昨日10連して沖田オルタとエミヤと以蔵さんの3人が一気にきました。
今回のイベントって時系列はいつ頃なんでしょうね? たぶん1.5部だと思うんですけど……。いいシリアスネタが思い浮かびそうで思い浮かばない。
終わりは始まりの始まりであり、次のステップへ……新しい絶望の幕開けでもある。
◆
「……で、お前はまだだんまりというわけか。いつになったらその固い口は開くんだ?」
マスターの目の前では、ひとりの兵士が座り、前のめりに腕を机に乗せた。その後ろではさらにふたりの兵士が銃を担いで立っている。
尋問が始まってから何分、いや何時間経ったのだろう? 兵士たちは入れ替わり交代などをしているが、マスターに休憩など1分もなかった。長い間座っていたためお尻が痛い。脚も痺れ、じわじわと頭の頂点まで浸透し、少し意識も朦朧としてきた。
男がボールペンの芯を何度もカチカチと出し入れする音が、マスターにとっては苦痛となっていた。
カチカチ。
「レイシフトの私的利用は重大な犯罪だ。それをカルデアは……お前は何度も行った。これがいったいどういう意味かわかるな?」
「……」
「……チッ」
カチカチ。
男が小さく舌打ちをする。
そして大きくため息を吐く。
それにマスターの身体がビクリと震えて反応し、おずおずと男を見上げる。
ダ・ヴィンチには必要最小限しか答えるなと厳命されている。間違えてしまえばどうなるかわからない、危ない綱渡りの真っ只中なのだ。今ごろ彼女はマスターよりも危険な道を歩いているはずだ。
ならばこちらも頑張らなければ。
「カルデアの皆はお前のことを英雄と謳うだろう。でもな、
「……」
一年間、人理を守るために奔走し、さらに一年間ゲーティアの残党と戦った。その果てがこれか。怒りに拳を握り締める。だがあくまで冷静に。ここで面倒ごとを起こそうものならマスターだけでなく、カルデアの人間全員に不利益となってしまう。
マスターはだらんと俯く。
カチカチ。カチカチカチ。
男は資料をめくり、現在カルデアに残っているサーヴァントのページで手を止めた。
「マシュ・キリエライトとレオナルド・ダ・ヴィンチか。報告書を見たところ、時計塔の連中にとっては喉から手が出るほどの『資料』になるぞ、これは」
「!」
いや、お前の方がいい『資料』か……? まあ俺は興味ないけどな、とぼやく声など耳に入らず、マスターはガタッと立ち上がった。
それは……それだけは避けなければならない。『資料』の真の意味は、大人でないマスターにでもわかる。思いつくイメージはたったひとつ。
ダメだ。絶対にダメだ。これ以上犠牲を出すことは許されない。
だが、ふたりがマスターを押さえつけるよりも先に、足の痺れにへたりと再び腰を落とす。
「お、ようやく反応があったな?」
男が眉を吊り上げる。
ようやくカチカチの音が止まり、マスターにひとときの休息が訪れる。
「そうさ。カルデアの全てが貴重な『資料』さ。シバ、カルデアス、英霊召喚システムフェイト……ぽつぽつと長い眠りから覚め、それぞれの故郷に帰っていく本来のマスターたちの情報……関係のあるもの全てだ」
……人の醜さよ。
でもマスターには何もできない。新たに就任したゴルドルフ所長の背後には時計塔がある。潰そうものならカルデアなどプチッと終わる。
所詮は上の奴隷。孤立した世界ではカルデア『しか』存在しなかったが、救われた世界においてカルデアはひとつの機関に過ぎない。価値があるとわかれば態度を急変し、我が物にしようとする魔術師たちの水面下の争い。
大人の世界だ。マスターにはそのかけ引きはわからない。それでもわかることは、カルデアは人の欲望に呑まれようとしていることのみ。
納得がいかなかった。
正直に言うと、世界を救った英雄とカルデア以外の人間からも褒めてもらいたかったという気持ちは少なからずあった。
それほどのことをしたのだと自負しているし、そこに間違いはないと確信もある。
しかし現実とは非情であり、残酷。
部屋のドアが開き、新たにひとり、兵士が入ってきた。そして男になにやら耳打ちをする。
カチカチカチカチと不服そうにボールペンを弄り、男は立ち上がった。
「……尋問は終わりだ。部屋に帰れ」
ぶっきらぼうに一言だけ告げ、男は足早に部屋のドアを開けて消えてしまった。
突然終わらせられてホッと安堵する反面、完全に大人の都合に振り回されている状態に腹が煮えたぎる。
マスターはふたりの兵士に支えられながら立ち上がり、おとなしく部屋へと戻っていった。
◇
「大丈夫でしたか、先輩?」
「いやぁ……さすがに疲れたね。あはは……」
部屋に連れ戻されたマスターは、ベッドに身体を投げだした。しかし受け止めてくれるのは柔らかい感触ではなく、「いたっ」とベッドとキスをする。
最悪な部屋だ。謹慎室として用意されている部屋なのだが、これではまるで独房だ。
「もっと予算を回せばよかったぜ!」
ダ・ヴィンチが悪態を吐き、冷えきった椅子に腰を下ろす。
ぐだりと仰向けに寝転がったマスターは、すぐさま寝返りをうった。
「ついでにそのまま寝ることを勧めます先輩。もう六時間ほど尋問されていましたよ?」
「そんなに⁉︎」
「本当ですよ。誰よりも長かったのではないでしょうか? 何か変なことしましたか?」
「なにもしてないよ。逆に本当になにもしなかったよ」
よく言う黙秘権の行使を意識したのだが、マスターの生きる世界は魔術世界である。その辺の常識があまり通じなかった結果が六時間というのなら、それは自業自得となってしまう。
ともあれもう終わったことだ。疲れた身体は休憩を求めている。このままマシュの提案に従って眠ることにする。
2017年最後の日だというのに、すでに退去してしまったサーヴァントたちと年越しを過ごせないのはとても寂しい。心にぽっかりと穴が空いた虚しさ。
「……人間っていうのは難しいね」
「?」
マシュが不思議そうにマスターの言葉に小首を傾げる。
「私たちは世界を救った。でもそれではい終わり、なんていかないんだね」
抱く感情は、怒り。
荒く鼻息を吐き、マスターはベッドの骨を力強く握る。怒りからの衝動。
不満。不快。不愉快。遺憾。負の感情をボウルでがちゃがちゃと混ぜられるような感じだ。
そしてなにより、悔しい。
「そう……ですね。でも私たちは先輩の味方ですから。今は安心して眠ってください」
マシュが頭を撫でてくれる。
それだけで眠気はマスターを容赦なく襲い、抵抗できるはずもなく渦に呑み込まれる。
こんな狭い部屋に女3人に男1人。ムニエル氏にはなんとも居づらい空間だろうが、どうか耐えてほしい。
そして、次に目がさめる時には全てが終わっていますように。
マイルームにある日記が手元に無いのがあまりにも歯痒い。あれがないと安心できない。心が落ち着かない。たとえ仲間が側にいようと、完全な安寧は訪れない。
おそらくもう、依存してしまっている。
だからはやく、マイルームに戻りたい。マスターの頭の中では、そんなことばかりだった。
◆
マスターを起こしたのはマシュの声ではなく、かといってムニエルでもダ・ヴィンチでもなく、脳髄をガンガンと揺さぶるけたましいサイレンだった。
よく聴いてみると、初めて聴いた音で、それほど異常な事態なのだとわかる。
「ああっ! 先輩! 起きましたか⁉︎」
マスターは寝ぼけ顔で目をこすると、マシュが差し伸べた手を握ってベッドから立ち上がった。
ムニエルのほうを見ると、彼は口元に人差し指を立てて、静かにするように促してくる。マスターはそれに素直に従うことにした。
ドアの向こうは嫌な音が聞こえる。……戦闘の音。誰かが死ぬ直前の断末魔。それ以上にマスターが完全に覚醒するのに必要な要素はなかった。
「マシュ。何があったの?」
小声で話しかける。
そういえばダ・ヴィンチがいない。
「わかりません。ダ・ヴィンチちゃんがAチームの解凍に連れ出されて、その後に言峰神父が来て……出ていった時にちょうどサイレンが鳴り始めました」
ともあれ何かが起こったのは確かだ。それもよくないことが。
ドアは開けられない。向こうでは何が起こっているのかが全くわからない。全てにおいて後手にまわった状態。
「とにかく出ることを考えよう。僕だって男だからね。これくらいのドアなんて力づくで……!」
ムニエルが腕を捲り上げわざとらしく力こぶを見せつける。その言葉は頼もしい限りだが、その程度で破れるものならば謹慎室の意味がないではないか。
取っ手を掴み、強引に引っ張る。顔を紅潮させながらも頑張るムニエルを見て、自分も、とマスターもムニエルを手伝い始めたその時。
ズガン! と逆に向こう側から来た衝撃にふたりは飛ばされてしまった。
後ろの椅子に背中を激しくぶつけ、マスターは痛みに呻いく。
「いッ……」
上半身を起こし、ドアを見る。
今もなお現在進行形で破壊しようとしているのが何者かはわからないが、味方か敵かの判別がまるでつかない。声を大にして問いかけるかどうかを考えている間にもドアはだんだん破られていく。このままだとあと15秒ぐらいだろう。
「武装の許可を、先輩!!」
マシュが懇願する。
いや無理だ。今のマシュに武装は耐えられない。だからゲーティア戦からずっと、彼女はオペレーターとしてずっとマスターたちを助けてきたのだ。
「ううん、ダメ。わかってるでしょう?」
「でもここでやらないと! 自分のことは自分がよくわかっています!! お願いです、どうか……!!」
服を掴み、鬼気迫る表情で言うマシュをよそに、マスターはムニエルを見た。
彼は無言でマスターを見つめ、任せるよと目で語る。
果たしてどうすればいいのか。ここで武装を許可してしまえば、マシュに大きな負荷がかかることは明白。現れるのがどのような敵であれ、ムニエルとマスターではどうしようもなく、蹂躙されるのみ。
「……ごめんねマシュ。お願いできるかな」
「はい! 必ず守ってみせます!」
申し訳ない。本当に申し訳ない。頼ることしかできない自分が恨めしい。
令呪を一画使用。
マシュの身体が完全武装し、久しぶりにあの盾が出現する。そして膝をつく。
「はあッ、はあッ……!!」
どう見ても辛そうだ。
マスターはマシュに肩を貸し、何とか立ち上がらせる。
ついにドアが吹き飛ばされた。飛んできたドアをマシュの盾で弾き、部屋へ侵入してきた敵の正体を捉える。
全身黒ずくめで、頭部は烏のよう。明らかに人間でないものなのに、マスターは恐怖も何も感じず、淡々とマシュに命令を下した。
「マシュ、突破するよ」
無表情。無感にして無関。
二年間、地獄を生きてきたのだ。『この程度』の修羅場、幾度となく掻いくぐってきた……!!
カルデアが攻められる? だからどうした、いつも通り行動すればいいだけのこと!!
おそらくもう、考え方がおかしくなっているのは自分でもなんとなくわかる。それでもマスターは『マスター』でなければならない。
そう呪詛のように己に言い聞かせた。
◆
マスターが激しく後悔したのは、目の前に広がる、南極の氷が黒で見えなくなるほどの数の敵。そして探偵が虚数空間へ突入すると言った直後だった。
日記が……ない。
マスターは激しく狼狽し、今すぐにでも取りに戻りたかった。が、ホームズも、ダ・ヴィンチもマシュもそうさせてくれそうにはなかった。そもそもカルデアはもう、終わった。氷に閉ざされた。
でもどうしてもなければならない。あれはマスターにとって何よりも大事なもの。
チャンスはいくらでもあった。なんならゴルドルフ所長を助けるついでにでも取りに行けたはずだ。
しかしそんな余裕はなかった。あの皇女と呼ばれたサーヴァントのせいで、逃げるので精一杯だった。そしてダ・ヴィンチが……。
ミニサイズになったダ・ヴィンチがどこかに消える。その背中を見届けつつも、複雑な心境はやはり隠せない。『あの』ダ・ヴィンチは死んだのだ。ミニダ・ヴィンチは記憶を共有しているなどと言っていたが、マスターからしてみれば赤の他人にしか見えない。顔が非常に酷似しているだけの。
何事もなかったかのように受け入れている皆がおかしく感じてしまう。違和感はないのか。それともこれは自分だけが抱いているのか。つまりおかしいのはーー……。
『しっかり掴まってね。『あれ? これ私の身体?』ってなったら必死に自分の身体にしがみつくんだよ?』
「それって幽体離脱じゃないか⁉︎」
『おおムニエル君、まさにその通りだね! ダ・ヴィンチちゃんポイントを10ポイント進呈しよう』
ミニダ・ヴィンチからの説明が思考に横入りし、マスターは放棄せざるをえなくなる。座席のシールベルトをちゃんとセットする。
いったいこれから、どうなるのだ。
クリプターと名乗るAチームのマスター。白紙化した世界。これではまるで、冬木の後よりも酷いスタートではないか。歴史は淘汰され、無に帰した。
味方はごく数人。敵は遥かに強大にして未知数。
マシュはサーヴァントとしての機能は期待できない。現在戦力としてカウントできるのは探偵だけだ。
文字通り心臓と表して間違いのない日記をなくしたのは痛すぎる。これでは、今をもってリスタートするであろう壮絶な戦いを生き抜くことができない。この二年間、あの日記にはとても助けられた。いやあれがあったからこそ生きていられたと言っても何ら大袈裟でもない。
……ふと、思いつく。
それはまるで、こうすればいいじゃないか! と一気にモヤモヤした思考が晴れるような。エジソンあたりならわかるかもしれない。
なんだそんな簡単なことだったのかと、バカな自分を殴りたくなるほどだ。
「……先輩?」
「ん? どうしたのマシュ?」
だいぶ落ち着いた様子だ。
強引にカルデアに戻ろうとしていたが、現状を受け入れ、疲労した身体を休めている。
「今、笑っていませんでしたか?」
「……いや、まさか」
マシュは疲れてるんだよ、と念入りに言い聞かせ、手を握る。
「ですよね……そう、ですよね」
ミニダ・ヴィンチがカウントダウンを始める。
……無いのならば、また新たに作ればいい。
焼けてしまった記憶でも、繋ぎ合わせれば完全復活とまではいかなくともなんとかなるはずだ。
ならばいける。頑張れる。
今度こそマスターは、口角を上げた。
今回はシリアス度低めの、日記がテーマのお話でした。
次はこのままの勢いで、IFルート編の『もしマスターちゃんの日記の内容がバレたら』に予定を変更します。
誰を登場させるかはまだ決めてないので、いつものごとく活動報告で募集します。どんな話になるのかは、募集結果次第です。