魔法少女まどか☆マギカ異編 <proof of humanity>   作:石清水テラ

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第6話 「そこにいるのは誰なんだ」

 

 

 

ソレは、暗闇の中を走っていた。

足を一時も止めず、ひたすらに。

 

「はっ…はっ…はっ…っ…!」

 

何故走っているのか。

理由は単純明快。

 

走らなければ殺されるからだ。

 

「…っっ!!」

 

ソレの真横を紫色の光が通り過ぎ、壁にぶつかって一瞬火花を散らす。

光はそれだけではない。

 

ソレを狙い撃つように立て続けに同じ紫電が放たれる。

さっきまで走っていた道が紫電によって正確に射抜かれるのを目にし、ソレは駆けるスピードを全力にまで上げた。

 

ソレの動きはとても素早い。

小柄な体躯に獣のようなフォルムは走って逃げ回ることに秀でているからだ。

 

だが、そのようなアドバンテージが自分の命を狙う追跡者には何の意味もなさないこともソレは理解していた。

 

故に、ソレは何者かに助けを求めようとする。

 

《たすけて…》

 

闇の中、自分を追う影がその速度を増すのを感じる。

相手は何かを焦っているようだ。

その焦燥を表すように、放たれる雷光の量と密度がさらに増加していく。

 

身体のあちこちを紫電が掠め、肉体が次第に削り取られていった。

このままでは遠からずまた仕留められてしまうだろう。

 

そのことを察知し、ソレはより一層助けを呼ぶ声を大きくした。

 

《たすけて…》

 

ソレは呼び続けていた。

 

 

《まどか…!》

 

 

自分の求めるモノの名を。

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

「…え?」

 

「ん、どしたよまどか」

 

隣にいるまどかが不意に呆けた声を上げた。

 

「いや、なんだか誰かに名前を呼ばれたような気がして…」

「?俺でもさやかでも無いけど…」

 

「おーい!二人とも何ボケッとしてんの、置いてくよー?」

 

随分と先の道を進んでいるさやかに急かされ、一先ず会話を中断して先を急ぐ。

 

「気のせいだろ。この馬鹿でかいショッピングモールじゃどんな音が聞こえてもおかしくなさそうだし」

「そうなんだろうけど…でも、まるで頭の中に…」

 

まどかはこちらの意見に同調しつつもなんだか納得いかない様子だ。

 

暖色系で固められた壁と床に、やたら曲面を多く取り入れた造りのだだっ広いショッピングモール。

都市開発の煽りを大いに受けて建造されたというこの施設には多種多様なチェーン店が軒を連ね、あちこちの店からは、常時CMや店員の声が届きまくりちょっとした喧騒が生み出されている。

 

故にどこかの店の音声を聞き間違うこともあるだろうし、ひょっとしたら円なんていう姓の人が近くにいたのかもしれなかった。

 

「にしてもCD屋なんてあったんだな、ここ」

 

目的の店を目前にし、ふとそんなつぶやきが洩れる。

 

「そりゃあるでしょ、モールなんだから」

「テツヤくんは今まで来たことないの?」

 

傍から見れば的外れな自分の感想にさやかが突っ込み、まどかが疑問を提示する。

 

「全く無い訳じゃないけど、ここまで来たことは無いんだよね」

「そっか…」

 

まどかが曖昧に頷く。

そういえば彼女にはチラッとだけ過去の話をしていた。

ひょっとしてその事で気を遣わせているのだろうか。

 

「ふぅん…」

 

そんなまどかの様子を余所に、さやかは何を思ったか目を細めてこちらにニヤッとした笑いを寄越す。

 

「さてはあんた、今までずっと音楽をネットとかで聴いてたタイプでしょ」

 

「え、まぁ、そう…なんじゃ、ねえの?」

 

何を問われているのかよく分からず、適当な返事になってしまう。

その反応を見ると、さやかはより一層変な笑みを強くして会話を続けさせる。 

 

「けしからんなぁ~?音楽っていうのはこうやってディスクを探して買っ聴くから良いってもんよ」

「はぁ」

 

「CDとMP3じゃ音がぜんっぜん違うんだからね、音が!」

「へぇ」

 

なんか偉そうに演説ぶられた。

どうもこういう店に来ないという発言をCD購入をケチっているという意味に取られたらしい。

 

別に貧乏だとか音楽に興味が無いとかそういう訳じゃないのだが、あながち間違った事は言われていないのでなんとも言えない。

 

「意外だな、お前が音楽にうるさい口だとは」

「ふっふぅん!こう見えてあたし、古いクラシックの収集とかしてるんだよねー」

 

やたら誇らしげに笑うチャン=サヤカ。

こういう明るめの元気な子って、スポ根とかヲタク文化的な趣味持ってそう、という勝手な先入観があったので少し意外だ。

 

というかこうあからさまに威張られると、彼女自身も音楽が自分らしくない趣味だと思っているように見える。

 

…ふむ。

 

「彼氏の趣味か」

 

「はは…って、うぇえっ、ちょっいや、なんっ…!?」

 

試しに言ってみると彼女は瞬時に慌てふためき赤面した。

なんと判り易い。

 

「おやまぁ、ビンゴかえ?」

「ばっ、そんな訳じゃなくって、その…!」

 

手をぶるんぶるんと振り回して否定するさやかだったが、こういう時しれっと口を挟んでくる人の存在を彼女は忘れていた。

 

「さやかちゃんは、ちっちゃい頃から上条くんと一緒に色々音楽聴いてたんだよね」

「~ッッ!!まどかぁ~!」

 

まどかのナイスな、さやかにとってはバッドなフォローが入り、彼女は一層顔の赤みを増して悶える。

もはや叫びが声になっていない。

 

成程、口ぶりから察するに幼馴染のボーイなフレンドの影響で小さな頃から音楽に触れていた結果現在の趣味に繋がったという感じか。

そういえば今この店に来ているのもそのカミジョーくんとやらへのお土産だとか言ってたような気もする。

 

「あー、もうっ!私今からあっちの棚見てくる二人もとっとと自分の好きな曲での探しててよ、ほらほら!」

 

トマトめいて顔を真っ赤にしたさやかが、叫びながら俺達をバタバタ手ではたいて退ける。

想像以上の恥じらいっぷりだ。

 

「わへへ…ゴメンってば」

「HAHAHA、わっかり易い子じゃのう」

 

最初話した時は単に言動の愉快でツッコミ激しい元気っ子みたいな印象のさやかだったが、こうして見ると案外乙女チックな方であるのかしらん。

 

「そこか。そこが萌えなのか…」

「うるさぁぁいっ!!」

 

そんなどうでも良い事を考えてる内に、まどか共々別の棚に追いやられた。

 

 

 

「やれやれあんまり人の恋路に首突っ込むんじゃなかとね」

 

さやかに追い払われて手持ち無沙汰になったので適当にCDの棚を廻ってほっつき歩く。

一緒に追い払われたまどかは、「気になる曲があるから」と試聴機器の方へと行ってしまい結果的に自分一人が残された。

 

まどかの方をちらと見ると、彼女は既に店頭のヘッドホントを装着し音の世界を存分に楽しんでいる様子だ。

遠くの方では、さやかがクラシックの棚からケースを漁り渡っている姿も伺える。

 

現状暇なのは自分だけ、という事か。

 

「こういう時、無趣味な人間は損さね」

 

遠巻きに見守っているだけなのも寂しいので、手近なCDケースを引っ張り出してパケ絵を眺めてみる。

出して戻すを繰り返すのはあんまり購入意欲が無いのと、知らないアーティストばかりのせいだ。

 

コネクト、ルミナス、magia、未来、…なんて読むんだコレ、み、みすてぇりぃおっそ?

ダメだ全然分からん。

 

「いやはや、記憶に無い曲ばっかだなー」

 

まったく困ってしまう。

こうも自分に音楽知識が無いとは思わなかった。

そりゃあ今まで周囲の音楽を意識した事はあんまり無かったけれど、記憶の片隅に有名グループの名前でも残ってたりしするだろうという甘い考えが良くない。

 

やはり、これから日常生活を送っていくならば周囲について行けるぐらいに音楽への関心を持つべきだろうか。

 

後でさやか辺りにオススメとか聴いてみるのも良いかもしれないと思ったが、さっき怒らせたばかりでやや気が引ける。

いや、彼女は大概照れ屋なだけっぽいので別にそこまで気にしちゃいないだろうし話せば相談に乗ってくれるかもしれない。

 

しかしまあ、それとは別にしてもここまで自分の無知無関心を突きつけられると少し凹むというか何と言うかこう、

自分が、 その、

まるで、

 

 

 

"…カラッポ ミタイ ダネ…"

 

 

 

「あ?」

 

どこからか、声が聞こえた気がして声を上げる。

 

首筋の毛が逆立つような、おぞましい囁き。

幻聴か?

そんな事を思ってしまうくらいその声は現実味が薄く、この世のものとは思え無い程の悪意に満ち満ちている。

 

(…ッ!?)

 

それを知覚した瞬間、胸の内で何かが疼いた。

 

強烈な圧迫感に襲われ息が詰まる。

叩き付けるような衝撃の波に頭が朦朧とし、視界も不気味に揺らめき始める。

 

「なんっ…こ、れ…ッ!?」

 

胸元が焼け付くように熱い。

臓腑が身体を突き破り勝手に飛びだそうとするみたいなイメージ。

感覚が何かを警戒するかのように鋭敏化し、自分の意思とは無関係に何処かへ動き出そうとする。

 

動く?

それは何処に向かって?

 

一体、何を求めて?

 

"…ナニモ ナイナラ シンジャエバ イイノニ…"

 

あの不気味な囁きが再度聞こえた。

今度は先とは比べものにならないくらい明瞭に、明瞭過ぎる程はっきりと聞こえる。

耳からではなく、頭の中に直接響くようなクリア具合。

脳髄に文字を焼き入れられるような不快感があった。

 

「っ…ぁが…ッ!」

 

それに反応するかの如く、胸の疼きが酷くなる。

荒れ狂う滾りが何かを探して拡散し、ある一点へと収束していくのを感じる。

 

何かに引き寄せられている、のか。

何に。

この、声に?

じゃあ、この声って一体?

 

"…ナンノヤク ニモ タタナイ クセニ…"

 

「誰、だ…この、声…?……ッ!!」

 

三度届いた声に、収束寸前の疼きが一気に一点へと集中し、ある方向を指し示す。

 

…下。

 

何が?

声の届けられている、場所?

 

分からない。

ただ何か、正体不明の本能的な超感覚が俺を導こうとしている。

 

あの声を、追えと。

 

「どこだ…」

 

足を踏みだし、駆け出す。

満足にこの異常の理由も理解せぬまま衝動的に動き始める。

 

「どこにいる…!」

 

まどかの事、さやかの事、あらゆる事象を忘却し、棚から離れて店の外へ。

自身を導く感覚に身を任せ、階段を全力で駆け降りこの建造物の深部へと向かっていく。

 

自分でも何をしているのか、よく分からない。

よく分からない恐ろしげなものが、自分の心を捕らえて話そうとしない。

 

訳の分からぬままただ走り、叫ぶ。

 

「そこにいるのは誰なんだ…っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

「…あれ?」

 

試聴用のヘッドホンで最近の曲を探し聴いていた時。

不意に誰かがバタバタと足音を立てて駆け出すの気配を感じ、わたし(鹿目まどか)は目を開いて振り向く。

視界の端、ちょうど一人の少年が慌ただしく店から退出していくのが見えた。

 

「テツヤくん?」

 

見間違えようのないあの学生服姿。

一応さっきまで彼のいた筈の棚の一角視線を向けるが、当然そこには誰もいない。

 

「やっぱり、さっきの…」

 

テツヤくんの姿で間違いない。

 

でも不思議だ。帰るなら帰るで、私やさやかちゃんに何も告げないまま行ってしまうなんて彼らしくない。

彼らしい、ってまだ付き合いも浅いのにそんな事言うのは変かもしれないけれど、それでも彼が友人をおざなりにして逃げ出せるような酷い子とは思えない。

 

でもそれなら、あんなに急いで何処へ行こうとしているのか、尚更疑問でもある。

 

一体、どうしちゃったんだろう?

 

「…ん」

 

早く追いかけた方が良いのか、先にさやかちゃんを呼んでおいた方が良いのか。

迷い、たたらを踏んでいたその時。

 

 

《…たすけて…》

 

 

誰かの悲痛な声が聞こえた。

 

「え…?」

 

頭に響いた、不思議な声。

ヘッドホンが壊れてしまったのかと思って慌てて取り外すけれど、プレイヤーにもヘッドホン本体にも何もおかしな部分は見当たらない。

 

誰かに呼びかけられたにしては、余りにも距離が近すぎるし、音楽を聴きながらあれだけの声量が届くのもおかしな話だ。

 

…幻聴、かな?

 

《たすけて…!》

 

「え…?」

 

さっきと同じ声が、再び私の頭に響いた。

先程までとは比べものにならないくらい明瞭になって、聴覚に訴えかけてくる。

 

《たすけて…!》

「えっ?…ぇえっ?」

 

今はもうヘッドホンは付けていない。

にも関わらず、声は驚く程近くに聞こえてくるし、私の周囲にそんな近距離から私に話し掛けてくる人もいない。

 

まるで、頭の中に直接声を届けられているみたいだ。

 

原理は分からない。

私にそれが聞こえた理由も。

 

ただ、"誰かが助けを求めている"という事実だけが、胸に突き刺さる。

 

《たすけて、まどか…!》

 

私の名前を、その誰かが呼んだ。

 

その事を理解した時、既に自分が店を出て声のした方角に向かって歩いている事に気づく。

 

けれどもう、動き出した身体は止まらない。

自分を呼び続ける誰かを探して、感覚だけを頼りに当てもなく廊下をさ迷い走る。

 

《僕を、助けて…!》

 

「誰…?誰なの…?」

 

私を呼んでいるのは、誰?

 

こちらからの問い掛けは誰にも届かない。

だから自分の足でこの苦痛の滲むような叫びの主を探し求めてひたすら歩く。

 

《…たすけて》

 

声を辿って私は歩き、着々と光の届かぬ薄暗い通路へと誘われようとしていた。

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

見知った顔が何処かへフラフラと歩いていくのを目にし、(美樹さやか)はCDを漁る手を止める。

 

「まどか?」

 

あの小柄な後ろ姿に目を引く赤いリボン、それに結ばれたツーテールは間違いなくまどかのもの。

 

それがどうして、何も言わずに店から出てくようなマネを?

用事ができたからって無言で消え去ったりする無愛想な子じゃ無いのは重々承知だし、そもそも逃げ出したりする理由が思い当たらない。

 

それにあの、何かに憑かれたみたいな動き。

どうも不安にさせられる足取りだ。

 

「あの子、一体どうしちゃったのよ…?」

 

追いかけなきゃ。

そう思って引っ張り出したCDを棚に片っ端から棚に叩き戻し、荷物を纏めてその場を後にしようとする。

 

おっと、その前にもう一人の連れを呼ばなくては。

まどかが心配だからって、新しい友人を蔑ろにするのは良くない。

 

「…って、アイツもいつの間にかいなくなってるし」

 

今になってあの転校生、暦海テツヤの姿がどこにも見当たらなくなっている事に気づく。

店内をぐるっと見渡してみるが、見たところ彼の影も形もありはしない。

 

まどかが何処かへ走り去るよりも前に、もう何処かへ消えていたらしい。

大した手際というか、よくまあ気付かれずに逃げたもんだというか。

 

「くぅ~っ!二人揃って勝手にどっか行っちゃうんだからもうっ…!」

 

人知れず頭を抱え、溜息を付く。

 

まどかと転校生。

正反対に見えてどっちも何かポワッとしてるというか、危なっかしいところがあるというか微妙に似てる感じがするな、あの二人。

 

どういう理由でいなくなったのかは全くの不明だけど、このまま放っておくこともできないのは確かだ。

 

もう大分遠くに行ってしまったまどかを追いかけ、自分も店から足早に立ち去る。

CDを買い損ねたのは惜しいけれど今はそれ所じゃない。

 

「私を置いて勝手にどっかいくなんて許せーんっ!!」

 

そうして私もまた、闇雲に走り出す。

消えたテツヤと、さ迷うまどかを追ってひたすら前へ。

 

 

自分の向かう先に待つものが何かも、知らないまま。

 

 

 

 

 

 

 









本当は今話でQBが出る所までやっちゃおうと思ったんですが、長すぎるので分けました。
ああ、また話数が増える増える…。
ちなみにツインテールは怪獣です。

テストが終わったと思ったら学校祭の準備が忙しくりそうなので、また更新が遅れる予感…。
気長にお待ちください。
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