盾の少女の手記   作:mn_ver2

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ゲッテルデメルングのクリア記念に一話挟みましたが、とりあえず忙しい時期は終えたので投稿を。

fgo婦長「たとえあなたを殺してでも救う」
この小説婦長「たとえあなたを殺してでも救う」

何がとは言いませんが違いを感じてしまう〜〜。


たとえあなたを殺してでも

 戦場のど真ん中。

 銃弾が飛び交い苦痛の悲鳴が永遠にこだまする。

 マスターは突然の状況に右往左往していた。何がどうなっているかなどわかるはずもなく、ただひたすらマシュの姿を探した。

 

「マシュ! マシュ!! どこ!?」

 

 彼女の戦闘衣は比較的目立つ見た目だ。そして何よりも高さ1メートル以上の盾を持っている。探し出すことは簡単だ。

 マスターのすぐ隣で地面が爆ぜる。遠く前方では軽く30を超える大砲が並べられ、休む暇なく火を噴いている。激しい爆音のドミノが耳を劈き、キーン、と脳の奥深くまで届く酷い耳鳴りにマスターは呻く。

 

「う……」

 

 はやくマシュを探さなければ。

 再び名前を叫ぶが、大砲の発射音にかき消される。

 原型をとどめていない死体の上を無感動に乗り越え、スカートに跳ねてしまった血を一瞥することもなく走り抜ける。

 無我夢中にマシュを探す。

 転がっていた首に足がつまづき、コケる。膝を擦りむき、ぐにゅぐにゅとした生肉の感覚を身体全体で感じ、血塗れになった礼装を気に留めずに顔を上げた。

 いったん動きが止まったことで周りを冷静に見渡せる少しばかりの余裕が生まれた。

 ゆっくりと見回して、ついにマシュを発見する。

 盾を構えて銃弾を防ぎながら必死に何かを叫んでいる。こちらには気づいていない。

 こんなところに長時間居座るのはあまりにも悪手だ。いつ流れ弾に身体を貫かれるかわからない状況はあまりにもマズイ。

 

「マシューー……ッッ!!!」

 

 あらん限りの声で叫ぶ。

 するとマシュがこっちを振り向いた。

 互いの存在を確認することができた。急いでこの戦場を離脱しないと。

 マスターは地を蹴り上げて走り出した。あまりの爆音の連続で耳が少し馬鹿になっている。

 

「ーーい!!」

 

 マシュが何かを叫んでいる。

 しかしそれをマスターは理解することができなかった。肺が苦しい。こんなにも必死に走るのはいったいいつぶりだろうか。鋭く息を吐き、できるだけ呼吸を乱すまいとリズムを保つ。

 残り10メートルと少しといったところか。

 ずっとマシュの叫んでいた言葉がようやくはっきりと聞こえてくるようになった。

 

「ーー危ない!!」

 

「………………へ?」

 

 危ない……? それの意味することは……。

 意味はマスターが理解するよりも先に逆に迎えにやってきた。

 瞬間、足元で爆発。

 爆風に吹き飛ばされ、身体が空に高く打ち上げられた。どっちか下か、どっちが上か。視界が逆転し、マスターは自分の身に何が起こったのかがわからなかった。

 通常ではありえない落ち方をして、運悪く右脚が逆の方向に折れ曲がる。

 そして何回も転がり、勢いが失われたところでようやくマスターの身体は動きを止めた。

 

「ヒュッ、コ……」

 

 たぶんこれは……砲撃にやられた。

 地面に無様に倒れ伏せ、ようやく理解した事態に、マスターは細い息を吐いた。

 指先一つ動かせない。まるっきり感覚が失われ、口の中でじゃりじゃりする砂が気持ち悪い。

 ゆっくりと視線を自分の脚に移すと、そこにはあまりにも酷い有様が広がっていた。

 膝の部分で曲がっているわけではなく、太腿の部分で曲がっているのだ。綺麗に後ろに。

 

「あ……ぁ……」

 

 足の骨が肉を突き破り、白い部分を剥き出しになっているのを見てマスターは吐き気を催す。

 そして全身を貫く激痛。恐ろしいスピードで流れる血。おおよそ耐え難い痛みにマスターは死を悟った。

 腰に携えた通信機から誰かの声がする。ロマ二か、ダ・ヴィンチか。もはやそんなことを気にしていられるほどマスターには余裕がなかった。

 果たしてどうすればよかったのか。どうすればこんなことにならずに済んだのか。

 それを考えることすらできず、マスターは重い瞼を閉じた。

 

 ◆

 

「……ふむ、どれをとっても致命傷ですね。ええ致命傷ですとも」

 

 誰かの声が聞こえた。

 

「う、ぁ……」

 

 マスターはうっすらと目を開け、上を見上げる。

 ここは少なくとも屋外ではない。おそらくテントだろうか。天井にあたるものが目に入る。

 薄暗い。

 孤立して吊るされているランプの火がゆらゆらと揺れ、時に明るく、時に暗く声の主を映す。

 もうこれ以上考えることができない。再びマスターは目を閉じ、意識を暗闇に沈めようとした。

 

「左大腿部が大きく抉れています。これは切断するしかありません。右腕……も、そうですね。とても酷い。同じく切断」

 

 何やら不穏な響きだ。

 マスターは懸命に意識を覚醒させようとして上半身を起こそうとした。しかしそれはできず、無駄なエネルギーを消費するだけだった。

 

「ああ、無理に身体を動かそうとしないでください。これ以上ベッドを血まみれにされるのは流石の私も困ります。なので早速治療を始めますね? 左の脇腹から脾臓が見えています。というより体外に出ています。この損傷具合は……無理ですね。摘出します。どうかご心配なさらず。脾臓はなくても生きていけます。感染症などへの抵抗力は落ちますが」

 

 ひとりつらつらと語る看護婦にマスターは命の危機を感じとった。

 しかし彼女の言っていることは事実。どうやら自分の身体はぐちゃぐちゃだ。それでもそういう身体的な危機ではなく、彼女から感じる危機だ。

 殺され……はしないだろうが、絶対にろくなことにならない。

 マスターはまだなんとか動かせる左腕を上げて、抵抗した。

 

「ま、待っで……やめ、て……」

 

「おや? まだそんな元気があったのですか? それなら安心です。ですが治療中に動かれては困りますので手足を縛らせてもらいます。……ああごめんなさい、痛いのはお嫌いなのですね。でもしょうがないのです。麻酔がもうありませんし。ですので、どうか歯を食いしばってください」

 

「ぇ、ち、ちょっと待っ……ん、んん!!」

 

 どこからか手に縄を持った彼女がマスターの四肢をあっという間にベッドの骨に縛り付けた。

 そして口に何重も縄を巻かれ、ただ呻くことしかできなくなった。

 ガチャガチャと医療器具を乗せたテーブルを引き寄せ、メスを器用に指で挟み、頭上のランプを台の上に乗せて患部を明るく照らした。

 マスターは看護婦に必死に目でやめてくれと訴えるが、まるで聞いていない様子だ。完全に彼女の思うがままに事が進められている。

 

「では始めます。さあ落ち着いて。多少の痛みくらい我慢なさい。女性は出産の痛みにも耐えられるのです。実は男性より女性の方が耐性があることを知っていましたか? ……いえ、それは今は関係のない話でしたね。目を瞑って。片腕と片脚をばっさり切られる痛みなんて屁でもありません。大丈夫。必ずあなたを救います。……たとえあなたを殺してでも」

 

「ん゛ん゛〜〜〜〜ッッ!!」

 

 迫る。看護婦の紅い目がマスターを見下ろし、鋭利な刃を皮膚に這わせる。

 看護婦のメスがマスターの大腿部を綺麗に切り裂く。赤い鮮血がツツ、と流れ、マスターの腰が浮く。

 そして焼き爛れ、真っ黒になった肉を切り落とすべく、恐ろしいスピードでマスターの肉に正確に刃を滑らせる。

 あまりに華麗な捌き。それゆえの高鮮度の激痛がマスターの身体を蝕み、暴れた。

 

「ん゛ーーーー!!!」

 

「頑張ってください。まだ治療は始まったばかりです」

 

 首を上げてメスで切る様を見る気力もない。

 死んでしまうのではという恐怖に身体を不自然にガクガクと震わせる。

 それにいちはやく気づいた看護婦は片手でマスターの腹部を抑えつけ、目にも留まらぬ速さで縄を巻いてこれ以上の挙動を防いだ。

 安心そうに一息ついた彼女は最後と言わんばかり、刃を肉の奥に食い込ませて一気に切り抜いた。

 

「ーーーーーー」

 

 べチャリ、と真っ黒になった肉が落ちる。

 自分の脚の一部分が切り取られたという事実が何よりも恐ろしく、いっそ夢であってほしいと強く願った。

 そうだ、そもそもまだ第五特異点になど来ていないのだ。いつも通りじわじわと襲いかかる苦痛の生活を過ごしているのだ。だからこれは悪い夢。夢の中で色んな冒険をするなんてことはよくある。だからこれはそういうことだ。

 

 だがら゛はやぐ、目覚め゛てよ゛ぉ……!!!

 

 目玉が飛び出さんほどに見開き、速やかな夢からの浮上を祈った。

 

「……ふう、次は脾臓ですね。こちらは比較的容易に終わりそうです。さあ頑張って」

 

 看護婦の手が涙の跡がよく見えるマスターの頬を優しく撫でる。

 マスターの反応はない。虚ろだ。しかし触れた瞬間、その瞳に絶望が彩られて逃れるように頭を弱々しく横に振った。

 

「ではいきます」

 

 左手で腹部を抑えつけ、ぐにゅ、と全体を晒した脾臓の接合部を躊躇うことなくばっさり切り落とした。

 不思議と痛みはなかった。しかし、切られた。無くなったというおよそ普通に生きていれば決して味わうことのない体験をしてしまったマスターは静かに身体の力を抜いた。

 看護婦が丁寧に接合部同士を縫い合わせ、腹のなかに押し込んで口を開けた横腹を縫って終わりだ。

 

「よく頑張りましたね。最後は腕です。特に酷いのでナタで一気に切り落とすのがベストなのですが、残念ながら今ここにありません。ので、応急処置です。これ以上の損傷を防ぐために……とりあえず骨を切除します」

 

「⁉︎」

 

 なんの悪意もないその恐ろしい言葉に、マスターの意識は完全に覚醒した。

 自分の腕を見る。確かに変な方向に曲がっているし、骨も複雑に骨折しているだろうが、果たしてそこまでする必要があるだろうか……⁉︎

 働かない身体に必死に鞭打ち、首を何度も横に振らせる。マスターにできる唯一の抵抗はたったそれだけだ。

 

「いいえ。いいえ。やめるわけにはいきません。私はあなたをなんとしてでも救わなければなりません。殺してでも、あなたを救います」

 

「んん゛ッッ!!!」

 

 割り箸のような細い金属の棒が傷口から容赦なく腕の中に入り込み、中を、ゆっくりと、そして丁寧に、丁寧に骨を探す。

 

「〜〜!! ッ、ん゛゛!!!!」

 

 痛みに腕が微かに震える。そのせいで金属棒が不意にさらに深いところを突いてしまい、マスターが口を塞がれたまま絶叫する。そんな負の循環。

 コトリ、とトレイに骨の欠片の置かれる乾いた音が聞こえ、同時にあと何度これを繰り返せばいいのかと暗闇に浸る。

 

 ああ、なぜこんな目に遭うのだろう。

 彼女はマスターを救いたいという本心、善意でやっているのだろう。だがそれが弱ったマスターをさらに無慈悲に責めたてる。

 痛い。どうしようもなく痛い。

 こんなの、拷問だ。

 こんなの、死んだ方が幸せなのでは?

 いや、死んだ方が絶対に幸せだ。

 誰か、誰か。

 助けに来て。

 

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 音。

 絶叫。

 絶叫。

 絶叫。

 絶叫。

 絶叫。

 絶叫。

 絶叫。

 絶叫。

 絶叫。

 絶叫。

 絶叫ーーーー…………。

 

 ◆

 

 マシュはマスターを探した。探し回った。

 あれからさらに攻撃が酷くなり、再びはぐれてしまった。なんという不運。二人が悪いわけではないが、あの砲撃から守ってやれなかったマシュは激しく自責の念に駆られた。

 マスターはきっとどこかで治療されているはずだ。静かになった戦場を越え、テントをあちこち回った。

 どこもかしこも負傷した兵士たちで溢れかえっている。もうどれほどの数のテントを探したのかすらわからなくなってきた頃、ようやくマスターを見つけることができた。

 ボロボロのカーテンをめくり、中に入る。

 酷い血の臭いだ。あまりの強烈な臭いにマシュは顔を歪ませる。そして見つける。

 四肢をベッドに拘束されたマスター。口は半開きになり、呆然と上を見上げている。

 

「先輩⁉︎」

 

 急いでマシュは駆け寄り、マスターを拘束する縄を全て解いた。

 左脚、右腕、腹と包帯でぐるぐる巻きにされている。だがそれはすでに血色に染まっていて、ベッドの毛布もすでに血が固まっている。

 マシュにはどのような治療がなされたのかはわからない。だがそのおかげでマスターは九死に一生を得た。

 急いで治療しなければ。

 盾の収納スペースから治療術式のスクロールを取り出し、マスターにかざす。すると魔法陣のようなものが光とともにぽわ、と浮かび上がり、瞬時に傷を癒した。

 

「大丈夫ですか、先輩!!」

 

「あぁ……ましゅ……」

 

 力のない返事だ。

 傷を修復中のようで、邪魔になりそうだから包帯を急いで剥がした。バリッと肉の一部が一緒に剥がれ、マスターが苦悶に脂汗を垂らして歯を食いしばった。

 肉体の再生が終わり、ゆっくりとマスターをベッドから起こした。ボロボロに破けた礼装を脱がし、別のものをまた盾から取り出して着せる。

 

「肉体の修復が終わりました。私が肩を貸すので、ゆっくり歩きましょう」

 

「……うん」

 

 拙い歩きで一歩、また一歩と確かに足を進める。

 そしてようやくカーテンまでたどり着き、それを開けようとした瞬間、逆に向こう側から開けられた。

 そこに立っていたのは看護婦だ。だがあり得ないことに片手にはとても凶悪なナタを持っている。

 

「……ひっ」

 

 マスターが一瞬だけ小さな悲鳴をあげる。

 それを聞き逃さなかったマシュはとっさに彼女を自分の後方へ押しやり、盾を構えた。

 

「……おや、珍しい格好の方ですね。どちら様でしょうか? 私はこれから治療をしなければならないのですが」

 

「あなたこそ、そんなもの持って何をするんですか⁉︎」

 

「何って……切断です。右腕と左脚をばっさり切り落とします」

 

「け、結構です! もう先輩は回復したので!」

 

「結構? いいえそれは違います。彼女は私の患者です。私は命を奪ってでも命を救う。その信念をもってここに現界したのですから」

 

 看護婦がにじりにじりマシュに近寄る。

 彼女はクラス分けするならば間違いなくバーサーカー。こんな暴れ馬が看護婦だなんてとんでもない。全く人の話を聞かないし。

 どうするかマシュは悩む。

 この女性は間違いなく一本では飽き足らず、五、六本は頭のネジが彼方へ飛んでいる。

 強引に退けてもいいのだが、一般人を相手にそれは良心が痛む。

 仕方ない。

 マシュが盾を持ち直して強引突破しようとした時、予想外なことにマスターが前に躍り出た。

 

「今、現界って言った、よね……? という、こと、はあなたはサーヴァント。そうで……しょう」

 

 マスターの指摘に、看護婦サーヴァントはそれがどうしたと腕を掴んでナタを振り上げた。

 

「ええそうです。私はナイチンゲール。さっそくあなたを治療……ふむ、本当に治っているようですね」

 

 サーヴァント……ナイチンゲールのあまりの行動の速さにマシュは反応できなかった。もし治療が間に合っていなかったらと想像するだけで身の毛がよだつ。

 ナタを下ろすと、ナイチンゲールは他の患者の治療があるのでと足早に消えてしまう。

 どうやらマスターの通信機は壊れているようだ。代わりにマシュが自分の通信機を使ってカルデアと連絡を取る。

 

「こちらマシュです。……はい、無事に先輩と合流できました。それにこの地に召喚されたサーヴァントもーー」

 

 一悶着あったが、無事にマスターと合流できた。ナイチンゲールを怖がっているのが少し心配だ。だがきっといつもの呑気さと陽気さで慣れてくれるだろう。

 これで第五特異点の調査も始められる。

 これからだ。

 解決は、これから始まるのだ。




次、神父さんと麻婆豆腐を食べるだけ。
これは身体的なダメージは皆無だから健全ですね(にっこり)

Q.脾臓は元に戻りましたか?
A.…………。
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