盾の少女の手記   作:mn_ver2

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おかげさまで日間ランキング24位をゲッチュしました。いやぁ、びっくりですねぇ……。


人理を救う価値があるか否かをテーマに書いていましたが、いつの間にかこうなってしまいました。長めに書いたらいろいろとヤバイ気がしたので、短くカットしました。


価値再考

 ふと、自分が立っていることに気づく。

 夢……そう、夢だ。死んだようにベッドに倒れこんだことは確かに覚えている。だからこれは夢だ。

 いったいどこだろう。薄暗く、とても広い研究室のような部屋だ。目の前には人三人が入ってもまだ余裕のありそうな培養カプセルがずらりと部屋中に並んでおり、さらにその全ての中にこの世のものとは思えない、グロテスクな化け物が口元にマスクをつけられ、黄緑色の培養液に漬けられている。

 こんな生き物、これまで巡った特異点でも見たことがない。明らかに何かを施された化け物だ。

 しばらくたったところで白衣を着たーー40後半だろうかーーふたりの男がカツカツ、と歩く硬い音が、ブウウウン……と静かに稼働する機械音と混ざる。

 

「ワイバーン……でしたっけ? そんなおとぎ話にあるような生き物、よくこんなにも捕獲できましたね」

 

「詳しいルートは知らんが、地球のどこかにまだそういった秘境はいくらでもあるらしい。ここにある実験体はその一部にも過ぎない」

 

 ぱらりと紙を捲り、ふむと頷く。

 マスターはその場を静かに、かつ速やかに離れようと考えた。すでに異形の怪物に作り替えられてしまった生物たちを救う術をマスターは持ち合わせていなかった。雄雌の判別はつかないが、ここで生を凌辱された生き物たちは己が生を全うしようと人目につかない地で生きていたのだ。

 それを、人間が犯している。

 じりじりと後退し、どこの施設かもわからないから去るべく後ろを振り向いた。

 

 男がいた。

 黒い死がいた。

 

 血管が張り付いたような二丁拳銃を握り、無関心に二人を眺めていた。

 

「エ、エミヤ!?」

 

 オルタ。

 あまりに突然のことで腰を抜かし、尻餅をついてしまう。

 マスターは自分の出してしまった声に、気づかれてしまったと思い、恐る恐るまた振り返ると、別段気づいた様子はなく、意見交換に夢中になっているようだ。

 

「エミヤ、どうするの?」

 

 マスターが問いかける。

 しかし、エミヤオルタは無視し、隠れるそぶりすら見せず、堂々と前に躍り出ようとした。

 バカなことをしないで、と腕を掴んで引き戻そうとしても、触れたと思った瞬間、マスターの身体は透け、空を掴んだだけだった。

 

「だ、誰だお前は⁉︎」

 

 ひとりがエミヤオルタに気づき、声を荒げる。

 

「オレか? オレは平和をもたらす悪魔さ」

 

 もうひとりが緊急コールを押す。

 すると、瞬く間にエミヤオルタを無数の化け物たちが取り囲む。

 そのうちの一体がマスターに重なる位置で足を止める。不安定で乱雑な呼吸がマスターの耳に直接届く。顔は左半分は陥没し、足は五本。腹の皮がベリベリに剥がれている。実験の成れの果て。その呼吸が、マスターには悲鳴に聞こえた。

 

「行けッ! 化け物ども!」

 

 号令に、苦しみの咆哮で応え、一斉にエミヤオルタを襲う。

 しかし、アクロバティックな動きで化け物たちの突進を避け、銃を放ち、投影した双剣で首を落とし、弓で頭を貫通させる。

 

「待って! 止めて!」

 

 手を伸ばしても、必死に声をかけても届きはしない。

 令呪を使用しようとするが、目の前のエミヤオルタとは繋がりがなく、意味はなかった。

 誰も聞こえないのか。この声が、悲鳴が聞こえないのか。

 確かに化け物たちは言葉など話せないし、理解することなどできない。だがわかる。これだけは間違っていないと断言できた。

 

「……つまらん」

 

 たった数分で死体の山が積み上げられた。最後に残った一体が死に体ながらも逃げようとしているのを見て、助けたいという思いが炎のように燃え上がった。

 走り寄り、頭を優しく抱きしめる。しかし、触れることはできず透けてしまう。だが届かないとしても、ここに想ってくれる者がいると証明したかった。

 

「痛かったね。……もう大丈夫」

 

 頭を撫でようと手を伸ばす。

 しかし、その手の上から、透け通ったエミヤオルタの足が無慈悲に頭を踏み潰した。

 

 ぐしゃッッ!!

 

 マスターの足元に脳みそと血が混じったものが広がる。

 怒りが爆発し、エミヤオルタを見上げ、睨みつける。しかし彼はマスターを見向きもしないで息を吐くように男二人を撃ち殺す。

 

「救われないな」

 

 宝具、極大開帳。

 固有結界を孕んだ銃弾をセットし、いつもの文句を唱える。

 

「……『無限の剣製(アンリミテッド・ロストワークス)』」

 

 上に撃ちあげ、空間固定で弾を空中に縫い付ける。

 役割を終えたエミヤオルタの身体が光の粒となり、消え始める。

 

「エミヤ! エミヤ! あなたは何も思わないの⁉︎」

 

 やはり声は届かない。

 悲哀を語る背中を叩こうと手を上げても触れることはなく、結局マスターの役割は観客でしかない。サーヴァントの記憶に迷い込んでしまった迷子に過ぎない。

 だから何もできない。ただの夢なのだから。

 人の悪性。それを戒める機構。それがエミヤであり、さらにそこから外れ、壊れた機構がエミヤオルタである。

 

「どこで間違ったんだろうな。オレも……人類も」

 

 エミヤオルタの姿が完全に消える。

 その瞬間、弾から無限の剣が生え、施設は跡形もなく破壊されて。

 マスターの夢はそこで一旦途切れた。

 

 ◆

 

 マリー・アントワネットの最期を見た。

 織田信長の最期を見た。

 ジャンヌ・ダルクの最期を見た。

 ブーディカの最期を見た。

 ヴラド三世の最期を見た。

 

 何人も、何十人も、悲惨な最期を見た。

 ただ見せつけられ、何もできないという生殺しの夢を見せつけられた。人間の醜悪さを見せつけられた。

 救われず、無念に沈んだ英霊となる前の人間たち。

 マスターは悲しみに涙した。怒りに唇を噛み締めた。

 記憶が終わればすぐに次の誰かの記憶へと飛ばされる。終わることのない夢。人が歴史を紡ぎ、未来へ託す。そんな美しい営みの裏にある、捨てられた影たち。

 人間とは過ちを繰り返すもの。その繰り返しのなかで学ぶ。

 なんて妄言は腐るほど語られてきた。

 ゲーティアは死を嘆いた。だがそれ以前に悲しみを嘆いた。

 人の愚かさゆえに悲劇を被った人。それらが歴史の一部として編み込まれる。まさに『そこ』にゲーティアは着眼したのだ。

 

 完璧な人間などいない。そんな言い訳じみた言葉、とうに聞き飽きた。

 どうだ。何も……何も変わらない。人理は救われた。しかし、そんなことなど知る由もない盗人は、今日も性懲りもなくどこかで盗みを働くだろう。

 未来を取り戻したところで、全ての人間が善性に目覚めるわけではない。

 獣性が語る。

 人間だ。人間が原因なのだ。と。

 ゲーティアは人間の本性を見誤っていた。死のない、悲しみのない世界を再構築したかったのだろう。だがそこに人間を加えるのは誤りなのだ。

 人間は社会的生物へと進化してしまった。いくら幸せになるべく外から力を注いでも、内に抱えるモノをどうにかすることはできない。ゆえに死を許されない桃源郷で、地獄よりも惨い結果となる。

 ……人間が存在している時点で、すでに終わっているのだ。

 

「……」

 

 長い長い夢から覚める。

 時刻を見ると、まだ深夜の三時だ。単純計算だとたったの四時間しか寝ていないことになる。

 嫌な夢だった。可愛らしいクマがプリントされたパジャマが汗で肌に張りついていたので脱ぎ捨てて下着姿になる。すっかり目が覚めてしまったから、ついでに軽くシャワーを浴びる。

 獣性の言うことはすべて事実だ。だが、それを遥かに上回るほどの人間の美しさを地球上の誰よりも理解している。これまでの人との触れ合いの中で、その奥深さを知った。

 どうやらゲーティアの抱く理想を獣性はお気に召さなかったらしい。今回の夢の犯人は君か。

 そして獣性は最後にひとつだけ、糸一つまとわぬ姿になったマスターの胸にずるりと入り込み、問うた。

 

 人類を滅ぼさないか、と。




人類を救った。それでいいじゃないか。


今回はそこまでシリアスではありませんでしたね?(感覚麻痺)
次、エレシュキガルかメルトリリスかで悩んでいます。どちらか希望があれば活動報告まで教えてください。どちらにせよ、シリアスを超ハッスルさせるつもりです。
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