発売日にリンク買いに行きました。
昨日とりあえず一つのルートをクリアしたのですが、まだいくつか他のルートがあるっぽいですね。
育成するサーヴァントで性癖がわかってしまうんだよねーこれが。
では。
マスターちゃん、DEAD END
歩みは誰にも止めさせない。私はただひたすら進み続けた。
飛んでくる無数の矢の雨をくぐり、バーサーカーに追い回され、逃げ切れたかと思えば完全に死角からのナイフの投擲が横腹を掠め、振り返る間も無く前方からの新たな敵の突進を、パッションリップが逸らす。
「あ゛ど……少じ……ッ!!」
あの時メルトリリスと見たドーム状の建物が見えてくる。
ガヒュ、コ、クヒュッ、と乱暴な呼吸で酸素を確保し、お返しに血を吐く。途中で拾ったちょうど良い破片を繋ぎ合わせて作った杖が非常に役に立っている。
幸運なことに、見る限り私とふたり以外は誰もいない。しめた、と思い、よろよろと杖をついてできる限りの速さで向かう。
BBに回復してもらった魔力も、もう底をつきそうだ。いざとなればあの最終手段を使うが、何があるかわからない天球シミュレーターのためにもゼロの状態で行くのはどうしても避けたかった。
「お願い……頑張って……!」
メルトリリスが私を励ます。
さっきから何度もチラチラとこちらを心配して顔を振り向かせている。
喉が灼けそうだ。今すぐにでも掻きむしりたいほどなのだが、そのための空いている手がない。
私はこくりと頷き、全身を使ってさすらいの浪人のように前へひたすら進んだ。
そしてやがて、空間が消えたところ……私の右腕が呑まれた場所へとやってきた。
「ぅーーぁ、あ」
パッションリップを横目で見ると、彼女は私から目を逸らして萎縮する。
別に気にしなくていいのに。あの時のパッションリップは、センチネルとして私を排除しようとしただけ。そこに悪意はなかったから、憎む必要もない。
大丈夫だよ、とちゃんとできているかわからない笑顔を向けると、彼女はほぅ、と安堵のため息をつく。目隠しをされているのに、今のが見えたのだろうか? だがそれをツッコむ時間はない。
全身にまでモザイクはかかり、時折視界にノイズのようなものが走る。
「天球シミュレーターよ!! あそこから中へ……!!」
メルトリリスがそう叫び、私は安心しきり、死にそうになってしまった。
確かに見えるただの鉄製のドアが、いっそ神々しく見えてしまうほどだ。
だが、青い炎がそのドアを塞ぐように燃え上がる。
現れたのは大きな黒い男。骸骨のような頭。血濡れの黒剣がギラリと鈍色に光る。死の象徴。
あれは……キングハサンだ。
だが私は進むことをやめてはいけない。
「……来たか、来訪者よ。我の名はハサン・サッバーハ。ハサンを殺すハサンなり。我はここで汝の首を断つためにいる」
睨まれる。
それだけで心臓を直接鷲掴みにされたような異質さを感じた。
メルトリリスとパッションリップは臨戦態勢をとっているが、意味はない。なにせ彼は冠位を捨てたものの、アサシンの中ではトップクラス……いや、トップだ。その気になればビーストにすら死の概念を付与させるほどの力がある。
メルトリリスとパッションリップが地を蹴り、一気にキングハサンに肉迫する。
リズムのいい、今までで最高に連携のとれたコンビネーション攻撃を仕掛けるが、ボウッ! と燃え上がる青の炎を残し、彼は姿を消す。
直後、メルトリリスの背後に現れる。
「くっ……!」
振り向きざまの足蹴り。
しかし、強固な鎧を貫くことは叶わず、ガイィンンッ!! と激しく火花を散らしながら逸れる。
「愚かな」
パッションリップの凶悪な爪が襲いかかる。完全に背後をとった一撃。だがそれすらも、まるで未来予知の如く、青い炎を爆発させて妨害する。
逆に不意を突かれ、のけぞったパッションリップに、逃がさんとキングハサンの剣撃。
……不可視のひと振り。一幕遅れて、斬痕の嵐。
彼女の周りを鬼神のように舞い、防御しようと組んだ爪を、左右合わせて四本削り取った。
「あ、う、ぁ……!」
ボロボロになった金色の爪の欠片が輝き、ごとりと落ちる。
「汝らに用はない。我はあの小娘を殺さねばならぬ。……退くがいい。さもなければその首、切り落とさん」
「誰があんたみたいなガイコツ野郎にマスターを譲るものですか! あんたが退きなさーー……」
瞬きをしたわけではなかった。ましてや意識を逸らしたわけでもない。だがそれでも『いつの間にか』首元に剣が突きつけられていたことに、ようやく気づいた。
ここで完全に剣に意識が向く。
避けようと上半身を極限まで反らす。
瞬間、腹部に重い重い拳が落ちる。
「はぐぅッッ……!!!」
電子で構成された地面に、メルトリリスを中心にひび割れがありえないほど伸びる。それは私の元まで届き、ほぼ電子化した私の足が引っかかり、コケそうになる。
だが、それでも私は止まってはいけない。
たとえふたりが倒されようと、諦めてはならない。ゴールは本当にあと数メートルなのだ。
私の足は、止まれなかった。
「小娘よ、死ぬがいい」
ぬうっ、と私の前にキングハサンが立ち塞がる。それでも私は懸命に杖をつき、歩き続けた。
「ヒトの道から外れた者をこの先に行かせることも、生かすわけにもいかぬ。死こそが、汝にとって救いである」
「どい、てぇ……!」
がふ、と血を吐きながら答える。
杖を弱々しく振り回し、先端がキングハサンの腰にあたる。何度も叩くが、彼はただそれを見下ろすだけで、何もしない。
時間が惜しい。一刻も早く、元冠位サーヴァントを殺してでも進まなければならない。
腕が震え、とうとう手から力が抜けて杖を手放してしまった。
「あ、ふ」
ずっと長い間、杖を頼りに歩き続けていたせいか、前のめりに倒れそうになる。今ここで倒れてしまえば、きっともう二度と立ち上がれなくなる。そう予感し、緩やかに崩壊し始めた脚に鞭を打ち、一歩、また一歩と歩き、キングハサンに寄りかかった。
硬いゴツゴツの鎧が私の頬に張り付き、冷たいも温かいもわからない感覚に重く息を吐く。
「小娘よ、なぜそこまでしてこの先へ行かんと欲す。待つのは死すら超越した、想像を絶する恐しいものでしかない」
鉛のような声が上から注がれる。
私は頭だけ上げると、答えた。
「こ、の゛……SE.RA.PHを、救う゛だめ……!!」
「そこまで身を焼いてでもか」
「はや゛ぐ、どい゛てェ……ッ!!」
左手で殴る。
すると指のかけらが一気に電子化される。だがそんなことに構っていられない。私はそれでも何度も、何度も殴り続けた。
「……哀れなり」
「うるさい゛っ! う゛るざいうる゛さいうる゛ざいゔる゛さいうる゛さい゛!!!」
冷血な目は依然として私を見下ろし、無為に時間だけが過ぎていく。
「何故理解できぬ。汝は働いた……働きすぎた。安らかな死、休息が必要なのは明白である」
無視をする。
あと一発でも殴れば手が無くなってしまいそうだ。血と電子でぐちゃぐちゃの手を見て、私はキングハサンの身体を伝ってその後ろへと回ろうとした。
「ふーーー!! ふーーー、ぶ、ぶべッ! ギィゥ……」
大きく口を開けて、これ以上動くなと泣き喚く肺を黙らせて強引に酸素を送りつける。
そしてほら見ろと血が喉に逆流し、お返しとばかりに吐き出す。血がキングハサンの脚を流れる。だがそれでも彼は何もしなかった。
ようやく私はキングハサンの裏に回った。あとは彼という支えから離れるだけだ。
全身を使って彼から離れる。脚の一部が剥がれ落ちてきている。安定しない歩行。だが、たった数歩でゴールだ。
「はぁ、は、あぁ、はあぁぁ……」
あと少し。ほんの少し。崩壊しかけた手を伸ばす。
あと、あと……!!
「やはり理解できぬ。ヒトに非ざる者が何故人を真似る。質問に答えよ。その回答をもって汝の生死を判断する」
突如、青い炎が燃え上がり、キングハサンが鼻息が触れるほど至近距離に現れる。
感じたのは、静かな殺気。だが燃えるように激しく身を焦がす殺気だ。
しかし私は動じなかった。こいつのために時間を費やすわけにはいかなかった。
キングハサンが剣を地面に突き立てる。それは私の股の間に綺麗に刺さった。
邪魔だ。こいつが、邪魔だ。
メルトリリスとパッションリップが再起可能になるために必要な魔力はまだなんとか残っている。だがその瞬間、私が再起不能になってしまうだろう。
そんなことはどうでもいい。ふたりに約束したのだ。私をここに連れていってと。そのためならばこの命は惜しくないと。まさに今がその時だ。
こいつを退かせて、天球シミュレーターに行く。私のグチャグチャの頭で唯一考えられるのは、それだけだった。
手として存在できているかどうかわからないものに力を込め、拳を握る。
そして、殴る。
「そごを゛……どけええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
私の拳はキングハサンの剣にあたる。
ボロッ、とついに私の左手は完全に失われ、肘まで一気に崩壊する。
痛みが電撃のように全身を駆け抜け、恐らく一瞬だけ死ぬ。
「ーーーーーー」
キングハサンに傷は一切ない。
しかしその眼には幾ばくかの驚愕を感じられた。
私はこいつの結論を聞いてやるつもりなどなかった。私の力で排除はできないし、抵抗したところで無意味だ。
ふたりに魔力を流し込む。だが、たった数秒で逆にふたりから拒絶されてしまった。
「私、だって……意地があるのよ。人間風情に何度も助けられるなんて……反吐が出るわ……」
メルトリリスがふらりと立ち上がる。彼女は私を見ると、ふっ、と小さく笑ってみせた。
パッションリップも、残った爪を地面に突き立てなんとか立ってみせた。だがバランスはあまりちゃんととれていないらしく、ふらふらとしている。
「行くよ、ふたりとも」
うなずく。
歩き方を忘れた私は、ゆっくりと思い出しながらドアに近づき、手をかけた。
「行くがいい、獣に堕ちた者よ。どのような結果であれ、それが汝の選んだ結末である」
キングハサンが何かを言っていた。
うるさい。お前は、もう黙ってて。これで終わりだ。この先にあるものを終わら、ら、ら。終、わらせせせせて、みんなハッピーエンドだ。
私はようやくゴールへとたどり着いたのだ。
◆
まず目についたのは、壁にぎっしりと並べられた棺のようなものだ。おそらくその数は100を超えている。
機械の電気だけで照らされた部屋。SE.RA.PHの心臓部。とても不気味な雰囲気を放っていた。
「これ、は……」
私でもわかる。この部屋には魔力が充満している。それも吐き気を催すほど汚い魔力が。
中へと進む。限りある私の命はもうあと数分で消えてしまうだろう。
……ひとり、女がいた。
尼のような服装に身を包み、こちらに気づくと、火照った顔をこちらに向けてきた。
「あら。ここまで来たのですね、カルデアのマスターさん。ようこそこの楽土へいらっしゃいました」
警戒。
二人が身構えたのを見て、私はこの女が敵なのだと認識した。
「出会いがしらさっそく敵対ですか? 残念です。私はただこの地球の核となり、人類すべてを救いたいだけなのに……。そうです、あなたも一緒にどうですか? 同じ女として、私が最上の女の悦びを教えてさしあげましょう」
楽しそうに笑い、私に提案を持ちかける。女としての悦び? 実に甘美な響きだが、私には、それに浸っていい人間ではない。
私は並んだ棺のようなものを肘で指した。中には子供がいる。
「私の質問に答えて。あの棺は何?」
不思議そうに女は小首を傾げて私を見る。少ししてから「ああそうでした」と手を叩いた。
「あの子たちはマスターです。ほら、ただSE.RA.PHが沈んでいくのはとても暇ではないですか。だから催しをしていたのです。月と同じように、128騎による聖杯戦争。そのためのマスターですよ」
BBの開催した2回目の聖杯戦争が脳裏をよぎる。
私が来る以前からSE.RA.PHは沈んでいっていた。つまりその前から何度も偽りの聖杯戦争は行われていたということだ。
「その聖杯戦争……何回したの?」
「サーヴァントの皆さんの戦い様があまりにも気持ちよくて、美味しくて、私、すっかり夢中になってしまいました。ええっと……70回を超えたあたりからは覚えていないのです。ごめんなさいね?」
この女は、悪だ。
私のこれまでの経験が強く訴えている。
「ふたりとも、あいつを倒すよ」
「ええ当然よ。あんな生物の風上にも置けない頭のおかしい奴なんて、細かく切り刻んでやるわ」
いくら再起したからといってもふたりとも万全の状態ではない。勝利は望み薄だが、だからといってなにもしないのはもっと悪手だ。
女は悲しそうな顔をして、すぐに「ならば」と言った。
「あなたたちは私の敵なのですね。仕方がありません。ここで死んでもらうことにいたしましょう」
すると、女の姿が突然変生し始めた。白黒を基調とした尼の服はピンク色に変色し、頭からは生えるはずのない角が二本、左右に伸びる。さらに天球シミュレーターまでもが変化を始め、蓮の花が辺り一帯に咲く。あれだけ薄暗かった部屋が、黄金に照らされる。
それだけに収まらず、女の身体はみるみるうちに巨大化していった。
「7つの人類悪のひとつ。3つめの『快楽』の獣、ビーストⅢ、殺生院キアラでございます。地球の核まで落ちるまであと数分。もう少し早ければ勝機はあったかもしれませんが、残念ですね? それでは私の時間つぶしに……おや?」
女……キアラがふたりを見て何かに気づいたようだ。
そして面白おかしく、口元を手で隠して笑い始めた。
「あっははは! はははははは!! カルデアのマスターさん? よくもセンチネルのままふたりをここにつれてきましたね? KPから解放されていないのに私に挑むなど愚かの極みですよ?」
KP? いったい何のことだ。今初めて聞いた単語だ。センチネルは聞いたことはあるが、結局はどちらの意味もわからない。
なぜならそんな余裕はなかったから。
「何がおかしいの」
「ええ。ええええ。わからないのですね? ならばその愚かさ、身をもって償ってくださいな。……『メルトリリス、パッションリップ。マスターを攻撃しなさい』」
何をバカなことを命令している。
ふたりのマスターでもないのに、そんなこと、従うわけがないだろう。
嘲笑おうと、キアラを見て、次にふたりを見た。
どうしたことか、ふたりともなぜか私に攻撃した。
「……………………ぇ?」
視界が一気に低くなる。
だるま落としをされたような感じだ。あまりに突然のことで、何が起こったのかが全く理解できず、私はうつ伏せに倒れた。
……身体がとても軽く感じた。血に染まりきった視界で自分の身体を確認すると、それもそうだと狂おしいほど落ち着いて理解できた。
両脚が無くなっている。横腹が半分以上えぐり取られている。
腸やら肝臓やらが私のお腹から溢れ、地面に肉と一緒に転がっている。
メルトリリスとパッションリップを見る。……パッションリップの爪に、私の片脚が突き刺さっている。
つまりはそういうことか。
理解したことで、ようやく反応が現れる。
「ぅ……ぅ…………」
苦しみを、痛みを通り越し、いくつか先の次元の感覚へと至った。それが何かわからないが、ワタシなら曖昧ながらも理解できた。
「ああ、あああ……ああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
メルトリリスが叫ぶ。
自分のしてしまったことの重大さに膝をつき、ひたすら叫び続けた。
「なんですか。その程度ですか。私が直接手を出す必要すらなかったではありませんか。でも……そうですね。最後のトドメくらい、私がしてあげましょう」
キアラが泣き喚くメルトリリスを巨大な手で弾き飛ばす。パッションリップをデコピンで壁まで突き飛ばす。
私の守りは誰もいなくなった。ふたりはもう、完全にキアラの手に落ちた。自ら望んでではないだけ、なおさらたちが悪い。
「どろどろに溶かしてさしあげましょう。そして快楽の海に溺れるのです。……ああ、なんて素晴らしいのでしょう。女の悦びを是非体感して下さいませ」
キアラの手が私を覆い、掴み取る。
激しい快楽に襲われ、血の雨と肉の雷雨と死の抱擁。
許容できない。人間には無理だ。人間には、無理だ。
頭が限界を迎え、ついに壊れる。
ーーああ、私の旅はここで終わりらしい。
ぱしゃり、と私の身体は溶けた。
◇
メルトリリスは叫び続けた。
あの協会で死を待つだけだった自分を、マスターは助けてくれたのだ。その後いかなる傷を負ってでもメルトリリスを守り、そしてここまでたどり着いたのだ。
なのにこの最期はなんだ。
メルトリリスがマスターを殺した。そう言っても過言ではなかった。これが望んだ結末か。
否。否。……否。断じて否である!!
マスターはメルトリリスを助けてくれたのだ。ならば今度はメルトリリスがマスターを助ける番だ。
センチネルを全て倒した時、その時にキアラの全能に陰りが現れる。そのためにはどうすればいいか。どうマスターを導くか。それだけがメルトリリスの中で光の速さで計算をしていた。
「リップ……私は、上にあがります」
「う、ん……」
それだけで何を意味するかパッションリップは理解した。
ふたりで放つ、対篭城宝具、ヴァージンレイザー・パラディオン。光の速さを超え、キアラの発する重力から逃れ、上へ……過去へと逆行する。
パッションリップが宝具を展開する。それをカタパルトとして、手にメルトリリスを乗せる。
「何をしているのですか? BBの子供たち。勝手なことを許可するわけがないでしょう?」
キアラに気づかれる。
完膚なきまでに叩き落とそうと、手が迫る。せいぜいレベル1のふたりに抵抗などできるはずもなかった。
万事休す。この望みが絶たれれば、真の意味でもう終わりだ。
絶対に……絶対にここで終わるわけには……!!!!
人が、いた。
いた場所はマスターが溶け、液化した場所。
女の子だ。太陽のようなオレンジ色の髪。いつもはサイドテールだったか、今は解放されて、ぶわり! と波を打つ。
その裸体は神々しいほど美しく、キアラですら見惚れ、意識が完全にふたりから逸れてしまうほどだ。
「あなたは、いったい……」
キアラの問いを無視し、女の子は後ろを振り返った。
……マスターだ。間違うことなき、ふたりのマスターだった。
マスターはにこりと微笑むと、口を開いた。
「ありがとう、ふたりとも。私のためにそこまでしてくれて。どうか、バカな私をちゃんと導いてあげてね?」
メルトリリスの目から涙が流れた。
その言葉が『ここの』マスターとの別れの言葉みたいで、その辛さからきたものだ。
「マスター! 私はあなたのことが……大好きです!! だから必ず……必ず救ってみせます!!!」
「うん、お願いね?」
マスターはとびきりの笑顔を見せ、メルトリリスは悲哀と歓喜の狭間で涙を流し続けた。
「誰が行かせるものですか! 復活したのならば、また殺せばいいだけのこと! 三人まとめて死んでしまいなさい!!」
キアラが両手を広げて振り下ろす。
しかし、マスターは余裕の表情で巨大な魔術防壁を展開し、それを見事防いでみせた。
「なっ⁉︎ どうして私の攻撃を弾けるのです⁉︎」
混乱するキアラにマスターは淡々と告げた。
「あの子たちを行かせるための時間稼ぎをさせてもらうよ、ビーストⅢ」
突如、マスターの周りに白い光が発生する。それは次第に大きくなり、キアラの手を覆い、腕、肩とその手を伸ばしていった。
「これは何ですか! 抜、抜けない……!!」
その間にも上半身を包み込み、腰へと呑み込み始めている。
メルトリリス発射まであと数秒。
メルトリリスは叫んだ。
「マスター!!」
マスターは再び後ろを振り向いた。
「これで『私』とはお別れだね、メルトリリス。でも大丈夫。過去の私も、私だから。……行きなさいメルトリリス!!!」
メルトリリス、装填完了。爆発的な推進力を得て彼女の身体が発射される。
瞬間、彼女はマスターとキアラが光に呑まれて消えるのを見た。何がどうなっているかなど今となってはわからなくなってしまったが、唯一わかることは、過去へ飛翔するための時間稼ぎをしてくれたということ。
身体を煉獄の炎が歓迎する。霊基すら燃やし尽くす炎。だが、これを耐え抜かなければ過去へ逆行できない。
その程度の苦しみ、マスターのことを想えば何ともなかった。少しの間、耐えればいいだけの話だ。
全てはマスターのため。マスターを救うため。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
◆
◆
キアラはゆっくりと目を開けた。
あたりは暗く、奇妙な図太い触手のようなものがたくさん、周りでうねうねと動いている。
よく見ると、これら一本一本、全てが魔神柱だと悟る。
「いったい何が……そもそもここは……」
さらに自分の身体が普通のサイズに戻っていることに気がつく。そんなはずはない。戻った記憶などない。ふと後ろを振り返り、キアラは戦慄した。
あの白い玉座。その後ろに在わす光帯の脱け殻。間違いない。ここはあの時間神殿……!!
「ーーどうだビーストⅢ/R? なかなか上手く再現できているだろう?」
後ろから声が聞こえて、とっさにキアラは距離をとった。
この声は知っている。カルデアのマスターが死力を尽くしてうち破った者の声だ。でもあり得ない。あり得て良いわけがない。
キアラは、そのいないはずの者を視界に収めた。
黄金の身体。頭部に燃える枝のような禍々しい角。だがしかし、ところどころ錆が剥がれているかのように、人間の肌としか思えない部位を覗かせる。
「あなたは……ゲーティア、ですか?」
「私はゲーティアではない。この身体、この神殿は模倣したものにすぎん。だが私が人類悪であることは確かだ。貴様らのような人類愛が故の人類悪ではない。私は、人類悪が故の人類悪である。……つまり私は真性の人類悪だ」
「ではあなたはいったい誰……いえ、何ですか?」
ゲーティア? はキアラの横を通り過ぎ、玉座に腰を下ろす。その様子は画になりそうなほど覇気迫り、圧倒的であった。
「さあ、なんだろうな。私だって、今生まれたばかりなのだから。適当にビーストとでも呼ぶといい。では、言わせてもらおう。……ようこそ我が時空神殿へ。さっそくだが死にたまえ。それが……貴様にとって唯一の救いである」
ビーストが高々と嗤う。嗤う。嗤う。
ーー人類悪、在臨。
CCC1周目はこれで終わりです。
ネタを補充したいので、活動報告で募集します。琴線に触れたら燃えます。書きます。