盾の少女の手記   作:mn_ver2

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勢いで書きました。後悔はしてません。
マスターは関節的に出演します。

※ネタバレ注意


我が憎悪を

 ーー神に愛されし者を殺さねばならない。

 

 ◆

 

 アマデウスの能天気な囁きがサリエリの周囲を踊る。

 

『弾け』

 

 その囁きたちはひとつひとつサリエリの耳元まで浮遊すると、役目を果たして消える。そしてまた発生する。

 壁の囲まれた部屋。それでもこのロシアの異常なほどの寒さはサリエリの身体を容赦なく攻撃する。

 

「やめろ! やめろ! 私にはそのような技量はない!」

 

 ピアノ椅子に座り、サリエリは頭を抱えてうずくまった。

 彼は天才ではないのだ。アマデウスのような、人の心に訴えかけるような、神域に達する曲を弾けるわけがないのだ。

 彼はイヴァン雷帝に眠りを与えるため、二ヶ月間もの間、その魂を文字どおり削った。その心労、サリエリにはわからない。

 なぜなら天才ではないから。

 

『弾け。でなければ世界は救われない』

 

 アマデウスの甘言がぼんやりと消える。

 自分にはあの巨大な……現世に顕現した神のような絶対的存在をどうにかできる自信がなかった。

 偉業をなすためには、それ相応の技量を持ち合わせていなければならない。

 だが彼にはない。

 なぜなら天才ではないから。

 無理だ。無理なのだ。

 ただ神に愛されし者を殺すことに自身の価値を見出しているサリエリに、ピアノを弾けと。

 血迷ったかアマデウス!!

 

「この偉業を私に託すか! 答えろアマデウスッ!!」

 

 無意味な音。

 乱暴に指を叩きつけ、冷えきった部屋の中に憎悪の炎が小さく燃える。

 アマデウスの幻霊たちが生意気に踊りながら生じた炎で暖をとる。赤黒の炎は消える様子はなく、むしろメラメラと激しく燃え始める。

 

『見てごらん』

 

 幻霊のひとりがサリエリの肩を叩き、窓の外を指差した。

 サリエリはゆっくりと顔を上げ、促されるまま視線を外へと向けた。

 

 あれこそ神代の戦い。

 アヴィケブロンの造った原初の巨人アダムと、像をかたどった巨獣のイヴァン雷帝。

 激しいぶつかり合いに、足元の町々が砕ける。一撃一撃の衝撃が広範囲にわたって拡大する。頑丈なはずのこの壁も恐れをなしたかのように震えた。

 そんな激戦を見て、サリエリはやはり無理だと自己を再認識した。

 

「アマデウス、我が殺すべき者よ。やはり無理だ。私の霊基がそう叫んでいるのだ」

 

 すると、アマデウスの幻霊はサリエリの頭を叩く。激昂して詰め寄ろうとした彼を手で制し、あるところを指さした。

 

「いったい何なのだ……!」

 

 サリエリは指さされた場所……アダムの肩を凝視すると、そこにはある人物が必死に落ちまいと掴まりながら、必死に戦っていた。

 サーヴァントたちに指示を出している。サーヴァントたちはシンクロのような美しい連携をとってイヴァン雷帝に挑んでいる。

 ……巨獣の鼻がアダムの顔を抉った。

 その破片が飛び散り、そのひとつが少女に直撃し、肩から滑り落ちてしまった。

 

「!!」

 

 サリエリは震えた。

 あれは、マスターだ。

 あの巨人は高さ数十メートルはある。それほど高い位置から落下すれば、サーヴァントであろうと深手は免れない。ましてやただの人間だと……!

 

『ーー見てごらん』

 

 落ち着いた声でサリエリを鎮める。

 しばらくすると、アダムの自動修復機能により、ミノタウロスの宝具で形成された壁が顔の喪失部分を修復した。

 そして少女が肩に再びよじ登ってきた。礼装が傷つき、機能は完全に働かず、今ごろ内臓すら刹那の間に凍るような寒さに晒されているはずだ。だが、それでも少女は立ち上がった。

 だらんと力なく右腕を垂らしながら。頭から血を流しながらも再び戦い始めた。

 

「なぜだ……なぜそこまでして戦う……⁉︎」

 

『勇気だよ、アントニオ・サリエリ』

 

「!!」

 

 アマデウスの幻霊が消えかかっている憎悪の炎へとふわふわと移動した。他のアマデウスの幻霊たちは疑似的な演奏会を開いている。

 なんとこの場にふさわしくない合唱だ。サリエリは唇を噛み締めた。

 

『英霊でもない本当にただの人間が、神にも等しき恐ろしい敵に立ち向かっているんだよ? 対して君はどうだい? 天才じゃないなんてくだらない理由でピアノを弾かないだなんて、臆病だねぇ』

 

 相変わらず神経を逆なでする物言いだ。

 

 憎悪。

 ひとりが炎へ飛び込んだ。

 ぼうッ! と炎が息を吹き返す。

 

『世界を救え。君にしかできないことが……君の存在する理由はまさにそこにある』

 

 憎悪。憎悪。

 ひとりが炎へ飛び込んだ。

 大きく深呼吸をした。

 

『僕たちは戦いの専門家じゃあない。そんなもの彼女たちに全部ポイ、さ』

 

 憎悪。憎悪。憎悪。

 ひとりが炎へ飛び込んだ。

 部屋が少し明るくなった。

 

『弾け。僕は君に、託したのだから』

 

 憎悪。憎悪。憎悪。憎悪。

 ひとりが炎へ飛び込んだ。

 ……炎が再燃した。

 

「ーーわかった。いいだろう! 弾いてやる! 弾いてやればいいんだろう!!」

 

 サリエリは鉛のように重い足を動かしてピアノ椅子に腰掛けた。

 死んだように冷たいピアノの鍵盤に触れ、サリエリは弾き始めた。

 滑らかな曲調。指が奏でる音は慈しみに溢れていて、アマデウスの最後の幻霊は眉をひそめる。

 

『違う。そんなうわべの演奏はいらない。君の本性こそ、この瞬間求められている演奏。心赴くままに弾くんだ。大丈夫、技術なんてどうでもいいんだ。だって……天才なんて、僕以外にいないだろ?』

 

 サリエリの演奏が止まる。

 最後の幻霊がつまらないと肩をすくめる。その態度。その言葉。その顔。全て。全てが気にくわない。

 憎悪が燃える彼には、アマデウスの言葉は油でしかなかった。

 

「うるさい、黙れ! なら私の全て、私の憎悪を全て注ぎ込んでやる!!! ォォォオオオオオオオーー……!!!!」

 

 音楽を奏でる者が汚く罵る。化けの皮が剥がれ、美で塗装された曲が、急激に憎で溢れ出した。

 これぞサリエリの曲。アマデウスには弾けない、魂の雄叫びを表現してみせた、神が忌み嫌い、悪魔が心地よく耳を寄せる曲なのだ。

 サリエリの身体が憎悪が纏わりつく。

 憎悪。憎悪だ。憎悪こそがサリエリの本性。全て。彼のクラスたらしめる源。だが足りない。まだまだ足りない。君の憎悪はそんなものかと幻霊に煽られた。

 ならば。

 これまでの人生で味わった苦痛を。絶望を。苦悶を。劣情を。屈辱を。殺意を。嫌悪を。憎悪を。憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪……ーー。

 

 飛んで来たかけらが天井を吹き飛ばす。

 びゅおっ! と凍てつく風がサリエリを撫でた。それだけでも背中の一部が凍りついた。

 

 ……寒、すぎる……! だがこの演奏を、止めてはいけない!! これが世界を救うというのなら、弾いてみせよう!! 聴くがいい、アマデウスううぅぅぅぅ!!!

 

 ピアノの内部、弦を叩く役割の盤が凍りつき、壊れてしまうと弱々しくサリエリに訴える。

 ……だから、どうした。

 

 壊れた城壁、その一部がサリエリを激しく打った。

 だからどうした。

 

 身体が燃えるように熱い。だが蝋人形のように、凍りつきそうだ。

 だからどうした!

 

 指が凍った。

 ……だから、どうした!!!!!!

 

 弦が折れたのなら別の音で代用しろ!!

 部外者が邪魔をするというのなら、その憎しみの曲で黙らせてみせろ!!

 身体がいうことをきかない? 知ったことか! 死ぬ気でやり抜け!!!

 指が凍ったのならその指を叩きつけろ!!! 指が崩れたのなら足の指ででも弾いてみせろ!!!

 

 見ろ、あそこで死に物狂いで戦うマスターを!

 過酷な運命に立ち向かい、その全てに打ち勝ってきた、汎人類史における、正真正銘、本物の天才だ!! 神に愛されず、祝福もされない。そんな報われぬ少女よ。このサリエリが神の代わりに祝福してやる! 愛情を注いでやる!!

 

 ふと、サリエリは自分の霊基が強化されたと気づいた。

 だがそんなこと、どうでもよかった。

 アマデウスの皮を被ったモノがまるで生を得たように蠢き、憎悪の炎を纏い急成長を遂げる。

 より禍々しくなり果てたサリエリの姿。

 曲は短調で、恐ろしく静かで、だが想像を絶する憤怒が孕んでいる。聴くものの心は、それに無慈悲に……。

 

『ウオオオオオオオオォォォォォォ!! 余の心に入り込むなああぁぁぁぁ!!!』

 

 遠くでイヴァン雷帝の苦しみに悶える叫びが聞こえる。

 

『それだ』

 

 最後の幻霊が拍手を送る。

 あの少女のような、狂気を超えた勇気がサリエリにはない。だが、彼の一途な思い……神に愛されし者に対する憎悪が彼を突き動かす。

 イヴァン雷帝、あの巨獣こそ、この異聞帯における神そのものだ。

 

『きらきら星、忘れないでくれよ?』

 

 ああ、忘れるはずがない。

 サリエリが召喚された理由。それは今この瞬間にある。憎悪を燃やし尽くした後ならば、快くお前のお願いを聞いてやろう。

 アマデウス、聞こえるか? これが私の曲。どうだ、恐ろしすぎて何も言えないか?

 サリエリが炎に包まれた部屋で、最後のアマデウスの幻霊に問いかける。

 幻霊は何も答えなかった。

 しかし、親指を立てたあと、炎へ飛び込んだ。

 

 十分すぎる評価だ。

 ノってきた。これまでの人生ですこぶる気分が良い。

 笑う。腹の底から笑う。

 これほど愉快だと思ったのは、いつぶりだろうか!

 

「ーー行くぞ、公演の始まりだ」




あのシーンは最高ですよね。思わず何度もリプライしました。
あと、やっぱりサリエリのモーションかっこいい。

では、い つ も の。
ネタが完全に切れたので、ネタ募集してます。
感想欄で思いついたネタを書いてしまうと、違反らしいので、活動報告もしくはメッセージで是非教えてください!!
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