら」

 

その言葉に、思わず苦笑してしまう。

 

(雑な嘘をつくもんだなぁ…)

 

あんな落ち着いた表情で緊張だの気分悪いだの言われて信じられる訳がない。

もしかして彼女、嘘や冗談が下手なタイプなのだろうか。

 

「え?あ、じゃあたしが案内してあげる!」

「あたしも行く行く!」

 

…などと失礼な事を考えていたのはどうやら俺だけだったらしい。

 

(みんな信じちゃうんか今の…)

 

まあよくよく考えれば、教室内での彼女は表情が乏しいだけで、しっかり挨拶し質問にも答える律儀な美人さんだったのだから当然の反応か。

 

クラスメイトたちにとって、暁美さんは転校初日で凝り固まって表情死んでる子、ぐらいに見えるのだろう。

 

いきなりガンとばされて、何者か、などと問われた俺が異例過ぎるのだ。

 

「いえ、おかまいなく。係の人にお願いしますから」

 

暁美は周りのお節介焼き達の申し出を丁重に断ると、席から離れてこちらに歩いて来る。

いや、こちらではない。少し方向が違う。

 

「えぇっ!?」

 

さっき暁美にガンを飛ばされていたらしい子…確かそう、まどか、だっけ?が素っ頓狂な声を上げる。

 

「鹿目まどかさん。貴女がこのクラスの保健係よね」

 

暁美ほむらが、彼女達3人組の目の前に立ち、その子の名前を呼んでいた。

 

「え?えっと…あの…」

 

突然の申し出に戸惑うまどかさんに、暁美が有無を言わせぬ圧力で言葉を続ける。

 

「連れてって貰える?保健室」

 

その後しばらく、ショートカットの子が割り込んだりと話茶話茶していたが、程なくして会話は終わり、結局鹿目さんとやらが暁美を案内する運びになったようだった。

 

「…」

 

教室から退出していく二人。

 

案内される側でありながら暁美はズンズンと先を行き、案内する側のまどかさんがその後ろにおっかなびっくり付いていく。

傍から見たらどちらが転校生か分からない構図だった。

 

(暁美ほむらと、鹿目まどか…か)

 

謎の既視感を感じる二人の生徒。

その二人が意図してか意図せずか合流し、二人で保健室へ向かっていった。

 

偶然にしては、出来過ぎとしかいいようがない。

 

…あの二人には、何かある。

そんな予感がした。

 

とはいっても、保健室に向かうのを追いかける訳にもいかないし、自分にはどうしようもないのだけれど…。

 

 「…保健室?」

 

げ。

今更になって思い出した。

 

「やべ、保健室に用があんじゃん俺…!」

 

転校生が気になり過ぎて、先生から転校前に言い付けられていたある用事をすっかり忘れていた。

とはいっても保健係は今さっき連れていかれたばかりで…。

 

「どうしたの、君?何か困った事でも…」

 

ちょっと大声を出しすぎてしまったせいか、近くにいた男子生徒に心配されてしまった。

いや、話かけられた事自体は僥幸だけども、用事ができてからというのはなんて皮肉だ。

 

「いや、問題無い。多分なんとかできるから…」

「そうかい?なら良いんだけど…」

 

せっかくの話し相手を逃すのは惜しいが、今は自分の用事が優先だ。

 

…しかし今気付いたがこいつ、早乙女先生にホームルームで指されてた奴じゃなかろうか。

 

「心配してくれてありがとう…えっーと、中川くん?」

「中沢です…。って君、何処へ!?」

 

「保健室。ちと野暮用でなー!後頼んだっ!!」

 

後方に叫びながらダッシュで教室を後にする。

まだ暁美達が出て行ってからそう時間は経っていない。

追いかければすぐ追いつける筈だった。

 

(免罪符って奴かな…これが)

 

ふと自分のしようとしている事に気付き、走りながら苦笑をこぼす。

野暮用などと理由付けをしているが、結局は自分が彼女達の事を気になっているだけだ。

 

まあ、それでも良いか。

考えるのは後で良い、と開き直る。

 

そうして、二人を追って廊下を駆けていった。

 

 

 

 

 








一話分使ってもあまり話が動かない…。
ストーリーの展開上今回そんなに書くことが無いので、ちょっち主人公についての解説を。

暦海テツヤくんの容姿設定ですが、蒼樹うめ先生の漫画「微熱空間」の赤瀬川直耶くんを若干目付き悪くして見滝原の制服を着せたイメージです。
そのうち気が向いたら自分で描くかもしれないです。

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