盾の少女の手記   作:mn_ver2

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イベントがついに始まりましたね!!
狙うはもちろん沖田オルタ! 結果はアウト。明日また挑戦します。

では。
今日も今日とてシリアスは平常運転です。



ケイオスタイド

 エレシュキガルによる冥界の権限を最大限に行使し、サーヴァントたちとマスターは宙に浮かび、ティアマトに対峙する。

 ウルクは滅びた。

 冥界の底にいるから今の状況は詳しくはわからないが、地上ではきっと煉獄の炎が顕現したが如く、ひとつの巨大な火となっていることだろう。

 

「Aaaaaaaーーーー…………」

 

 随分弱っている。だがそれでも依然その圧倒的な力を振るい続ける。

 ティアマトが口から聖杯の泥……ケイオスタイドを吐く。マシュたちはそれを死に物狂いで避ける。

 あれに触れようものならば、一瞬にして霊基を呑まれて、強制的に再構成されて人類の敵に堕ちてしまう。

 牛若丸がその最もな例だ。

 無限増殖というチートじみた権能はさんざん苦戦させられた。

 それはマスターにも当てはまることで、どうなるかすら見当もつかない。

 

「神代は終わりを迎え、人による世界が始まる。そこに貴様は不要である。大人しく永遠の眠りにつくがいい……!!」

 

 マスターのよく知るアーチャーバージョンのギルガメッシュは原典武器をフルで召喚し、ティアマトの牙を数本抉り取った。

 怒りに吼えたティアマトはギルガメッシュを呑み込まんと大きな口を開けて上から降り落ちる。

 

「王様!」

 

 マシュが咄嗟の防御を貼り、ギルガメッシュを守る。

 さらに盾で顔面を殴りつけ、狙いを逸らす。ティアマトが痛みに唸り、顔を引かせる。

 

「よくやったぞ小娘! ……この一撃を以て決別の儀としよう!!」

 

 ギルガメッシュが高らかに笑い、ティアマトの頭上まで上昇する。

 宝物庫から召喚するは、乖離剣エア。ギュルギュルと赤い雷を纏って剣尖が世界を混ぜるように回転する。

 マスターはあれが宝具発動の前兆なのだと理解すると、ありったけの魔力を彼に送った。

 彼の言う通り、これで終わりの一撃を放ってもらう。それでビーストⅡは倒され、神による支配から解き放たれるのだ。

 

「貴様からもらった魔力、存分に使わせてもらうぞ」

 

「うん……ギルガメッシュ、ビーストⅡを討って……!!!」

 

 出し惜しみは無しだ。中途半端にではなく、徹底的に倒さねばならない。令呪を三画全てを純粋な魔力へと変換し、マスターはその全てをギルガメッシュに与えた。

 今や彼の力は普段の数十倍。威力はあのキャメロットでのランサーアルトリアのチート宝具も、対界宝具の域も軽く抜きんでる。

 

「……いいぞ! いいぞ! それでこそ人類最後のマスターだ。その大胆さ、我は気に入ったぞ!!」

 

 ギルガメッシュが剣を掲げる。すると、空に何重もの嵐が生まれ、重なり合い、ティアマトに照準を定める。

 赤黒い空。ティアマトを上から照らす一撃必殺の明かり。闇を切り裂く未来の星、ここに。

 

 天を仰げ。

 人の業を見よ。

 そして、人に世界を譲り渡せ。

 

「原初を語る。天地は別れ、無は開闢を言祝ぐ。世界を裂くは我が乖離剣。星々を廻す渦、天上の地獄とは創生前夜の終着よ。死を以て鎮まるがいい……!! 『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』ッッ!!!」

 

 それはまさしく最後を飾るにふさわしい一撃だった。

 マスターは歴史的瞬間を目にし、地球すら揺るがしているのではないかと錯覚してしまうほどの、空気ですら激しく振動する威力を身に染みて感じた。

 後に残ったのは、右半身を大きく削られたティアマトの亡骸。冥界の壁をよじ登ろうとしていた異形のビーストIIが剥離し、落下していく。

 ここにいては危ない。はやくウルクへ……地上へ上がらなければ。

 ティアマトが吼え、前脚をマスターに伸ばす。だが届かない。

 全ての母。『回帰』を願った母はこれで永遠の眠りについた。彼女の言葉は理解できない。しかし、もし会話ができていたならば……どうなっていただろう?

 少し横のマシュを見る。疲れ切った表情をしているが、達成感に良い笑顔をマスターに向けてくれている。

 

「行きましょう、先輩」

 

「そうだね」

 

 特異点たらしめる元凶は倒し、七つ全ての特異点を解決してみせた。おそらく次は……ソロモンとの、今後の世界の行く末を決める最終決戦だ。だからもってくれ、この身体。この心。

 マスターも微笑み、マシュに手を伸ばす。

 

 ……視界の端の端で、ティアマトが唾を吐くのが見えた。

 

 狙いは間違いなくマシュ。ティアマトに一番近いのは彼女だ。

 霊核を破壊されたというのに、まだ動くか……!! 神の威厳など投げ捨て、ただ意地に従って汚く足掻く様が、マスターにはどうしても憐れにしか思えなかった。

 マシュはティアマトの唾……ケイオスタイドに気づいていない。

 

「マシュ!!!!」

 

「?」

 

 マシュに飛びつく。

 あまりに突然のことで、マスターにどん、と押されて尻餅をついた。

 これでマシュは大丈夫。

 そしてマスターは気づいた。愚かさと、基本的なことに。

 まずは、デミ・サーヴァントであるマシュならば、このケイオスタイドに少しなら耐えられること。そして、マシュを助けた後のことを何も考えていなかったこと。

 

 ーーはは……馬鹿なこと、しちゃったなぁ。

 

 身体はケイオスタイドに呑まれた。

 

 ◆

 

 地球の始まりを見た。ような気がした。

 生命の始まりを見た。ような気がした。

 人理の始まりを見た。ような気がした。

 そして、人理の終わりを見た。

 

 ティアマトの見たものを見た。気がした。

 マスターは完全に意識体として分解され、どこへも知らぬ永遠の闇をさまよっていた。ような気がする。しかして永久に聖杯の泥に浸かる。

 なぜか苦しくはなかった。むしろ、いつもよりとても穏やかな気分になった。これまでの全ての疲れを癒してくれるかのようだ。眠気がマスターを襲う。

 とても久しぶりに訪れた安息にマスターは身を任せようとしたが、ダメだと己の頬を殴った。優しく『誰か』が『少しなら休んでいいのよ』と耳元で囁く。その声はとても魅惑的で、実に安心できる言葉だった。自分の声に瓜二つなのだが、それはまるで母にあやされる子供のよう。

 だがそれでも抵抗してみせる。神に対する反抗期だ。そしてその先にある自立を手にするのだ。

 ここで眠ってしまえば、きっともう戻ってこれなくなるだろう。……帰らなければ。

 黒一色に染まっていた世界に、赤い光が見えた。じゃぶじゃぶと泥をかき分けて進む。

 あったのは、『何か』だった。形を説明することができず、そしてまた特徴を捉えることもできなかった。赤い『何か』は何秒か浮遊を続けると、突然爆発した。

 

「ーー!!」

 

 一気に世界が血色に変化した。

 あたりは崩壊後のウルクを映し、マスターの身体は、腰まで浸かっていたケイオスタイドによって拘束された。

 ドロドロのはずだったものが、さらに粘性を増し、固形となり、その場から動けなくなる。

 

「う、そ……!」

 

 侵食が始まる。

 血管のようなものに変化したケイオスタイドがマスターの身体を犯す。じわじわと骨の髄まで蝕み、ゆっくりとヒトから乖離されてゆく。だがまたこれも痛みはなく、むしろ快感に等しく、マスターは膝を笑わせることもできずにへたりと力が抜けて後ろに倒れた。

 それを優しくケイオスタイドが支え、一部液化しているところに上半身までも沈んだ。

 ……安心感があった。母に抱かれるような、庇護の塊。幼い頃の自分はきっとこんな感じだったのかと、もう思い出せない母の顔と温かさに小さく呟く。

 いっそもう、このまま母の子宮まで回帰して……。そう思った時、マスターの隣で一緒に沈んでいた『誰か』が『十分休んだでしょう?』とマスターを叩き起こした。

 そして手を掴み、強引にケイオスタイドの泥から引き上げようと引っ張る。

 

「いッ、たい……!!」

 

 脚がもげそうだ。

 

 ケイオスタイドとほぼ一体となった脚が軋み、張り付き、離すまいとキツく脚を締める。

 

「あ、グ……あぁぁーー……!!」

 

 グググ、と胸まで伸びたケイオスタイドがマスターの全身を締め付け、肺の膨張を阻止し、呼吸ができず、マスターは乱暴に暴れた。

 それでも『誰か』は腕を引っ張る。

 食い込み、血が流れる。それに齧り付き、ケイオスタイドは下品な音を立てて飲む。激痛が身体を舐め回すように一周、二周、三周とし、骨をしゃぶり尽くし、マスターは白目をむいて絶叫する。

 痛みと快楽の狭間。プラス無限とマイナス無限に挟まれて。

 

「ガ、アアアアあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 助けを求めて『誰か』にもう片方の腕を差し出した。

『誰か』はマスターの期待に応え、両腕を引き千切るほどの力で引っ張り始めた。

 

「ひぐっ、う、う、ううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーー……!!!」

 

 ブチブチ、と肩と股から嫌な音が聞こえる。組織を破られる音がどうも鮮明に聞こえ、より痛みを明確に感じてしまう。

『誰か』が獰猛に笑う。『誰か』はマスターから手を離すと、代わりに抱きついた。

 全く温かさは感じられず、かといって冷たさも何も感じられなかった。しかし、助けてやろうという意志は伝わった。

 マスターは『誰か』を信じることにした。手首まで伸びたケイオスタイドが皮膚を裂き肉を抉り血が吹き出る。それに齧り付かれ、血が急速に失われていく。

 全く動かせられない腕を強引に動かし、『誰か』の背中に回した。

 神経が四本ほどブツリと切れる。

『ハハ』と笑い、キツく抱きつき、最後の力を振り絞り、『誰か』は一気に引き抜いた。

 

「ぎうっ」

 

 ずぶぶ、とマスターの身体はケイオスタイドから解放され、無様に地面に倒れた。

 周りを見ればウルクの世界はサッと波が引くように遠ざかり、いつの間にかさっきと同じ、泥に浸かり、赤い『ナニカ』の前でマスターは呆然と立っていた。

 

「あれ……え……?」

 

 今のは夢だったのか。

 そう思ったが、だいぶひいたものの、まだ四肢に残る獄炎の痛みが現実であったことを語る。

 隣では『誰か』はマスターよりとても大きな『獣』になっていて、触れるだけでも容易く切れそうな牙を剥き出しにしている。

 聖杯の泥はだいぶ浅くなり、水たまり程度になっている。マスターは『ナニカ』に向かって歩き始めた『獣』の後ろをついていく。

 そして、依然としてそこにある赤い『ナニカ』を『獣』が呑み込んだ。

 その瞬間、『獣』の身体が赤く発光し、暗闇を隙間ひとつなく照らしてみせた。激しく息を吐き、『獣』はぐったりと横に倒れ、『誰か』に戻る。

 マスターはこの者の正体がわからず、どうしても知りたいという興味に駆られた。

 

「ねえ、あなたはいったい……誰?」

 

 マスターが問いかける。

 

 しかし『誰か』はマスターに顔を向けるだけで何も答えず、大きな声で笑い始めた。

 

「ヒヒ、クヒャ!! ヒハハハハハハハハハッッ!!! ハハッ! ハッ! クハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! ハヒヒヒッ! ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!! 八ッハハハハハハハハハハ! ヒャハ!! ヒ!! アハハハハハハハッッーー……!!!!」

 

 永遠にさえ聞こえる笑い声が、とてつもなく怖かった。

 狂ったように笑う『誰か』は満足すると、マスターの顔を覗いた。

 

「ひっ」

 

 マスターが尻餅をつき、何も考えずに泥の水たまりに触れることなどお構いなしに、ボロボロの手を使い足を使い後ずさる。

 怖くて怖くて、立ち上がるという行動すら忘れ、ただひたすら無様に逃げようとした。

 あれはこの世ならざる悪である。『誰か』はゆらりゆらりとマスターに向かって歩く。

 

「こ、来ないで!」

 

 マスターが叫ぶ。

 

「アハ」

 

 しかし『誰か』は引くどころかむしろ逆に滾らせる。

 マスターの考えが正しければ、これはティアマトの核ともいえる部分を喰らった。それがいったいどのような影響を与えたかはわからないが、少なくとも良いことが起こるなんてことはない。

 

「ぁ、あ…………」

 

 身体がカタカタと震える。股が温かくなり、アンモニア臭が漂う。

 ついに『誰か』はマスターに追いつき、上から覆いかぶさった。嫌悪感に顔を逸らし、目を合わせないようにする。力づくで抵抗するも、『誰か』はびくともしなかった。

 同じように自分も呑まれるのか。せっかくティアマトを倒せたのに、あとはカルデアに帰るだけなのに、ここで呆気なく死に絶えて、旅が終わるのか。

 そう考えると、今までの疲れがドシンと背中にのっかかる。押し潰され、立ち上がることができない。これ以上頑張ると、さらに重くなる疲れに亀裂の走る背骨が耐えられなくなってポキ、と折れてしまいそうだ。

 

 疲れた。

 ……もう、疲れた。

 

「私を殺してくれる……?」

 

「…………」

 

 ここで初めて『誰か』の動きが止まった。

 ラグのように姿が何重にもぶれ、もとに戻ると、再び笑い出した。

 

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ! くひゃ、ハ、クヒヒヒヒ!!」

 

「殺すのなら殺してよぉっ!!」

 

 マスターは叫んだ。

 それでも『誰か』は笑い続け、ついに首に手を伸ばした。

 グッ、と力をこめる。マスターは息苦しさに目を白黒させる。

 

「ーーカ、ふ」

 

「終わり、終、わり、終わ、わ、わ、終わ、らない。終わらせ、ない」

 

 意味のある言葉を発し、さらに力を加える。『誰か』は爪を食い込ませ、血が流れる。

 苦しくて苦しくて、白濁した視界のなか、マスターは失意に目をそっと閉じた。どうやら『誰か』はそう簡単に死なせてはくれないらしい。『誰か』がマスターの中に溶け込み、戻ってくる。

 そして、今さらになって気づいた。

 

 ……これは『誰か』じゃない。『自分』なのだと。

 

 しかしもう遅い。

 なにもかも……すべてが遅すぎた。

 

 ◆

 

 目覚めたマスターを出迎えたのは豊かな双丘。

 寝ぼけざまにそれらに手を伸ばし、揉みしだく。

 

「せんぱ、い……! ちょっと……!!」

 

 この声、どうやらマスター愛しのマシュだ。つまりこの双丘はマシュのもの。ならば最高。証明完了。

 マスターは眩しい世界に目を細め、何度かこすってピントを合わせる。ようやくブレが修正されていくと、マシュの姿が次第によく見えるようになっていった。

 彼女の目には真っ赤な泣き腫らした跡があり、まだ流れる涙を指で拭った。

 

「先輩、先輩ぃ……!!」

 

 マシュにきつく抱き締められて、マスターは感じた温もりを最大限に享受しようと互いに抱きしめ合った。

 ふと後ろを振り向けば、ボロボロに破壊された冥界の底が見える。ならばここはウルクなのか。

 朝日が燃え尽きた町々を明るく照らす。人間は誰もおらず、すぐ隣でイシュタルやらジャガーマンやらが雑談に花を咲かせている。

 

「先輩、こっちを向いてくれませんか……?」

 

「うん」

 

 マスターはマシュの言う通り、抱き締めていた腕を離し、見つめ合った。

 マシュはマスターの頬を愛おしそうに撫でると。

 

 ーー強く頬を張った。

 

 ぱん……! と音が無人のウルクに響き、マスターは何が起こったのかが全く理解できずに呆然としている。

 続けざまにマシュはマスターの肩を掴むと、激しく揺らし始めた。

 

「助けてもらったことは心から感謝しています……それは本当です! でも……でも、先輩が身代わりになるのは全然違います!! どうしてあんなことをしたんですか⁉︎ 先輩が傷ついたら私は……! わたしはぁ……!!!」

 

 後半はもうしゃくり声で、最後まで言い切れず顔を鼻水と涙でぐちゃぐちゃににしながらマシュはマスターの胸に顔を埋めた。

 マスターは黙ってマシュの心の訴えを聞いた。

 無言で頭を腕で包み込むと、マスターは口を開いた。

 

「大切な人を守りたかったから、じゃダメ?」

 

「……いいえ、十分です。叩いてごめんなさい、先輩」

 

「いいよ、マシュ。私は大丈夫だから」

 

 マシュの呼吸が直に胸に感じられる。

 特異点が解決され、強制送還されるまでの間、ふたりはずっと、抱き合う。

 

 ……ごめんねマシュ。私はもう、傷ついた。傷つきすぎたの。

 

 すべては手遅れで。

 失った歴史を取り戻すために奔走しているのに、自分は次第に人間性を失っていく。そんな、自分自身さえ守れない女が本当にソロモンに勝てるのか。

 不安と期待に押し潰されそうだ。

 ああ、はやく日記を更新しないと。身体が痛い。心が痛い。はやく。はやく。はやく。

 私はそんなに強い女の子じゃないんだよ、と。

 誰にも……とても言えたものではない。




自分のことを大丈夫とよく言う人ほど大丈夫ではないらしいです。

今後の予定としては、
・二部プロローグ
・これまで出てきた話と繋がるもの
IFルート系
・もしマスターちゃんの日記の内容がバレたら
・もしカルデア強襲は起こらず、マスターちゃんが日常生活に戻ったら

面白いネタの提供があれば、そっちに浮気します^ ^
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