興奮に筆が一気に進みました。
あそこからどう続けようかだいぶ悩んで、こうすることにしました。もしかすると矛盾などがあるかも知れませんが、そこはどうか目を瞑っていただければ。
ネタ提供のことですが、はい、提供してくれることはとてもとてもとてーもありがたいのですが、感想でそれをされると、もし運営に目をつけられたら感想自体が消されるので、なるべく活動報告に書き込んでください。よろしくお願いしますm(_ _)m
一言付き評価はとても素晴らしい文明。書いてる側からすると、感想を書いてもらえるのと同等の喜びなのですが、この気持ちわかりますかね?
『
ヒトの体験する責め苦をすべて味わった青年は当然亡くなり、亡霊となり英霊へと昇華した。だが『
人の悪性を笑い、だが善性を認め、賛美する怨天大聖。
アンリマユは語る。
「おいおい、オレを前線に出すのか? 頭沸いてるんじゃないか?」
「ああそうかも知れない。だがこうするしかないのだよ」
ダ・ヴィンチはそう言うと1枚の紙を彼の前に差し出した。それを受け取り、読む。
そこには現在カルデアに在籍するすべてのサーヴァントの一覧が並べられていて、全員それぞれに役割を割り当てられている。おそらく書かれているのは時代に場所だ。
アンリマユの欄には、『1771年イギリス』とある。
「1771年ー? この時代は確か……なんだっけ?」
「産業革命初期だね。馬車は時代遅れとなり、蒸気機関を主とする汽車が走る時代だ」
「ほーん。で、ここに行けと」
「そう。もうカルデアに余力はない。後がないのだよ。マスターがいないからサーヴァントたちに十分な魔力を供給できないことは知っているだろう? スタッフが霊脈を確保するために毎日時を超えて世界を飛び回っている状態だ」
マスターが緊急の時のためにちょっとずつ溜めていた魔力はもう底を尽きかけている。もう明日明後日には完全にゼロになる計算だ。
カルデアは大きく衰退した。厳重に保管されていた聖杯すらすべて消失し、持続困難の危機に陥っている。
ゲーティアとの戦いに燃えていた頃とは対照的に、もはや風前の灯火だ。
「今朝、BBから世界がひとつ消失したという報告があった。これで26個だ。それだけの世界をあの子は消してしまった」
「……」
アンリマユは黙り込み、さもつまらなさそうに頭をかく。
ふと彼は耳を澄まして、部屋の外……廊下の様子を窺う。いつもなら嫌気がさすほどの騒々しさなのだが、ここ最近は死んだように静かだ。無駄な魔力消費を抑えるため、皆が最小限の活動を維持しているのだろう。
「まあわかりましたよ、ダ・ヴィンチ女史。それでいつ行くんですかね?」
マスターの攻撃対象候補はそれこそ星の数ほどある。文字通り『すべての』世界が対象なのだ。途方もない数の世界に生きる人間を、マスターは一人残らず殺してまわっている。
現在進行形で増える世界を抑止、剪定するよりもはるかに速いスピードであり、マスターの行動は非常に積極的らしい。『この』世界は無数にあるうちのひとつにすぎない。だからカルデアがマスターに遭遇できる確率は、極限ほどのゼロだ。
アンリマユはもう一度だけ紙に目を通す。
エミヤ。コーヒー豆のエミヤ。マシュ。坂本。沖田オルタ。巌窟王。
なんだこれは。抑止のメンツガッチガチではないか。しかも皆、揃いも揃って強者だ。こんな人たちの中に最弱が混じっていい訳がない。ついでに言うのならば弱すぎるから大人しくカルデアで待機する方がカルデア全体の魔力消費がマシになるはずだ。
「……明日だ。もしこの当てが外れ、また霊脈が見つけられなければカルデアは終わりだ」
BBのチート能力を全てフル稼働させ、マスターの狙った世界の存在座標、時代の統計、そしてマスター自身の性格から推測する。そして次にマスターが来るのは、彼女がリストアップした……つまりアンリマユが今持っているそれにすべて記されている。
アンリマユは紙をダ・ヴィンチに返し、だらしなく立ち上がった。
世界を救ったマスターが、今度は世界を本気で壊しにやってくるのだ。
……実に面白い。とても皮肉がきいていて、これでメシウマは間違いない。『
「んじゃ、オレはいつも通り死ねばいいんだな。嫌なことはお互い様ってな」
手をひらひらと振り、アンリマユは部屋を出る。
腹減った。喉渇いた。惰眠を貪りたい。
静かな長い廊下をアサシン顔負けの音無しで歩き、アンリマユは部屋へと帰っていった。
「誰も悪くないさ♪ 誰もマスターを責める権利なんてないのさ♪」
そう、リズミカルに小さな声で歌って。
◆
過去最大のレイシフト。
計15グループに分かれての大捜索。マスターの攻撃対象が『この世界』であるという、確証もなにもない、ただの予想が当たることが大前提の、隕石が降ってくるよりも遥か遥かに低い確率にカルデアは賭けた。
これでマスターが来なければカルデアの負け。また、賭けには勝ってもマスターを止められなかった場合でもカルデアの負け。
戦力を分散させたせいで、どれほど強いかわからないマスターを相手できるかどうか。それが悩みの尽きぬところだ。なにしろビーストIII/Rを単騎で倒してみせたのだ。
アンリマユたちは第9グループ。無事レイシフトが完了し、マシュはつい反射的に空を見上げる。これまでの特異点ならば切り取ったような円が広がっているはずなのだが、ここにはそれがない。
つまり1771年イギリスはハズレ……とはまだ断言はできない。
「第9グループ、到着しました。……光帯は確認できません」
マシュが端的に伝えると、ダ・ヴィンチからすぐさま返事が返ってきた。
『うむ。了解した。他14グループでも確認できなかったから今回の作戦は……』
ダ・ヴィンチの次に続く言葉が容易にわかってしまう。だが、それが音を得るまでに異なる音が聞こえてきた。
『いいえ、それはまだ断定できません。させません。光帯はそれが為された後に生じるもの。なので、これから起こる可能性は十分あります』
BBの声が割って入ってくる。
彼女は現在、わざわざSE.RA.PHからカルデアへと出張中で、ダ・ヴィンチの補佐役を担っている。貴重な人材だ。彼女のおかげでこの作戦が生まれ、決行できたのだ。
『この世界にセンパイやって来る確率はおよそ0.00092375%。さらにそこから15グループのいずれかに遭遇できる確率は0.0000000752114%。はっきり言ってゼロですが、ゼロではありません』
「確率おかしくね? それだったらオレ単騎で人類悪に勝てる確率の方が高いんじゃないか? ……いや低いか」
アンリマユがひとりツッコミして自滅する。やられることが戦法の彼は、やはりどう足掻いても最弱だった。
「安心しろクソ雑魚。まだクソ雑魚ナメクジよりはマシだ。あいつは自分の力量すら計れないクソ雑魚ナメクジだからな。マジクソ雑魚ナメクジ」
「こら、そんなこと言ったら以蔵さんに失礼だろう? ……すみません、お竜さんがいらないこと言ってしまって」
坂本が代わってアンリマユに謝る。
嘲笑うようにお竜はアンリマユの周りを飛び回り、ついに坂本のゲンコツを食らってようやく大人しくなる。
「いや、気にしちゃいねぇよ。オレこそはサーヴァント界隈で最弱の英霊サマ。ピカイチの雑魚であることは自負しているさ」
自虐全開でアンリマユは演説を終え、視線を遥か前方、工場群に向ける。産業革命の真っ最中だからか、高い煙突からは見るからに有害そうな黒煙がもくもくと空に昇っていく。
舌の肥えた牛、だったか。一度味を占めてしまえばもうそれより下位のものを喉に通せなくなる、ようなもの。石炭による急速な人類の発展。これまで人力でやってきたことが、蒸気機関により代用されるようになってくる時代。
公害という代償を払いながらも成長した結果が、2017年に結びつくのだ。
「……ああ、タバコの一本でも吸いたいものだな。おい、黒い方のエミヤ。重いのはいけるか?」
「いいだろう。こんなゴミみたいな環境を紛らわせることができるのなら清々する」
巌窟王が外套に隠していたタバコの箱から一本取り出すと、エミヤオルタに渡す。それを受け取ると、躊躇いなく銃を発砲し、先端だけ燃やして口に咥える。
巌窟王は自身の黒い炎で燃やす。
「で、どうするんだマシュ・キリエライト。このグループのリーダーはお前だ。お前の指示に従おう」
長く煙を吐いて一服。
エミヤオルタは肺に残った煙を吐き出すようにマシュに尋ねる。
「そうですね……えっと……」
一瞬言いよどみ、マシュは下を向いて目を瞑る。数分後、ハッ、と顔を上げて声を張った。
「とりあえず
「それはいいんだけどさ、そのあとは?」
「それは……た、待機で」
「ま、そうなるか」
気楽なアンリマユはニシシと笑い、両手を頭の後ろに置いて愉快そうに歩き始める。沖田オルタはその後ろを黙ってついていく。
蒸気機関車が走るための建設中の線路を横切り、未だ馬車に頼って荷物を運ぶ商人を眺める。
アンリマユはそれらすべて、人の為す業がこの上なく興味深かった。この後、これらをさらに発展させた技術を用いて戦争を始め、殺人を為す。だが戦う者たちは我こそは正義と高々と腕を上げて戦場に臨むのだ。
悪なんてどこにもない。正義と正義、善と善のぶつかり合いなのだ。
「沖田ちゃん」
「む。どうした真っ黒いの」
レイシフトしてきてからというものの、まだ一言も発していない沖田オルタにアンリマユは話題を振ってみる。
「アンタも抑止のひとりなんだろ? マスターのこと、アンタではなく抑止としてどうみる?」
「……」
ほんのつい最近カルデアに合流したサーヴァントだからその辺は難しいか。だが抑止かどうかは知らないが、坂本とエミヤはなんだかんだ気が合いそうだ。主にお竜絡みで。「類い稀にみるイケメンだなこれは。さらに女難の匂いもする」なんてしょーもないことを言っている。
まだ新参者には早かったか、と話を切り上げようとした時、沖田オルタは寡黙ながらも口を開いた。
「マスターは……排除しなければならない悪、だ」
「そうか」
その表情はどこか悔しさが滲み出ていて。アンリマユはただ短く相槌を打った。
彼は最弱ゆえ、マスターの戦闘には極力参加しないようにしている。いわば穀潰しだ。英霊だから、という理由で大した活躍もできないくせしてカルデアに居座っているニートだ。これならばまだ変態海賊のほうがよっぽど価値がある。
『
アンリマユはふたりの様子を少しだけ伺うが、わかりきっていることだとすぐに意識を切った。
「時に女難のエミヤ。お前はマスターを殺すのか?」
そんなお竜の一言が、マシュを後ろに振り向かせ、一行の足が止まる。
エミヤは難しそうに悩み、それでも答えが導き出せないまま返した。
「殺す……べきなのだろうな。人類が人類悪になるのは殺生院キアラがいい例だが、その逆はない。聖杯に願えば……と考えてもカルデアにそれはない」
「故障した聖杯ならオレがいくらでも譲るぜ?」
「黙れ。そんなものなど必要ない」
エミヤがドスの効いた声でアンリマユに言う。
「人類悪に堕ちた者は……殺さねばならない……。黒い私もおそらくこの考えは同じはずだ」
「あ?」
タバコを吸い切っていないのに話を振られたからか、エミヤオルタは半ば怒り気味に返事をする。
中指と人差し指でタバコを挟み、近くの岩に擦り付けて上に放り投げた。
それを巌窟王が上手に炎で灰にしてみせた。
「殺すに決まっているだろう。オレたちは抑止の英霊。それとも首輪でもつけて飼いならすか? おいおいやめてくれよ、獣なぞ誰が調教するんだ」
やれやれと両手を振り、エミヤオルタはうすら笑みを浮かべる。
しかしマシュはそうではなかったようだ。ずんずん、と彼の前に立つと涙目ながら叫んだ。
「そんなこと言わないでください! 殺すなんて、そんな酷いこと……!」
「……そうかい」
「ここにいる皆さんは先輩の召喚に応じた。そうでしょう⁉︎ 私は諦めませんよ、絶対に。人類悪が人類になった事例がないのなら、先輩がその初めてになればいいだけじゃないですか」
「好きにすればいいさ。オレたち抑止から言わせてもらうと、マスターは殺すべき悪だ。どうするかはお前に一任するが……忠告はしたからな。後悔しても知らんぞ」
「後悔なんて、しません」
エミヤオルタとマシュの睨み合いが終わり、重々しい行進が再開する。
坂本は息苦しさに帽子を深く被り、沖田オルタはお竜に纏わり付かれて嫌そうに大太刀に手を伸ばそうとしている。
いつもの明るい雰囲気など一切ない、マスターを止めるためのエンドオーダー。毎度のことだが余裕のない旅。それぞれの思惑の異なる中、何がどうなるかは全くわからない。
「なあ巌窟王さんよ、オレにも一本吸わせてくれよ」
「悪いな、さっきので最後だ。運が悪かったな」
「くそぅっ」
すぱっ、と最後の一服を済ませた巌窟王は灰色の空に煙を吐く。
その様子は孤高で、背中は虚しさを語る。彼は抑止のひとりではないが、人を陥れる悪を嫌う復讐鬼。マスターの抱く悪とはベクトルが異なるが、彼はどう思っているのだろう。
アンリマユはその真意を知ろうと口を開きかけ、やはりやめておくことにした。これ以上マシュの心をかき乱す言葉が飛び交うことは避けることが懸命だ。
マスターと共にいた時間が一番長いのは彼女なのだ。だからこそわかるものだってあるはず。それはきっと、人の持つ心の救い……つまりは善。
「……ファリア神父なら、どうするのだろうな」
「ん?」
「なんでもない。忘れてくれ」
巌窟王は誤魔化すように大げさに外套をバサリと翻し、少し足早になった。
そういえばさっきから全くこの旅に進展がない。ダ・ヴィンチからの連絡もあれっきりだし、マシュが向かおうとしている場所に具体性がない。できるだけ人の多くない道を歩くように意識はしているのだろうが、彼女は今きっと、マスターのことで頭がいっぱいなのだろう。
……そもそも本当に会えるかなんて、ゼロに等しいというのに。
アンリマユは、少しだけイラっときた。
いつまでも始まらないイベント。マスターが来ないのならば来ないではやく帰還させてほしい。終わるのならば終われ。マシュもマスターにあまりにもお熱になっている。そのせいで周りとの不和を生み出してしまっている。
ああだがもちろんそれが悪いわけではない。無論エミヤたちも悪くない。
どっちが悪いかだなんて、誰にも決めることができないのだから。
最弱は疲れた。皆よろしくな英霊サマは休憩が欲しかった。
ふぅ、と息をついて両手を腰に当てて後ろに仰け反る。
「くっ、あああぁぁ……」
ぽきぽき、と腰の骨が鳴る。この感覚が気持ちいい。
十分腰をほぐし、ようやく上半身を上げようとした。
「……んん?」
視界が逆さになっているから世界が逆になっている。
アンリマユはさっさと上半身を上げ、そそくさと後ろを振り返った。
空にあるのは、工場から吐かれる煙……だけではなかった。
微小の台風のようなものが水に墨汁を垂らすが如くじわりと発生し、灰色に染まった空をゆっくりと、だが着実にどんどん吸い上げていく。
「……なあ、おい。あれ……」
誰に話しかけたわけでもない。
アンリマユは手だけで前を行く全員に手招きし、なおも空を見上げる。
いつの間にか灰色の空に、一部分がすっぽり切り抜かれたような青空が円状に広がっている。
そして瞬間、無数の赤紫色の雷が意思を持ったかのように発生し、青空の部分から雷がジグザグに降り注ぎ、地上を容赦なく灼き尽くす。
高い煙突は根元から折れ、何本も上から降ってきて、二次災害を引き起こす。そして、大爆発。随分距離が離れているはずなのに、熱気が肌をジリジリと焦がす。
たった数秒で街ひとつが破壊されてしまった。
誰かが息を呑む音をアンリマユは聞き、それでもそこに立ち尽くした。
ようやく終わったか、とでも言うように空の円から大陸がゆっくりと顔を覗かせる。それは徐々に下に降りてきて、予想だが全体の約半分ほどが出現したところで大陸の移動が止まる。
『探知機に反応あ……きゃっ⁉︎ 壊れた⁉︎ そんなはずが……!』
突然乱入してきたBBの連絡に、マシュはビクリと驚きながらも通話を始めた。
「BBさん、あれですかっ⁉︎ あれなんですね⁉︎」
大陸の先端に人影がひとつ、現れる。そしてその後方ではかつてあの時見た、一生忘れるはずがない光帯の発射台に闇の光が灯っている。
サーヴァントの視力だからそこに立つ影の正体は容易にわかる。赤白い髪、蒼い目。まるで別人のようだが、あの容姿は紛うことなく彼女だ。
『はい! 人類悪反応、確認しました! あれがセンパイのいる、隔絶唯一魔境、時空神殿レーー……』
BBの解説が途中で途切れる。
カルデアは0.0000000752114%という確率に勝つことができた。だがしかし、そこからマスターに勝たなければならない。人でありながら、獣に至った悪。人類悪。人類の敵。討たねばならぬ敵。……そして、かつてのマスター。思うところは数知れず。だがもう、相互理解は不可能。
ビーストがアンリマユたちに気づき、顔をこちらに向ける。そしてにこりとこちらに微笑んだ。
その笑顔はとても人類悪だとは思えなくて。普通に可愛い女の子のそれでしかなかった。
そんなビーストを見て、アンリマユはあまりの面白おかしさに、ふつふつとこみ上げてくる笑いを抑えるのに精一杯だった。
「誰も悪くないさ♪ 誰もマスターを責める権利なんてないのさ♪」
そして誰にも聞こえないように、小声で歌った。
どんな結末にするかはまだ決めてないんです泣泣
次の更新はしばらく時間かかるかも……。
ネタはいつでも募集してますからねっ!!