シリアス全開にしようかなー、と思いましたが、あえて控えめにしました。つまりシリアスさんに休息が訪れる→シリアスさんが力を蓄える。
……意味はわかりますね?
あと、呼符で沖田さん来ました。
ヤターー!! 大勝利!!
人形。
人形。
人形。
人形。
可愛いもの。かっこいいもの。凛々しいもの。整ったもの。どれをとっても『キレイ』な人形たちだ。
メルトリリスはそのうちのひとつを感覚の無い手で……両手で優しく持ち上げる。幼い男の子の人形だ。ふっくらと丸みを帯びた頬が愛らしい。ぷにぷにの唇が愛らしい。簡単に取れてしまいそうな、小さな可愛い鼻が愛らしい。
たっぷりと愛情を注ぐ。それだけでいい。見返りは求めない。ただ愛情を享受するだけのモノであれ。
「ふふふふ……ああ、可愛いわ……愛している……永遠に私のモノに……」
艶やかにほほ笑む。その様子は無邪気。そしてその想いは異質。だが本質は本物の恋愛を知らぬ赤ん坊。だからこそ求める。
マスターを好きなのかもしれない。少なくとも嫌いではない。嫌いではない人間は片手で数えられる程度しかいない。そのうちのひとりがマスターで、現在最も距離の近い人間だ。
ああ注ぎたい。愛をたっぷり注ぎたい。上から見下ろした時のマスターの上目遣い。かわいい。小さいものを見ているようで、加虐性が刺激され、ゾクゾクしてしまう。
……この想いよ、届け。
◆
『いつも通り』だ。
毎日毎日苦しみ、ひとり寂しく戦っている。
ゲーティアを倒したというのに、まだマスターにその残滓が付きまとっている。獣が付きまとっている。未来を取り戻したら終わり……そういう話ではなかったのか。
次から次へと湧き上がる脅威。しかもそれらがやってくるのはいつも突然だ。こんなことを考えている今この瞬間にだって襲ってくるかもしれない。だから気は抜けない。
次こそ死んでしまうのではないか。そう思ってしまうだけで、頭が諦めに染まる。まるで悟りを開き、真理を悟った修行僧のようになってしまう。いつものことなのだが、やはりこれだけはまだ慣れない。
接着剤で張り付いたように全く開かない重い瞼を頑張って上げる。寝起きのせいで、視界がぼやけ、意識が覚醒するまで待つ。
まず視界に飛び込んできたのは、薄紫だ。しかも、なんだか右腕に重さと同時に温かさを感じる。
フォウ? と思ったが、次第に鮮明になりゆく正体の全体図がそれを否定する。フォウはこんなに大きくない。とりあえずそのやわらかい物体の正体を探るべく、ペタペタと触る。
「ん、うみゅ……」
……明らかに人の声だ。
そしてついに姿を現したその人物、マシュだ。
どうやら自分の右腕を枕として提供していたようだ。退かしたいのだが、簡単に動かすわけにもいかず、身悶えする。
マシュと完全に対面している状態だ。穏やかに吐息をつくマシュを数分眺め、十分に癒された後、その愛らしさに耐えきれなくなったマスターは、残った左腕で背中を抱き、マシュが起きないように細心の注意を払いながら胸に寄せた。
「……」
マスターは何も悪くない。ここで可愛らしく寝ているマシュが悪いのだ。そう自己肯定したマスターは、マシュのいい香りと、柔らかい身体を堪能する。
これささやかな幸せ。愛おしいが故の、疑いようのない変態行為だが、マシュならば許してくれるだろうと計算した上での行動だ。そもそも目覚める前に手を退ければいい話……。いやそういえば、どうやってマシュに枕にされた右腕を開放するかと悩んでいた、はず。退かすことができないのに、なぜややこしくなることをしてしまったのだろう。
……やはりかわいいマシュが悪い。私は悪くないと思考を放棄する。
もうどうにでもなれと思い、そのまま二度寝に突入しようとしてーー……。
「あの……先輩?」
頬を真っ赤に染めながらこちらを伺うマシュに。
……あ、死んだ。
と、マスターはそっと静かに目を閉じた。
◆
今日は訓練の日だ。
マスター、エミヤオルタ、アルトリア、メルトリリスの計四人でシミュレーターよって古代遺跡を模したフィールドへと送られる。『この組み合わせは珍しいからね。良い指示を期待しているよ』とダ・ヴィンチ。『それと、今朝はマシュとベッドでイチャイチャしていたんだって? 熱いね、ひゅーひゅー!』いらない追撃にマスターの頬がポッと赤くなる。言うまでもなくダ・ヴィンチの言葉はアルトリアたちはもちろん、オペレーティングルームにいるスタッフたちにも聞こえている。こんな場面に公開処刑はキツい。誰にも顔を見られたくないと顔を手で覆い、俯く。
メルトリリスは、オルタのエミヤに随分と不機嫌なようだ。
「ちょっと、どうして私があのコーヒー豆みたいな男と同じパーティーなのよ?」
「心外だな。ならオレが真っ白だったらお前は満足するのか?」
「いいえ? 私は二丁拳銃じゃなくて双剣のあなたのほうが好きなのよ」
「そうかい」
行動前から険悪な雰囲気だ。マスターは若干涙目で遠い目をして眺めているアルトリアに助けを求めた。
するとその視線に気づいたのか、腰に下げていたポケットから何かを取り出し、マスターに渡した。何か考えがあってのことだろうと素直に受け取り、それを確認した。
それは美味しそうなクッキーだった。
マスターは絶句し、無言でクッキーとアルトリアを往復する。そして五往復したところでようやく口を開く。
「顔がお腹空いたと言っていたので……」
今日の王様はどうやらダメなほうらしい。
マスターが目頭を抑えて天を仰ぐ。しかしもらったクッキーはしっかり食べる。案外美味しく、胃に収めた後、微妙に口に寂しさが残る。
崩壊した遺跡の入り口をアルトリアの剣で吹き飛ばす。舞い上がる砂が口に入ってしまい、マスターは何度も気持ち悪さに咳をする。
中に入ると、そこはとても広い部屋となっていた。
『遺跡の中にある宝箱を開けたら終わりだからね』
了解、とマスターは簡単に返すと、改めてぐるりと部屋を見回す。広さはどこの学校にもある平均的な体育館ほど。古びた遺跡というだけあって、所々天井が崩落した跡がある。そして左手にドアがふたつ。右手にひとつ。
エミヤに索敵してもらい、問題ないことを確認すると、マスターは右のほうを指差した。
「あっちから行こう。異論はある?」
三人からの無言の首肯。
それを確認したマスターはスタスタと歩いていき、ドアを開けようとする。赤茶色の錆が張り付き、一瞬躊躇ってしまう。
「待て、オレがいく。何があるかわからんからな。そもそもマスターはひとりで先走るな」
「え、あ、うん。ありがと」
マスターが一歩下がる。そしてエミヤはドアの前に立つと、拳銃を一時的に消した後に盛大にドアを蹴破った。
「ちょっと、もっと丁寧に開けなさいよ! 服が汚れるじゃない!」
「ああ? そのくらいのことでぴーぴーうるさいぞ」
月はこんなに汚くなかったわ、と真っ白な服をパンパンと叩いて汚れを落とす。極度の潔癖症の彼女にはこの遺跡は最悪の相性だ。脚の方に手が届かずに苦労しているようだったから、マスターはその手伝いをする。
「あら、嬉しいじゃない」
おかげですぐにメルトリリスの汚れは落ち、彼女は満足げに鼻を鳴らす。
エミヤが改めて中を覗く。瞬間、二丁拳銃を手元に投影させ、構えた。
「ーー来るぞ」
暗闇から飛び出してきたのは、大量の蜘蛛。椅子ほどの大きさの蜘蛛がカサカサカサとドアの前でせめぎ合いながら、爆発するかのように一斉に押し寄せて来る。
エミヤが咄嗟に対処するも、全てを排除しきれずに何体か逃してしまう。そのうちの一体がメルトリリスを、アルトリアを、そしてマスターを狙う。
「マスター、失礼を!」
一歩踏み込み、急加速でマスターに接近しアルトリアが、抱き上げようと両腕を膝裏に伸ばそうとしたが、マスターはそれを断った。
「エミヤはそのまま食い止めて! 王様はおこぼれを。メルトリリスは私を襲う蜘蛛をお願い!」
「それはさすがに……!」
「ダイジョブダイジョブ。これくらいできないとマスターじゃないからね」
ひょいっ、とアルトリアの腕から逃れ、メルトリリスを呼んだ。
「いいわ、実にいいわ! そのバカな行為、私は評価するわよ? せいぜい無様に走り回りなさい?」
面白おかしく笑うメルトリリスを尻目に、マスターは蜘蛛達の前に躍り出る。
エミヤとアルトリアの見事な連携攻撃で蜘蛛たちはほぼ倒されている。サーヴァントにはもちろん劣るが、体力にはある程度自信がある。一年と半年が過ぎたほどか。ほぼ激動の毎日を送っているおかげで、運動能力は飛躍的に向上した。筋肉はまだあんまりだが。
だからここでその成果を見せたい。そしてサーヴァントたちの直接的な手助けがしたい。
「さあ、来い!!」
マスターはそう吼えた。
◆
「うーん、ギリギリ不合格だね、こりゃ」
「うっ」
「エミヤオルタ君も言っていたけど、君は前に出すぎだね。ジッとしていられない性格だからなんだろうけど、そこが悪い癖になってるぜ?」
「ぐはっ」
痛いところを指摘され、マスターがよろめく。
それをエミヤオルタは黙りこくり、アルトリアは残ったクッキーを目にも留まらぬ速さで口に運び、メルトリリスにいたっては、ずっと声を押し殺して笑っている。
「でもほら、皆は無傷。宝箱も見つけられた。それじゃダメ?」
「うーん、ダメ」
綺麗に否定され、ガミガミとダ・ヴィンチのお叱りを受けて今日の訓練は終わった。結果はグレー。エミヤオルタはそそくさとどこかへ消えてしまった。
「ではマスター、私はこれから円卓の者たちと、きのこ派たけのこ派の議論をしなければならないので、ここで失礼します」
「あ、はい」
そう言い残した腹ペコ王様は軽やかなステップを踏んで行ってしまう。
どちらかというと、その会議の方が彼女にとっての今日のメインだったのかもしれない。
「やれやれ、ここには頭のネジが二、三本飛んだ連中しかいないのかしら」
「そんなことないよ」
「まあ、アナタは全部飛んで行っちゃっているけど」
「大げさだよ」
「さあどうかしら? ……ああ。少し渡したいものがあるのだけれど、いいわよね?」
もちろん、とマスターは頷く。嬉しそうに口角を上げたメルトリリスは、カッ、カッ、と高い靴底で床を叩きながら歩く。よくもまあ、カルデアの床が落ちないことだと内心感心しながらメルトリリスの自室に着くと、少し小走りに部屋の奥に入っていった。
ちらりと奥を覗くと、大量の人形が飾られている。確か、人形が大好きだとか言っていた気がする。
やがて戻ってきた彼女が手に持っていたのは、二本の黒い薔薇だった。マスターはメルトリリスからそれを受け取り、匂いを嗅ぐ。
花……花、か。そんなものに触れ合えるなんてとても久しぶりだ。甘く、蕩けるような匂いに思わず熱い息をはく。
「珍しいでしょう?」
「うん……とても、珍しいね」
「でしょう? ……それと。もし全てがイヤになったら私に言いなさい? アナタをドロドロに溶かして、私の一部にして、永遠の快楽に溺れさせてあげてもいい。人形にして、私が直接愛でてあげてもいい。アナタには、私の愛を受ける権利があるのだから」
メルトリリスはそう言って、無邪気に微笑んだ。
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次のテーマが決まらないので、活動報告欄にて希望を集います。