盾の少女の手記   作:mn_ver2

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パシフィック観に行ったついでにUFOキャッチャーしたら、ジャックちゃんのフィギュア取れたので嬉しくてつい勢いで書きました。
ネタは『サーヴァント視点』と『毒』。
それでは。

あと、たくさんの評価ありがとうございます!!!!
ちょこちょこランキングに載ったりして嬉しいです!!!!!


毒に溺れる少女 前編

「おや?」

 

 朝、自身の工房で、あるものがなくなっていることに気づいた。

 パラケルススは静かに目を瞑り、昨日の記憶を掘り起こす。……だがなんの成果も得られず、結局これ以上深く考えることはやめた。

 無くなっていたのは毒物注意の棚にある試作品のものだ。有害度は最低ランク、数時間にわたる手足の痺れがでる調合品。命に関わることはないが、それでも危険に越したことはない。

 パラケルススは白衣に袖を通すと、とりあえずロマ二に報告するべく工房を後にした。

 

 ◆

 

「ああマスター。私は幸せです……」

 

「私もだよ〜〜」

 

 朝っぱらからなんという熱々なのだろうか。静謐のハサンとマスターのその様に、もし清姫がいたら、彼女は近づけず、4枚ほどハンカチを噛み破くに違いない。

 

「夜這いする子にはお仕置きだぞ〜〜」

 

 マスターはいかにも怪しげに指をくねくねさせると、静謐のハサンに襲いかかった。当の彼女は願ってもないことで、されるがままだ。

 静謐のハサンには誰も容易に近づけない。それはアサシンであるからでなく、彼女の体質がそうさせている。彼女は猛毒そのものだ。何物にも触れた瞬間、毒に侵される。もちろん英霊とて例外でなく、人ならばもってのほかだ。

 ゆえに職員たちは距離をとらねばならない。彼女の汗が蒸発し、それを吸い込んだだけでも命に関わってしまう。一応、魔術的な防壁を見に纏うことでその障害を排除している。

 あんなにもおとなしいのに、お近づきになれない。英霊でさえ細心の注意を払って接触するほどなのだ。

 

「ああっ、マスター。そこは……」

 

 静謐が短く喘ぐ。

 マスターは彼女の腰のラインをいやらしくなぞる。ゾクゾクくる感覚に、彼女の腰が浮く。

 なに、なにも心配することはない。ただの女の子同士のスキンシップだ。

 マスターは静謐の手を繋ぎ、ころん、とベッドで横になった。

 

「マスターの手、すごく温かいです」

 

「静謐ちゃんの手もすべすべで気持ちいいねっ! ずっとさわさわしていたいよ」

 

 そう言うと、マスターはにぎにぎと手を握る。

 自分が求められているということに、静謐は嬉しくなり、ついマスターに抱きついてしまった。

 

「わわっ⁉︎」

 

 驚くマスターがとても可愛らしくて。

 こんなにも自分よりも弱いマスターが日々を生き抜いているのだと感じ、母性本能のようなものがくすぐられた。

 自分の身体は猛毒。誰にも触れられざる存在。でも、この人は全てを受け入れてくれるのだ。

 果たしてこれ以上に幸せなことはあるだろうか……!!

 静謐が微笑むと、マスターも微笑み返してくれる。そんな、特に意味もないやり取りのうちに、ふたりはいつの間にか夢の世界へと誘われた。

 

 ◆

 

 パラケルススは毒に耐性があるというマスターの体質に大変興味を惹かれた。静謐のハサンレベルの毒も完全に無効化してみせるのだ。なんらかの魔術を使用しているようには見えないし、かといって物理的な防御を施しているわけでもない。

 これ以上に理由が必要か? いや必要なわけがない。それほどパラケルススの科学者としての探求心が刺激されたのだ。

 

「先日あげた睡眠薬はどうでしたか? よく眠れましたか?」

 

「うーん……あまり実感がないから効いてないかもしれない……ごめんね?」

 

「そうですか……すみませんマスター。お力になれなくて」

 

 マスターは安眠を求めている。

 パラケルススはマスターの身体を知りたい。

 パラケルススの渡したという睡眠薬は、劇薬の一歩手前のものだ。日本では有無を言わせず禁止とされる薬だが、ここではそんな法には縛られない。マスターも快く承諾してくれているし、ウィンウィンの関係が形成されているのだ。

 パラケルススはマスターを観察する。なぜかわからないが、静謐のハサンも一緒だ。仲良く恋人繋ぎまでして時々見つめ合っては「ねー」と微笑んでいる。

 パラケルススは人の心の機微を感じ取るのは非常に不得意だ。科学に生きてきた、ある程度魔術のかんだ男に過ぎない。ふたりの奇妙な行動を理解することができず、とりあえずそこは目をつぶっておくことにした。

 

「そうです、ついでに静謐さんの毒を少しもらえないでしょうか?」

 

「いいですけど……」

 

 そう言うと、静謐はどこに隠していたのか、ピックを指に挟むと、手首にチクリと刺した。傷口から流れた血を数滴試験管に回収したパラケルススは嬉しさに身を震わせた。

 

「ねえパラパラ? それをどうするの?」

 

 マスターの疑問ももっともか。

 猛毒を手に入れて嬉しそうにする男なんて奇人以外の何者でもないだろう。

 

「一応この身はサーヴァントですが、私は戦闘に長けてなどいません。なので、こうして研究し、その成果がマスターの役に立てば……と思っているのです」

 

「ほえー」

 

 関心するマスターだが、ならば、と静謐は質問した。

 

「その、惚れ薬とかはあるのでしょうか⁉︎」

 

「ありますが?」

 

「えっ⁉︎」

 

 本当は期待していなかったのか。それともなにか。予想をいい意味で裏切られたらしい静謐は珍しく目を見開いて驚いた。

 パラケルススとて伊達に科学者をしていない。他には媚薬や、肉を再生させる秘薬、現代の科学を用いて開発したウイルス兵器だってある。

 だがその異常性を彼自身は理解できていない。

 

 だからこそ彼は、マスターに少しだけいたずらをいようと思った。本当に、小さな子供のするような、レベルの低いものだ。

 

「マスター」

 

「ん? なにパラパラ?」

 

 パラケルススはポケットから袋に包まれた錠剤を三粒、マスターに手渡した。

 

「こちらの睡眠薬はどうでしょう? 魔猪ですらすぐさま眠りに落ちる代物です」

 

「おお……でも害は?」

 

「普通ならば軽い昏睡状態に陥ります。が、すぐに復帰できます。ですが……万に一つもないとほぼ断言できるのですが、そのまま目が覚めない可能性が……」

 

「ーーなら大丈夫!」

 

 おおなんと快いことか。

 マスターは命の危険になるかもしれないのに、まさかの即答にパラケルススはつい嬉しくなる。

 マスターは良い実験台だ。その体質を活かし、パラケルススの研究に大いに貢献してくれている。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「ダイジョブダイジョブ。もしそうなったら静謐ちゃんが目覚めのキスをしてくれるから! ね?」

 

「はい、もちろん。愛のキスをマスターに」

 

「あーそうなったらもう結婚一直線だねっ!」

 

「はいっ!」

 

 隙あらばイチャイチャし始める二人を前に、パラケルススは完全に空気と化していた。

 

 ◆

 

「……おかしい」

 

 翌朝、パラケルススは、また毒物系の試作品がなくなっていること気づいた。しかも昨日より有害度が高いものだ。命に関わることはないが、全身を激しい痛みが襲うものだ。さらに悪いことに、持続時間はまだ分かっていない。

 いったい誰がこんなことをするのだろうか。アサシン系だろうか。いや勝手に決めつけるのは良くない。

 念のため報告に行ったら、さすがにロマ二に少し注意された。これは猛省。

 管理の甘い自分が悪いのだ。

 工房を出て通路へ。

 

「あ、おはようパラパラ!」

 

「はい、おはようございますマスター。今日は遅めの起床ですね」

 

「そうだね。あはは……」

 

 寝癖の治っていない髪に気づいていないのか、若干照れながらマスターは後ろ頭をかいた。

 パラケルススはマスターを観察した。特に変わったところはないが、強引に指摘するとしたら、袖の隙間から隠れて見える手首の包帯だろうか。さらに凝らしてみれば、少し赤く滲んでいる。

 きっと血、なのだろう。

 適当にどこかでできたちょっと深い切り傷か。手当はされていることだし、パラケルススが首を突っ込む必要はなさそうだった。

 

「静謐のハサンさんは……?」

 

 彼女がいない。昨日あれほどくっついていたのに、今日は一緒ではないようだ。

 パラケルススの指摘に、ああ、とマスターたは思い出すように。

 

「ほら、私起きるの遅かったじゃない? だから今から迎えに行こうと思ってね」

 

「そうですか」

 

「うん」

 

「ところでマスター」

 

 パラケルススは昨日のいたずらの結果を知りたかった。

 マスターのことだ。「もう」とか言って頬を膨らませて許してくれるだろう。マスターの優しいところにつけ込んだ、ちょっと嫌らしいいたずらだが、果たしてどうだったか。

 

「?」

 

「昨日差し上げた薬、どうでしたか?」

 

「そうだねぇ……前よりもだいぶ効いたと思うよ!」

 

 そんなマスターの答えにパラケルススはつい「え?」と聞き返しそうになってしまった。

 なぜならばそれはおかしいからだ。前回より今回の薬が効いた? そんなわけがない。マスターが嘘をついているの明白だ。

 マスターをジッと見つめるが、いたって普通に見える。そう、普通。何もおかしな様子には見えない。

 また今度よろしくね! と元気に手を振ってマスターはパラケルススの横を通り過ぎていった。

 

「…………」

 

 なにやら妙な匂いがした。

 だがすぐにわかった。これは酸の混じった匂いだ。それにこれは間違いなく胃液。……つまりマスターは吐いたのだ。

 ……パラケルススは人の心の機微を感じ取ることが非常に苦手だ。

 ゆえにそこから考察できることは何もなかった。せいぜいマスターも苦労しているのですね程度しか思えなかった。

 しかし、そんな彼でも唯一気になったことがふたつほど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日あげた薬は、実は何の効能のないことと。

 マスターの後ろ姿、太もも付近に酷く掻きむしった跡があることだった。




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