ランキング上位に入りました。
超嬉しくて、勢いで書いてしまいました。今日一日でお気に入り数も超増えて超嬉しいです。(語彙力)
突然だが、マスターが発熱した。それもなかなかの高熱だ。
その日、カルデアはちょっとしたパニックに陥った。
「38.8℃……高いですね」
ナイチンゲールは、体温計の温度を読み取ると、マスターの額に乗せたタオルに包んだ保冷剤を交換する。
まだ交換して五分と少ししか経っていないのに、もう完全に溶けきっている。だがナイチンゲールの指示により、保冷剤はまだまだいくらでもある。持久戦ならば、ナイチンゲールの勝利は揺るがない。勝利の女神も安心のグッドサインだ。
「あの……大丈夫……でしょうか?」
静謐のハサンが心配そうに尋ねる。最近最もマスターの側にいたのは彼女だ。その特性から、自分のせいで発熱したのかと危惧するのも当然か。
そして隣に清姫、頼光ママとマスター好き好きトリオが揃いに揃っている。そしてハッピーセットということでちんまりとマシュがいる。総勢五人、マスターの部屋に居座っているというわけである。
「何も問題ありません。環境は完璧。道具も完備。申し分ありません、この程度の病人を救うには余裕です。ええ」
「マスター……」
マシュが呟く。
マスターの頬に触れる。想像以上の熱さに一瞬目を見開くも、すぐさま離すことはなかった。
大粒の汗を流し、苦しそうに呻いている。
「本当に治るんですよね……?」
「もちろん。必ず治してみせます。それこそ殺してでも」
「それはちょっと」
苦笑いを浮かべ、マシュはマスターから離れる。
「マスターが苦しんでいる……なればこの清姫がっ! 看病しなければっ!!」
「いえそれには及びません。ここは母にお任せを」
「私はマスターに愛のキスで目覚めさせると約束しました。なので……」
にじりにじりと歩み寄るマスター好き好きトリオ。
完全に今のマスターは無防備な状態だ。そんな中、彼女たちに襲われたらひとたまりもない。清姫にいたっては、よだれダダ漏れの欲望ダダ漏れだ。
そんな三人組を。
「殺菌!」
「ぐえっ」
「消毒!」
「あぐっ」
「緊急治療!」
「ぐはっ」
伸びる手を掴み、見事な連続CQCを決めた。これには思わず蛇さんも満面の笑み間違いなし。
「ここはもう病室です。騒ぐのなら退室させます」
「もうどっちが騒がしいのか……」
目に星が回っている三人を、まるで子猫のように乱雑に首根っこを掴んで廊下へと蹴り出した。
飛び火しないように、どさくさに紛れてマシュも退散することにした。
ナイチンゲールは治療の道のスペシャリストだ。ダ・ヴィンチと比べると、その年季も異なることから、熟練度も遥かに差があるだろう。
だから、彼女に任せても大丈夫だ。
「では、マスターをお願いしますね」
「ええ。任せてください」
マスターのためにお粥くらいならマシュにだって作ることができる。今から用意すればちょうどいいくらいだろう。厨房にエミヤ氏もいるはずだから、あの人にも手伝ってもらおう。
そう考えながら、マシュはマイルームを後にした。
◆
「ごめ、ん……やばい」
「どうぞ」
さすがサーヴァント。素早い速さでエチケット袋を持ってくると、すす、とマスターの口元に当てた。
「オ、エエェェェ……」
びちゃびちゃびちゃ。
酸味の強い香りがマイルームに充満する。だが、ナイチンゲールは嫌な顔のひとつせずに、マスターの口元を布巾で拭いた。
「慣れてますね。普通なら、変に逆流して鼻から出たり、流れでもう一度吐くのですが」
「ぐーぜん、だよ」
「いいえ、いったい私が何人の治療を行ってきたとお思いで? 歴戦の私をあまりなめないほうがいいですよ」
「さっすが……白衣の天使、だねぇ」
「な、何を言うのですか」
照れを誤魔化そうと、ぷいとそっぽを向き、エチケット袋をゴミ箱に捨てた。そして新しいものを3枚ほど用意する。
熱は相変わらず下がらない。だが、マスターの調子はいつも通りに見える。身体は悲鳴をあげているが。
獣のように荒々しい呼吸。吐く時以外、身体は一切動いていない。さらに、マグマのように熱い身体。さすがのナイチンゲールも、このような症状は知らなかった。
明らかにただの熱ではない……はずだ。
それに眼が少し濁っているようにも見える。おそらく今のマスターは、ほとんど眼が見えていない状態だ。
試しに実験。
「マスター」
「う、ん……?」
眼球だけ動かし、ナイチンゲールの場所を探している。
ナイチンゲールは、そんなマスターの目元に手をかざした。これで視界は完全に塞がれているはずだ。
「あれ……? へや、暗くした?」
ビンゴだ。
「いえ、気のせいですよ」
スッ、と手を退けて、今度はマスターの身体を起こした。ふと時計を確認し、簡単に今後の予定を組む。
「だいぶ汗をかいています。軽くシャワーでも浴びてスッキリしましょう。立てますか?」
「もう。おばあちゃんじゃ、ないんだから……」
ナイチンゲールの腕を強く掴む。鉛のように重そうな脚をベッドの端まで動かして、ようやく地面につくことができた。そして、ゆっくりと立ち上がる。
「ほら、でき……あ、れ」
バランスが崩れる。
変に見栄を張ったところで、ちゃんと目も見えないくせに立つのは馬鹿のすることだ。ナイチンゲールは小さくため息をつくと、倒れかかったマスターの腰を受け止めると、残った腕を膝の裏に回し、持ち上げた。
「ちょっ、ちょっと。これじゃ恥ずかしいよぉ……」
お姫様抱っこ。
それは世の少女たちが、空想上の物語で目にするドキが超ムネムネする夢のひとつ。されれば大勝利(イケメンに限る)だが、看護婦さんにされるのはいささか妙な感じだった。そして何より恥ずかしい。抵抗しようにも力が出せないし、出したところでサーヴァント相手にどうしようもない。
いろいろと考えたところで、頭に熱が回ってきた。意識がぼんやりとしてきて、これ以上はいけないと本能で悟る。
兎にも角にも、彼女はバーサーカーだ。曲がり曲がっても看護婦であるが、その本質は暴走に囚われている。
どうしようもない。彼女がシャワーと言えばシャワー。飯と言えば飯なのだ。
座薬を……。と言い出さぬことを祈るばかりである。
◇
「あーー……」
冷たいシャワーが、熱く燃える身体を冷やす。これぞ命の洗濯。存外に気持ちよく、何も考えられないマスターに、快をもたらす。
「どうですか? マスター」
「あーー……」
ナイチンゲールの言葉が耳に入らない。
隔絶された意識の中で、ただただこの冷たさを享受していたかった。
裸体のマスターは、背中をナイチンゲールに支えられ、だらしなく口を開けていた。
そんな彼女が、満足して弱々しく笑顔を見せるまで、ナイチンゲールはただじっと見ていた。
◆
マシュ手作りのお粥を少しだけ食べて、マスターはまたナイチンゲールに介抱されながらマイルームへと戻った。
あれほど冷たいシャワーを浴びたというのに、また身体が熱くなってきた。ましになっているか……は、息絶え絶えのマスターにはわかるはずもなかった。
「……くる」
「どうぞ」
エチケット袋があてがわれる。
「ウ、ウ。ゲエエエェェェ……」
吐く。さっき食べたばかりのお粥も吐き出してしまった。マシュに対して申し訳ない気持ちになってしまい、「……はあ」と熱いため息をはいた。
あの行動に、後悔はしていない。
ただ、何を考えていたのかは、忘れてしまった。いや、きっと自分で自分に、都合よく無意識にフィルターをかけているのだ。ならば詮索するのはその時の自分に対してかわいそうだ。
結果がこれだ。
他人……いや、カルデア全体に迷惑をかけてしまった。どんな考えであれ、自分本意であったのは確か。
実に罪深い女だ。
「マスター」
「……」
答える余裕はなかった。
だが手首に触られる感覚。そして何かを塗られた瞬間、高熱など嘘のように素早い速さで手を引っ込めた。
「あなたは今、非常に思考が曖昧になっています」
「なに、したの」
「塗り薬です。食事中に英雄王から調達してきました」
「……そう」
首だけを動かして、塗られた手首を見る。
一瞬だけピリッと痛みを感じるが、すぐさま湿布を張った後のようなスゥーッ、と涼しい感覚。皮が破け、処所肉が見えていた手首の傷が瞬時に治ったのだ。ちゃんと視認することはできないが、治ったという事実は確かに感じられた。
「私の仕事は、怪我人を治療すること。英霊となっても、それに変わりはありません」
一枚羽織っただけの服がめくられる。
マスターの裸体が露わになり、羞恥に頬を染める。だがナイチンゲールはそんなことお構いなしと背中に手を回し、マスターをうつ伏せにする。そして痛々しい腰の掻き毟った後にも塗り薬を塗る。
身体が熱いせいで、いやに治る感覚が鮮明に感じられる。
「看護婦には、すべてお見通しです」
ああ、とマスターは力が抜ける。
再び服を着せてもらって、仰向けに寝転ぶ。眠い。ゆっくりと瞳を閉じ、夢の世界への切符を切る。
身体はまだ熱い。だがそれとはまた別種に、ほのかに温かさを感じた。
例えバーサーカーのクラスに召喚されても、暴走に囚われていても、本質の……人格を形成しているのはその人の信念、といったところか。
思考が曖昧だ。本当に指摘されたとおりだ。
怪我は治った。あとは熱が下がれば元通り。それでいい。それで終わりなのだ。どこもおかしくない。
……そう、元通り、だ。そのはずだ
時系列は……わかりますよね?
マスターが高熱にうなされる回でした。
では。
い つ も の
ネタが尽きたので、活動報告にてネタ募集中です。琴線に触れたら燃えます。