魔法少女まどか☆マギカ異編 <proof of humanity>   作:石清水テラ

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第7話 「なんだこの死屍累々」

 

 

「…っ!…っ…っっ!!」

 

暗闇の中を走っていた。

微かに灯る非常灯の光だけを頼りに、薄暗い通路を駆け回る。

 

今、自分はどこにいるのだろう?

そんな事ももう、思い出せない。

 

途中で"関係者以外立ち入り禁止"みたいな貼紙を見たような覚えもあるが、気にも留めていなかった。

 

目指す場所はただ一つ。

 

"…シンジャエバ イイノニ…"

 

「…っうるせぇ!頭いてえんだよっ!!」

 

さっきから脳内に響いて止まないこの呪詛のような囁きの発生源だ。

 

右へ左へ、上に行ったと思えば下へ。

相手側が移動でも繰り返しているのか、感覚の指し示す先は一定せずあっちこっちを走り回る羽目になっている。

 

ただ一応近付いてはいるらしく、走る度に脳内の呪詛は大きさを増し身体に走る悪寒は一層強くなっていた。

 

「クッソなんだ、このげっそりする感覚は…」

 

頭を揺らすこの囁きは、余りにも悪意というものに満ち溢れている。

 

嫉妬、憎悪、絶望、諦観、悲嘆、殺意、激怒、狂気…

ありとあらゆる悪感情がない交ぜになり、一つの巨大な波となって無差別に撒き散らされているかのようだ。

 

この、"呪い"とでも言うべき悪意の総体がどこから来たものなのか。

何を思ってこのような波動を放っているのか。

理由は分からないし、分かる気もしないが、ただ胸を疼かせるこの衝動だけに任せて走り続けていた。

 

"…デキソコナイ ノ ニンギョウ ナンテ…"

 

「…ッィ!今度はこっちかよ…!」

 

背筋に刺すような感覚を覚え振り返る。

 

視線を向けた先、曲がりくねった通路の向こう、暗がりの中でふと紫色の光が瞬き闇の中を一瞬照らし出した。

 

「そこかッ!?」

 

間髪入れず光の見え方向に駆け込む。

ある程度接近してから立ち止まり、闇の中で目を凝らすと、そこが通路の曲がり角であり別の広い部屋へと繋がっているのに気付いた。

 

「…」

 

息を止め、壁一枚隔てた向こう側の気配を探る。

 

しばらくジッと聞き耳を立てていると、やがて何者かが走り抜けるようなドタドタした足音が聞こえてきた。

 

…間違いなく、何かがいる。

 

この先にあるものが果たして自分の探していたものなのか、あるいは別の何かか。

巡回中の警備員とかだったらお笑いだが、多分その方が安心はできることだろう。

 

「…よし」

 

一息付いた後、しばらく闇に目を慣れさせ周囲一帯を探る。

今自分がいる場所は、資材置場のような場所であったらしく、大量の段ボール箱や鉄骨等の建材諸々、イベント用の風船やらテントやらが雑多に置かれていた。

その中から目的のものが床に散乱しているのを見つけ、拾いあげる。

 

手にしたのは、手頃なサイズの鉄パイプだ。

 

トイレとかの排水に使われてそうな、握り易い太さの金属棒。

ブン、っと一振りしてみると確かな重みと想像以上の扱い易さが実感できる。

 

…もし、この先にいるのがさっきから感じる悪意の発生源ならば手ぶらで接近するのは危険だろう。

氏ねとか消えろとか平気で喚くような相手だ。

こちらに対して友好的であるとはとても思えない。

用心に越した事はないだろう。

 

「…そんじゃ、行くか」

 

手にパイプを握り締めそっと立ち上がり、壁越しに構えつつタイミングを計る。

相手は移動を続けている。そう長くは待てない。

 

「…っ!」

 

意を決して曲がり角から飛びだし、向こう側へと身を踊らせる。

パイプを振りかざして相手を警戒しつつ、携帯電話の画面を片手で開いて前方の闇を照らす。

闇の中に浮かび上がる何かのシルエットを確認し、その何かに対して声を張り上げた。

 

「おい、誰だっ!!そこにいるの…は…ッ!?」

 

 

そこで俺は、想像を絶する光景を目にした。

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

《…たす…けて…!》

 

「はぁ…はぁ…はっ…どこ…?どこなの?」

 

闇に包まれた暗い通路の中を走り続けながら、私を呼ぶ誰かに向かって呼びかける。

 

もう既に自分でもどこを歩いているか分からなくなっていたけど、頭に響く声がある程度指向性を伴っているせいか行き先に迷う事は無い。

 

流石に"関係者以外立ち入り禁止"の張り紙を見た時は少し進むのを躊躇ったけれど、私に助けを求めるこの声を無視して引き返す事は出来なかった。

 

《たすけて…》

 

また聞こえた。あの声だ。

必死に助けを呼んでいるこの悲痛な声。

それを以前よりも一層近くに感じた。

 

「どこにいるの…?あなた、誰…?」

 

微かに何かの動くような気配を近くに感じ、それに向かって呼びかける。

その時だった。

 

ギ ギ ッ

 

「えっ?」

 

ふと頭上からコンクリートの軋むような音が聞こえて思わず足を止める。

 

上に、誰かいる?

 

やっぱり危険な気がするから引き返してしまおうか、でもこのまま何もしないで立ち去るのも…。

 

ガ コ ッ

 

そんな選択も許されないまま頭上の怪音はいきなり大きさを増し、やがて床の抜けるような変な音が聞こえてくる。

 

そして小動物大の謎の物体が天井からボトリと大きな音を立てて落ちるのを見た。

 

「…っ!?」

 

無造作に打ち捨てられたソレに思わず駆け寄る。

近くに行くと、仄かな蛍光灯の光の中にそれの姿が映し出されその全貌が明らかになった。

 

小動物大、ってさっきは説明したけれど目の前に倒れているそれは実際犬や猫に似た体型をしている。

けれどよく見てみると余りにも犬や猫とは掛け離れた姿なのが分かる。

 

真っ白な体色に大きく太い犬のような尻尾、その実頭の形は猫に似て丸く、小さな耳のようなものまで生えている。

その上耳からはさらに長い垂れ耳のような器官が伸びていたりと、自分の知るどんな小動物とも一致しないシルエットをソレは持ち合わせていた。

 

これが、私を呼んでいたものの正体?

 

「あなたなの?」

 

恐る恐るそう聞いてみるとその小さな動物はピクリと動き、やがて震えながら確かに声を発した。

 

「たす、けて…」

 

間違いない。さっきから私を呼び続けていたあの声だ。

 

脳内に聞こえていた時と比べると、弱々しくか細い。

よく見ると身体のあちこちが擦り切れたように傷付けられているのに気付く。

 

今さっき付けられたみたいに新しく、所々に焦げ付いたような跡もある。

まるで銃弾でも受けたみたいな、痛々しい傷跡。

 

一体誰が、こんな事…。

 

「っ!」

 

そう思った矢先、今度は鎖の擦れるような音が耳に響いた。

それに続いて誰かがゆっくりと歩いてくる足音も聞こえて、ギュッと身を竦ませる。

 

音は自分の真正面から聞こえてきた。

そしてそのまま真っ直ぐこっちへと向かってくる。

 

誰かが私を、いや、この子を追ってきたんだろうか。

 

薄暗い通路の向こう、闇の中でうっすらと人影が蠢いているのに気付く。

 

間違いなく、誰かが向こうにいる。

 

警備員さん?

この子の飼い主?

さやかちゃんが心配して追ってきた?

 

もしかして、この子を傷付けた人が…。

 

足音が段々と近くなり、うっすらとしていた影が次第にハッキリしていく。

その頃にはもう、目の前にいる人間の具体的なシルエットを伺い知れるようになっていた。

 

背丈は思ったより低く、私と同じくらい。

体つきも全体的に華奢で、女の子のようにも見える。

 

最も目を引くのはその髪だ。

腰まで届く程真っ直ぐに伸ばされたその長髪は闇の中に溶け込むみたいに黒く、幽鬼のような恐ろしい雰囲気を醸し出している。

 

(長い、髪?)

 

私と同じくらいの女の子で、黒く長い髪。

 

その特徴には思い当たる節がある。

嫌な予感がした。

 

歩いてきた人影が私のすぐ近くにまで辿り着き、暗がりの中でもハッキリと分かるくらいその姿形を眼前に晒し出す。

 

それは私の知っている人だった。

 

キリッとした眉に、スラッとした立ち姿、大きく目を引く長い髪の持ち主。

何よりも印象的な、あの鋭く冷ややかな色を湛えた瞳。

 

 

「ほむら、ちゃん…?」

 

 

暁美ほむらが、私の目の前に立ち塞がっていた。

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

「なん…だ?これ、は…」

 

目の前にある理解不能の光景に唖然として立ち尽くす。

 

自分は、脳裏に響くあのおぞましい声を追ってこの真っ暗闇の通路まで辿り着いた。

 

だからそこにあるものは、人間人外を問わずあれだけの悪意を持ちうる程の感情を有した何らかの生命体だとばかり思っていたのだ。

 

だが、今目の前にあるのは自分の想像を大きく逸脱したものだった。

 

「なん、これ…な、ん…?」

 

それはまず、人間ではなかった。間違いなく。

さらに言えば、生命体でもなかった。

 

厳密には、「もう生命体ではなかった」と言うべきか。

 

生命活動をしている物体を生命体と呼ぶならば、目の前に転がるそれらは既にその括りに当てはまらないだろう。

 

白い肌。

人間の三分の一も無い矮小な肉体。

四足歩行を主としていたらしい犬猫型の体型。

 

生き物らしいフォルムを見せるそれらの物体は、その実生命活動の片鱗も見せぬまま何も語らずただ雑多に散らばっていた。

 

 

とどのつまり、死んでいたのだ。

 

 

「なんだ、この死屍累々は…?」

 

俺の目の前あったのは、

 

小動物らしき何かの、無数の死骸だった。

 

 

 

 








さっきまでQBだったものが辺り一面に転がるぅ~♪オーイェェッ♪(cv.小林太郎

とか何とか言いつつ久しぶりの投稿です。遅くなって申し訳ありません。そして目茶苦茶短いです。
学校行事がかなり忙しめになってるので、あと一週間ぐらいは更新が遅れまくりそうな予感…。

どっかで遅れを取り戻さねばと危機感を覚えつつ、また次回でお会いしましょう。
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